未来を歩んでいく
四十七話です。
今回は志帆の死から数年後のお話です。
あの頃から、奏はどのように成長したのか。
そして、事実これが最終章です。
最後まで、温かく見守ってください。
志帆の死から六年が経った。
僕は母親の後を追いかけ、弁護士にとなった。志帆に宣言したとおり、ちゃんと自分の夢を叶えてみせた。けど、新人には以来なんか来るわけなく、今は母の下で勉強の毎日だ。
結構多忙な毎日。そんな中でもちゃんと母は休みをくれるのだから頑張ろうと思え、本当に仕事にやりがいはある。
そして、今日はその休日。
ファミレスで一人コーヒーを飲んで、佇んでいた。まぁ、人を待ってるわけだが……。
「よぉ。待たせたな、雪白。」
「遅いですよ、後藤部長、明智先輩。三十分の遅刻ですよ?」
「いや、本当に済まない。このバカゴリラが支度に戸惑ったせいで…。」
「それを言うなら真紀。お前だって、化粧やらなんやらで支度遅かったじゃないか。」
「あぁ?」
「本当に相変わらず仲良いですね。」
「雪白?からかってるんだったら次は命ないからな。」
うわぁ、久しぶりに会ったのにこの先輩、華奢な体して発言と目が怖いんだよなぁ。握力も五十越えだからなぁ…。
「それと、雪白。もう学校卒業してるわけだし、部長はやめろよ。」
「そうね。私も先輩抜きで良いわ。あと、下の名前でね。」
「はい、わかりました。仁さん、真紀さん。」
「あれ、なんか距離遠くなった?」
「にしても、こうやって会うの何年振りだ?」
「そうですね……というかお二人が高校卒業してからちゃんと三人揃って合うのは初めてじゃないですか?」
「そうね、確かにそうかも。」
「でも、びっくりしましたよ。お二人、まさか『結婚』してるんですから。」
そう、この二人が最初店に入って来たとき、新婚みたいな会話をしていたのは、新婚『みたい』じゃなくて、新婚だからだ。去年、籍を入れたらしい。
あ、そういえば、真紀さんは結婚して名字が変わったんだからそれは、名字で呼べないわな…うん。
「でも、なんで式挙げなかったんですか?」
「「面倒くさかったから。」」
「うわぁ…。本当に相変わらずで………。」
「そういう雪白はどうなんだ?もうあの子から次の伴侶探し、許可されたか?」
「さ、さぁ…どうなんでしょうね……。天にでも語りかけてみたら良いんですかね?」
六年経った今、さすがに志帆のいない生活には慣れた。去年までの大学生活もそこそこ楽しかったし。
「もうそろそろ、桜ノ宮も許してくれるんじゃないか?六年間お前も頑張ってきたわけだし。」
「まぁ、そう言ってくれるのは有り難いんですけどね………。」
「ん?なんか、歯切れ悪いな…。お前、俺たちに何か隠し事してるんじゃないか?」
「あぁ、いえ、隠し事はしてませんよ。」
「雪白。」
「は……い!?」
あけ……真紀さんがなんかこっちをもの凄い形相で睨んでる。
「な、何か……?」
「隠し事をしてないって、私の目を見て言える?」
いや、怖すぎてまず直視できないです…。人ってここまでおぞましい顔が作れるんだってレベルですよ?
「いや、本当に隠し事はしてませんよ?はい……。」
「雪白……。なぜ、目を逸らす?」
あなたの顔が怖いからです。
「ほらほら、素直に話した方が身のためだぞ。どうせ、目逸らしてるのも真紀の顔が怖いからだろ?これには逆らえないわけだから早くに降参した方が楽だぞー。」
体験談……なのだろうか。
「はぁ、分かりましたけど、本当にたいしたことないし、隠し事ってレベルじゃないですよ…。」
「問題ない。続けて。」
あ、少し顔が元に戻り始めてる。なるほど、こうやって扱うのか…。
「えっとですね、なんというか……。」
なんか、二人ともこっちを真剣に見つめてる。話ずれぇ…。
「その、お見合いの話が上がってるんですよ…。」
「ちょっと待った雪白。いや、奏君。」
「は、はい…。」
「いま、何の話って言った?」
「だから、お見合い。」
「いやいや、待て待て。このご時世にお見合い?」
「はい、お見合い。」
「ま、まぁ、良いでしょう。各家庭で色々あるわけだから…。で、相手は……?」
「志帆の妹の志乃ちゃんです。」
「真紀警部、この者、尋問にかけた方が良いかと。」
「よし、尋問だ。」
だから言いたくなかったんだよなぁ。と、今更後悔しても、もう遅い。この二人から逃れようなんて無理な話なのだから。
それからさらに一年が経った。
