一人でのお楽しみ~始まる前の脅威
三十話です。
今回は奏のプライベートを描いたお話になるのですが……。
何か一波乱の予感……。
何があったのか…?
どうぞ、お楽しみください。
お泊りから一週間が過ぎ、月も八月から九月へと変わった。
今日は土曜日なので皆でハワイ旅行の準備をしに買い物へ行こうと言われていたんだが、僕は今日だけは外せない用事があったため、欠席した。
その用事のため、僕は横浜まで来ていた。そして、目的の場所へと着いた。
そこは、『クラフトフェア』だった。
全国、の色々な種類、雑貨、木工、ガラス細工、アクセサリー、手織り布を使った様々な服、帽子、フェルトなど色々なものが販売されている。
僕はこのイベントを何か月も前から楽しみにしていた。こういうイベントは様々な所でやっているが、学業をやりながらだと、遠くていけないという問題があったりして断念したばっかりだ。このイベントは電車で六時間だ。正直、遠いがこれを逃したらもう後がないと思ってるので、もう来ました。
だって他のイベントは北海道とか、東北とか近畿とか。近くて山梨だけど、そういう時に限って全国模試と被っちゃうし……。
と、いうことで、今日は満喫します。せっかく母親説得できたんだもん。帰りに六時間かかってしまうので、今日は泊まり掛けです。
今回のフェアは屋外でのイベントになっている。だから中よりは少し回りやすい。
まずは、入り口に近い、フェルト系のブースから行く事にしよう。購入しても鞄に入るから荷物にならない。
「いらっしゃ………い!!?」
「こんにちは。」
「こんにちは、じゃないよ!何で『血だらけ』なの!?」
「あー、やっぱりそこ突っ込まれますか。」
さっきから視線も浴びてたし、それは気になりますよね……。その理由にはここに来る前、つまり、まだ自分の町にいた時に遡る事になる。
およそ6時間半前。奏、駅に向かう最中の出来事。
「よし、準備できた。」
朝、準備ができ、家を出発したのが、六時半の事だった。宿泊になるので少し荷物が重たい…。
家を出て軽くパンフレットに目を通していると…。
「奏君!」
何やら、聞き覚えのある声で後ろから僕は呼ばれた。
振り返るとそこには、何やら『大きな荷物』を持った志帆が立っていた。
「え…。志帆さん?お、おはようございます。いい天気ですねー。どこかにお出かけですか…?」
嫌な予感を手前に僕はあえて彼女に質問をぶつけてみる。
「奏君、今日横浜で行われるクラフトフェアに行くんでしょ?」
「…!!?なん…!?」
僕は驚くことしかできない。だって、『僕は彼女に行き先を伝えてない』のだから。
昨日、確かに僕は皆の前で行くところがあるとは言った。けど、僕は『行くところがある』としか言っていない。『明確な場所』は言っていない。
じゃあ、なぜ彼女は僕の目の前に立っている?なぜ彼女は僕の行き先に着いて行こうとしている。いや、そこはもうこの際どうでもいい。
「志帆…いや、志帆さん!どうやって僕の行き先を突き止めたかは知らないが……。」
「奏君は昨日、行きたいところがあるって言ったでしょ?でも学生で行けるところには限りがある。土日で行けて尚且つ、この付近で奏君が行きそうなところをピックアップした結果、このイベントだと思ったの。」
怖いよ、その情報力……。
「なるほど、凄いよ志帆。それで着いて行こう…と。」
「うん!」
「そうかそうか。」
僕は彼女の満面の笑顔に対し、温かな笑顔で返した。そして…。
「申し訳ないけど、今日だけはさせないよ?」
「えっ…?」
そう、今日のイベントは今までの中で一番楽しみにしていた日だ。絶対に一人で行って楽しみたい。
「ごめん志帆。でもね、人にはプライベートな時間が必要な時があるんだよ?」
「そっか…。」
ふぅ、いつもなら『デスタイム』が始まるところだけど、今日は何とか穏便に済みそ……
「奏君は、私よりそのイベントの方が大切なんだね…………。」
OH……『デスタイム』スタート………。
「待って、落ち着こうか…志帆さ……。」
いや、待て。これじゃあいつもと同じだ。思い出せ、奏よ。何のために今日まで頑張ってきたのだ。ここで足止めを喰らっていいのか?イベントと痛み(彼女)どっちを取る?
「ごめん、志帆。今日だけは……今日だけは許してくれえぇぇぇ!!!!」
僕はそのまま駅まで全力で走った。
無事に駅に着いた。
もう大丈夫……かと思ったその時だった。
「カナデクンカナデクンカナデクンカナデクンカナデクン…………」
どこから取り出したのだろうか、スローナイフになんか、海賊とかが持ってそうな…サーベルっていうんだっけ?あれを持ってこちらへ向かってきていた。
「やばい……!!このままだと死ぬ!!」
なぜなら、電車が来るまであと五分あったから。
「カナデクンカナデクンカナデクンカナデクンカナデクン…………」
まずい…。映画に出てくるどんな怪物なんかより、志帆の方が怖い!!
