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VSヤンデレ彼女  作者: 柊夏木ヤヤ
1st season Kanade&Shiho
44/62

失われたもの

四十四話です。

今回は前回、二人で帰った日のその後となってます。

二人はその後、どうなってしまったのか。

では、お楽しみください。

 志帆と久しぶりに帰ったあの日から三日経った。

 あの日以来、志帆がまた学校に来なくなった。

 今回に関しては、欠席の理由に検討もつかない。

「奏、お前志帆ちゃんと仲直りしたんだろ?」

「あぁ、した。少なくとも僕はそう思ってる。三日前だって一緒に帰ったし…。」

「だったら、なんで志帆ちゃんは学校に来ていないんだ?」

「風邪かなんかじゃないの?」

 志帆が学校に来ない理由?そんなの僕が聞きたいよ。

「少なくとも、再び仲が悪くなって学校に来なくなった。それは無いと言うことだよね?」

 急に友紀ちゃんが話しに入って来た。彼女の後ろには雅さんもいる。そういえば、今は昼休みか…。

「あぁ、それはない。ないと…思いたい。」

「志帆りん……どうしたんだろう……。」

「とにかく今日、放課後に志帆の家にもう一回行ってみようと思う。」

 三人は「了解、頼んだ。」という顔で頷いた。






 その日の放課後。

 僕は少し小走りで志帆の家へと向かった。

 歩いて十五分くらいかかる道を五分早く目的地に着いた。

 今日は珍しく志帆の家に車が止まってる。親がいるのか。そう疑問を持ちながら僕はチャイムを鳴らした。

 家の中から「志乃、出てちょうだい。」という聞き覚えの無い女性の声がうっすら聞こえた。やはり、親はいるっぽい。

「はい、どちら様で……あ、奏さん…。」

「志乃ちゃん、あの、志帆は…?」

「………………。」

 僕がその名前を出した瞬間、彼女は下を俯き今にも泣き出しそうな顔になっていた。

「志乃…ちゃん……?」

「あ、その……合わない方がいいと……。」

「な、何で……。まさか!?志帆に何か…!?」

「そ、それは……。」

 彼女は再び俯いてしまう。何か…志帆に何かあったんだ……。


「ちょっと、志乃?さっきから玄関で、一体誰なの?」


 先ほどの聞き覚えの無い女性の声がこちらへ近づいてきた。

「お、お母さん……。」

 やはり、この人が志帆のお母さんだったんだ…。

「えっと、どちら様で?」

「あ、ご挨拶が遅くなってしまってすいません。僕は志帆さんとお付き合いさせていただいてる、雪白奏というものです。」

「お付き合い………あの子と?」

「は、はい。それで、志帆さんは…?」

「…………直接会ってもらった方が良いわね。」

「お母さん!!」

「志乃、あなたはお茶の用意を。志帆の所へは私が案内するわ。」

「は、はい……。」

 志乃ちゃんは何か言いたそうにしていたが、言われたとおりリビングの方へ向かっていった。

「さぁ、どうぞ。」

「お、お邪魔します…。」

 僕は彼女のお母さんについて行き、彼女の部屋…………ではない?一体どこへ……。






「この部屋よ。」

 この家の奥にある部屋。そこの彼女はいる。僕はその部屋に脚を踏み入れた。



「……………え?」



 その部屋には確かに彼女はいた。いたにはいたのだが、彼女は………。


「こ、これは………どういう………。」

「見てのとおり、『亡くなってる』わ。」


 亡くなっている……。どういうことだ……?つまり、死んでるって事………なのか…?


「ど、どうして……。」

「二日前の朝、学校を出てすぐの交差点で車に轢かれたの。」

「そ、そんな…。だって、志帆は最後にあったとき、あんなに元気だったのに……。」

「車に轢かれてしまったのよ?元気かどうかなんて関係ないわ。ひとまず、私は席を外すわ。落ち着いたらリビングに来てちょうだい。」





 経帷子で身を包んでいる志帆。今、顔にかかっている白布をとってここに寝ているのが彼女だと確定することができた。だが、今も心の中ではこの人は別人だ。志帆とは違うと思い込んでいる。いや、思い込みたいのだと思う。


「志帆………どうして、どうしてなんだ……。」

 顔から自然に涙が溢れてきてしまう。その涙がポツリと落ち、正座している僕の脚に付いた。

「何でだよ……。どうしてなんだよ…!また一緒にお弁当食べようって言ってたじゃないか……。」

 溢れて止まらない涙。その涙の一粒が彼女の顔に落ちた。

「おい、何黙ってるんだよ…。いつもみたいに笑顔を見せてくれよ……!なぁ、いつもみたいにナイフやスタンガン持って僕のこと追い回してよ………!黙ってるなんて志帆らしくないじゃないか……!」



