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VSヤンデレ彼女  作者: 柊夏木ヤヤ
1st season Kanade&Shiho
45/62

志帆と志乃

四十五話です。

前回、最愛の人を失いどん底に落とされた奏。

彼女の家を出たとき、奏を引き留めた彼女の妹、志乃。

彼女が奏を引き留めてまで話したかった事とは……?

それでは、お楽しみください。

「い、今から少しお話できませんか!?」

 志乃ちゃんにそう言われ、僕は彼女と少しだけ話をすることにした。




 場所を変え、近くのファミレスへとやってきた。

「…………あ、あの!」

「志乃ちゃん。」

「は、はい……。」

「先に何か注文しようか。僕がお金出すから好きなの頼んでよ。」

「い、いえ!引き留めたのは私なんですから、ここは私が……って、あ…。」

「志乃ちゃん、俺を追いかけるために、家を飛び出してきたんでしょ?なら、財布持ってないよね?」

「……はい。すいません。」

「ね?だからここは俺が払うから。」

「ご、ごちそうになります……。」






 注文したものが届き、少し手をつけていた頃、志乃ちゃんが故知を開いた。

「あの、本当に引き留めてすいませんでした。」

「いや、それは構わないよ。」

「奏さんって、自分の事『俺』って言うんですか?初めて会ったときは『僕』って言ってましたよね?」

「あぁ、それはね、志帆のためだったんだよ。」

「お姉ちゃんの?」

「そう、確か付き合って二週間経ったくらいの事だっけ……。」








『え、えっと…か、奏君…?』

『ん?どうした志帆。』

『奏君の好きなものって何?」

『え、俺の?んー、そうだなぁ…。コンビニのコーヒーとか好きだな。あと、ホットサンド。』

『そ、そっか……。』

『志帆、もしかして何だけど…。』

『な、何かな…?』

『もしかして、俺のこと怖い?』

『そ、そそそそんなこと……ない…よ?』

『何で疑問形?』

『えっと、その…ですね…。奏君に限った話じゃないんだけど……その、『俺』って言うのがなんというか、威圧的で………。』

『そっか、そういうことか…。』

『ご、ごめんね…。別に奏君が悪いわけでも無いのに……。』

『いや、気にしないでよ。んー、そうだな……ん?ならさ…志帆。』

『え?』

『志帆はさ、『僕』のこと、どう思う?』

『え、え?えぇぇぇ!!?』

『どうしたの?僕、何かおかしい?』

『え、いや、その…どうしたの、急に『僕』って…。』 

『俺じゃなくて僕って方がすこしは柔らかく見えるでしょ?』

『う、うん…。確かに、あまり怖くない……かも。』

『なら、志帆が怖くなくなるまでこれでいこうか。』








「ということがあったんだよ。」

「そう、だったんですね。お姉ちゃん………。」

「もう、僕って無理に使う必要がなくなったからね。だから、一番言いやすい、最初から使ってた俺って言い方に戻したんだ。」

 俺って言い方、言いやすさは僕より遙かに上なんだが、なんだか寂しい思いにさせられる。これはなんでなのだろうか。

「あの、奏さん。」

「ん?」

「もし、よろしければなんですけど、これからも『僕』って言ってもらうことで来ませんか?」

「え?」

「その言い方を聞いてると、なんだか、お姉ちゃんが近くにいるような感じがして…。」

 そう言う志乃ちゃんの顔は寂しさの中になんだか懐かしさが見えた。


 やはり、姉妹なのだな。どんな表情の顔でも志帆の面影が写って見える。


「奏さん、今日は母が本当にすいませんでした。」

「いや、もう…気にしてない……。」

「奏さん、嘘下手ですね。」

「うぐっ……。」

「ふふ…。なんだかお姉ちゃんが羨ましいです。」

「志帆が?」

「今、奏さんと話してるとなんだか、ホッとするというか、落ち着くというか……そんな感じなんです。」

「落ち着く……か。」


