3.不確定な未来予知
とりあえず今日の分のノルマは達成かな。んー、正樹君が中々出てこないなー。
少しだけ加筆しております。
翌日、徹と清藍は呼び出されて近所のファミレスに集まっていた。
いつものカフェではなく、わざわざファミレスに呼び出されたことを疑問に思いながら待っていると、陸はもう一人男性を連れて合流した。
見慣れない男性の姿に清藍がきょとんとした顔をしている。徹とは面識がある様で男性――新汰は彼らに向けて軽く手を上げて見せた。
向かい合って座っていた徹と清藍だったが、二人が合流したため徹が清藍の隣に移動して座ることになった。
窓際の席に腰掛けて、清藍は視線と表情だけで陸に問いかけている。
「あーっと、徹は覚えてると思うけれど、戸上新汰さん。僕の従兄弟」
「従兄弟……、戸上ってことは、本家の……方ですか」
言われてみれば陸と似ていなくもない。陸より少し背は低いが「戸上のお婆ちゃん」の面影もある気がする。
新汰は穏やかそうな表情ではじめましてと挨拶をした。
「という事は、徹とも従兄弟?」
「んん?」
「あー、それな。訂正しといたほうが良いか」
妙な声を上げて反応する新汰に、少し気まずそうに徹が首の辺りを掻きながら言う。
「俺が陸の従兄弟ってのは、嘘つうかフェイクつうか……」
「嘘もフェイクも同じ意味だけどな。仕事の都合であちこち点々とするから僕たちはさ。近親関係ってことにしといたほうが色々都合良くてね」
前半の台詞を陸に向けて、後半は清藍に向けて話し掛ける。
「あぁ……そうなのね」
そんなに転々としていたのねと清藍は思った。声に出しはしなかったけれど、そんな生活では友人も恋人もろくに作れないのではないだろうか。
あえて問おうと思いはしなかったけれど、彼らも大変な日々を生きていたのかもしれない。こんな単純なことに今更気付くなんて、自分には配慮が足りないと思う。
「貴女が水上さんですね。始めまして。噂はかねがね……」
微妙になった雰囲気を変えるように新汰が穏やかに問いかける。
「はい、始めまして。水上清藍と申します。……あの……噂って、姉さんのことですか?」
「水使い……あーっと、君のお姉さんの事だけど。君のお姉さんもそうだけど、水上さんも僕らのうちでは結構有名なんですよ」
「私も……ですか……?」
「まあ、……藍良さんだったっけ?彼女の術力は飛び抜けていたと思う。あのまま生きていらっしゃったら間違いなく時期当主に選ばれていたと思う」
それは陸も徹も認めていたことなのでそうなのかなと思う。素直に頷きながら先を促す。
「けれど、その妹も実は力が強いっていうのは、あの頃から噂されていたんだよ」
「私が……?」
「戸上の家はさ、普通の家とちょっと違うだろ。僕が言うのもなんだけどさ」
ちらりと隣に座る陸に目配せをする。時期家長候補である陸に気を使ったのだろうか。それに気付いたのか、陸もちらりと新汰を見て代わりに話を続けた。
「藍良はさ、自分が戸上と関わるのはもう仕方ないとしても、君には戸上のどろどろした人間関係に巻き込みたくなかったみたいだよ。……ホントに、戸上に生まれた僕らだって、時々げんなりするような家だからさ。だからせいらの才能自体は認められていたんだけれど、君は基本の制御術以外の教育を受けることもなかったってこと」
「……そうだったんですね」
「で、なんだ。本題に入る前に何か頼んでいいかい?ちょっとのど渇いたよ」
先に到着していた徹と清藍の前には既にドリンクが置かれていた。ファミレスに良くあるドリンクバーだ。徹はコーラを、清藍はホットの紅茶を選んでいる。
「あー、戸上さん飲み物だけならドリンクバーありますよ。二百円で飲み放題」
今まで沈黙を保っていた徹が、気を利かせてテーブルの上に張ってあるメニューを指差す。
「あぁ、それでいいや。陸君はどうする?朝飯食べた?」
「僕も同じで大丈夫です」
平日の午前中という早い時間なせいか、店内は彼ら以外に数組しか来客がいなかった。店員を呼べばすぐに応じられた。陸が席を立ちドリンクバーをでアイスコーヒーを二つ持ってくる。
「新汰兄さん、ミルクいりましたっけ?」
「お、いるいる。ついでにガムシロも欲しい」
「あ、はいはい。今持って来ます」
