40.命の灯⑤
少し短いですが投稿しておきます。
倒れている徹君はいつまで役得を続けていられるのか。
新汰たちらしき人物の姿は避難所の奥にあった。正樹は極度の乱視でしかも近眼とまでは行かないが、あまり視力も良くない。広い場所で人を見付けるのが苦手だった。
朝から大雨が降っていたこともあり買い物客も少なかったのだろう。仮設の避難所になっているフードコートには数組の老夫婦や学生が十数人程度いるだけだったので、避難所の隅で泥だらけの姿で横になっている青年がいることにすぐ気が付いた。
優秀な本家の跡取り候補だったが、防御術が得手でないことは正樹も聞き及んでいた。正樹もどちらかというと彼と同じような性質の持ち主だったので、洪水に巻き込まれたときの負担は想像がついた。
陸の得意属性は雷。次いで風。正樹とは逆だった。雷と風の親和性は術者の中では知られている事実で、どちらも攻撃が主体になることが多い属性だった。
才能とか血筋とかいう人間のスペック自体が自分とは違っている上に、生真面目で努力を怠らない性格だ。自分とは実力に大きな差があるだろうとは判っていた。
その彼でも洪水から身を守る術を行使するという事は、体調を損なうほど消耗を強いられるということなのだろう。
横になっている人物を目印に近づいて行くと、やはり横になっている人物は陸で、その横で毛布にくるまって踞っている新汰を確認できた。
新汰も相当疲労しているのかその状態で眠っているようだ。
そっと近付き新汰の隣に腰を下ろす。友人の姿を確認できたことで正樹はやっと本当の意味で安堵した。室内の温かさもあり、激しい雨の中を風を操りながら移動してきた疲労もあって、少しの間静かに座っていた。
たっぷりと数分体を休めた後、まだ身動きもせず規則的な呼吸を繰り返す相方の方を少し揺すってみた。
「……うぅん」
軽い揺さぶりだったがバランスを崩したのか、体制に無理があったのか新汰はコロンと横に転がりその衝撃で目を覚ました。
声を出しながら大あくびをしてから、ぼんやりと天井を見上げ、次いで覗き込んでいる正樹に気づき片肘で少しだけ体を起こした。
「早かったな……。もう少しかかると思って油断してたよ」
「風が強かったからな」
その一言だけで新汰は相方が自然の風を上手く利用して走って来たのだという事を察したようだった。
「便利だよな。風操術は」
小声でつぶやいた声は正樹には届かなかったのか、正樹は新汰に持って来たビニールの買い物袋を差し出した。
「服まだ乾いてないだろ?着替える?」
「……あぁ、そうだな。生乾きって感じ。また濡れるかもしれないけどいいかな?」
「と思って古着買って来たから、二人分。サイズ判んないから大きめのにしたぞ。特に戸上君の方は新汰より細いからぶかぶかかもな」
「太ってて悪かったな」
「……そういう意味じゃない。戸上君の方がかっこいいとか思ってないから安心して」
「……てめっ」
軽口を叩き合って少し心も安らいだのか新汰の顔に笑顔が浮かんだ。
新汰は壁の方を向いて手早く着替えをすまし、今まで来ていた汚れた服を正樹の用意して来たゴミ袋に詰め込んだ。
それから隣の陸を見下ろすと、熱が出て来たのか頬が上気している。
「まずいかもな……」
「戸上君か。ぐったりしているな、そんなに激しい洪水だったんだ」
「もしかしたら、術の行使云々より、心労の方が大きいのかも知れないけどな。守るって決めてた二人を守れなかったって思ってるみたいだったし」
「守る?水上さんはわかるけど、日上君まで?」
一瞬正樹は新汰から陸の方へ視線を移し、はてなと思ったがすぐに徹の女性の時の姿を思い出し納得した。
二人は幼馴染だ。今は大男の姿をしていたとしても、もしかしたら子供の時は小柄だったかもしれないし、子供ならば体の大きさなどさほど差がなかったはずだ。
自分と新汰は中校生の頃からの付き合いだからもう体はある程度は出来上がっていたなあと思い出した。
H31-01-13 一部訂正。どうも正樹と新汰を間違えてしまいます……(恥)




