25.原因の究明へ②
体がしんどいです。年は取りたくないものです。
徹は新汰とはまた違った疲れに苛まれながら、大学の構内を移動していた。
連休明けの構内はいつも以上に賑わっている。陸たちが図書館で調べ物をしている間、徹と清藍は必須の講義があり今終わったところだ。
大学の裏山の土砂崩れの後も変わらず清藍は遠巻きにされている。例え呪いが既に解かれていようと『神に呪われた女性』という噂がすぐに消えるはずもない。しかもその呪いは噂ではなく本当だったのだから尚更だろう。
呪われていたことと、呪いが解かれたことが実証できてもそうでなくても、しばらくの間はこの状況が続く事は変わらない事実だった。
彼女と関わっている陸と徹に何事もおきなければ時間はかかっても少しずつ忘れられていくだろう。それを待つしかない。
それでも傍らを歩く女性が変わらず振舞ってくれていることだけが徹たちにとって唯一の救いだった。
「大丈夫なの?なんだか今日は朝から元気ないけれど」
いつもより口数の少ない徹に清藍が隣から声を掛けて来た。
気配りの細やかな性格であることは認識しているけれど、何故気付いて欲しくない時ほどしっかり相手に伝わってしまうのか。
「あ~?そう見える?雄斗袴山登らされたしなぁ疲れたわ~」
実際往復で六時間以上の登山は初めてのことだった。日頃から体は鍛えている徹だが流石に昨日今日では体の節々軋むような違和感は残っている。
「昨日の方が元気だった気がするけど」
「大丈夫、二日酔いみたいなもんだから」
「二日酔い?昨日そんなに飲んだの?」
「いや……そうでもないんだけど……」
実際は昨晩は疲労もあって晩酌に缶ビールを一つ二つ飲んだ程度なので、酒に強い徹が二日酔いになる量ではない。
体調不良の本当の理由は、残り術力の少なさに由来している。体力を使えば体が疲れるように、術力を使えば心が疲れるのだ。
普段気付くような込まない事に気づかなくなったり、短気になったり人によって表れ方は様々だが、強くストレスを感じているような状態と言えば判りやすいだろうか。
また、女性形の時と男性形の時で体格が違うため、姿が変わるたびに変わる体のバランスに慣れなければならない。こちらはヒールの高い靴を履いた時に視界の変化や足に掛る体重の変化などを思い浮かべてもらえれば判りやすいだろう。
最初は女性の姿で生まれてきていた徹だが、今は男性の姿でいることが多いのは、その姿が一番安定しているからで、女性形を維持するために術力を少しずつ消費しているらしいのだ。
基本性別が入れ替わる時には、術力はフルまで回復する彼だが、女性形を維持する時の術力だけは元の姿の時の術力を消費しているらしく、その分は元に戻っても回復しないようなのだ。徹が女性の姿で長くいることの出来ない理由がそこにあった。
今回の調査の時のような、少しの術を使用するだけで維持するとしても女性の姿を維持できるのは一週間が限度だろう。なので今の徹は、術力が残り少ない状態であり、それが二日酔いのような疲労を彼にもたらしているのだ。
術力は普通の生活をしていればゆっくりと回復していくが、それ以外の回復方法は少ない。というかないに等しい。杏子の力はそういう意味でも規格外と言っていい。
訝しげに首を傾げ、こちらを見上げてくる清藍に、徹は大丈夫だと小さく囁いた。
どちらにしても術力の回復方法は、杏子が近くにいない今は放置する以外に手はない。
二人は大学の学舎を抜け、図書館へ通ずる道を歩いて行く。夏には青々と繁っていた構内の木々も少しずつ色付いて来ている。山の上のような見事な紅葉にはまだ遠いが少しずつ秋の気配を色濃くしてきていた。
必須の講義が午前中一つだけだった陸が先んじて図書館で調べ物をしてくれているのは、SNSでのやりとりで把握している。
きっと陸のことだから自分たちが加勢するまでもなく、そつなく調べ物をこなしているだろう事は窺えていたが、だからといって一人で全てを任せるつもりはなかった。
清藍はつい先日まで見ていた女性形の姿を思い出し、更に隣を歩く徹をみその特徴をこっそり比較してみていた。
翌日は登山組みの三人がぐったりしていたことと、土の御神に拝謁したことで、新汰の予知夢の源が木の神の不在に由来しているらしいことが確定したこともあり、特に調査は行わず軽く観光をして帰途についていた。
姉以外の誰かと出掛けることも、連休を利用した旅行も、彼女の記憶のある限りでは初めてのことで調査という名目ではそのあったがその三日間は清藍にとっては大切な思い出の一つになっていた。
そのせいか今日の彼女の振る舞いは常になく明るく朗らかで、本来の美しさを発揮するようだ。
すれ違う生徒の中にはその様子の変化に振り返る者が少なくない。しかし普段から奇異の目で見られていた清藍には振り返り彼女を見ていく人々が好意的なのかそうでないのかの判別できなかった。
一方、すれ違う男子の目の色の違いに気付いてしまった徹は、内心今後すこし面倒なことにならないといいなぁなどと暢気感想を抱いている。
というのもすれ違う男達が清藍に熱い視線を送る一方で、自分に対しての視線が冷たく痛い気がするからだが、徹から言わせてもらえればつい最近までの我関せずという態度でいたというのに、彼女の笑顔一つで急変する男子どもの変わり身の早さには辟易する気持ちも少しはある。
そういったことを抜きにしても、この変化は清藍のためには良い変化だ。だから多少面倒でも徹はそれを適当に回避しようとは思わなかった。
兄弟のいない徹には今のところは清藍は可愛くしっかりものの妹のような存在で、だからこそとても大切に思っていた。
今はそれで言いと思う。清藍も今の状況にそれなりに満足してくれているのではないかと徹には思えた。
H30-01-09 一部改稿・加筆




