本当のお別れ
四十六話です。
前回、志帆のフリをして回りを驚かせた志乃。
彼女の真意は…。そして……。
では、お楽しみください。
あの日、志帆を失った。それが、どれだけの悲しみだったか。
テレビとかで一番大切な人を亡くすと自分も後を追いかけたくなると聞いたことがあるがあれは本当なのかも知れない。
僕はついさっき、彼女の母親を手にかけ自分も後を追おうとした。
けどさっき……
「そんなことしても、おね………私は嬉しくないよ!!」
その言葉は、志帆ではないのだが、志帆が告げてくれたかのようだった。そのおかげで僕は我に返ることができた。
「志乃、悪ふざけはやめなさい!なぜ、志帆のマネなんか…。」
「……お母様。もう一回よく考えてよ。なんで、皆さんがお姉ちゃんのためにここまでやってくれているのか。私がこんなことやったのか。」
「し、知らないわよ!ただの自己満足でしょ!?」
「お母さん、やっぱりわかってない…。」
「なっ…!なによ…。だったら、何が言いたいって言うのよ!?」
「お母さん、お母さんには『人の心』がありますか?」
「は?何言ってるの?人間なんだからあるに決まってるでしょ。」
「でも、お母さん。お母さんのお姉ちゃんに対する対応には心がなかったよ。」
「し、仕方ないじゃない!あの子は能力がなかった。だから接する時間が勿体なかった。わかるでしょ!?」
彼女は周囲に同意を求めたがこの中に彼女と同じ意見を持つものなんている筈もいない。
「ど、どうして……。」
「これが、僕たちが内緒で行動を起こした理由です。あなたには人の心、言い換えれば『愛』がなかったんです。そんな人に志帆を任せられない。だから、僕たちだけでやろうと考えました。」
「愛………。」
彼女は魂が抜けたように体が固まった。おそらく、『愛』という言葉に反応したのだろう。
「私は、あの子に……志帆に、愛を持って接していなかった…?自分の子なのに……?自分で産んだ子なのに………?」
彼女の目からは涙が出ていた。多分、思い出したのだろう。忘れていた、親にとって大切なものを。
後日、僕らは桜ノ宮家に訪れた。今度は志乃ちゃんだけでなく、二人の母親がいる日に。
「あのお母さん、志帆の葬式ちゃんとする気になってくれて良かったな。」
「あぁ、本当に……。」
「ところで、奏君?志帆りんのお母さんに志乃ちゃんとのお付き合いをお願いされてるんだって?」
「あ、あぁ………。」
あの一件で志帆のお母さんは志帆のことを反省し、しっかり葬式をし弔うことを僕らに伝えてくれた。ただ、ここまでなら、一件落着なのだが、あの母親、僕と志乃ちゃんを付き合わせようとすることは諦めておらず、未だに隙あらば僕に言ってくる。
「問題解決したのか、してないのかだよ………。」
「志帆が許可したなら良いんじゃない?」
「ちょ!?友紀ちゃん!?」
冗談でも洒落にならないですよ!?今の時期!
そして、さらに二日後。志帆の通夜の日。
「来てしまったのか、この日が……。」
事実上、志帆と一緒に過ごせるのも残り二日。残ったこの日が過ぎてしまえばもう、志帆の姿をこんな近くで見ることは二度となくなってしまう。
「僕が……僕が変わってあげれれば………。」
「故人の前でそんなこと言うのはやめなさい。」
「し、志帆のお母さん………。」
「あなたは、志帆の彼氏。だったら、志帆の分まで精一杯生きて。そうでないと、あの子も報われないわ。」
その発言はもっともだ。でも、まさかそのことをこの間まで志帆の事を考えてなかった人に言われるとは思ってなかった。
「本当に……ダメダメですね、僕…。」
「はぁ、あのね?それがダメだって言ってるの。あなたが元気がないとあの子も元気がなくなるわ。だから、ほら胸を張って!」
「そう……ですね。はい、わかりました!」
それが、彼女のためでもあると願って………。
「その上でよかったら、うちの志乃を……。」
「それこそ、故人の前でやめてください。」
「あら?」
そして、一日が明け、告別式の時間となった。
とはいっても、桜ノ宮家でやってる小規模な式のためなんというか、実感がない。
だけど、それは事実などだと告げるように式は進んでいき、ついに火葬場への時間、つまり志帆の顔を見るのは最後となった。
「志帆………。」
たくさんのユリやアネモネが入った棺に入れられている志帆。付き合い立ての頃、たまたま立ち寄った花屋でアネモネの花を見て、「この花、可愛い!好きかも!」って言ってた事を思い出した。
「志帆……。お前、今自分の好きな花で埋め尽くされてるぞ。気分はどうだ。」
この時間が終われば棺の蓋が閉まり、もう彼女の顔を見ることはなくなってしまう。
「付き合ってもう十ヶ月くらいだったな。てことは、僕らが出会っていつの間にかそんなに経ってたんだなな。なぁ、志帆…。僕、まだ志帆と話したいこといっぱいあったよ……。でも、もう志帆は聞いてくれない。いや、聞こえてる……僕の声、届いてるって信じてる…。だから、だから天国行っても僕の話、たくさん聞いてくれよ?じゃないと、浮気するかも知れないし。」
冗談を言ってるのに笑えない。そういえば、最近、笑わなくなってしまったな。
また、笑える日が来るかな……?
