2021・8月その2
栗田新の脳内名称
山本磯実=SP→おねえSP→社長
小沢香=傲慢女→詐欺女→ヒステリー女→小沢さん→???
2021・8月その2
その後は場所を少し移動して、予定どおり珊瑚の撮影。
社長は船に残って見張り番。南雲さんと高須さん、そして小沢さんのチームで撮影開始だ。俺も一緒に潜って、すぐ側で見学させて貰った。仕事の内容よりも、東京湾に珊瑚というのがかなり新鮮だった。
新しいこと続きで時間を忘れて眺めていたら、いきなり南雲さんに俺だけ浮上しろとの合図。理由を後で聞いたら、ボンベをつけていない俺が5分以上も側で見ていたからだそうだ。かなり焦っておられました。
そんなこんなで気がついたら撮影も終了したようで、帰港する。
社長が車で駅まで送ってくれた。その車中で、
「どうだった? まあ大体こんな仕事よ。これからは増えるかもしれないけど。」
「はい、俺でも何とかやれそうです。」
「はい、大変勉強になりました。ありがとうございます。」
「はい、海、気持ち良かったです! 次は水着持ってきます!」
今日の高橋は絶好調のようだ。
「じゃあ、帰ったら良く考えて、親御さんとも話合ってから返事頂戴ね。私の携帯に直接電話してくれればいいから。」
「はい、ありがとうございました!」
帰りの電車の中で、
「お前、本当にあの会社で大丈夫か? 仕事はいいのだが、流石にあのテストはないと思うぞ?」
「ん~、何事も無かったし、問題ないんじゃね? ただ、合格基準がさっぱりわからんが。」
「いや、問題大ありです! 特にあの小沢って人!」
「そうかな? あの後、少し話したけど、あれは社長の命令で仕方無かったって。それで、沈めようとした事には謝っていたし。素直に来られたんで、俺も悪かったって言ったら納得してたぞ。確かにむかつく女だったけど。悪い奴じゃないと思う。」
「あはは、栗田らしいなぁ~。まあ、お前が問題無いって言うならいいのだろう。お前の決めることだからな。それに俺も小沢さんは、確かに口は悪かったけど、基本いい人だと思う。結構色々と気を遣ってくれていたようだし。」
「ふ~ん、そうなんですか。。。」
何やら不穏な高橋をスルーして、
「とりあえず、俺はあの会社が気に入った。変な社長だけど、海に潜って稼げるのなら文句無しだ。帰ったら親に報告する。」
「うん、お前が気に入ったのならそうしろ。俺はもう何も言わない。ただ、困ったら相談してくれ。」
「はい、相談してくださいね!」
「ん? まあいいか? サンキューな。」
その晩、帰った俺は、両親に話した。大学行けとか反対されるか少し不安だったが、特に何も反対されなかった。ただ、高校は卒業しろとだけだった。
なので、翌日、早速社長に電話した。
「あ、社長さんですか? 栗田です。両親はOKしてくれたんで、高校卒業してからですが、雇ってください!」
「うんうん、良かったね~。じゃあ、高校卒業するまでに自動車の運転免許と、一級船舶操縦免許、スキューバダイビングのライセンス、取っておいてね。」
「はい?」
「あと、車の免許以外はうちで教えるから心配しないで。」
「はい~?」
「詳しいことは内定のこと含めて事務所で説明するから。明日、10時に名刺の住所に来てね。じゃ、よろしくね。」
「はい~~?」
翌日以後の俺は大忙しだった。事務所に行くと社長が居て、いくつかサインさせられ、免許関連の山のような教本を持たされる。帰ったら自動車の教習所に問合せ、即入校。その晩は持ち帰った教本と少しだけ格闘してみた。う~ん、わからん。
次の日、9時ごろに母から呼び出される。NGOSから電話らしい。
「はい、換わりました。新です。」
「もしもし、小沢よ。あなた、今日、暇?」
「部活はもう引退ですし、教習所は夕方からなんで、それまでなら。」
「そう、良かったわ。たまたま撮影が空いたので、あなたの勉強に付き合ってあげる。今から君津駅まで、昨日渡された教本持って来なさい。迎えに行ってあげるから。」
「はい?」
「そうね、じゃ、10時にロータリーで待っているから。よろしくね。」
「はい~?」
どうもこの会社の人は、強引に話を進めるのが当たり前らしい。ダッシュで着替えて、昨日の教本と筆記用具をバッグに詰める。幸い、うちからなら君津駅まで45分くらいだ。
「行ってきま~す!」
君津駅のロータリーに出ると、先日のワンボックスカーに小沢香が乗って待っていた。
走りながら、手を上げる。向こうも気付いたらしく、助手席を指さされたので、乗り込む。
「おはようございます。小沢さん。」
「おはよう、アラタ。遅いわね。あたしの計算だともう一本前ので来れたはずなのに。」
小沢香は不機嫌そうだ。もう呼び捨てですか・・・。ってか、何この人? うちからここまでの所要時間、完全に把握してない? 確かにうちから駅まで走っていれば、もう一本前のに乗れていた。
「じゃ、出すわよ。はぁ~、とんだ貧乏くじよね~。」
「あの、貧乏くじとかさっぱりわからないんですけど。ところで今日は勉強って一体何を?」
小沢香は呼び出した理由を説明しだした。
要約すればこうだ。船やスキューバの免許を俺に取らせないと、仕事にならない。
でも、独学で取るのは大変。そこて、誰が教えるのかで小沢香が選ばれた。それで、実技訓練ができる船に呼び出した。船室で講義もできるしと。ということらしい。
「全く、ヤマちゃんが元々は悪いのよ。溺れたふりしろ、だなんて。それは確かにアラタをからかってやろうとした、あたしも悪いけど。でも、それをペナルティーに新人教育って。」
なるほど、全て理解できました。
「あと、私のことはカオリでいいわ。あたしもあなたのことアラタって呼ぶし。年も一つしか変わらないし、敬語も抜きで。うん、あたしはその方が楽ね。」
その日は夕方まで船舶免許の実技と座学を交互に繰り返された。カオリは教師としてかなり優秀だったようで、毎回赤点ギリギリの俺にでも分かるように、かみ砕いて説明してくれた。
これからも、海が荒れた日なんかには教えてくれるとのことだった。
その甲斐あって、俺は夏休み中に船舶免許とダイビングライセンスを取得できた。
そろそろ海魔出さないと(汗