29.原因の究明へ⑥
お久しぶりです。だいぶ遅くなってしまいました。こんなに空いたのは初めてのような気がします。
申し訳ありません。言い訳ですが、体調が思わしくなく、仕事と日々のことをこなすだけで精いっぱいでした。
実際まだ本調子ではないので、しばらく投稿が遅れ気味になってしまうかもしれませんがご容赦いただければと存じます。
昨日の昼頃に清藍からの連絡を受けて、すぐさま徹と陸は手分けしてそのエリアの水害事故を調査してみた。当然、連絡を受けてすぐなので、出来る事と言えばネットと図書館を使用した調査に始終した。
その日の夜にある程度の調査結果がでて手応えのようなものを感じたため、それを新汰に連絡したところ翌日、つまり今日現地に行ってみようという話になった。
徹は窓の外に目をやった。土砂降りというわけではないが、昨日からずっと強くなったり弱くなったりしながら降り続いている。降水量は相当な量になっているだろう。
背後のテレビが今後の台風状況を説明している。台風はこれから関東に接近する予定で、その最中に水害の起こりやすい場所に行こうとしている。
徹には嫌な予感しか感じられなかったがとにかく今は時間がなかった。あれからもう一月が経ってしまっている。気の短いものならば何の進展がないことに怒りを覚えてもおかしくない。
多少の危険や無理を押しても現地に赴いて調査をしなければならない。
けれどせめて、清藍を置いて行きたかった。けれど、それは叶わなかった。
先に清藍からの告白を受けてから、どうにも彼女を意識するようになってしまった。
こんな自分を彼女のような人が好いてくれたことはとても嬉しかった。けれど、今まで戸上の人間以外の人と深く関わり合うことを余りしていなかった徹には恋愛感情と言うものにかなり疎かった。
清藍を大切か?と問われたら勿論、是と答えるだろう。しかし、愛しているか?と問われたら正直なんと答えたらいいか判らない。今までそういう見方で他人を見たことがなかった。
調査旅行の後に、清藍は正式に当主の綾乃と話し合い、術者として綾乃の認証を受け修行を開始していた。
既に水の神の特別な加護を得ている彼女であるから、その才能は申し分ない。それでも修練を始めたばかりの彼女はまだ一般人とさほど変わらない。そんな人間を危険の最中に連れて行きたくない。けれどその思いは矛盾しているという事も判っていた。
実践こそが何よりの修行だと判っているからだ。平静時に術が使えても危険な時や焦っている時には思うように操れない事が多い。
現に彼女はこの一月で既に初歩の回復術を操れるようになっている。これは驚異的な速さでそれだけの才能と集中力を発揮している彼女を、連れて行かないという選択肢の方があり得ないことだった。
何事も起きない可能性だってある。そう自分に言い聞かせるしかなかった。ただの洪水ならば問題ない。水の神が清藍を守る事だろう。勿論自分達だって守ろとする。
そろそろ約束の時間になる。徹は撥水効果の高い上着を持ち部屋を後にした。
☆
雨は激しさを増していた。風も少しずつ強くなってきて、自動車の中でもそれが感じられる程だ。
被害の多かったのは、陸達の住まう崎宮市と西側で接する、熊田市だ。そこへ向かう途中でも既にその激しさは見て取れた。
この地域は土地が低く降水量が嵩むとよく道路が水没するエリアで、ちょうど市境を過ぎた辺りから道路に水溜まりが目立つようになっていた。
まだ午前の早い時間のせいか、車の往来は多く、雨と相俟って車のスピードも落ちて少しずつ渋滞が目立ってきている。
「これは……酷いな」
道路と並走するように設置されている排水路は、降り続く雨にその機能を維持できず、逆に道路へ雨水を吐き出している箇所がある。
呻くように呟いた徹に同意するように陸も頷く。
「台風が来るといつもこんな感じになるのかな。対策を取ることはできないのか……?」
徹と同じ様に自動車の中から窓の外を見詰める陸の表情も暗い。
「対策を取ろうとしたら大きな工事をしないとならないだろうね。熊田市はあまり裕福な市じゃないから難しいのかもね」