『奏君と一緒にいるとなんだか安心するというか、落ち着くんだよねぇ。』


 付き合ってから、志帆が僕に少し慣れてきた頃、そんなこと言ってたような記憶があるな。

「やっぱり、姉妹なんだね。」

「え?」

「こっちのことさ。」

「でも、なんか今日は本当にすいませんでした…。」

「確かに、志帆の事をあんな風に言われてまだ頭にはきてるけど、少しは落ち着いたよ。」

「そう、ですか…。なら、なら良いんですけど…。」

「うん、それに別に志乃ちゃんが気に病むことではないでしょ?」

「で、でも身内のことですし……。」

「いや、そうだとしても実際問題、志乃ちゃんは無関係、むしろ被害者の方でしょ?」

「え?ま、まぁ……そう言われればそうなんですけど…。」

「だから、さ?気にしないでよ。」

「………本当に奏さんは優しいですね。お姉ちゃんが好きになるのもわかります。」

「え?何か言った?」

 志乃ちゃんが何かを言ったのは分かったけど、何を言ったかまでは聞き取れなかった。

「いえ、何でもないです。」

「ん?そう…。」

「お姉ちゃん……私…。」

 その日はもう少しお話をしてお開きとなった。行きたくはなかったが志帆の家まで志乃ちゃんを送ってそのまま家へと帰宅した。







 翌日。

 気は進まないものの、事が事なので真実を話さなきゃいけない。なので太一達に志帆の事を伝えた。

「お、おい…奏……。それ、本当なのかよ………。」

「嘘……嘘よね…?」

「志帆りんが亡くなったって………。」

「あぁ、本当だ。車に轢かれて病院に運ばれたけど、手遅れだったって。」

「おいおい、俺は今、夢でも見てるのか……。志帆ちゃんがもう……。」

 その瞬間、雅さんが太一の頬をビンタした。

「雅……お前、何を……。」

「これで夢じゃ無いってわかった!!?そうだよ!夢じゃ無いんだよ!!もう、志帆りんは……志帆りんは………。」

 ビンタをしたその子は、止まることなく、涙を流し続けた。

「二人とも、少しは落ち着こう…。」

 雅ちゃんの背中をさすってる友紀ちゃんがポツリと言葉を零した。

「何でなの……何で、ゆっきーも奏君もそんなに冷静でいられるの!!?悲しくないの!!?」

「悲しいよ。悲しいに決まってるじゃん…。」

「だったら……!!」

「でも!!!」

 その大きな声で友紀ちゃんは回りを静まり返した。

「でも、この中で一番辛いのは奏君じゃん…。それなのに私が大きくわーわー言ってたら奏君に悪いよ……。」

「そ、それは………。」

 この場が一気に静まり返った。こんなに感情を上下にさせるくらい僕らにとって彼女はとても大切な人だったということなのだろう。

「なぁ、皆に頼みがあるんだ。」

「た、頼み……?」

「僕たちで志帆のお葬式をしてあげたいんだ。」

「………お前、自分で何を言ってるのかわかってるのか。」

「分かってる……つもりだ。」

「葬式開くのにいくらかかると思ってるんだ!!少なくても百五十万くらいはかかるんだぞ!!とても俺らじゃ払える金額じゃ無いんだぞ!!」

「分かってる…。分かってはいるんだ……。」

「大体、何で俺らなんだ?普通これは桜ノ宮家の問題だろ?」

「そうだ、『普通』ならそうだよ。でもあそこの家はその『普通』の枠には入らないんだ。」

「ど、どういう意味だよ、それ…。」

「あの人は、志帆の母親は葬式を開く気なんて更々ない。遺体をどうにかしないと程度にしか考えてなかったんだよ。」

「何だよ、それ……。それでも親なのかよ!!?」

「俺も昨日そうやってあの人に言ってきた。だが、動じないどころか僕に志帆の妹の志乃ちゃんと交際をしてくれなんて言ってきた始末だ。」

「ありえねぇ……人の親としてありえねぇよそれ……。」

「それで、奏君は自分たちで葬式を開こうって言ったのね。」

「あぁ。」

 そうでもしてあげないと、あのままじゃ志帆があまりに可哀想すぎる。

「………………分かった。葬式の費用は私の家で出せないか交渉してみる。」

「ゆ、友紀ちゃん!?頼んでおいてなんだけど、それはさすがに……。」