 話したいこと、行きたいとこ、やりたいこと、たくさんたくさんあるのに、一人にさせないでくれよ…。



 やってはいけないと分かってるけど、彼女の体に抱きついてしまった。体が冷たい…。本当に……



 本当に死んでしまったんだ………。もう、目を開けてくれないんだ………。






 ここにいたら涙が出るだけでどうしようも無いと自覚したのでリビングに向かった。


「あら、もう良いの?」

「はい。すいません、取り乱したりして……。」

「いえ、気にしないで。さぁ、座って。色々聞かせて欲しいことあるんだから。」

「はい……。」

 言われるがまま、彼女のお母さんと向き合って椅子に腰をかけた。


「さて、まず聞かせて欲しいのは、あなた……えっと、雪白さんだっけ?あなたは本当に志帆と交際をしていたの?」

「はい、去年の十二月から。」

「事を言い出したのはどっちから?」

「志帆さんからです。」

「そう…。あなたは何で娘と交際をしようと思ったの?あんな子よりもっと、他に良い子いたでしょうに。」

 え、何?なんで自分の、しかも亡くなって間もない娘のことをそんな言い方………あぁ、そっか。これが前に志乃ちゃんから教えてもらったことか……。


『私たちの両親は、優れていない方、つまり、お姉ちゃんを自分の子じゃ無いような態度で接するようになりました。いや、まともに接していたかも怪しいです。』


 これが、この態度が志乃ちゃんの言っていた事……。信じたくは無かったけど、今のこの状況から信じるしか無いと思わざるをえない。

 なら、こっちも正直な気持ちで答えるしか無い!

「志帆さ…志帆がが告白してきたとき、それが僕たちの初めての会話でした。彼女は伝えたいことを言えずにそわそわしていて、それでも必死に伝えようと頑張っていて、その姿を見て、あぁ、きっと素直で頑張り屋なんだなって思ったんです。そして僕に気持ちを伝えたときになんだか、安堵してこの子と一緒にいたいなって思いました。付き合ってからは本当に楽しかったです。ちょっと大変のこともありましたけど、それでも笑顔が素敵で一緒にいて楽しいなと言う気持ちの方が強く、今まで一緒にいました。」

 一度、別れようと決心したときはあったけどね…。

「そう…。でも大変じゃなかった?あの子は勉強はできないし、人とコミュニケーションをとるのだって下手。そんなこと一緒にいて本当に楽しかったの?」

「確かに、志帆は勉強ができませんでした。人と関わることも上手とは言えなかったです。でも、良いところもあるんです。彼女は料理の才能があったんです。とても美味しくて、だから料理の専門学校に行かないと薦めた所、行くと言って必死に勉強をしてました。成績もその前のものより、結構伸びましたし。コミュニケーションだって同年代だけでなく年上の人と仲良くなることだってできたんです。」

「ふーん。そうだったの。」

 やっぱり、やっぱり気に入らない。自分の娘のことなのに、あまりにも興味がなさそうな顔している。なんで……なんでそうなんだ…?もっと、自分の娘のことだったら興味を持つのが普通の親だろ?

「ねぇ、雪白君?」

「はい…。」

「あなた、志乃の事、どう思う?」

「………は?」

「ちょっと、お母さん!それどういう……!?」

「あなたは黙ってなさい。今は、雪白君に聞いてるの?」

「でも!」と言いたそうな顔で自分の母親を見つめている。

「そ、それはまぁ、お姉さんに似て綺麗だとは思いますけど………。」

「そう、なら良かった。あなた、『志乃と交際』する気はない?」

「は?何を……。」

「何を言ってるのお母さん!!」

 僕が言いたかったことを先に言ってくれた。

「雪白君、あなた志帆に勉強を教えていたって事は結構成績良いのよね?どのくらい?」

「え…?えっと…最後に受けた全国模試は三十二位でした…。」

「へぇ…。」

「凄い……。」

 何でこうも親子で反応が大きく違いますかな…。母親の方はなんだか僕を試しているかのような言い方だし。

「うん、成績的には申し分ないし、コミュ二ケーションもしっかり取れる。いいじゃない。雪白君、改めて問うけど、志乃と交際する気は無い?行く行くは結婚して子供を授かる。きっとその子も優秀に違いないわ。」

「なっ…!?」

 何なんだこの人、自分の娘が亡くなったっていうのに何事も無かったかのように……。


「はっ……。」


 そうか、そうだったんだ……。志帆が何で家のことを僕に話そうとしなかったのか。最初はてっきり、自分の状況を知られると心配かけると思って話そうとしなかったのだとばかり思ってた。

 だが、違う。そうじゃなかったんだ。志帆はそんなことを考えていたんじゃなくて……。


 自分の母親の非道さを知られたくなかった。けどそれは、心配されたくないという感情ではなく……


 恥だと思ってたんだ。自分の母親がこんなだと知られたらもう関わってもらえない、巻き込んでしまうかも知れない、そんなことを考えていたんじゃないか。


 だとしたら………


「いい加減にして、お母さん!!何もお姉ちゃんが亡くなったばかりの時に!!それに、奏さんはお姉ちゃんの彼氏なのよ!?亡くなったこと知ってつらい筈、そんな時に追い打ちをかけるような事言わなくたって!!」

「………そうね。タイミングは悪かったわね。じゃあ、雪白君。この話はまた後日にしましょう。」

 また後日ということは、この話がまた続くってこと……なんだよな…?