火葬場に着き、遂に本当のお別れなんだと感じ始めた。
蓋が閉まり、もう顔を見ることができない棺。ここに来る前に、最後の言葉は言った。思い残す事がないと言えば嘘になるが、覚悟はできた。
さよなら、志帆………。そして、またね…………。
数時間後、彼女の火葬が終わった。骨上げのため彼女の遺骨の目へと立つ。もう、彼女の面影はどこにもない。
「雪白君…。」
僕らの前では見せなかったが、たくさん泣いたのか目の下が赤くなってる彼女の母が骨上げの最後と言うときに僕を呼んだ。
「喉仏の骨上げ……一緒にやってくれないかしら…?志帆も……あなたがやってくれた方が喜ぶわ。」
喉仏の骨上げ。それは、骨上げの一番最後。本来は喪主ともう一人、身近な親族の二人が行うもの。でも、彼女は僕を指名した。それは、僕を気遣ってるのか。それとも、今までのことの反省なのか。どちらにしろ、やらせていただけるというのなら断る理由もない。
「やらせてください。」
さらに僕は、前者だと信じている。だったら、その気遣いに答えたい。
志帆の体は見事に骨壺に収まってしまった。こんな時に何考えてるんだって話だけど、関西では遺骨は骨壺に半分しか入れないらしい。
本当にこのタイミングで何を考えてるんだって話だ…。
式終了後、僕らは桜ノ宮家へ戻った。後飾り壇の用意のためだ。
壇上に置かれた骨壺。この中に志帆がいる。覚悟していたつもりだったのに、未だに実感のなさが僕を襲う。
「奏、リビングに行くぞ。」
「あぁ………。」
「皆、本当にありがとうね…。」
初めて、志帆の母親が僕らに頭を下げた。
「い、いえ…。僕たちがやりたくてやっただけですから。」
「そうです。最後の最後まで志帆りんと一緒にいることができて私たちも少しは心の整理がつきましたし。」
「むしろ、こちらこそお礼をしなくてはいけないんですから。私たちがお葬式に出れるように式の日を休日にしてくれて……。」
互いに頭をペコペコするばかり。事が進んでいかない。
「ひとまず、お茶にしませんか?」
その状況をなんとかしようと志乃ちゃんが間に入った。そして、皆それを了承した。
その後は、お茶とお菓子を頂きながら、志帆の話をたくさんした。
僕と彼女の出会い、部活でのこと、最初、ゆきちゃんと教室を半壊させるくらいの惨事を起こしたこと、皆でお泊まりしたこと、横浜に(事実上)二人で行ったこと、そして、ハワイでのこと……。
出せば出すほどたくさん話題が出てくる。それだけ、僕らにとって志帆の存在がでかかったということなのだろう。
お話をし始めて、大体二時間ぐらいが経過していた。気づいたらもう五時を過ぎていた。
「さて、それでは俺らはこの辺で帰ります。」
「また今度、ゆっくり来ます。」
「わかったわ。皆いつでも来てね。」
「はい。ありがとうございます。」
帰り道、志帆とよく放課後による駅前のクレープ屋に来ていた。志帆の話をしていたらなぜか食べたくなってしまった。その二件隣にあるたこ焼き屋にも目が動いた。この辺の通り、本当に志帆好きだったなぁと、しみじみ思いながら買ったクレープとたこ焼きをベンチで食べる。
「うん、いつも通り美味しい。美味しいけど、なんか、やっぱりいつもの違うなぁ……。早くこの状況に慣れないとな…。日常に支障がでてしまうわ…。」
町を彩る夕焼けをみながら、一人でぼそぼそとつぶやく僕。
笑える日が来るか…。そんなこと考えてたけど、そうではないのだ。これからは志帆に頼らず、自分で笑顔になるように毎日を作っていかなきゃいけない。
今、目に見えてる夕日と志帆が僕にそう語りかけてる。そんな気がした。
「志帆……僕、君がいなくても頑張っていくよ。」
夕日に向かって決意を伝える僕。しかし、僕の目には涙が流れていた。
「頑張る、頑張るからさ………。今日くらいは泣いて良いよな…?」
その涙は、床へと落ちていく。そして、声を上げて泣いた。
ここが、人がたくさんいる場所だということも忘れて……。
いかがでしたでしょうか。
本当の意味で彼女と別れを告げた奏達。
知らない人がいる中、大きな声で泣き叫んだ。
その、声は彼女へと届いたのか。いや、きっと届いてるであろう。
そして、次回とその次でこのお話は終わります。
どうか、最後まで奏達のことを見守り続けてください。
今回も見ていただきありがとうございます。
次回も読んでいただけると嬉しいです。