通路側に座った陸は、慣れた様子で新汰に確認も取らず二つ分の珈琲を入れて戻って来た。新汰を『兄』と呼ぶことにしてもそうだが、どうやらこの二人は昔から仲が良いのではないだろうかと清藍は推測した。
清藍は陸がガムシロップを取りにいった間に新汰に聞いてみる。
「戸上さんって陸と仲がいいみたいですね」
「新汰でいいよ。苗字で呼ぶとややこしいでしょ。僕も小さいときは本家にいることが多かったんだ。陸とは歳が近いし。みんなあの家で育ってるから兄弟と変わらないよ」
「陸の本物の従兄弟達はさ、十五、六人くらいいるんだけど、殆どみんなあの家に住んでるんだよ。みんな戸上だし。だから名前で呼び合うしかないんだ。生まれた順になんとか兄さんみたいな感じで呼び合ってる感じだね。例えば陸兄さん、とかね」
徹が清藍にも判りやすい様に噛み砕いて説明をする。
「あのお屋敷だったらそれくらいいても問題なさそうですものね。でも何かすごい。親戚全員があのお屋敷に住んでるって」
「それ以外にも使用人とか俺らみたいな居候もいるから、建物の雰囲気も和風だし旅館にいつも住んでる感じだよ」
新汰がいるからだろうか珍しく言葉遣いに気をつけて話している徹がいる。椅子にだらしなく座ることもなければ、行儀悪く頬杖を付くこともしていない。
大して変わっていない気もするけれど、努力はしているんだろうな多分。
いつもと雰囲気の違う徹の様子に、清藍はもしかしたら徹はこの人が苦手なのかも知れないと感じた。
陸が戻りガムシロップを新汰に渡すと、新汰は早速アイスコーヒーにミルクをガムシロを注いで美味しそうに飲んだ。
「従兄弟たちの話してた?」
「うん、そういえば戸上の家の事良く知らなかったなって」
「学校で話すような事でもないしね」
陸も新汰に倣う様にアイスコーヒーを一口飲むと、目配せするように新汰を見た。
徹はコーラを飲み干してしまって、手持ちぶたさの様に残った氷をストローでかき回している。
新汰は本当に喉が渇いていたようで冷たいコーヒーを堪能している。呼び出してきた理由とやらを一向に話さない新汰に痺れを切らしたように徹が尋ねた。
「それでさ、俺達に話したいことがあるって言ってたけど何なんだ?」
「僕も知らないんだ。二度手間になるから集まったら話すからって……」
「うん。ごめんね、忙しいとこ呼び出しちゃって」
珈琲を飲み干し、深く一息つくとこんな前置きともに新汰は話し出した。
「実はさ、君らを呼んで貰ったのは、二つほど用件があるからなんだ。勿論、水上さんにも興味があったっていうのもあるんだけど」
次の言葉を捜すように一度言葉を切る。
「最近さ、地震が多いと思わない?つい最近も九州とか北海道とかで大きな地震あったし」
「まあ確かに。いつもどおりって言えばいつもどおりっていう気もしないでもないけど。立て続けに大きな地震があるなあとは思う」
急に訪ねられた質問に答えたのは徹だ。他の二人はその返答に同意するように頷いている。
「何かね、西の方……、いや北西かなぁ。嫌な気配がするんだよね。日上君は何か感じなかったかい?」
両腕を組んで考え込むように首をひねりながら俯ける。漠然とした言い方過ぎて判りにくいが、その実徹にも心当たりがないわけでもなかった。
「戸上さんそれもしかして、雄斗袴山方面じゃ?」
「雄斗袴山……?、雄斗袴山ってどっち方面……?あぁ、こっちか確かに方向は合ってるかも」
普段は東京にいる事が多いらしい彼は、こちらの地理には詳しくないようだ。方向を指差しで教えてくれた清藍と陸にお礼を言っている。
同時に指差ししてしまった二人はなんとなく気まずくなったのか、無言で見詰め合い微妙に笑いあう。
「陸は知ってる事だし、徹も聞いた事あるかも知れないけれど、俺ね予知能力保持者なんだよ。……予知能力っていうと何かかっこいいな、エスパーみたい」
「SF小説だったらヒーローだな。某アメコミみたいに変身でもしそうだ」
「ア○ンジャーズに入れるかな?ってそうじゃなくて。徹、茶化さないでくれよ」
「へいへい」
「もしかして、近々この辺りで地震が起きそうっていう事ですか?」
口を閉じた徹に代わり質問したのは清藍だ。清藍はその気配については良く判らなかったが、大地がざわめいている気がしていた。けれどそれは、山崩れを起こした大学の裏山を中心とした狭いエリアだけなのかもと思っていたのだ。
