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13.嵐の後で②

まだまだ茶番。そろそろ本筋に戻したい……

 夕食と入浴を終えその後は何事もなく過ぎて行った。清藍と杏子は各々の部屋に引き上げて休ませ、監視の意味も込めて残りの四人は正樹たちの部屋で特に会話をするでもなく思い思いのことをして過ごした。


 夕食の際には杏子きょうこも部屋から出て来て一緒に食事を取ったが、まだ本調子には程遠いのか、口数も少なく顔色も良いとは言えない状態だった。


「戸上さんさ、草薙の姉さんが明日もあの状態なら調査は一回諦めて引き上げた方がいいんじゃないか。流石のヒーラー戸上でも体調不良じゃ直すのも難しいんじゃ?」


「なんだよヒーラー戸上って……まぁ、……でも、確かにね。誰かさんみたいに頑丈ではないけど車酔い程度で寝込むタイプでもないし……」


 戸上の血を濃く引く者の中で、治癒術に最も長けているのは彼だ。攻撃・回復に加えて予知能力とこれ程バランス良く力を兼ね備えてその才能を開花させるのは本家の中でも稀だった。新汰ならば他の回復役のように常に守られる必要もなく自由に動くことが出来る。


 これこそが新汰が戸上本家から距離を置けないでいる最大の理由だった。新汰の父は東京に住んでおり、戸上の実家の『事業』にたいした興味も執着も持っていない。先妻の忘れ形見である新汰をとても可愛がっている父親だが嫌々ながらそれでも戸上の強い要望に負け時折彼を派遣しているに過ぎないのだ。


 新汰の術力の強さを誰より嘆いているのは彼の父かも知れなかった。


「日上なのに回復も出来ない誰かよりよっぽど使えるよな、新汰兄さんは」


「ホントにな、ぶち切れて味方攻撃するバカよりよっぽどマトモだしな」


 未だ陸の機嫌は戻っていないらしい。顔色一つ変えずにやり返すと胡坐をかいたまま座椅子に転がる十織。自分の今の姿を意識しているとは思いがたい。


「あの子はずっとこのまま?戸上に引き入れるのは嫌みたいだけど」


 問いかけたのは正樹だった。それは新汰も問いたかった質問だった。時期当主と目されていた姉、藍良あいらの雪辱を注いだ術者である。ならばその才能は折り紙つきと言えるはずだったが……。


「あぁ~、まあなぁ」


 表面上のみとであったが先程までいがみ合っていた相手に支援を希望する視線を送りながら十織が言葉を濁す。


 息が合っているのかいないのか同じように十織に視線を投げて陸が一つため息を付く。


「戸上のせいで姉をなくし、呪いが降りかかったと判った途端見放すように養子に出されてぎりぎりまで放置され、そのあとめでたく()()()対処できて綺麗になったから戸上に協力しろと、もし正樹さんなら言えますか?」


 皮肉を込めたつもりはなくとも、今までの状況を考えれば、一つ二つどこでなく皮肉を言いたくもなってしまうだろう。


「俺は言えない……つか戸上と仲良くしたいわけでもないし、言うつもりもないけど。このままほっとくと欲に血走った誰かが手出ししてくるんじゃないかって思うだけかな」


 彼女はある意味金の卵だし、と付け加える。


 禍つ神を浄化し手に入れたことで更に彼女の価値は上がったのは間違いない。陸と十織とも彼女とかの神が現時点で意思疎通ができているかどうかすら判らなかったが、能力ある者であれば彼女に神の加護とも言える絶対の守護が存在することだけは判る。それが何よりの問題だった。


 外部の協力者のような位置にいる杏子の存在を、本家に知らせてないことからも正樹が戸上に協力的ではない事は窺えていたが、それを彼はあっさり肯定した。


「でも確かに、戸上の息の掛かっていない道場なんてほぼないし、考えあぐねての現状かな……」


 戸上の術者の教育機関は、戸上が直接運営している子供を主とする私塾施設以外にもいくつかあり、それは武道の道場のような形態をしている事が多かった。


 その通りと言うわけでもないが、清藍の現状の特殊性から考えれば操術の訓練を受けてもらうのは、彼女のためでもあるのは二人とも判っている。


 けれど、叶うなら彼女に()()は普通の生活をさせてやりたいと言う二人の思いがそれを阻んでいる。


「あの美貌にあの存在感だもんね。術力ちからは保証住み。水の神のおまけ付きとなれば……今は婆様が守ってくれてるけどいつまでもつか……」


 いつの間にか枯葉を一枚左手で摘まんでくるくると回しながら呟くように独り言を漏らすのは新汰。リラックスした様子で右手を畳について足を前に投げ出している。


「絢乃様はまだ若いし急いで結論出すこともないんじゃない?」


「清藍に何かしようなんてのがいたら戸上のヤツだろうと殺してやる」


 剣呑な言葉は刃物のように冷たい声音をまとって吐き出された。


 色素の薄い者の多い日上の一族の中にあって、珍しいに透かしても黒く見える瞳で宙を睨みながら、誰に聞かせるでもなく十織は言葉を吐き出した。


 ちらりと十織に視線を送る陸。けれど恐らくは彼も同じような考えだろう。


「怖いねぇ」


「それだけの覚悟があるんだね。なら、きっと俺と同士なんだろうね」


 新汰の脳裏に浮かんでいるのは杏子の姿か――。

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