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12.嵐の後で①

二本目です。男性はバカといっていますが言葉のあやです(笑)

こういうシーンで男性が突っ走るというのは都市伝説な気がします。最近は女性の方が凶暴ですし。

「説明、してもらえるんだろうな」


 怒気を含みそれでもなお静かな声音で十織は室内に残っていた男たちに問いかけた。


 清藍は既に負傷した正樹に駆け寄っている。


 血に染まった枯葉を手にその場に座り込んだままの新汰と、立ち尽くしまだ鋭い刃物のような瞳のままの陸。


 怒りで言葉遣いが普段のものになっていることにも気付かず、つかつかと陸に歩み寄ると十織は陸に平手打ちを喰らわせた。そのまま陸の喉元を掴み乱暴な動作で壁に押し付ける。


「十織っ!」


 清藍の悲痛な叫びにも構わずにそのまま陸の首元を締め上げる。その細身の体からは想像できない力技だ。


 再び緊張が高まる室内において、それでも理性が働いたのか清藍はすぐに自分のハンカチを取り出し、細長くたたむと正樹の肩口をきつく縛り止血を施した。


「つっっ」


 痛みに耐えながら処置を受ける正樹と緊迫した状況に困惑する清藍。新汰に変わり陸と睨み合う十織という構図だった。新汰は正樹を傷付けてしまったことに激しく動揺しているのかまだ座り込んでいる。


 不穏な気配を感じ部屋に駆け戻って来た時には、部屋の中は空き巣にでもあったかのようだ惨状だった。部屋中の小物がそこらに散乱し、正樹の肩口にまだ何かを付き立てたままの新汰。


 そこから血が滴っているのに気付いているのかいないのか三人ともにその状況から動けずにいたようだ。その状態でどれほどいたのかは清藍たちには判らなかった。


「すぐに救急車を……」


「待って!」「待て」


 異口同音に正樹と十織が立ち上がりかけた清藍を制した。静止されるとは思っていなかった清藍は困惑して二人の顔を順に確認する他なかった。


 大きく息を吐く音と共に陸が自らの額に手を当てた。目を硬く閉じ再び心を静めるように深呼吸している。


 そっと十織に手を重ねるように自分の首元を締め上げているそれに空いている方の手を重ねた。いっそ優しげに見える仕草だったが、それは良く見れば小刻みに震えており、力づくで離されたものだと気付くだろう。


「……すまない。悪ふざけが過ぎた」


「悪ふざけで済むか、このバカが」


 陸の動きは迷いすらなかった。彼の学んだ戦闘技術はこと人に向けて行使されるべきものではない。本気でやりあえば殺すまで止まめられないことは本人が一番知っている筈だ。


 十織はそれを知り尽くしているからそこ、正樹を傷付けた新汰より先に陸を止めることを選んだのだった。


 陸の動きは最初から風の加護を受けている。新汰がその動きについて行けなくても何の不思議もなかった。幼い頃からその技術を叩き込まれているからこその動きで、同じ術者ではあってもその適性により学ぶ技術は千差万別で陸は接近戦、新汰は中距離戦が得意というだけのことだ。


 今は接近戦が得意な陸に分があっただけだと正確に理解しているのは陸本人だけかも知れなかった。有利な戦闘であるからこそ買った喧嘩だったとも言える。


 興味を失ったように陸をぽいっと放り投げると、十織は未だ畳の上に座り込んでいる新汰に視線を向けた。血の滴る枯葉を握ったままの青年に歩み寄るとそっとその手の中にある枯葉きょうきを抜き取った。