「まあ、言っちゃえばそうなんだけど。この予知能力っていうのがさ、面倒な能力でね。百パーセント当たるなら問題ないんだけど。的中率が六〇~七〇パーセントっていう微妙な確率でね」
「七〇パーセントでも的中率としてはすごいと思いますけど。その原因を調査したいから協力して欲しいってことですか」
「それがね、どうもそれだけじゃないというか、多分地震自体は九〇パーセントくらいの確率で起きると思うんだけど、何ていうかな今回の予知に関してはものすごく揺れ幅みたいなのが大きくて、もしかしたら震度四くらいの小さいものかも知れないんだ。それくらいの揺れなら下手したら週に一回くらいの割合で起きる事もあるだろう?」
「珍しいですね。新汰兄さんの予知がそんなにぶれるなんて」
「だから俺も困っているんだよ。見るたび身予知の結果が変わってるような体たらくでさ」
あごの辺りに手をやって考え込んでいる陸と、手持ちぶたさでストローを銜えて遊んでいる徹。清藍はその二人を見比べながら、予知能力というものについて少し考えてみる。
どうも想像が付かない。七〇パーセントの確率で的中する未来が見えるということだけれど、どんな風にどんな事象が見えるというのだろう。今回のように大災害や大事故なんかが見えるのだろうか。
もしそうだとしたら結構きついかもとは思う。人の生き死にに関する事を前もって知ってしまったとして、それを止める、ないし危機回避のための行動ができなかったとしたら。
その人々の死に責任を感じたりはしないだろうか。
「それでね、婆様には一応お話をしてみたんだけれど。ならば調査をしてみるようにって」
「それで僕たちに協力して欲しいってことですか。僕は勿論お手伝いしますけど、婆様には何も見えていないのですか?」
「婆様の言うにはそういう未来は見た事があるけれど、近い未来なのか遠い未来なのか判別が付かないそうでね」
「戸上の婆ちゃんももう歳だから」
「婆ちゃんって、徹……失礼よ」
「本当だよ、まったく」
清藍と陸に口々に窘められつまらなそうに徹はストローを銜えたままの口を尖らせる。子供かと突っ込みたい衝動にかられる。
「徹君のそれは今に始まったことじゃないし、婆様も最近怒り疲れたのか呆れたのか、窘めなくなったしいいんじゃない?」
「まあ、婆ちゃんに話し通ってるなら俺らに拒否権ないし。で、俺ら何をすればいいんだ?」
「あ、まあそこなんだけど、五人か六人くらいのチームにしたいと思うんだけど、手が足りなくてね。水上さんにも参加してもらいたいっていう話が2個めの話」
「え、私も?」
「そうなんだ、事が大規模地震となるとしっかりした調査が必要だと思うし、残念ながら戸上の家の中にも貴女以上の使い手はもう多くないんだ」
「相手が大規模地震となると人数は妥当なとこかなー。やること決まったら教えてくれれば、あでも。せいらは怖いとか嫌だなって思ったら断っていいんだぞ。それに例え参加するってなっても、せいらに危険が及ぶようなとこには連れて行きたくないんだけど」
「あ、うん。それはできる限り善処させてもらう。だからぜひお願いしたいんだ」
「参加するのは構わないけど、力になれるかどうかは判らないよ。私ちゃんとした訓練を受けているわけじゃないし」
危険かも知れないとは何故かこの時清藍は思わなかった。怖いとも。陸と徹がそばにいてくれるならそれだけで心強い。
「最低人数が五人ってことは、一人はもう確定してるってことっすか?」
「一人はね。今もう一人打診中。そいつら集まったら紹介もしたいし、近々親睦会代わりにみんなで呑みにでも行かないかって誘い。残りの一人は女性だから水上さんも少しは参加しやすいかなってね」
後半の台詞は清藍に向けてのもののようだ。陸は勿論、徹も面識があるのかも知れない。はあ、そうなんですね。と、清藍は気のない返事だなと思いつつそんな返事を返した。
そういえば大学に入って以来、こんな風に誰かと食事とか飲み会とかした事がないな時が付いた。いや、もっと以前から学校以外で誰かと食事に出掛けるなんて事はなかった筈だ。
しかも飲み会。こういうのも合コンっていうのだろうかと、考えると何故か少し気恥ずかしくなり清藍は赤面してしまった。
H30-09-21 小規模加筆。
h31-01-09 誤字訂正