2022・3月
2022・3月
俺はカオリの援助もあり、かろうじて卒業できた。車の免許も去年には取れた。学科で2回落ちたので、当時の周囲の目線が痛かった。
阿部は関西の国立大学に進学したようだ。学部は覚えてない。親の都合とか言っていたな。
水泳部のほうは新2年が部長になって、唯一の3年である高橋はそのままマネージャーらしい。阿部の人選だし多分正解なんだろう。ただ、このままだと人数不足で廃部なので、新入生獲得が最大の課題だそうだ。
で、会社のほうだが、俺はなんだかんだで都合が合えば仕事の手伝いをしていたので、大方仕事は覚えた。その結果、卒業して即入社だ。
そして現在、和歌山は白浜町。白浜営業所兼社員寮での会議室。
「ということで、新型潜水艇、イ1000のお披露目よ。この艇は、設計上は深度10000mまで耐えられるわ。航続時間は6時間。使い捨てのボンベとバッテリーを付ければ12時間いけるわ。推進装置はリニアモーターカーの水中版と言えばいいかしら。実質、世界最高水準の深海探査艇ね。」
「社長、最高水準はいいが、撮影チームはどうなるんだ?」
すかさず俺が突っ込む。こんな話聞いてないし。こんな便利な物が導入されれば、潜ることしか能の無い俺は真っ先にリストラ対象だ。入社して即リストラなんて勘弁だ。
「ん? 撮影チームはそのままよ? 使う機材が変わったと思って頂戴。南雲君は母船上からの指揮。高須ちゃんは母船からのサポート全般。」
「で、俺は?」
「当然操縦担当よ? カオリちゃんをナビにつけるから、分からないことは彼女に聞いてね。」
「いやいや、社長、俺、こんな話聞いてないし、操縦なんて出来ないし。」
「そうよヤマちゃん! あたしだってこんなの知らなかったわ! なんであたし達なのよ? 高須さんや、課長のほうが適任なんじゃないの?」
「ん~、高須ちゃんは試験運用で一度乗って貰ったのだけれど、彼、閉所恐怖症らしくて。南雲君はチームリーダーだし。従って、現場最前線は下っ端の貴方達しかいないわ。」
確かに、この会社で最も身分の低いのは俺達2人で間違ってはいないはずだ。しかし、ずぶの素人をこの最新鋭に乗せるか?
俺が頭をひねっていると、社長が続ける。
「操縦はゲーム感覚で簡単よ? 何より重要なのは、海は安全じゃない。何かあった時、最も生存確率が高いのがあなた達であるという事。でも、労災はちゃんと入っているから安心してね。」
そういや最初、色々サインさせられたな。生命保険とかもあったような気がする。確かに各種保険完備は嘘じゃなさそうだ。
「じゃ、これ。取説ね。適当に読んでおいて。」
1000ページくらいありそうな分厚い本が渡される。
「げ! これ読まないと・・・ダメ・・?」
「あらごめんなさい。それはカオリちゃん用のだったわ。アラタ君のはこっち。」
俺が広辞苑のような物体をカオリに渡すと、社長から薄っぺらいノートを渡される。
表紙を見ると、『社外秘 栗田新専用 防水 失くすな』と書いてある。
「アラタ君のは特別仕様よ。編集するのに時間掛かったのだから。」
流石は社長だ。社員を良く理解している。確かにあの辞書と格闘するのは俺には不可能だ。
が、なんかむかつく。
「じゃあ、全員母船に行くわよ。」
港に着くと5000トン級くらいだろうか? 大型の母船とやらが停泊している。
後部には真っ青なカラーリングの潜水艇らしきものがクレーンで吊り下げられている。
側面にイ1000と書いてあるので間違いないだろう。
船に乗り込むと早速船尾の潜水艇が置かれた所に案内される。この船の船員はどうやらうちの社員じゃないようだ。かなり訓練されたような感じはするのだが、よそよそしい。社長に訊くと外部委託だと答えてくれた。
船尾デッキに案内されて改めて潜水艇を見る。船体は10mくらいだろうか? もう少し小さいかな? しかし、余りにも特徴的な形だ。昆虫を連想させる形だ。頭にあたる部分は、強化ガラスと思われる球状のコックピット。そして胴体にあたる部分から、前方に2本のマニュピュレータ。その後方には可動式と思われる多数の板のついた足のようなものが2本ずつ、左右対称に生えている。胴体自体は段々のくびれがついた流線形に近い形だ。所々に穴が開いている。最後部にはノズルのようなものが付いている。何よりも違和感を覚えるのは、通常ならば必ずあるであろうスクリューが無い、舵も無い。イメージとしてはトンボの幼虫であるヤゴの足を毛深くした、と言えば理解して貰えるだろうか?
などと思いながら好奇心丸出しでかじりついていると、
「紹介するわね、アラタ君は初めてのはずね。こちらは整備課の課長さんよ。さゆりちゃ~ん。」
社長の声に振り返ると、40代くらいの、がたいのいいおばちゃんが居た。
「あんたがこいつを操縦するのかい? あたいは草鹿小百合、整備課長だ。皆からは、さゆりさんか姐さんで通っているよ。ヤマちゃんから色々聞いてるよ。よろしくな。」
「栗田新です。よろしくお願いします。」
「さゆりさん、久しぶりです。」
いつの間にか俺の横にカオリも居た。
「じゃあ、二人ともついておいで。」
社長とさゆり姐さんについて行く。中央部分にあたる船室に入ると、周りは一面計器の山。南雲さんが既に居て、その計器に貼りついていた。
「ここがメインの指揮所。まあ管制室ってとこね。基本的にここの持ち場は南雲君とあたしかな。委託の人も出入りするけど気にしなくていいわ。じゃ、あたしは艦長のとこに行っているから、後、さゆりちゃん、南雲君、よろしくね。」
社長はそのまま足早に出て行った。入れ替わりに南雲さんが立ち上がってこちらを向いた。
「では、今から説明しますので皆さん座ってください。今から約1時間後に出航です。目標はここから約10海里離れたところにある大陸棚の端、駆け上がりです。イ1000を使っての初めての撮影実験でもあります。今日は深度200mくらいまでを予定しています。2人とも初めてで戸惑っていると思いますので、操縦方法を簡単に説明します。では、さゆり姐さん、お願いします。」
「じゃ、説明するよ。この潜水艇はさっきのヤマちゃんの説明にあったように最新技術の塊みたいなもんだ。推進装置とか、正直あたいでも良く分からないとこもある。だけど、試験航海では全く問題なかったし、技術課からもお墨付きだ。で、早速だが簡単な操縦方法の説明をする。まず、さっき見ただろうが、コクピットの全部座席がメインの操縦席だ。ここはアラタの持ち場だ。そして後部座席はカオリの持ち場。カオリの役割は主にアラタのアシストだ。位置の微調整とか、船体の確認とかアラタじゃ出来ないところをサポートしてやってくれ。質問は山程あるだろうけど、先ずはさっき貰った説明書を読め。あたいが帰ってくるまで頑張ってな。」
「「はい。」」
言い終わると、さゆり姐さんと南雲さんと一緒に出て行った。
「しかし、カオリ、お前のかなり分厚いけど、大丈夫か?」
「ん~、何とかなりそうね。あたしはアラタの方が心配ね。集中するから黙っててね。」
「あ、ああ・・」
まだ設定部分ですね。(汗