16.霊峰を奉る社
遅くなりました。最低でも週1くらいのペースであげたいのですが来週から忙しくなるのでどうなることやら……。
頑張りますのでどうぞエールをくれてやってくださいませ。(泣)
昼近くになり一向は全員が顔を揃えた。
午後の調査箇所をどこにするか、また湖周辺の散策で感じたことを話し合おうと部屋に集まって来ていた。
その中には杏子もおり清藍はほっとした様子で彼女の近くに座り何かと世話を焼いていた。まるで妹をかいがいしく世話する姉のようだと皆にからかわれながら。
その様子を陸と十織が温かい目で見ていた。
こうして少しずつでも彼女が戸上の関係者以外のところで友人が出来ればいいと二人とも望んでいる。
午後は今度は山の麓の神社に行こうという行動予定が決められた。
この山こそがこの辺りの霊峰である雄斗袴山だ。昨日にお参りした神社の分社であり、この神社の本来の神社はこのお山の頂上にある。しかし、二千メートルを超える高さのあるお山では参内に不便なため麓に分社が建てられたのだ。
昨日お参りした富士見宮はその更に分社になるのだが、その富士宮は江戸時代に時の将軍が近隣を大幅に整備を命じたため今のような大きなお宮になったのだ。
神社は本来天照大神を主神とする日本の神々をお祭りしている。しかしそれと一緒に地元を治める氏神様をも祭ってるのが一般的だ。
清藍に清められた水の神様アーガもそんな氏神の一人だと思われる。
日本の神々は八百万というほど多くの神様がおり、神道は多種多様な信仰を許す寛容な宗教である。過去に仏教とも幾度も混同されている経緯もある。
もしかしたらアーガ神もずらずらと漢字を長く並べた真名があるかも知れないと日本神話に詳しい陸がいった。しかし、それを調べるにはその地の古い民話伝承を紐解かなければらないだろう。
午後になり一行は今度はホテルから歩いて麓の神社まで向かった。というのもその神社はホテルから歩いて一キロメートルほどの近場にあり、観光時期で自動車が多く往来している道で大型車で向かうよりは徒歩の方が何かと便利が良かったからだ。
自動車が余裕を持って行き来できる車幅の国道が湖のすぐ傍を走っている。豊かな森の中を歩いて移動している人々は少なくないにも変わらず、その道路には歩道がない場所も多く歩行者側からすれば少し危ない気がする。
一向は一列に並び会話も少なめにその道路の脇を抜けていく。道の両側には二メートルを超える木々がもう午後には汗ばむほどになった陽気の中で元気に枝を伸ばしている。
きらきらと光を反射して綺麗に見えるはずの湖も今は木々の間に少し見える程度だ。
しばらく歩くと左側に分岐する砂利道が見えて来たので一行は左の側道を進んだ。側道は少し上り気味になりながらゆるく左手にカーブしており、車が余り通らないのか舗装もされていない砂利道だ。
その先に石の鳥居が見えているから間違いなく神社へと向かっていると知れる。鳥居は元はもしかしたら美しい朱色に塗られていたのかも知れなかったが、風雪にさらされたその岩肌は黒くざらざらとした手触りを伝えている。
神々存在を他の人より強く肌で感じる彼らは、神社での礼儀を知っているのか無意識なのか、無言でその鳥居を見上げ誰がするともなくぺこりと一礼してから潜って行く。
すぐ左手には段差を利用した高台のようになっており、その中に社務所のような建物が見えている。美しく整えられた庭園に女性陣が声を上げる。
「うわぁ!」
まだ暑さが残る時期ではあったが朝晩の寒暖差のせいだろうか、ほんのりと赤く色づき始めた木々があちこちに見られ来訪者たちを歓迎していた。
木々の後ろに霊峰・雄斗袴山が臨める。霊峰は下界よりも更に気温が低いのだろう、上半分ほどが美しい橙色や紅色に色付いている。
