37.命の灯②
眩暈がひどいのですが何とか投稿できました。もう、寝ます。おやすみなさい。
街中はつい数時間前と比較すると驚くほど騒然としていた。
氾濫を起こした白川の東側、駅を擁する新市街は幸いにも高台にあったため、洪水の被害を受けることもなかったが、旧市街のある西側は熊田駅から僅か五百メートル程で急激に下坂りになっており、駅からの道路と白川が交差する辺りが一番標高の低いエリアだったため洪水の被害をもろに受けていた。
川のすぐ横にあった昔ながらのデパートもその被害を免れることはできず、三十センチメートル程床上浸水した形跡が残っていた。現在は建物の周囲に土嚢を積んで水が浸水しないようにしていることと、一時期よりも氾濫の勢いが弱くなっている事もあり店内への浸水は阻止できているようだった。
ふら付いて一人では歩くこともままならない陸に肩を貸し、デパートまで辿り着いた新汰は店員と思しき人物が手招きをしているのに気が付いた。
店員の指示に従い店内に入ってみると、水の入り込まないように積まれた土嚢の奥に、避難して来たと思われる人々がタオルや毛布などにくるまって休んでいるのが見えた。
避難して来た人々は皆一様に新汰らと同じくびしょびでょに濡れ泥に塗れている。店の備品なのか商品なのかソファやマットレスなどがあり、急遽仕立てた割には居心地は悪くなさそうである。
季節外れのストーブなども持ち出されていて、室内にガンガンに焚かれている。停電でもしているのか室内は薄暗く電気は付いていない。室内に大量浸水してきている今の現状では危険と判断し自粛している可能性もあり得る。
すぐに店員が近付いて来て、まだ余力のありそうな新汰にタオルを渡し、空いた手で新汰の反対側から陸の体を支えてくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから。さあ、ストーブの近くに。暖かい飲み物もすぐにお持ちします」
簡易の避難所と化したその一角はパーティションで他から区切られ中は驚くほど暖かい。今更ながらに体が冷え切っていたことに気づく。
どろどろになっているため、取り合えず少しでも汚れを取るため陸をブルーシートの上に下ろし意識の有無を確かめようと顔を覗き込んでみる。
朦朧とはしているようだが一応意識があるようで焦点の定まらない瞳で陸は新汰を見詰め返した。
「陸君。取り合えずここで休ませてもらおう」
陸が辛うじて小さく頷くのを確認して、新汰は陸の隣に自分も腰を下ろしてタオルで顔や体を拭う。
陸も同様にタオルを渡されていたが、体を拭き取る体力もないのかタオルを首に掛けたまま蹲っている。
座ってしまうと想像以上に体に疲れが蓄積していたことを痛感する。信じられないくらい体が重い。長時間水の中を長時間歩いて来たため足、特に太ももがパンパンだ。膝もがくがくと笑ってる。
それでも気力を振り絞ってできる限り陸の頭や体を拭いてからマットレスに横たわらせた。よく見るとマットレスは透明なビニールに入ったままの状態だった。これならどろどろのまま横になってもすぐに汚れを拭き取れるだろう。
抵抗するわけでもなく横になった陸の顔色は青白い。これはまずいかもしれない。
そこへ先ほど案内してくれた店員とは別の店員が二人やって来て、新汰に各々が持っていた暖かいお茶と毛布を差し出して来た。
「ありがとうございます」
「災難でしたね。大丈夫ですか?」
お茶を手にしていた方の女性店員が心配そうな顔で話しかけてくる。
「僕は何とか。けれど、連れの具合が……」
二人の店員とも横たわる陸の顔を覗き込み、意識の有無も危うそうな様子に気づいて顔を見合わせる。
「こちらも119番通報は行っているのですが中々こちらまで救援が間に合わなくて……」
男の店員が眉根を寄せている。新汰はそれに頷くしかなかった。
「あの洪水の状況では救急車も辿り着けるかも判らないですね……」
「そうなんです。こちらもできる限りのことはさせていただくつもりですが……」
「いえ……。ここまでしていただけるだけでも有難いので……」
女性店員が陸に声を掛けてみる。まだ意識があったようで、彼女の介護を受けながらもう一度体を起こし、渡されたお茶を一口啜る。その間に男性店員の方が彼の体に毛布を巻き付けてくれる。
余程喉が渇いていたのか、暖かいものを飲んで気力が戻ったのか、震える手で二口、三口と続けてお茶を飲む。
心なしか頬の赤味も少し戻ったように思う。
お茶を飲み干すと陸は小さく店員に礼を言い、この場所に男女の二人組が担ぎ込まれていないか震える声で問いかけた。
男女の二人組は何人かいたようだが、新汰の見る限り徹と清藍の姿は辺りに見えなかった。案の定、店員の返答も陸の言う特徴のある人物はいなかったと帰って来た。
目に見えて落胆する陸の姿を見ていられず新汰は手に持った茶に目を落とした。
「正規の避難所もたくさんありますからそちらに保護されているかも知れませんよ。この近くの大きな図書館も避難所になってますし……」
体力が戻ったら探しに行かれたらいいかも知れませんという店員の声はもう聞こえていないのか、それを聞いて陸はすぐに立ち上がり、そして眩暈を起こし再び座り込む。
「無理はダメだよ、陸君。今は取り合えず自分の体を何とかしなきゃ」
「そんな悠長な。彼らは川に流されてしまったんですよ?!」
先ほどまでと同じ擦れた声ではあったが、鬼気迫る迫力のある声音だ。
「闇雲もに歩き回っても見つかるものでもないだろう。冷静になりなよ、君らしくもない」
「そうですよ、こちらの方の言う通りです。今は休まなくては」
新汰と女性店員に叱咤され陸はうなだれた。それでも横になろうとしなかったが、女性店員に再度促されしぶしぶマットレスに体を横たえた。
H30-01-09 一部加筆修正




