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2021・7月 その1

主人公の紹介ですね。ちょっとチートかな~。。。

 2021・7月 その1



 俺こと栗田新クリタ アラタ18歳は、千葉、館山に居た。周りには同じ高校の水泳部員5名が、面倒臭そうにそれぞれ荷物を抱えて付き従う。

「全く、お前の為だけに皆で応援に来たんだから、少しは感謝して欲しいものだな。」

こいつは水泳部部長の阿部利夫アベ トシオ、水泳部の中でたった一人フリーダイビングなんてやっている俺の数少ない理解者の一人で、水泳部唯一の同級生でもある。

「任せとけ! 今年は優勝できる! 多分できる・・ できるかもしれない・・・」

「それ、感謝の言葉じゃないだろ! それよりもう少し覇気を感じさせてくれ。尻すぼみになっているぞ。」

「そうですよ~、先輩! 先輩ならイルカとタイマンはれるはずです!」

意味不明な激励?を投げかけてくれるのは、2年女子の高橋伊織タカハシ イオリ。この子はマネージャー兼部員で、練習にはお義理程度に参加するが、基本的には皆のサポートをしてくれる。俺に関してなら、STA(息継ぎなしで水中に居られる時間を競う)のタイムを計ってくれるとか、色々と世話になっている。

「さて、受付も済んだし、会場行きの船はあっちだ。栗田は競技用の道具だけ持って先に行ってくれ。タオルとか着替えとかは後からマネージャーに持っていかせる。俺たちはここまでだ、荷物番しながら陸から応援しているよ。」

「サンキューな阿部、それと後輩の皆、ありがとう! メダル期待してくれ!」

「よし、調子戻ったな。じゃ、円陣組むぞ!」

『チバショー! ファイッ、オー!』

「行ってきます!」

俺はダイビングスーツを抱えて颯爽と船に向かった。


 俺は船内でダイビングスーツに着替えを済ませ、海上ポートに向かって海に飛び込もうとしたが、横で俺の脱ぎ捨てたシャツを、タオルやら水やら諸々の詰まったバッグに押し込みながら、不安そうな顔をしている高橋の姿が目に入ってしまった。何故か俺は先輩面をするチャンスと錯覚し、

「心配すんな。俺クラスにもなればメダルの方から寄ってくるんだ。大船に乗ったつもりで待ってろ!」

等と全く根拠の無い空威張りをしてみる。

「あ、先輩の心配は全くしていませんよ? それより他の参加者の方が先輩に振り回されないかが少し・・・」

左様でございますか・・・どうせ・・・新入部員だった頃のあの初々しさは何処に行ったやら。等と余計なことを考え、肩を落としながら海に飛び込んだ。


 海上ポートに摑まると、アナウンスが始まる。

「CNF(フィンを付けずに無呼吸で潜れる深さを競う)、次のエントリーは栗田新さん。準備してください。」

俺は片手を上げてから、スタート地点の海中に真っ直ぐ伸びるロープに向かって移動する。

「準備できましたか? 出来たら手を挙げてください。」

俺はロープに摑まりながら、何度も深呼吸してから最後に大きく息を吸い込み、手を挙げた。

「スタート!」


 俺はロープを離した勢いで一気に潜り、とんぼを切り、下を向く。後はひたすら潜るだけだ!

すぐさま横のロープに5mの表示を確認する。潜り始めて10秒も経ってないだろう。ロープの下に付いている10mの標識を目指して加速する。

今日は調子がいいらしい。体が軽い。ウェイトも適量だったようで腕をかいた分だけ素直に体が沈んでいく。どんどん濃くなる海の色に見とれながら手足を掻く。

気が付くと横に40mの標識がある。逆を見ると、黒ずくめウェットスーツで完全武装の救助員が泡を立てながら漂っている。

 ここからが勝負だ! この種目、潜るだけじゃなく、帰りも自力で海上まで辿り着かなければ無効である。ウェット(重り)を捨てても無効。従って、自分の限界を過大評価したら最後、すぐ側に救助員が居ても、死に繋がりかねない、実は相当に危険な競技である。

 少し苦しくなってきた。潜り始めてから2分は経っただろうか? 真下を見下ろす目線に50mの標識を捉える。帰りのことを考えるとそろそろ限界だろう。不意に上で待っている高橋のことを思い出す。童顔小顔で確かに可愛いんだが、あの天然はな・・・等と、とりとめの無いことを考える。

 イカン! アホなことを考えている場合では無かった! もう限界だろう! これ以上はヤバイ! 浮上だ!!

 俺は右手でロープにタッチしてから、とんぼを切って上を向く。そして大きく腕を掻き、その後、足も掻く。

 40mの標識、すぐ上で救助員が手招きをしている。下から気泡が昇ってくるので、おそらく真下にももう一人居るのだろう。

 30m、行きの時はお世話になったウェイトが恨めしい。大した重量ではないはずなのに、捨てたくなる衝動と格闘する。

 20m、海の色が淡くなり、海上の光が見える。かなり苦しくなってきた。 苦しく? いきなり自問自答してみる。本当に苦しいのだろうか? あ、分かった! これって山を越えたんだな。いわゆるランナーズハイって状態? これやばくね?

 10m、何も考えずひたすら手足を掻く。

5m、ここまでくるともはや苦しさを通り越して、もうちっと行けたんじゃなかろうかと、今更になってどうしようもない欲が出る。


ぶはぁ~~っ!!


 海面に顔を出し、肺に残っていた空気を吐き出す! 海上ポートに手をかけた瞬間、左右から抱きしめられる。救助員の人達だろう。身を任せながら大きく息を吸い込む。その瞬間、上から口を覆われる。あぁ、携帯酸素か。ボンベをひったくり、上を見上げると、真剣な表情の高橋の顔が見える。

「お疲れ様です!!」


あ~、帰ってきた!!


俺は高橋と救助員が海上ポートに引きずり上げられたので、左手のボンベは口に当てたまま、あおむけになって目をつむり、放心状態になっている。と、アナウンスが聞こえる。

「凄い記録が出ました! クリタアラタさん、只今の記録・・・」

ひくな・・ 凄いのはいいからさっさと教えろよ! お前はみ○もんたか! 実は50mをクリアしたのは覚えているが、正確な数字は曖昧だ。

「56メートル!!」

『おぉ~~!!』

周りから歓声が上がり、アナウンス越しにも拍手が聞こえる。後から知った話だが、この記録は日本人男子歴代3位タイらしい。

 気が付くと俺の右手に妙な温もりを覚える。目を開けると高橋が横で正座して、両手で俺の手を握っていた。泣いて・・・いるのか?

「先輩! おめでとうございます!」

俺はボンベを口から離し、

「あ、ありがとう。 手、放して・・・」

高橋は慌てて俺の手を投げ捨てる。こいつっ!

「ひょっとして、泣いてる?」

瞬時に高橋の顔から、こいつが入部して以来見せたことのない凶悪な香りを漂わせる。上を見上げ、涙を拭ってからゆっくりと俺を見下ろす。

しまった! 今まで女子に手なんて握って貰ったことなんてないから動転して、更に余計なことを言ってしまった! 空気読め俺!

「泣いてませんし、誰かに言ったら殺しますよ。あと、変な勘違いしても殺します。」

こぇ~~~~!!

「はい。。。」

絶望のオーラを纏った俺を、今までにやにやしながら周りで見ていたであろう数人が、さっと顔を背けた。



次回はやっと社長が出てきます。

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