今日十月三日は彼女の命日。仕事が忙しくてしばらく会ってなかったけど、数ヶ月振りに太一、友紀ちゃん、雅さんと会うことになっている。
「でもなぁ、会うの少し面倒いな………。」
「ほぅ…。それはどういうことかな…?」
「ゆ!?友紀……ちゃん……。」
気づいたら後ろに友紀ちゃんが立っていた。
「こ、これはこれは……。どうも、ご無沙汰で……。」
「本当にね。八ヶ月振りかしら?それで、面倒いとはどういうことかな……?」
「あ、あぁ、そだねー……。」
「流行に乗らなくていいから。」
「ですね…。まぁ、全員揃ったら説明するわ……。本当に面倒いというか、ややこしいから…。」
「ん?まぁ、いいわ。それより、あのカップルはもうあの子の所に着いてるらしいわよ。」
「うん、分かった。」
会うのは楽しみなのに、気が進まない…。『あのこと』を言わなきゃいけないからか。
「お、奏!友紀!」
「遅かったね、二人とも。」
「なんか、隠し事をしてる人を拾ってきてたら遅れちゃった。」
その言い方は……。
「なになに?隠し事って?奏君?」
「と、とりあえず、その話は置いといて、ひとまずは会いに行こうよ。」
「それもそっか。んじゃあ、行くぞ。『志帆』の所に。」
駅から少し離れたところにある墓地。そこに志帆は眠っている。皆揃って志帆の所に来るのは、三年振りくらいになる。皆、仕事が忙しいのだ。
太一は陸上で培った者が身を結び、高校の体育教師兼、地元の陸上チームのコーチをしている。部活も陸上部の顧問だとか。
雅さんは大学卒業後、文房具メーカーに就職。現在は社長の秘書をやってるらしい。
友紀ちゃんは有言実行し、東大へ進学。薬学の道に進み、今は研究員として新薬の開発を行っているそうだ。
僕は相変わらず母の元で修行中。けど、変わったところもある。それは、僕にも仕事の依頼が来るようになったことだ。さすがにこの道で二年も過ごせば仕事も来る………いや、絶対に母の力だな……。感謝感謝。
そして、そのことを今日は志帆に伝えに来た。個々では志帆に伝えたのだが、皆揃って志帆に報告ができていなかったわけだし、改めてということだ。僕は今日はこれだけだと思っていた。太一がとんでもないサプライズを話すまでは…。
「なぁ、志帆ちゃん。俺な雅と結婚したんだ。ちゃんと、プロポーズもオッケー貰ったし。」
「え……?」
すいません、僕初耳……。それはあえて?それとも、僕に言うの忘れてた?
「あれ、奏に言ってなかったっけ?」
後者だった…。
「ここで初めて聞きました…。」
「あっちゃー!悪い悪い。てっきり言ったもんだと思ってた…。」
「もう、しっかりしてよ、太一?もうすぐ、パパにもなるんだから。」
「ん?待って雅さん。今なんて?」
「え?もうすぐ、パパになるからって…。」
ん?聞き間違いか?僕の耳には『パパ』って聞こえたのだが……。まさか、これも僕だけ知らされて……。
「え?何それ…。私、そこまでは聞いてないよ?」
良かった。まず僕だけではないのが分かった。ただ、パパって……。まさか……?
「うん、言ってないもん。だって、『妊娠してるの』三日前に分かったんだから。」
え……。
「「ええええええ!!!!??」」
多分、今日今年で一番驚いてるかも……。
話を整理すると、こうだ。
まず、プロポーズをしたのは今から三ヶ月前の七月二十三日。そして、今日から三日前の九月三十日に妊娠が発覚。籍はここに来る前に今日、入れたのだとか。
「いや、そんな大切なことをなぜ言い忘れる。」
「いや、そこがおかしいんだよな…。確かに俺は連絡を入れた筈なんだよ…。」
「え、ちょ、ちょっと待って。」
僕は電話の履歴を確かめてみる。すると、確かに七月二十六日に電話が入ってる。
「ご、ごめん…。僕この日、法廷に立ってて、忙しくて気づかなかったわ……。」
「俺悪くないじゃん!」
「本当にごめん……。」
「はいはい。気を取り直して、奏君の隠し事について話して貰いましょうよ。」
「そうだ!それで詫びろ!」
「あぁ!分かった!分かったから…!話すけど、志帆の家でもいいか?この後行くって伝えてあるんだ。」
「まぁ、構わないけど。」
徒歩二十五分くらい。桜ノ宮家に到着。
「あ、いらっしゃい、奏さん、皆さん。」
出迎えてくれたのは、志乃ちゃんだった。
「久しぶり。先月振りだね。」
「奏さん、忙しいから中々会えないんだもん!」
「あはは…。ごめんごめん。埋め合わせはするから。」