 あぁ、ダメだ…。もう限界だわ……。志帆、ごめん………。


 僕は「バンっ!!」と、机を思い切り叩きつけ勢いよく立った。

「ふっざけるなぁぁ!!!」

 僕の声を聞いた二人は驚き、こっちを見た状態で体が固まっている。そして、僕は言葉を続ける。

「あんた、人の命なんだと思ってるんだ!!人の思いや気持ちをなんだと思ってるんだ!!あんたの娘は……娘『たち』はあんたの操り人形じゃないんだぞ!!!」

「べっ、別に操り人形だなんて思って……。」

「じゃあ何だ!?都合の良い道具か!?決して逆らうことの無い従順なペットか奴隷なのか!!?」

「あなた、落ち着きなさい!私は『娘』のこと、そんな風になんか……。」

「『娘』?あんたの心の中にある娘って誰の事だ?」

「え、誰って……。」

「志乃ちゃん『だけ』なんじゃないか。」

「そ、それは……。」

 あぁ、多分このまま言いたいこと言い続けてたら、もう僕は止まらないな。それでも、言わなければいけない。そう思ってる。


 そう、思っても良いよね、志帆?


「志帆はな、あんたに何を言われようとも、どんな対応をされても誰にも相談せず、一人で抱え、頑張ってきた…。あんたにその意味がわかるか?わからないよな?だって、そもそも志帆の事を人間扱いしてないようなあんたに分かるわけ無いよな?」

「な、何が言いたいの…!?」

「じゃあ、単刀直入に言いますよ!あんたは人間として腐ってる!!」

「なっ、何を言うのよあなた!!」

「自分の娘たちに優劣をつけ、劣ってる方を愛さない。それは、親以前に人として謝ってる!!それが幼少期からだというのだからそれはもう虐待の『罪』だ!!!」

「なん………ですって……。あなた、なんであの子の小さい頃のこと………。口止めしてた筈……。」

「口止め…?」

「はっ…!?」

 そうか、すべてのピースが揃った。志帆僕に言えなかったんじゃ無い。言えなかったのか。親に逆らえば痛い目を見るのは自分。それが分かってたから、言えなかった……いや、言わなかったんだ。


 志帆、お前実は賢いじゃないか…。


「志帆の幼少期のことは志乃ちゃんから聞きました。」

「なっ、志乃!?あなた!!」

「ひっ……!?」

「あんたに志乃ちゃんの事、責める資格無いよ。志乃ちゃんは正しいことをした。だって、自分の姉のことを助けようと思ったんだから。」

「くっ…!あ、あなたね…!?さっきから聞いていれば何様のつもりなのよ!!?」

 向こうもついに堪忍袋を緒が切れたのか勢いよく立ち上がり、僕の方へと向かってきた。

「何様…?最初に名乗っただろ。僕は……いや、『俺』は志帆の彼氏だよ。」

「なっ…!?」

「ついでに言っておけば、俺の母は弁護士で、僕も弁護士を目指してる。訴えようと思えば返り討ちにしてやる。六法全書を暗記するより容易い。」

 志帆達の母親は力を入れることができなくなったのか、膝が折れ、床に座り込んだ。言葉も失ったようで、口をパクパクさせてるだけだった。

「…………今日は帰ります。頭も冷やしたいので。次は僕と志帆の友達も連れて来ます。どうせあんたのことだから葬式とかもする気ないだろうからそのことについても話さなきゃ行けませんし。」

 僕はそう言い残し、家を出た。












 家を出てから数分後。

「奏さん!!」

 走って追いかけてきたのか、息が切れている志乃ちゃんが僕のことを呼んだ。

「どうかした?急用じゃなかったらまた今度に………。」

「あの!!」

 僕の言葉を遮りたかったかのように勢いよく、大きな声を出した。

「い、今から少しお話しできませんか!?」

いかがでしたでしょうか。

奏は最愛の人を失いました。さらに、最愛の人の親からあまりにも酷なことを言われました。

そのことに怒り、悲しみ、相手に怒鳴ってしまいます。

彼の行動は正しかったのか。それとも過ちなのか。そんなの誰にも決められるものではありません。

問題は、彼がこの後、どんな行動を取るのか。そして、彼を引き留めた最愛の人の妹は何を語るのか。


今回も見ていただきありがとうございます。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

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