「じゃあ、奏君が全額払えるとでも?」

「そ、それは………。」

「ただ、私には無理。だから、お爺ちゃんに頼んでみようと思う。大切の友達のためだもん。きっと、手助けしてくれると思う。」

「わ、私も!少しくらい出せないか頼んでみる!」

「当然、俺もだ。親友の彼女のことだ。一肌でも二肌でも脱いでやる。」

「あ、ありがとう…。僕も両親に掛け合ってみるよ。」

 これで、志帆を弔ってあげることができそうだ。良かった、本当に良かった…。






 二日後

 友紀ちゃんの家を軸になんとか二百万を集めることに成功した。本当に言葉だけの感謝じゃ感謝し切れない……。

 両親にもお金を五十万ほどいただくことができた。

『その人がお前にとって、とても大切な人であったなら、しっかり弔ってあげなさい。』

『もし、その親のことで何かあったら母さんに言いなさい。私が裁判で戦ってあげる。』

 二人の言葉はとても温かく有り難いものだった。二人の思い、無駄にすること何てさせない。母さんからある程度、葬式準備について教えてもらった。あとは、行動を起こすのみだ。




 この日の放課後、僕たちは志帆の家に向かっていた。前に志乃ちゃんと連絡先を交換していて母親が家にいない日を教えてもらい、その日に桜ノ宮家へお邪魔することにした。


 家のチャイムを鳴らすと志乃ちゃんが出てくれた。

「あ、奏さん…。え、えっと、その人達が電話で言ってた……。」

「あぁ、僕の……志帆の友達だよ。」

「こんちわ。」

「お邪魔します。」

「どうぞ、お上がりください。」

 今に感じたことではないが、志乃ちゃん、志帆に外見はそっくりなのだが、中身はかなり異なっているようだ。志帆はこんなに敬語が上手くない。そして、初めて会った人にこんなに丁寧にお話しすること何てできない………筈。


 家に上がらせてもらった僕らはこの家の一番の奥の部屋、志帆がいる部屋へと向かった。僕は二度目となるが他の三人にとっては初めて見る光景、大切な友が眠る部屋へと。

「し、志帆りん……。」

「冗談であって欲しかったがまさか……本当に…。」

「志帆……。」

 皆、まともな言葉を発せなかった。僕だって初めて来たときはそうだった。今では少し落ち着けるようにはなったが、それが、彼女の死を受け入れたかというとそうではない。今でも、受け入れきれてない。頭の中では分かってるのに、整理が付かない。

 太一と雅さんが涙を流す中、友紀ちゃんは涙ぐんではしてるもの、流しはしていなかった。そして、僕らにも聞こえる声で志帆に語りかけた。

「志帆、安心しなさい。私たちで葬式を開いて、あんたを最高な形で天国へ送ってあげるから…。」

 その姿を見て僕は改めて志帆の顔を見つめる。もう、彼女は息をしない。動かない。目を開けない。それを受け入れないといけないということを自覚した……気がした。





 志帆がいる部屋を出て、全員リビングに移動した。

 そこで、改めて志乃ちゃんに話した。僕らが今やろうとしていること。葬式をするということ。

「葬式をしていただくこと自体はありがたいのですが、どうするんですか?葬式に来ていたいただく人はここにいる人しか心当たりはないし、費用だって子供じゃどうすることもできないくらいかかる。その状態でどうやってやるんですか?」

 相変わらずの冷静さと状況把握力。志帆の妹とは思えない。僕たちも費用のことは考えていたが参列者の事までは考えていなかった。

 だが、我々にはその状況を打破することができる最強の頭の持ち主がいる。

「費用に関しては式をするくらいには集まったわ。参列者に関しては私たちだけでも構わないと思ってる。身内だけでやるという所もなくはないし。」

「でも、身内だけって言うけどさ、俺ら四人だけってのはどうなんだ?」

「仕方ないじゃない。志帆、父方は離婚してるため連絡のしようもないし、母方は親があれなのだから厳しいでしょ?仮に、母親がまともだったら、私たちこんなこそこそ志帆の家になんか来ないでしょ?」