「戸上さん……もしかして対人は……」


 呆然としているように見えたがこちらも理性を取り戻していたようだった。軽く目を閉じて深く深呼吸を繰り返し、やがていつもどおりの穏やかな瞳が十織を見返した。


「うん、……実は初めて」


 もう一度大きく息を吐くと再び新汰は畳に体を投げ出した。


「……すごいね、君たちはホント」


「試しましたね?」


 きらりと底光りする瞳を向ける陸。また十織に窘められ、降参とばかりに俯いて両手を挙げる。


「何バカなこと言ってるの!怪我人が出てるのよ、のんびりしてる場合じゃないでしょ!なんで男の人ってこんなバカなのよっ!」


「あ~うん、バカなのは新汰だからね」


 のんびりとした声を上げたのは怪我をしている本人だった。清藍に止血して貰った肩を庇いながら姿勢を変え色々なものが散乱した畳の上に座り込むと相棒を睨むように見下ろす。


「陸君の能力を知りたかったんじゃないかなぁ。新汰は中学くらいから東京とこっちを行き来してたし陸君と一緒にいる時間あんまり長くなかったから」


 詳しい事情を知らない十織と清藍に、挑発したのは新汰だよと変わらずのんびりした口調で傷のない右手でこつんと新汰の頭を小突く。


 それから新汰に見せびらかすように未だ血の止まっていない左肩をさししめす。


 小さな謝罪の言葉と共に新汰は正樹の傷口に手をかざすと見る見るうちに血が止まっていく。


 その様子に驚く仕草を見せたのは清藍のみだった。


 目を丸くする清藍の前で正樹の傷はみるみる塞がって行った。


 一分経たない内に傷は塞がり、そこにはできたてのつやつやとしたピンク色の皮膚で覆われ僅かに傷痕が残るのみだ。


 大きな瞳を何度もしばたかせてそこに傷口がないこと、それから切れた袖と正樹の血の跡があることを確認してそれが夢や幻でなかったことを確認したようだ。


 それから十織へ次に陸に視線を流し二人が全く動じていないことを確認すると諦めたように正面へ視線を戻しため息を付いた。


 昼間の来訪者といい、今の事象といい、こう立て続けでは頭が変になりそうだったが、動揺しているのは自分一人だと言うことが更なる混乱を彼女にもたらしていた。


 治った左肩を試すようにゆっくりと回し問題なかったのか一度頷くと相棒を見下ろした。


「一つ貸しだからな」


 吐き出す言葉はあくまで冷淡だ。


 降参するように肩をすくめて見せる新汰。


 その間十織は新汰から取り上げた枯葉を手の中でずっと玩んでいた。


 手の中に収まるほどの大きさのそれは見た目通りただの枯葉にすぎず、軽く力を入れれば握り潰され粉々になる代物だ。


 先程の動きから考えても新汰が部屋に入ってから枯葉を手にする時間があったとは思えず、また部屋の中に枯葉が落ちていたとも考えにくい。


 それを加味すれば彼がこれを手にしたのは宿に着いた時か昼食の時か。つまりは最初から荒事に備えて準備していたことにな

る。


 気に入らないなと思いはしたが、いつにない冷静さで表には出さなかった。


 それよりも今は優先される事由があった。


 近くに座りながら誰に頼るでもなく、落ち着かな気にそわそわしている清藍の頭を、いつもよりは小さな手のひらでぽんぽんと小突く。


 まだ彼女は自分からは他人ひとに頼ることに慣れてない。


 彼女よりも状況把握を優先してしまった自分を心の中だけで責めた。


 十織に言わせれば年上とは言え実践経験の薄い彼らに何を言われたかは知らないがその程度で心を乱した陸の方に責はあると思っていた。


 彼らの格闘術が対人においてどんな威力を発揮するか知らない筈もなく、またそのための精神鍛練を長い間してきた。


 戸上の他の誰がどういう行動をしようと彼ら二人だけは軽率な言動をしないとお互いに決めていた約束事だった。


 先の陸の行動は十織にとっては裏切りにも等しい行いだ。


 けれど今は陸を責める気もなければこの場で責め立てる気もない。少なくとも立て続けの荒事に心を乱している彼女の前では。


 それから部屋中に散乱した小物やら何やらを全員で拾い集め、部屋を整えた頃には太陽はすでに落ちてしまっていた。

H30-10-08 加筆

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