2022・12月
2022・12月
「右手!包丁、チャージ完了! 左手!電銛装填OKよ!」
「了解! 左の奴に突っ込むぞ! 攻撃後の姿勢制御頼む!」
「了解! いつもどおり電銛からね?!」
「そうだ! すれ違いでびびるなよ!」
「誰に向かって!!」
後ろから椅子を蹴飛ばされる。
いきなりだがここは海中、銚子沖深度約30m。左手前方に見えるは体長15mくらいの鮫に似た何か、通称スピンヘッド。右手後方にぼんやりと見えるは体長6mくらいのカジキに似た何か、通称サーベルマーリン。こいつらはひっくるめて海魔と呼ばれる海洋生物の新種だ。スピンヘッドは簡単に言えば鮫の頭部がドリルになっていると思えばいい。サーベルマーリンはカジキの嘴が大剣になった感じ。見た目で分かるとおり、高速で船のどてっ腹にその鋭い剣を突き刺し大穴を開ける、かなりはた迷惑な存在だ。そして、俺たちが乗っているのは対海魔用突撃艇イ1000改2。ネーミングに関してはうちの軍オタ社長の趣味だ。元々は深海調査兼サルベージ用に開発された潜水艇で、形はトンボの幼虫であるヤゴをでっかくして前足2本が人間の手のようなマニピュレーター、後ろ足4本はゲンゴロウの足みたいに、櫛状の毛のような小さな板が各20枚ついていて姿勢を制御する。頭部が半球状の強化ガラスに覆われ、階段状の前後の座席のついたコクピットで全長約8M。推進力は超電導で加速された海水をケツのノズルから噴出する仕組みらしい。ちなみに側面にも小さなノズルが片側3個ついている。自衛隊の協力(命令?)によって機動性が大幅に改良され、ついでに前足2本に武装がついた結果、現在に至る。
俺こと栗田新19歳の担当は操舵手兼アーム操縦手、コクピット内の前部座席に座っている。身長165㎝、黒髪黒目で純日本人。友人からは「ちょっとチビで、ちょっと眼付が悪くて、ちょっと図に乗りやすい以外は重度の潜水狂だ。」というフォローの全く無い評価を頂いている。
で、後ろ上方に座っているのが小沢香20歳、索敵と姿勢制御及び武器管理、俗に言うナビってのをやってくれている。身長163㎝、茶髪で細長の面立ちで、ありていに言えば美人だ。体形は筋肉質な細身。気になるところの胸のサイズはTPOで変化する・・・らしい。 「もう少しオブラートに包んだ言い方ができれば僕の胃の負担が減るのに。。。」とは課長の談だ。
包丁ってのは右アームの主武装で長さ約3mもある刀だ。正式名称は長ったらしいのがあるらしいが、皆、鮪包丁、ないしは包丁って呼んでいる。解体ショーで使うのと違う点はその長さと斬りつけた時に高圧電流を流せるところにある。スタンガン付きのでっかい日本刀とイメージしてくれればいい。電銛もちゃんと正式名称があるらしいが、やはり皆、デンモリ、ないしは単に銛と呼んでいる。これも鮪包丁と同じくスタンガン付きで長さ約3mの鯨相手に使う銛とほぼ同じだ。左アームの主武装の巨大水中銃から射出される。
艇を左に旋回させ、スピンヘッドを真正面に捉える。ドリル状の頭部が目前に迫ってくる。こいつに正面衝突したらいくら強化ガラスとはいえ確実にぶち抜かれる。集団で襲われた場合、駆逐艦程度なら数十分で沈む。こいつらは頭部のドリルで体当たりし、その後身体ごと回転させて穴を広げる戦法が主流だ。
左足のフットレバーを軽く踏み込み、サイドステップの要領で瞬時に艇を左に平行移動させながら、左右操縦桿を操作し鮫もどきの横腹に向きを変える。相手も回り込もうとするがもう遅い。
「おっしゃいけぇ~!」