「そ、そうだな……。」

「だから、式場は取らない。ここで通夜、葬式を行うわ。火葬場はあとで手配するわ。」

 誰もが唖然とした。既に、ここまで計画を立てているとは誰も思ってなかったから。」

「何か、質問はある?」

 多分、誰もないと思います…。


「冗談じゃないわ。」


 僕を入れて、ここにいる五人の誰でもない声が入って来た。それはリビングの入り口から……。

「お母さん!どうして……今日は夜遅くなるはずじゃ……。」

「早めに終わったから帰ってきたの。それより、さっきの話はどういうこと?ここで葬式を行う?冗談でしょ?そんなの許しません。」

 こそこそやってきたが、ばれてしまい面倒なことになってしまった。

「いえ、あなたの許可はいりません。」

「何ですって…?」

 ここで、勇者友紀が母親に立ち向かった。

「親という立場でありながら娘のために何かしようという心がないあなたに許可を取る事なんてひとつもありません。志乃ちゃんが許可さえくれればこのまま進めます。」

 その、友紀ちゃんの言葉に僕、太一、雅さんは頷いた。

「な、なんなのあなたたち…。年上に向かって……。それにあんな子、自分の子供だなんて思ったこともないわ。」

「………は?今、お前なんて言った?」

 志帆の母親の言葉を聞いた僕は、頭の中で何かが壊れる音がした。

「お前今、志帆の事、自分の子供だと思ったことないとか言ったか…?」

「まずい…!皆すぐに奏を止めろ!!」

 太一の言葉はもう遅かった。僕は相手の返答を聞く前に顔を思いっきり殴っていた。その後、皆に体を押さえつけられた。

「奏、落ち着け!!」

「暴力はダメだよ、奏君!!」

「皆、どけてくれ……。たとえ、警察を呼ばれようと、こいつは……こいつだけは『俺』の手で……。」

「そんな事になったら、葬式どころじゃないだろ!!一回、落ち着け!!」

 もう周りの声が聞こえなくなっていた。頭の中で志帆のため、志帆のためとずっと、繰り返されていて次の行動を起こそうと体が前のめりになっている。


 もう、苦しまなくていいからね、志帆。僕が今、この手で志帆を救って………


「やめて!奏君!!」


 今、誰かの声が聞こえた…。誰だ、太一ではないな。僕のこと君付けで呼ばないし。じゃあ、友紀ちゃんか雅さんか?いや、この二人の声でもない。


 この声は………志帆…?


「やめて…もうやめて!そんなことしても、おね………私は嬉しくないよ!!」

 志帆……志帆の声なのか……。

 その瞬間、様々な事を思い出した。二人で始めていったデートのこと、駅前でよく一緒に食べたクレープのこと、一緒に部活に行ってたこと、横浜に二人で行ったこと、そして、ハワイ旅行のこと…。

「志帆……僕は、君のためと思ってたのに……違ったんだ…。これは、僕の自己満足のためだったんだ…。ごめん、ごめんね志帆…。僕、僕……。」

 体に力が入らない…。今の今まで体に力が入りっぱなしだったからか?


「本当になんなの、あなたたちは…。まぁ、いいわ。警察を呼んで事を説明してもらうから。」

「やめてください!『お母様』!!」

「志帆…!?」

「私のことは何を言われてもいい。だけど、私の友達や彼氏には何もしないでください!!」

「し、志帆…?いや、志乃……。え、どっちなの…?」

 僕も一瞬、声を出しているこの子がどっちなのかよく分からなくなった。だけど、今ならわかる。この子は志帆じゃない。ただ、その妹に負担を押しつけている状況なのだと。

いかがでしたでしょうか。

人は自分の好きなものを否定されたとき、怒りや悲しみなど負の感情が心に表れますよね。

今の奏はこのような状態なんでしょうね…。

奏にとって、志帆の存在を否定される。それは、自分の半身を否定されているようなものでしょう。

その窮地を救ったのは彼女の妹。彼女の行動の真意は何なのでしょうか。それは、また次回に……。


今回も見ていただきありがとうございます。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

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