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始まり 2022・6月

   始まり 2022・6月



 北極海、グリーンランド沖深度200m、アメリカ海軍大西洋艦隊所属オハイオ級戦略原潜ルイジアナ艦橋内。現在は四半舷休息中だが、マッケロイ艦長はじめ主要クルーは先程の演習が終わったばかりの為、全員艦橋に留まっていた。

「艦長、聴音機の調子がどうもおかしいです。」

「ゲイツ少尉、どうもおかしいは不適切だ。具体的に報告したまえ。」

「はい、先程まで30度、距離およそ6kmからオランダの調査船とおぼしきエンジン音を拾っていたのですが、いきなり前触れなく途絶えたので、注意して聴音を続けたところ、距離が10kmに変わりました。不審に思い更に続けたところ、元の位置に戻りました。」

「ふむ、鯨か何かが横切ったのではないかね?」

「鯨くらいならここまでの影響は出ません。それに現在、正面330度から30度にかけて音が拾えていません。」

「なるほど、ピンガーを一回打て。」

「ピンガー打ちました!周囲に反応ありま・・・前方に何か巨大な物があるようです!」

「マスカーした潜水艦が潜んでいたか?!」

「ここまで気付かれずに近寄れる艦はありません!それに推進音が全くしません!」

「モニター出せ!」

艦橋内のモニターに周囲の映像が映し出される。

それを見た全員が息をのむ。

「「「なんだこいつは?!」」」

そこに映し出されたのは全長200mはあろうかと思える巨大な烏賊イカ!一本100mもの触腕をいっぱいに広げながら異常な速度で迫りくる!

「機関全速! 第一種戦闘配置! 水雷員はMk42魚雷全門装填!」

艦長の命令と同時に全艦内のサイレンが響き渡る!と、同時に艦が激しく揺さぶられ、立っていた者は残らず転倒する。椅子に座っていた者は艦長を含めてかろうじて耐える。

モニター一面が真っ白になる。

「バラスト、緊急ブロー! アップトリム90度! 浮上する!」

皆が呻き声を洩らす中、艦長の声が響く。

「バラストブローしました! 駄目です! 潜舵反応しません! 艦が引きずられます!」

「面舵いっぱい! 舵で艦の水平を得ろ!」

「面舵いっぱい!」

一瞬パニックに陥ったクルーだが、ようやく我に返りだす。倒れていた者は這いながらも持ち場の椅子によじ登る。しかし、依然として足元は30度くらい傾いている。

「艦長、艦の推進が得られません!」

「1番、2番、魚雷にデータ入力! 直進、距離1000で爆発するようにセット!」

「艦長! 安全距離を無視していますが?!」

魚雷は通常、相手に当たった時の爆圧、誘爆等を考慮して最低でも自艦より2000m未満では爆発しないようにセットしてある。

「構わん! 相手が驚いて逃げるのに期待する!」

「了解! 1番、2番、入力完了!」

「1番、2番、魚雷発射口開け!」

「1番、2番、魚雷発射口、開扉!」

「撃て!」

「一番、2番、発射!」

沈黙が訪れる。と言っても、艦は相変わらず前後左右上下に無秩序に揺さぶられている。

「艦長! 魚雷が発射管から出ません!」 

「くっ! おそらく艦首を触手で覆われてしまったのだろう。3番、4番も同じデータを入力して待機!」

「3番、4番、入力完了!」

「艦長! 深度が下がっています! 現在深度300!」

「全バラストブロー! 3番、4番、魚雷発射口開け! 開扉と同時に撃て!」

「3番、4番、魚雷発射口、開扉! 発射します!」

「全バラストブロー!」

熟練したクルーの復唱がこだまする。

「艦長、3番、4番、やはり発射されません!」

「深度、更に下がります! 現在深度350! これ以上は危険です!」

「各員、浸水に備えろ! 原子炉スクラム!」

と、艦長が命令してすぐに艦内スピーカーより悲鳴が入る。

「こちら魚雷発射室、浸水発生!」

「前部乗員は中央部に退避!急げ! 手の空いている者は配管の元バルブを閉めろ!」

艦内に慌ただしい足音が響き渡り、遠くから先をすぼめたホースから高圧の水を噴出させるような音が聞こえる。

「原子炉、緊急停止完了!」

「前部乗員、退避完了!」

「よし、全隔壁閉鎖! 副長、救難ブイを撃て!」

「全隔壁閉鎖!」

「救難ブイ、撃ちます!」

「艦長、深度400! このままでは・・・」

悲痛な叫びが聞こえたのと同じくして艦内の各所から浸水音が聞こえだし、それに反応して怒声とバルブを閉める音が散乱する。

「総員、救命胴衣着用!」

生身の常人が耐えられる水圧は、おおよそ100m。この深度で潜水艦が圧壊すれば、いくら救命胴衣を着けていても助かる可能性は限りなくゼロに近い。それでも艦長は命令を下す。周りから慌ただしい物音がし、マッケロイ艦長も救命胴衣を着用する。着用と言っても、実質は制服の襟元にある金具を引っ張るだけである。パシュッと小さな音がして襟が一気に膨らむ。そんな光景を尻目に、艦橋の床にも小さな川が流れ出す。

「食堂、浸水発生! 止まりません!」

「機関室、浸水発生! 止まりません!」

艦内のあちこちの部署から浸水報告が伝わる。

「深度450!」

「潜舵、なおも効きません!」

「推進、得られません!」

クルーの最期通告と同意義の報告が空しく響く。

「深度500!」

その声を最後に艦橋内が0度に近い海水の濁流に呑まれた。


海魔と人類のファーストコンタクトのシーンです。次回から主人公が巻き込まれて行く過程になります。

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