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19.湖畔の宿にて④ 邂逅後の密談

 何とか今日中にあげる事が出来ました。褒めてください(笑)

 畳の上に左腕を枕にしながらごろごろと転がる者がいる。手入れ行き届いていない黒髪ではあったが、腰と艶がありゆるく曲線を描いて畳の上に広がっている。


 まだ体がだるいのか浮かない表情をして、傍らに胡坐をかいて座る相方に目をやった。


 胡坐をかいていても姿勢の良い相方は、今はあごに手を当て少し俯いているせいか少しだけ猫背になっていた。


 何か鬱陶しいほど深刻な表情な二人に対し、清藍せいらんは読んでいた本を下ろし声を掛けた。


「考え込んでも答えの出ない時は出ないと思うわよ」


 四畳ほどしかない畳敷きの上に三人がいる状態であるため、その場所だけ人口密度が異様に高い。鼻をつき合わせる格好になってしまう清藍にとって、せっかくの休暇にどんよりとした表情で近くにいられるとこちらまで気分が落ち込んでしまう。


 観光気分が抜けていないことに関しては少し罪悪感を覚えないわけでもなかったが、それを別にしても暗く沈んだ空気でいられても何も解決しないのではないかと思ってしまう。


「……確かにそうだね」


 りくは顔を上げこくりと頷いて答えた。一度大きく伸びをして、和室と洋室を隔てている柱に背中を預けた。


 まだ体のだるさが抜けない十織は、いぐさの香りの残るまだ新しい畳に体を投げ出したまま深くため息を付いた。


「すぐにどうにかなる感じじゃないのが救いかね」


「土の神様がそう言ったわけではないの?」


「猶予はくれると言ってたけど、具体的にどれくらいとはね。気の短い神様じゃないといいがな」


「神様の時間の感覚なんて計れないわね、確かに。アー……水の神様を参考にするなら、私たちよりは時の流れはゆっくりみたいだけれど」


 昨日の風の神との邂逅以来、えにしを結んだ神様の名前を口にしていいか判らなくなってしまい、清藍はあえて名前を呼ばないようにしていた。


 以前陸が名前を呼ぶことを許可されない限り軽々しく神の名を呼ぶ事はしないと言っていたのを覚えているのだ。水の神が名前を呼ぶことを許可したのは「水の巫女」のみだった。神の御名というものは知っていても軽々しく読んでいいものではないのだそうだ。


「あの御神は、元々あの辺りの地鎮神の一柱だから、出来る限り人に危害を与えないようにしてくれていたのだと思う。慈愛に満ちた優しい御方なんだね」


「もっと言うなら、大昔はずっと力のある神様だったんだろう。もしかしたらこの県一帯に力を及ぼすことが出来るくらいにな。あの風の神が敬意を表すくらいの神様なんだし」


「そうなのかな……」


 なんとなく痛みとも苦しみともつかない苦い思いを抱きながら、清藍は首元のネックレスに細い指を絡める。


「少なくともあの土の神様と同等くらいには……。すっごいプレッシャーだった。あんなに力溢れている神と対峙たいじすることになったら人間なんてひとたまりもないな」


「新汰さんの予知が正しいとすれば、災厄を起こすのはその土の神様である可能性が高いんでしょ?」


「兄さんがいうには北西……この辺りなんじゃないかと。で、この辺りの地質を少し調べてみたんだけれど、この辺りは地盤が固いほうで、活断層もあるにはあるけど一、二本くらいだったかな。大昔にも大きな地震に見舞われたって言う記録は余り残ってなくてね。一番新しくて、ここから西の辺りで七〇年ほど前に大きな地震があったくらいかな。近年の東北地震でも殆ど影響を受けていないね」


「東北地震なら崎宮のほうが被害大きかったくらいだな。死人出てたと思うし」


「そういえば県内では崎宮市だけね。被害出たの」


 崎宮市は十織たちが住む市だ。元々この県内は災害が少ないことで知られている地域でもあった。だからこそ、この地域での異変に敏感に反応してしまうのだろう。


 清藍は広げていた本を閉じその前にある小さめの卓子たくしの上に置いた。


 立ち上がるとフローリングの部屋にある冷蔵庫へ移動し、入れておいた飲み物を物色する。


「あ、俺コーラね」


「もう、自分で取りなさいよ。()()()()()


 怒りながらも言われたとおりコーラを取り出す清藍。振り返り陸にも何か飲み物が必要か問う。


「悪いね、じゃあスポドリ取ってくれる?」


 はいはいと軽く返事をして、三人分の飲み物を手に彼女が戻ってくる。清藍は桃の香りのする紅茶を選んでいた。陸にペットボトルと手渡し、十織に請われるままに投げ渡し同じ席に戻る。


 上半身を起こして左手だけで体を支え、右手でペットボトルを受け取った十織はそのままの体勢でごくごくとコーラをあおる。


「ひー、行儀悪いぞ」


「へいへい、よっと」


 陸のキツい一言に表情を変えるでもなく、億劫そうに体を起こした十織を見届けて、陸もペットボトルのキャップを開けて飲み物を流し込む。


「神様のお願いは、もくの気が何故減少しているか調べて欲しいと言うことなのね?」


 十織からもたらされた情報を一通り聞いた清藍が、結論付けるように問い掛ける。


「お前本読んでたのに、器用だな。……やっぱそういうことになるんだろうなぁ。何ていうか、神様が判らない原因を俺らがどうにかして調べて、究明なんて出来るとも思えないんだけどな」


「取り合えず目的がはっきりしただけ進歩ってことでいいんじゃないかな。新汰兄さんたちにも説明しに行こう」


 三人は頷きあった。

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