「ええっと……奏?これは、どういう……。」
「あぁ、中で説明するよ。立ち話もなんだし。」
本音は、結構歩いてきたから少し休みたいだった。
「あら、奏君、皆いらっしゃい。」
「どうも…。」
「お久しぶりです……。」
「太一君、友紀ちゃん、雅ちゃんに会うのは本当に何年ぶりでしょうね。」
「えっと、二年ぶりくらいでしょうか?」
「そうね、本当に皆、大人になっちゃって…。あ、今、お茶の用意するわ。」
「あ、手伝います、『香奈子さん』。」
「「「香奈子さん?」」」
「違うでしょ?『お義母さん』でしょ?」
「え、え……?ちょ、ちょい、奏君?ちゃんと説明してくれるかい…?」
「あれ、奏さん。まだ、皆さんに説明してなかったんですか?昨年お話ですよ?」
「あはは……。先延ばしにし過ぎて、言うタイミングが……。」
「もう…。いいです、私から説明します。」
「え、いや!ちょっと!?」
志乃ちゃんは僕の腕にしがみついて、僕が言えないでいたことをスッと言ってしまった。
「私は、奏さんと婚約してます。」
「はああああああ!!?」 「「えええええええええぇ!!?」
「ど、どどどどういうことだ、奏!?」
「いや、言葉通りの意味でして…。」
「奏君、志帆りんのこと捨てたの!?」
「断じて違う!!」
僕は事の経緯を説明した。
七年前。志帆一件があって、志帆のお母さん、『香奈子さん』は僕の両親の元を訪れ、謝罪を繰り返した。最初は説教っぽく注意してた両親も香奈子さんの真剣さが伝わったのか、許しを出した。
それから、今までずっと僕の家と桜ノ宮家は家族ぐるみの付き合いになった。本当に仲の良い友人。そんな風に僕は思っていた。
ただ、事が起きたのは一年前のことだった。
母からお見合いをすると告げられた。相手は、『志乃ちゃん』だった。その時は母が何を言ってるのか混乱していて分からなかった。だけど、僕、志乃ちゃん、香奈子さん、そして、僕の母と四人で話をして、志乃ちゃんが大学を卒業した後、籍を入れることで話が進んだ。各母、そして志乃ちゃんはその場ですぐに結論が出たのだが、僕はすぐに答えを出せなかった。それは、『志帆』のことが頭にあったからだ。
志帆の事を忘れること何てできない。けど、大切な家族、そして志乃ちゃんの気持ちを無下にすることもできない。
二ヶ月くらいずっと悩み続けた。
その時、たまたま仁さんと、真紀さんに会うことになった。今回の件をその二人に話してみた。すると、相変わらずだなって返答が帰ってきた。
『まぁ、難しい話だな。この問題に結論をつけるのは…。』
『ですよね……。』
『でも、俺は答え、一つしかないと思ってるぜ?』
『な、何ですか…!?』
『己の心に正直になることだ。』
『己の……心…。』
『結局の所、どんな結論を出しても、事が変わるのは、雪白、お前自身だ。だったら、自分が一番納得する結果にすれば良いんだよ』
『僕自身……。』
『でも、きっとな。あいつ……桜ノ宮もきっと許してくれると思うぞ。さっき、真紀も言ったけど、お前は、六年間も耐え、頑張ってきたんだ。その努力は桜ノ宮にも届いてる筈だ。もう、自分の幸せを求めても良いんじゃないか?』
さすがだな…。そう思わんばかりに彼の言葉を聞いた僕は、涙が溢れて止まらない。そして、答えを出すこともできた。
『さすが、私の旦那様。決めるときはバシッ!っと決めてくれるよねぇ。』
『いやぁ、あっはっはは!!』
この瞬間がなければ、もっと格好良かったのに……。
そして、僕は志乃ちゃんに答えを告げた。
『こんな僕だけど、元々は君のお姉さんの彼氏だった。そんな僕だけど、時が来たら、結婚してくれますか?』
『私の答えは、決まってますよ?』
「それが、事のすべてです。」
「なるほど、そんなことが……。」
「まぁ、確かにね。奏君はこの七年間、よく頑張ってきたもんね。きっと、この結果になったこと、志帆も喜んでるよ…。」
「だと、いいな………。」
いかがでしたでしょうか。
志帆が亡くなり、数年後、奏は志帆と交際。彼女の大学卒業後には結婚までの仲になりました。志帆は本当に許してくれたのでしょうか。あのヤンデレだった志帆は本当に許したのでしょうか。それは、皆様のご想像にお任せします。
そして、次回で『ヤンデレ彼女』は最終回です。
最後の最後まで温かく見守っていただけると本当に嬉しいです。
今回も見ていただきありがとうございます。
次回も読んでいただけると嬉しいです。




