11.湖南の宿にて③ 陸と新汰
お久しぶりです。5日ぶりでしょうか。相変わらず戦闘シーンは苦手です。矛盾なく戦闘シーンを作り上げたいと思うとどうしても時間が掛かってしまって。お詫びというわけではありませんが本日は二本上げます。二本目は短いのでもしかしたら後日追加するかもしれません。
ドアのノック音が聞こえた。
話し込むことも少なく、ポツポツと時折会話をし時間を潰してていた正樹と陸は、その音にすぐに気付くことができた。
ドアに近い方にいた陸が近付いて誰何する。
「あー、俺。新汰だけど」
少し疲れたような声が木製のしかし重厚に作られたドアから聞こえてきた。
陸は素早くドアを開いて新汰を招き入れた。
「姉さんの様子はどう?」
居室に入ってくるなり部屋の中央で畳の上に転がった新汰に、横から正樹が問い掛ける。
新汰はもう何度目かのため息を付く。
「大丈夫らしい」
「らしい?」
「眠そうにはしてたけど、車移動の疲れって風に見えた」
かれらの影響で体調を崩したかどうかなど、本当のところは誰にも判らないだろうと思ったがそれを口にはしなかった。
正樹はただ単純に杏子を心配して聞いただけだと判っていた。
どちらにしてもやるべきことが山積みなのに変わりはない。
心配そうな友人の顔が少しほぐれるのを見上げながら新汰はまた一息付くと頭を巡らし始める。
「あれ、風の属だった?」
「あー、うん。間違いないと思う」
「ヤレルと思う?」
穏やかな口調に剣呑な響き。ちらと新汰を見下ろせば、その瞳だけがやけにギラリとした光を帯びている。
「二人だけで?」
「うん」
「アレ一人だけなら。けどまぁ、こっちも無傷ってわけにもね」
「新汰兄さん」
新汰と正樹だけで進んでいく会話は少しずつ剣呑さを増していく。その危うさに気付いて陸は遮るように声を掛けた。
「陸君ごめん」
窘められたと感じたのか新汰が即座に返してくる。判ってくれればいいと思ったが、けれど違った。
「……大切なものを傷付けられて、平然としていられる程俺は大人じゃないんだ」
大きくも激しくもないしかさその声音の鋭さに一瞬たじろぐが、今はここで引くわけにもいかない。
「何も判らないこの状態で討伐のみを行うと?あなたらしくもない」
努めて感情を込めない声を作って問いかける陸は静かに新汰の傍らに座った。新汰を見下ろし、その後正樹へ視線をずらしていく。
正樹が目線だけで陸へ謝意を伝えてくる。
表面上はそうは見えなかったが今の新汰は相当冷静ではなかったようだ。陸からの視線を遮るように左手で自らの両目を覆った。
「最終的に討伐するしかないとなったなら僕だって協力しますよ。……多分、十織もね。でもそれは今の段階で決めることなんですか、本当に?」
畳み掛けるように重ねられた言葉に、目を閉じて眉間の辺りを揉みほぐす。まるで、自分の中の葛藤をほぐすようだ。
最善の言葉を捜すように逡巡する陸の表情さえ目を閉じていても判る気がする。
それでも新汰は自分の中にどろどろと渦巻く感情を簡単には整理できずにいる。
「そうだよね……君は、あの子の時ですらそうやって冷静に対処したんだね」
それは静かな挑発だと新汰自身判っていた。怒りを向ける相手は自らの従兄弟ではないことも判っていて、なお怒りを納めることができないでいる。
「……僕まで敵に回すつもりですか?」
こんな安い挑発には乗ってこないだろうと思っていた。どこまでも冷静で穏やかな従兄弟、それが新汰が知っている陸だ。
彼女が彼の琴線に触れる引き金の一つという事なのだろうか。
顔の前から手をどけて目を開ける。想像通り自分を見下ろしているのは、硬質な光を放つ色素の薄い瞳。その色は戸上の血を濃く引くものの特徴の一つだ。新汰のそれはもう少し濃い色をしている。
再び緊張感を増した室内の雰囲気に、慌てた様子で腰を浮かす正樹。
「喧嘩を売るつもりでしたら買いますよ」
刃物のような鋭さだと思った。声だけで切り裂けるほどに鋭いそれ。
はっと正樹が目を向けた時には遅かった。視線で追うのも遅れるほどの速さで相棒が跳ね起きると、次の瞬間には手の中にあった何かを従兄弟に放っていた。
「新汰っ!」
抗議の声は果たして届いたのか。同じタイミングで後ろに飛び退いていた陸は手刀でそれを難なく弾く。枯葉色をしたそれはあらぬ方向に飛び去っていく。
間髪入れずに陸が新汰に肉薄する。流石の身体能力だった。戦闘に慣れた格闘家のような動きは、新汰に次の攻撃を許さなかった。
手の前で両腕を交差してその打撃に耐える新汰。
「……くっ!」
腕に感じる衝撃と痛みに、食いしばった新汰の口からなおも苦痛の声が漏れる。
が次の瞬間、先程陸に弾き飛ばされた何かが再度陸を狙い背後から飛来する。寸でで飛び退く陸、その隙に立ち上がった新汰の手に収まったそれは一目にはただの枯葉だ。
入れ替わるように部屋の奥に立つ新汰とドア側で身構える陸。端整な青年の左頬には一筋の血の跡があった。
なおも睨み合う二人の瞳には戦いの意思がはっきりと見て取れた。陸が攻撃のために身を屈め、新汰がそれを受けて身構える。
二人の姿が交錯したと見えた瞬間にその二人の動きが止まった。否、ぶつかり合ったと見えた瞬間に部屋中に嵐が巻き起こったのだ。
「いい加減に、しろよっ!」
ぶつかり合ったかに見えた二人の間には正樹がいた。
目を瞬かせる陸に、自分の腕から滴り落ちる血に青冷める新汰。
正樹は陸のこぶしを右の腕で、新汰の枯葉の刃を自分の左肩で受けていた。滴る血液は正樹のものだ。
正樹は寸前の嵐を目くらましに二人の間に飛び込んできたのだった。
H30-10-07 訂正加筆 正樹君左腕と左肩で受けてた(汗)何て器用なやつorz




