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23.土の御神への謁見②

昨日投稿できなかったので、何とか今日は!と思い頑張りました。これから仕事に行ってきます。


 銀髪の神に付き従って歩きながら、新汰あらたはこの神が杏子きょうこたちが見たという風の神なのだろうかと考えていた。


 まさに完璧と言える美を備えた存在だった。そこに存在しているのに、実感がない。まるでホログラムのようにその場に映像のみを投影しているようだった。


 触ろうとしても触れる事が出来ないのではないだろうかと思う。


 であるにもかかわらず、その神は風になびいている。


 神は彼らとある程度の間隔をあけて先を歩いているが、その動きすら生命の息吹を感じなかった。当然息切れなどするはずもない。


 新汰は疲労の蓄積する体を押して歩調を速め十織とおるの隣に並んだ。


「彼の御神がこの間の風の御神かい?」


 小さい声で十織に問い掛ける。


”その通りだ”


 十織が答えるより早く、新汰の耳に声が響いた。


 見ると先を歩いていた風の神が立ち止まり後ろを振り返っていた。


 切れるかと思うほどの厳しい視線をこちらに向けている。


 途端に全身に降り掛かる重圧に、毛穴から汗が噴出す。全身が熱いのに胸の奥だけが底冷えする程に冷たく感じる。


”―――様が認めた者故、手出しはせぬ。この地にいる限りはな”


 時間にして数秒、新汰を見据え、風の神は飽きたように視線を逸らしまた先を歩き出した。


 神が視線を逸らしただけで、新汰に掛かっていた重圧が消え、体が楽になる。へたり込みそうになる体に鞭打ち、遅れを取り戻そうと足を速めて十織たちを追い掛ける。


 見られただけでこの重圧か……。


 新汰は心の中で呟いて、昨日その重圧に長時間耐え抜き交渉を行った十織に改めて驚愕の念を抱いた。


 昨日はさぞかし大変であっただろうに、今はもうその苦行もなかったかのように平然としている。


 風の神は山道を少し下り、木々の間を縫うように歩いていく。先程まで暑かった気温が嘘のようだ。寒くもなく熱くもないちょうどいい気温が保たれている。


 先程まで晴れていた空は曇り少しずつ霧が出始めている。


 やがて霧は深くなり周囲三メートルほどしか見えなくなってしまった。にも拘らず、前方を歩く風の神の姿だけはくっきりと見る事が出来る。


 時間の感覚も距離の感覚もなくなり、このまま永遠に霧の中を歩かされるのかと思うほどの時間、霧の中を歩き続けた頃前方に、小さな東屋が見えて来た。


 霧の中で周囲は殆ど見通せないというのにその場だけはくっきりと見て取れる。


 なんとも風情のある東屋だった。昔ながらの茅で葺かれた屋根は苔むして焦茶色の屋根に緑の彩を添えている。雨風に耐えた柱はどっりしと屋根を支え、四方の一面のみに細く割かれた竹で格子を作った戸が取り付けてある。その他の面には、草色の薄絹うすぎぬを屋根から垂らしている。


 その戸が取り付けてある面を背に誰かが腰を据えていた。


 自然に喉がこくりと鳴った。


 東屋の少し手前で風の神が立ち止まり、進路を来訪者達に譲った。案内はここまでと言うことか。


 三人はつかの間顔を見合わせたが、意を決して頷き合った。


「ごしょうじ応じまかり越しました。戸上の土使い、新汰と申します」


 一歩前に進み出て、最敬礼をすると新汰は静かに名乗りを上げた。それに合わせるように後ろで十織とりくも同じように最敬礼をする。


”下界より参じてくれたこと礼を言う”


 リンと鈴の鳴るような音と共に静かな声ならぬ声が降って来る。


 顔を上げるよう促されるままに、顔を上げると目の前には先程の風の神と僅かに雰囲気の似た存在がゆったりと竹の長椅子に腰を下ろしていた。


 十織から聞いたとおりの慈愛に満ちた眼差しと、ゆるく波打って流れる美しい銀焦茶の髪が風の神との最大の相違点だった。


 日上君は砂色と言っていたか。なるほど、確かに輝く砂色という表現が一番正しい気がする。などとどこか焦点のずれたことを思った。


 三人は誰がするともなく、その場にひざを着き土の神を見上げる体勢をとった。


 新汰は両の膝を付き、十織と陸は片膝を立てている。


”―――もくの神の気配が希薄になっているのに気付いたのは古くからではない”


 おもむろに土の髪が語りだした。


 元々この山に奉られている国津神の眷属たる神々だ。その性質は主に準じるのだろう。


 この地の地鎮神たる神々はほぼ眠るようにして日々を過ごしているのだそうだ。


”あれの姿がどこにもないのだ。どこかに隠されてしまっている”


 神が死ぬ場合にも『隠れる』と言う言葉を使うが、この場合は文字通りの意味でいいのだろう。


”我が力を振るえば彼の神を取り戻す事は容易たやすい。しかしそれを行えばこの地はどうなるか……”


 この地に存在する生命全てを愛するが故に、彼の神は力を振るうことを躊躇ためらっているのだと、新汰は知りその慈愛に深く感じ入る。


「御神のご慈悲、痛み入ります。非力ではありますが、死力を尽くします」


 静かに土の神が新汰を見下ろす。


 暫しの沈黙の後、土の神は小さく頷くと、膝の上に置いていた手を、すっと差し出した。


 その手の中には、鼈甲べっこう色の楕円形の石があった。


 鼈甲色の石は土の神の手からふわりと浮き上がると、ふわふわとゆっくり新汰の目の前に飛んで来た。


”それを遣わす。我が名は、【トゥルバ】我に用向きがある際は、それに触れて我が名を呼べ”


 新汰が手を差し出すと、その石は浮力を失い新汰の手の中に納まった。ほんのりとぬくもりを感じるその石は琥珀だろうか。にしても大きい。楕円の長い辺の方で三センチはありそうな大きさだ。


 すうっと、不自然な速さで霧が引いていく。気が付くと東屋はなく三人は、雄斗袴山の山頂に立っていた。

H30-11-19 誤字訂正

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