32.濁流に流されて③ 陸・新汰side
明けましておめでとうございます。
毎日しんどいです。結局去年の内の完結は夢と散ってしまいました。( ノД`)シクシク…
でも頑張りますよ。活字中毒の本気を見せつける時です(笑)
「あぁ、新汰……にぃさん……」
感じていた以上の負荷が体を苛んでいたのだろうか。掛ける声は僅かに擦れていた。何故かとても息が苦しい。
ふらついて倒れこみ込みそうになる陸の様子を見て慌てて新汰が駆け寄ってくる。
不自然に歪む視界と崩れそうになる膝。それが先ほどの濁流を凌ぐ為の術での消耗が原因であることも判るが、こちらへ近づいてくる新汰には彼ほどの消耗は見られない。
水と土とへの親和性低い陸にとっては自分の術力のみで濁流の衝撃を緩和しなければならないが、新汰にとっては親和性の強い属性だ。その力の反作用を利用することも不可能ではなかった。
消耗の差はそこからきているのだ。そもそも、陸の術力はどちらかというと攻撃特化の性質だ。防御の術は向かない分、余計な消耗を強いられる。
普段サポートしてくれていた相方がいないこの状況では、自らの術力のみで何とかするしかない。普段から当たり前のようにいたからこそ気付かなかった弱点が今は彼を苛んでいるようだ。
対する新汰のそれはどちらかというと防御に力を発揮する形質だった。大した負荷も感じていない様子で消耗してふらついている陸に手を貸した。うまく働かない頭でもその分析はできた。
陸の唇から小さく苛立ちを露わにした声が零れ落ちた。
それは小さくまた早口でよくは聞き取れなかった。普段は見せないその様子に新汰はちらりと彼の横顔を盗み見た。何故だかその表情を正面から覗き込んではいけないような気がした。
陸の苛立ちに気付かない素振りで、そのまま新汰は陸を抱えるようにして支えながら、まだごうごうと音を立てて濁流の流れる川縁から離れようと歩き出す。
物静かで冷静という印象の強い従兄弟の憔悴ぶりは、それを目の当たりにする新汰にまで影響を与えるかのようだった。
本人は気付いていない様子だが、相方の不在という事象が彼に今までなかった負荷をかけているのが新汰には判った。
冷血とさえ思える冷静さで、これまでいくつかの難敵を撃破してきた筈の青年がほんの僅かの綻びに変調をきたしている事に意外さを覚えた。
しかし、『戸上の長男』という大きすぎるレッテルを外してしまえば彼もただの青年だ。迷うことや間違う事、ましてや非常時の咄嗟の判断である。誤ることなく行動出来ていた今までの方がどうかしていたのかも知れない。
陸もまた、水の神の呪いを解くことを生きるための最重要項目に置いていた。それを達成してしまった今となって、ようやく無理を続けていた綻びが表面に見えるようになってきたのかも知れない。
ゆっくりとじりじりと焦る気持ちを抑えながら川から離れゆっくりと川から離れた高台を目指して歩く。雨は無慈悲に彼らに降り注ぎその残り僅かな体力を削っていく。
陸の腕の下に自分の頭を入れて、彼を庇うように歩いている為に、自分以上に息の上がっている事が手に取るように判る。そして、譫言の様に繰り返すその言葉も。
「とお……る……。せ……いら……」
濁流のせいで離れてしまった相方と思い人の妹の安否が彼の何よりの懸念事項なのだろう。
「陸君。心配なのは判る。けれど今は俺らの安全を確保しなければ……。それに彼らは大丈夫だよ。……だってそうだろう?君の信頼する相棒と神の呪いをも浄化した女性じゃないか」
凍るような声で途切れ途切れに聞こえてくる声のその痛みに、新汰は気休めと知りつつそんな言葉を掛けた。
「……そうだ……。藍良と約束し……たのに……。必ず守るって……ふたり……を……」
その言葉で新汰は気が付いた。陸は徹も清藍も守るべき対象と認識しているのだと。例え自分よりも優れた術を操ろうと最後にあの二人の盾となるのは自分なのだと。
それ故の憔悴なのだろう。守らなければならない、守りたい対象と離れてしまったらどう守る?
「大丈夫。安全な場所を見付け、体力を回復したらすぐに探しに行こう」
静かにけれど強い声で新汰はかつてなかったほどの優しい声音でそう囁いた。