ゴーグルの赤い点をスピンヘッドの鰓に目線で照準を合わせ、左操縦桿のボタンを押す。左手の巨大水中銃からケーブルを引いて巨大な銛が打ち出される。
「よし刺さった!追撃行くぞ!」
銛は慌てて方向転換しようとしたスピンヘッドの胸鰭の少し尻尾側に命中し、海中に赤い霧を発生させる。
「電撃!」
さっきのボタンをもう一度力を込めて押すと、鮫もどきは体をひくつかせ泳ぎを止める。
「とどめ!」
左アームの水中銃のウィンチが悲鳴を上げながら回転し、ケーブルを巻き上げる。その結果、艇の向きが一気に変更され、スピンヘッドの横腹が眼前に迫る。ゴーグルの照準をスピンヘッドの目の後方に合わせる。今度は右手操縦桿のてっぺんについているジョイスティックを親指で操作し、右手の鮪包丁を振りかぶる。そして両方の操縦桿を一気に前に倒し艇を突進させ、親指のジョイスティックを押し込む。鮪包丁が振り下ろされ、スピンヘッドの目の後ろ、後頭部と言うべきか?から文字通り一刀両断にする。赤い輪が出現すると同時にスピンヘッドのドリルの付いた頭部がゆっくりと沈みだす。
「上出来だけど相変わらず強引ね!姿勢制御するあたしの腕に感謝してよね!電銛ケーブル、フローターに接続、放出するわよ!」
「今のやり方なら少しは負担減らせただろうが? 回収任せた!」
不意に座席に大きな衝撃を覚える。何があったかは説明するまでもないだろう。
銛についたケーブルの根本からエアバックみたいな浮きが膨らみ艇から浮き上がっていく。それに引きずられたスピンヘッドの胴体が海上に向けて赤い帯を引きながら浮上していくのを目で追う。
「はい!ぼーっとしない!おかま掘られるわよ!」
操縦桿の間に見えるレーダーみたいなスクリーン(正確には魚群探知機だが)に、本艇真後ろにでっかい赤点が映る。
俺は両手の操縦桿を握り直し、艇を急旋回させた。
「微調整頼む! 電銛、再装填間に合うか?!」
「銛は間に合わない。きっちり正面に捉えたわよ!」
「了解! 包丁はまだ電撃使ってないからそれで行く!」
再び前回と同じ手順で艇を左にサイドステップさせ、サーベルマーリンの突撃を躱す。前回と違うのは躱しながら右手の鮪包丁を横に突き出したことだ。
ガツンと艇が揺れ、右に引きずられた瞬間、俺は右操縦桿のボタンを押す。
「食らえっ!」
サーベルマーリンの横腹に切れ目が入り、一瞬青白く光る。
この攻撃は簡単なようだが、実はかなりの度胸と反射神経を要する。何しろサーベルマーリンの最高速度は時速約70ノット、キロに直すと約130Km。正面からならこちらのスピードも加算されるわけだから相対的には凄まじいスピードになる。今回の場合は奴が50ノットくらいで、こっちが回頭したてでほぼ0ノットだから、かなり楽なほうではあるが。
「やった?」
「おい、フラグ立てるなよ、自信無くすだろうが。手応えありありだ!」
サーベルマーリンは胸鰭から尻尾にかけて直線の亀裂が入り、赤いカーテンを纏いながら断末魔の痙攣を起こしている。
「じゃ、回収ね。フローターつけるから近寄って。」
「りょーかい。晩飯ゲットだな。でも、たまには牛肉食いてぇ~。。。」
そう言いながらのろのろと艇を晩飯に寄せると、カオリが艇の胸部(コクピットの後ろ)にあたるところからケーブルのついた小型の銛(と言っても1mはあるが)を打ち込む。ケーブルが艇から切り離されると、先程同様ケーブルの先が一気に膨らみ海面に突進していく。
「贅沢言わないの。新鮮な魚肉が食べられるだけでも特権階級よ。帰艦するわよ!」
「だな~。。。よし、任務完了でいいのか?」
「周囲に特に反応もないしね。バラストブロー。」