陸の呟きに冷静に返事をしてきたのは自動車を運転している新汰だ。清藍はそんな皆の様子をみて不安そうな表情をしていたが言葉が見つからずにいるようだった。
やがて一行は目的地であるここ数年の間で水難事故が多発している川へたどり着いた。適当な場所に自動車を駐車して、各々傘を差したり、雨カッパを着たりして川へ歩み寄る。
川幅は広く四、五メートル程だろうか。土手の上に遊歩道が走り、散策しやすいよう綺麗に整えられている。川縁にも歩道が作られており、途中広い場所にはいくつかの遊具やベンチが据えてある場所も見受けられた。
天気が良ければ気持ち良く散歩が楽しめそうだ。
安全を考えて川縁までは降りず、暫く土手の歩道を歩いてみる。昨日からの雨で川は茶色く濁り、水嵩が増し水流も激しくなっている。しかし、まだ土手の高さには余裕があり危険水域に達してはいなさそうだ。
「何でこんなところで事故が……?」
新汰の呟きはもっともな気がした。川幅も深さも十分にあり、しっかりと高さを取った堤防で途中でその堤防が途切れているということもなさそうだ。
「去年の洪水被害はこの辺りに大雨が降ったというよりは、この川の源流の辺りで大雨が降ったことによが原因みたいです。ダム決壊を防ぐため放流した時間に運悪く下流で大雨になったみたいで」
清藍が答える。昨日から調べ上げた事柄を頭の中で思い浮かべた。
「ここ数年だけでも、この近隣で水難事故が十五件以上ありました。全て偶然の産物と言えばそれまでなんですがあまりにも『不自然』に水難事故が多いので……」
「……そんなに。でも『水難事故』か……」
「被害者は水上の関係者ではないと思います。全部は調べ上げられませんでしたけど……」
「あ、ごめん。水の御神を疑ったわけじゃないんだ」
「はい。私も水難事故って思って真っ先に思い付きましたから」
申し訳なさそうな顔をした新汰に、清藍は感情を含まない声音で返した。そっと胸元のネックレスを服の上から押さえる。
「でもまあ、流石、なのかな……」
新汰は目を細めながら周囲を見渡した。
「多分、ビンゴだ」
「「「!」」」
静かな新汰の声に全員が反応した。
皆の視線を集めたことにちょっと照れたのか苦笑いをして、新汰は清藍を見下ろした。
「君も感じているんでいるんでしょ?木の気の異常な強さを」
「……はい……」
「やったな!せいら」
「すごいな、君はホントに……」
徹と陸が顔を綻ばせて口々に彼女を褒めた。徹は清藍の頭を少し乱暴に掻き回す。
「ちょっ、やめて!徹!」
慌てて徹の手を抑えて、彼から距離を取る。徹はすんなり手を止めて笑っている。その様子に新汰もつられるように笑みを溢した。
「しかし、これは……」
感じ取れる木の気には気がかりな点があった。そしてそのわずかな引っ掛かりのようなものは、流石の清藍にも感じ取れていない様子だ。そして、感じ取ることができる新汰にもその微妙な『何か』がどんなものなのかまではよく感じ取れないでいた。
「とりあえずこの雨だ。一旦戻ろう。今度の休みにでも正樹も読んで詳しく調査しよう」
笑顔のまま踵を返して来た道を戻り始めた時だ。
軽い地震のような地響きと共に地面が揺れた。と同時にどこからか轟音のような音が響く。
戸惑う彼らは音の方向を探して四方に目をやるが、雨のせいで音の源の特定が難しく発見できない。
地震のように揺れ続ける地面にバランスを崩しながらも川縁は危険と思い声を掛けようとした徹が皆を振り返った瞬間目に入ったのは、上流から堤防を越える水量で流れてくる水しぶきだった。
「逃げろ!!川縁から離れるんだ!」
一番近くにいた清藍の手を取り声の限りに叫んで走り出す。有無を言わずそれに従い、陸と新汰も走り出す。しかし、水の流れは凄まじく逃亡の甲斐なく全員が水に飲み込まれてしまった。
徹は激しい水流に翻弄されながらも、清藍の手を放さなかった。呼吸さえままならない状態であったが、しっかりと彼女を抱き込んだ――。
H30-12-22 一部改稿




