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18.御神の去りし後

本日2話目の投稿です。頑張りました……。


 一応日本の神様はこの話には余り関係はないのですが、名前の出てきた神様については少しだけですが調べております。

 色々な別称があって判り難く、もしかしたら違うよというお声があるかもしれません。申し訳ありません勉強が足りないことをご容赦いただければと存じます。

 その場に呆然と十織とおるは立ち尽くしていた。


 どれほど時が過ぎていたかももう判らなかった。感じるのは全身に圧し掛かるような疲労感と、突き刺さるような頭痛、そして混乱だけだ。


 いつまでもやって来ない十織を心配して清藍せいらん正樹まさきが戻って来て、ぼうっと立っている彼女を見付けるまで時間にして数十分、神社の入り口の石畳の上にいたようだ。


 酷い倦怠感けんたいかんと頭痛に軽いめまいを感じたが、他の面々にそれを気付かせまいと明るく笑って彼女は建物の見事さに見惚れていたと伝えた。


 遅れて来た十織に杏子きょうこがすっと近づいて来た。


「十織ちゃん大丈夫?何か疲れてる?」


 十織を女性と信じて疑っていない杏子は同姓の気安さか、顔を近づけて下から彼女を覗き込んだ。


 ぼうっとしていた十織が間近になった杏子の童顔を目にしてはなじろむ。


「あ……、杏子あんず姉さん近いって……」


 つい新汰たちが呼んでいる彼女の愛称ニックネームの方で彼女を呼んでしまったことにも気付かず十織が顔を離す。頬が少し赤らんでいる。


 杏子はにこりと笑ってごめんねと小さく笑った。


「い、いえ。大丈夫です……」


 幼女のような可愛らしい笑顔に毒気を抜かれると共に、何故か先程まで感じていた倦怠感と頭痛が和らいだように感じる。


 目をぱちぱちと瞬かせ、十織から離れ新汰あらたの隣に並ぶ彼女の後姿を見送る。その一連の様子を見ていた新汰と正樹が、お互いに目線を見合わせてからこちらに向かいにやりと笑い掛ける。


 なるほどこれも彼女の能力の一つということなのだろう。


 新汰の力とは異なる回復能力。新汰の回復が体力ヒットポイント回復とすれば、差し詰め彼女の能力は精神力マジックパワーの回復というところか。


 などと十織なりに結論付けて、杏子に感謝しつつ彼らの後を追って散策を再開した。


「大丈夫か?」


 十織の疲労を感じ取っているのか、相方が隣に並んで小さく問い掛けてきた。清藍に気付かせまいとする心遣いだろう。


「あぁ、少し疲れたけど、多分」


 昨日の風の神の襲来から始まる怒涛のような出来事を思い起こし、深くため息を付いて彼女は陸に笑みを見せる。


「……土の気が強いな」


「ああ、ここは土の神の治める土地なのだろうな」


「土地の話じゃない、お前の体から感じる気の話だ」


「あぁ……」


 土の神の姿を思い起こし目頭を揉みながらため息を付いた。


「凄い神格の高い神様みたいだね。その仮の姿を目にするだけでああも術力ちからを消耗するとは……」


「……土の御神に拝謁はいえつしたのか?」


 驚いたような声音だった。陸の驚いた様子に逆に驚き、十織は隣を歩く相棒の顔を見た。


「僕を万能だと思わないでくれよ……。土の属とは相性が悪いと知っているだろう?」


 全ての属性を感じ取れる方が凄すぎるんだという意味の言葉を、少し汚い言葉で言い陸がため息を付く。


「すまん、そういう意味じゃないんだ。あの神様は、土の属っていうだけじゃなくて、……何て言うかな……闇に通ずる神様でもあるみたいなんだ」


 だから自分に強く感じる事が出来たのだろうと言う。確かに土の属だけであれば、新汰の方が同調できそうだ。


「なるほど」


 考え込むように陸があごの辺りに手を置く。


「確かこのお山は、大己貴命おおなむちのみことをお奉りしている筈だから……。その眷属の神様なのかな。まさかご尊神そんしんのそものじゃあないだろうけど……」


「おおちな……何だって?」


 舌を噛みそうになりながら相方に問い返す。


「おおなむちのみこと、な。大国主命おおくにぬしのみことの別称だったと思うよ、確か」


「あ、その名前は知ってる。国津神くにつかみの中でもかなり偉い神様だよな」


「流石にそれは知ってたか」


 ホッとしたように答え陸は続ける。


「国津神の中だと最も徳の高い神の部類に入る筈。素戔男尊スサノヲノミコトの子供とも言われているね」


「スサノヲノミコトなら有名だもんな。冥府の神様にして、ヤマトタケルノミコトだったな」


「流石にお前でもそれくらいは勉強してたか。大和武尊ヤマトタケルノミコト素戔男尊スサノヲノミコトが人の姿になった時の名前な」


「うんうん、それそれ」


 しばらく日本神話の神様の話に話が逸れて行く。


 それを聞きつけて清藍が遅れてた二人に足並みを揃えて来て二人の会話に加わる。三人とも民俗学を専攻している。この手の話は好物の一つだ。


 そうして神社の中を参拝し、周囲を散策する一行を、遠く離れた山の上から一柱ひとはしらの神が見下ろしていた。


 その口元は引き締まり、眼光は厳しい。しかし、今は何かを仕掛けようとはしていなかった。


 この辺りを治める神格が道行みちゆきを許した存在である。人間をいとっていたとしても、格上の神が許したとあっては簡単には手出しが出来ない。


 忌々(いまいま)し気な顔をしながらもただ見守るばかりだ。しかしその様子ですらその神は美しかった。絹糸のような癖のない銀の髪に青眼せいがん。自由を何よりも愛する神は土地に縛られて生きるこの土地の神が哀れでならない様子で彼の神を思っていた。

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