4.秋の観光地へ
3日ぶりです。すみません、諸事情により更新がままなりませんでした。午前中に投稿したものに、午後大幅追加しております。午前中に読まれた方はご注意ください。
景色が流れる車窓をぼんやりと眺めながら、十織は空が高いなと思った。
「なあ、陸……」
「どうした?」
「いや、アレだ。どうしてこうなった?」
「さあ……?」
車内は賑やかだ。オーディオ機器から音楽が流れ、後部座席にはテレビも用意されている。誰が持ち込んだのかお菓子やジュース、酒類まで完備されている。
車内の設備という意味では、今乗車している車がレンタカーであるという事を考えればまあ判らないでもない。おにぎりなどの食品があるのもまあいいだろう。しかし、大量のお菓子と酒類が用意されているのはどういうことだ。
「これ、絶対遊ぶ気満々だよ……」
車内には、彼らを含め六人が乗車している。調査という仕事の手前、今回は感覚の鋭い女性型”十織”で来ている。とはいっても服装に違いがあるわけでもなく、長い髪を無造作に後ろにくくって、いつもどおりの白シャツとジーンズといういでたちだ。
多少幅と長さに変化があっても対応できる服装は便利でいい。
それに見慣れていない清藍だけが最初は微妙な表情で彼女を見ていたが、一時間もすれば慣れたのか少なくとも表面上は普通どおりの反応に戻っている。
六人という人数の都合上、通常のセダンタイプの乗用車では納まらない。新汰や新汰の相棒と思しき人物は自家用車を所持していたが、残念ながらワゴンタイプの乗用車を持っている者はいなかった。
紺と灰色の半袖ボーダーTシャツに、モスグリーンのジーンズ姿の筋肉質な青年と、薄ピンクのカットソーの上に白いオーガンジーのカーディガン、体系のわかりにくい紺のジーンズ姿の女性の二人が加わっている。
今はそのボーダーTシャツの青年が運転を担当している。
運転手の彼は、陸と十織は面識があった。彼は、疾上正樹と名乗った。苗字からすれば戸上の分家筋の人間だ。風属性の能力を得意とする家系だった。
女性の方は草薙杏子というらしい。彼女に関しては初対面だった。今は、清藍と並んで座り、ぎこちないながらもコミュニケーションは取れているようだ。
陸と十織は最後尾の席に陣取っている。
見た目からすれば、男女三対三でちょっと遅めの夏休みを満喫しに来たリア満という雰囲気だ。どうしてこうなったとぼやきたくなるのも判る気がする。
彼らの向かう先は、県の北西にある雄斗袴山で、彼らの家から車で五時間ほどの場所だ。
車で一時間ほど揺られた頃に、彼らはトイレ休憩と称して途中の観光名所に寄ることになった。
そこは富士見宮と呼ばれる世界遺産にも登録されている大きな神社で、休日ともなれば旅行者・観光者で溢れている。
現在十時を回ったところだが、既に神社周辺には多くの人で賑わっている。日本人の人出もさることながら、外国人観光客の多さが目を引く。さすが世界遺産というところだ。
駐車場も乗用車や観光バスの出入りが多く、車を止めるだけで一苦労だ。山間地なので広い駐車場を作るスペースが取れないのだろう、三十台から四十台規模の駐車場があちこちに点在している。
空気は秋めいており、風が吹けば涼しいと感じる陽気だったが、日差しはまだ夏のままだ。少し歩けばすぐに汗ばんでくる。
全員がトイレを済ませ車の前に再集合したところで新汰がこんな提案をした。
「折角だしお参りでもしていかないか?実は俺、高校の遠足以来なんだ」
「大分楽しそうですね、新汰兄さん……」
「そんなことないよ?これも大切な仕事のうちさ。年長者として仕事中の無事を祈願するのもね」
「ものは言い様ってことっすかね。まぁ、昼も近くなってきてますし、目的地はまだかかるでしょうから、お昼休憩も兼ねるんならいいんじゃないかと」
陸が抗議の眼差しを向けていたので、仕方なく取り成すようように十織が意見を述べた。他の面々は特に意見がないのか、観光に賛成なのか発言を控えている。
一行は自然に既知の者同士が固まって歩くような隊列で歩き出した。
富士見宮周辺は緩やかな丘になっている。小さな階段や微妙な段差があり慣れないと少し歩きにくい。
道も舗装されているわけではなく、石畳が敷かれているのでヒールの高い靴を履いている女性はさらに歩きにくいに違いない。
清藍は素足にサンダルを履いてきたことを少し後悔していた。ストラップの付いたサンダルで、かかともそれ程高くはないが、時々細かい砂が入って来てしまうとがあった。
「痛た……」
「大丈夫か?清藍」
「靴連れしたかい?」
彼女を挟んで両側を歩いていた十織と陸が左右から声をかける。
「砂が入っちゃった。ちょっと待って」
十織の肩を借りて爪先で地面をとんとんと蹴り砂を落とそうとする。中々取れず手間取っている。
「スニーカーにすればよかったわ」