正直、もう手詰まりだ…。せっかく長いこと楽しみにしてきたイベントをこんな事(いや、こんな事って言っちゃいけないのか?彼女の事…。)でプランを諦めていいのか…?
いや、否!断じて、否!!
僕がこのイベントに掛ける思いはこんな物じゃない筈だ。だったら、彼女一人止めて見せるんだ!
……………………………ま、方法はないけどね?
電車が来るまで残り三分。
僕は今、トイレの個室でやり過ごしている。さすがに志帆もここまではやってこないようだ。ま、それはそうだ。だって、他の人もいるわけだし。
そして時は来た。
電車が来るまで残り一分半。
深呼吸を三回することで心の準備をした。そして、僕はトイレから一気に飛び出した。突然の事に志帆は僕の行動に瞬時に反応する事ができなかった。
「よし、計画通り!」
僕はそのまま駅のホームへ一気に突っ走った。これで、無事に電車に乗れる。と、考えた僕は、考えが甘すぎた…。
「ニガサナイ………。」
「うわぁぁ!!?」
生まれて最大の恐怖だったかも知れない。今まで見たホラー映画なんて比にならない。そのくらいの恐怖だった。もう電車はそこまで来ているんだ…。どうしたらいいんだ…。何か、志帆の弱点さえ付けばこの状況を打破できるのに……。
ん……?志帆の『弱点』………?
「サァ、カナデクン……。モウニガサナイヨ……。ネェ、キョウハイチニチズットイヨウヨォ……。」
賭けではあるが、志帆の弱点(と、思われるもの)を付いてそのまま電車に飛び乗る。これで行こう。
「ネェ、カナデクンカナデクンカナデクンカナデクムゥ……!!?」
僕は壊れた志帆に一気に近寄り抱きしめた。
「カカカ奏君……!?」
「愛してるよ。志帆……。」
正気に戻り出した志帆。それに追い打ちをかけるように耳元で囁き極めつけに息を吹きかけた。
「ふ…ふぁにゃにゃぁ………。」
志帆はそのまま膝から崩れてしまった。崩れた後もふぁにゃ、ふぁにゃ言ってる。
その隙を突いて、僕は電車に飛び乗った。時間ギリギリだったのだろう。僕が乗った瞬間、扉が閉まった。
僕は携帯を取り出して雅さんに連絡を入れた。
『駅で放心状態になってる志帆の回収をお願いします。ちなみに、回収の報酬は太一がパフェ奢ってくれますよ。』
ちなみに太一には……。
『今日出かけるとき、パフェ買えるくらいのお金、所持しなよ。旅行準備ガンバ。』
絶対後で怒られるわ……。
その時、後ろからサラリーマンと思われる人から声をかけられた。
「ね、ねぇ、君さ…?」
「あ、はい。なんでしょう?」
「さっきの、あの女の子。良かったの?置いてきちゃって…。」
「あぁ、いいんです。むしろ置いてきたかったんです。」
「ならいいんだけど……。あと、君……。大丈夫なの?その子にナイフ投げられて『刺さっちゃってるけど』……。」
そう、逃走中に結局、何か所か掠ったりした。それだけなら良かったのだが、避けきれず、左腿と右腕に刺さってしまった。
「問題ないですよ、浅かったので…。」
「そういう問題!?」
「まぁ、向こうに着いたら処置しますよ。」
「大丈夫そうならいいけど……。」
その後も降りるまで僕のことを気づかってくれた。いやぁ、いい人だったー。
そして、現在。
「みたいなことがありました。」
「そ、そんなことが……。」
「あ、でもたぶん、もう止まってると思うんで後は包帯でもまけば何とかなりますよ。フェスタ回る前にドラッグストアにでも行ってきます。」
「う、うん…。その方がいいよ。その後またおいで。そしたらオススメ紹介してあげるから。」
「本当ですか!?じゃあ、早急に行ってきます!」
ちなみに、なんで電車降りてすぐに行かなかったのかというと、ただ忘れてたからである。脅威から解放され、安心して六時間も電車に乗れば忘れもする………よね?
え…………?する………………よね?
いかがでしたでしょうか?
先にお知らせです。
お話の中で、電車の中に飛び乗り乗車をする場面がありましたが、皆さんは飛び乗り乗車、駆け込み乗車など危険な乗車は決してやらないようにお願いします。
さて、本題に戻りましょう。
人って、時には一人になって楽しみたいときってありますよねー。そして、奏はまさにそれを満喫しようとしてたんですけどね…。とてつもない刺客が現れてしまいましたね。
それでも奏は無事に乗り越え目的地へたどり着き、包帯獲得というミッションさえクリアしてしまえば後はプライベートを満喫できますね!
しかし、まだ彼の闘いは終わってないということをまだこの時、彼は知る由もない……。
今回も見ていただきありがとうございます。
次回も読んでいただけると嬉しいです。