見上げるほど高い霊峰の頂上に本来のお社があり、そこにお参りする為の登山客も多いという。標高二千メートルを超えるお山である。しっかりとした登山の装備を準備して登らなければ頂上まで登る事は難しいだろう。
歩いて行くと程なく木々の間に小さな駐車場があり、左に折れると丹塗りの大きな門が見える。古いはずの門は丹精込めて手入れがされており、美しい木彫りの装飾に朱と緑の塗装が施されている。
つやを消された朱が主体となっており、格子窓の部分が深い緑色に染め分けられていて、その色使いが紅葉の橙と黄に映えて美しい。
門を入ったところに、小さな看板が設置されており、『雄斗袴山 登山口』と書かれている。この看板だけが鉄と木で出来ていて、白地に黒のペンキで文字が、方向をあらわす矢印が赤いペンキで描かれていた。他と比べ事務的な雰囲気が出ているため周囲と浮いていて見付けやすい。
「調査っていうけど流石に頂上までいくわけじゃないよね?」
門を潜ると正面に霊峰が見えた。どうやらお社の後ろから霊峰に登る事が出来るようだ。
霊峰を見上げながら新汰に問い掛けたのは相方の正樹だ。十織が女性形であるため現在は一番しっかりとした体格をしており、体力もありそうに見える彼だが登山は苦手なのだろうか。
「ああ、そうだね。杏子や水上さんもいるし、この高さのお山に登るなら朝から行かないと厳しいだろう」
「良かった。俺サンダルで来ちゃったし」
「あ、私もサンダル」
調査のために一応スニーカーは用意していた一同だったが、見ると正樹だけでなく清藍もサンダル履きのままで来てしまっていた。
「ごめんなさい、昨日もサンダルで失敗したと思ってたのに」
慌てて謝罪をする清藍に、正樹だけでなく新汰も後ろを歩く彼女を振り返り誤解を解くために答える。
「いや、大丈夫ですよ。登山するつもりなら最初からそう伝えます」
「大丈夫だよ、せいら。この高さじゃ装備ナシに登るのにも無理があるし、最初から今日は見学だったんだと思うよ。ねえ、新汰兄さん」
新汰と陸に口々に諭されやっとほっとした表情になる清藍。
十織はそれに口を挟むことはせずに、霊峰を中心に静かに周囲を見渡している。
杏子も同じように新汰の隣に寄り添うようにしている。こちらは心なしか不安そうな表情である。
「杏子?……まだ具合悪い?」
その様子に気付いて隣の彼女を見下ろすように問い掛けると、杏子は返事をせず首を振り新汰の腕に自分の腕を絡めて来た。
「無理はしないで」
小さくけれど優しい声音でそう伝えると、新汰は腕を振り解くことなくそのままお社の方へ歩き出した。他の面々も釣られて歩き出すが十織のみがその場から動かずに山を見上げている。
少し歩いたところで十織が付いて来ていないことに気付いた陸が振り返るが、周囲を見渡している相方の様子を確認だけしてそのまま新汰たちの後を追った。
清藍はそんな二人をきょろきょろと見比べて困惑したが、正面のお社に興味がいっていたのでそのまま陸たちの後を追うことにした。
一人取り残されても気にした様子もなく、ゆっくりとした動作で周りを見渡しながら佇む長身の女性という構図はなかなか絵になっている。この場合中身がどうということは関係ない。
見た目だけで言えば均整の取れた体型に白いシャツとブルージーンズというシンプルな服装が好ましい。長い髪はゆるくウェーブのかかったロングで後ろで一つに束ねられている。
若干色気に欠けるところが欠点かもしれないがそれも見ようによっては好ましいと映るだろう。
静かに呼吸を繰り返しながら、少しずつ動かしていたその目線が一点で止まった。
「……土の御神とお見受けいたします」
静かな言葉はさほど大きな声ではないというのに、凛と鈴を強く振ったような振動を伴って響いた。