みんなで出掛けるとことになって浮かれていたのは彼女も同じだった。山歩きがあると聞いてスニーカーを持参してはいたが、ちょっとおしゃれがしたくなり直前に近くの量販店でかわいらしいサンダルを購入したのだ。
踵が低く足にフィットするようレースとゴム素材を多用した靴だったので歩くのに支障はないだろうと思って購入したのだが意外なところに欠点があった。いつ履いているヒールのある靴であれば、砂は入り込んで来ない。
「取れた。ごめんなさい」
「大丈夫だよ。かわいいね、その靴」
目立った飾りはなかったが、紺色のレースには小さな花の刺繍が散っている。同系色の膝丈のフレアスカートに茅色カットソーが清楚である。
「靴だけ褒める?服も良く似合ってるよ」
両側から口々に褒められて少し赤くなっている。
「あ、ありがとう」
「前と遅れちゃったね。急ごう」
少し先で立ち止まって待っている新汰たちに気付いて陸が促す。慌てたように頷く清藍と微笑んでいる十織が応じるように足を速めて先の三人に合流した。
--------------------------------------以下追加部分
杏子が足を遅めて清藍に並んだ。
「靴擦れしちゃったの?大丈夫?」
少女のような少し甲高い可愛らしい声だ。身長は清藍より十センチ以上低い。恐ろしく童顔な彼女はともすれば、高校生に間違えられるという。
かくいう清藍も最初は年下だとばかり思っていたが、なんとこの中で最年長だった。
ここに来るまでの一時間で彼女から収集した情報によると、杏子は新汰の恋人でもう1年程同棲しているのだそうだ。
おっとりした性格でよく言えば大和撫子だが、新汰に言わせるとぼーっとしてるだけということだ。
恋愛経験の薄い清藍にとって同棲していること自体が、激しく倫理に外れたことのように感じていたが、この二人を見るとそれは自分の思い込みすぎだったように感じる。
後数年もすればきっとこの二人は結婚するのだろうとすんなり思った。彼女が大学を卒業する頃にはもしかしたら子供もいるかも知れない。そんなあたたかくてほんわかしたカップルだった。
ひとつ気がかりな事があるとすれば、新汰が陸や徹たちと同じような『仕事』をしていることだけだろう。
羨ましいと思った。いつか私にもそんな相手が現れるだろうか。ほんの数ヶ月前までは誰かと話すことも稀な生活をしていたというのに、なんと贅沢なことかとも思う。
まだ戸上の家に関わる人間を中心としてだが、彼女の人間関係は徐々に広がりつつあった。こんなに幸せでいいのだろうかと思う程に。
隣で自分に意地悪とするという、杏子の愚痴の形をとった惚気を聞きながら自然と微笑が浮かんでいる。本人にとっては本気の悩みなのか意地悪とやらを何とかやめさせる方法はないかと問われる。
「意地悪したらお夕飯作らないとかどうですか?」
「えー、そしたら私も食べられない」
「自分の分だけ作るとか。あ、嫌いなものを作れば良いかも」
「嫌いなもの……レバーかな?」
「じゃあ、意地悪したらレバニラですね」
「……私もレバー食べられない」
「あら~~。じゃあこれだ!お弁当を自分の分だけ買ってくる!」
「なるほど!」
仲良さそうに話し込む二人の女性を眺めながら、陸と十織は顔を見合わせて微笑む。
一行は三十分ほど歩き神社の鳥居の前にたどり着いた。
「おっきいねぇ!」
はしゃぐように杏子が見上げる。
「……これ、鉄?」
鳥居をコンコンとノックするように手で叩くのは新汰だ。
「金属だなぁ、石とか木じゃないんだ。赤くもないし」
男性陣で一番背が低い正樹が首を真上に向けながら見上げている。
「鳥居って赤いイメージだよね、確かに」
言葉遣いに気をつけながら十織も少し後ろで見上げている。正樹や杏子が徹の事情を把握しているか判らないからだ。
しばらく眺めていたが誰ともなく歩き始めそれに倣うように皆が金属の鳥居をくぐっていく。陸と新汰だけが鳥居をくぐるまえに一礼した。
鳥居の先は、柔らかい質感の石畳が敷き詰められ、参道の左右は大きな杉が並んでいる。どれも樹齢百年以上ありそうな大木だ。
その奥にはまた鳥居があった。今度は、木製の鳥居で丹色に塗ってある。
入る前にまた軽く感想を言い合い鳥居をくぐると、大きな平屋建ての拝殿があった。
木の部分の殆どが丹色の朱に染められている。
周囲をすべて大きな杉で覆われており、二本目の鳥居の先からは、白い玉石が敷き詰められている。鳥居から拝殿までは参道と変わらず白い石畳が続いている。また小石がサンダルの中に入り込む心配はなさそうだ。
道中もずっと木の陰があったためずっと涼しく、先ほど書いた汗も乾いていた。その涼しさと凛と張り詰めたような雰囲気が、改めて彼らにこの場所が神域なのだと教えている。
誰ともなく歩き出し一行はお参りを済ませた。
H30-09-20 午後に大幅追加加筆しております。