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諸事情により、魔物への転生優遇受付中

作者: もふぷに

 王道のスライム転生。モフモフ縛りの私がやると、こうなります。


 彼はスライムですよ?


 書こうと思ったきっかけはスライム目薬デス。ただし、未購入。

「……あの、この看板って……何っスか?」

「青年よ、死んだばかりで混乱しているのかね? ……見た通りだが」

 

 死んだ……あぁ、まぁ……確かに死んだなぁ、俺。あの状況では生きてる方があり得ない。死んでいて欲しいと思えるような死に方だった。

 むしろ、死んでて下さい。後生ですから。あ、後生って今か? どうすれば確実に死ねるんだろうか。


「君は死んだと言っただろう」


 あ、そうだった。


 そして思い出す、あの日の出来事。それと、死ぬに至った経緯と言うか、俺がそう動いてしまった理由と言うか……。


 ――いつも幼馴染とは並んで家に帰っていた。俺達は家が隣同士だったから、それは必然だった。

 幼稚園の頃は「大きくなったらお嫁さんになってあげるね!」なんて言われたりして……俺もそうなってくれたら、と満更でも無かった。


 幼稚園から上がって小学校、中学校も同じ学校、同じクラスでずっと一緒だった。

 成長するにつれて、アイツはどんどん綺麗になっていった。綺麗になったアイツは何度か知らない奴から告白される事もあったけど、その度に「好きな人がいる」って断っているのを俺は知っていた。

 一度何気無い振りで聞いてみたら、顔を真っ赤にして怒られて。これって、もしかしてそういう事なのかなって期待してた。

 だってさ、恋愛物では王道だよな? こういうの。


 だから今日、俺はアイツに告白したんだ。

 まだ学生だけど、ちゃんと就職して、小さな頃の約束を守りたいって。だから、俺と付き合って欲しいって。

 それを告げた時のアイツはキョトンとした顔をしていて、それが堪らなく可愛く見えて、俺は思わず抱き締めた。《俺の家まで後50メートル》


 次の瞬間、渾身のボディーブローを入れられた。《家まで52メートル》


 驚いて見たアイツの顔は、驚きと怒りに染まっていて、思わず何歩か後退りをした。《53メートル》


 そして明かされたアイツの恋人。それは他でも無い俺の兄貴。前は『好きな人』だったけど、今はしっかり『恋人』なのだと言う。

 俺との約束は!? と愕然としていたら、約束? と首を傾げられた。全く覚えていなかった。

 そりゃ、そうだ。10年以上昔の記憶。それも、幼い子供の頃の記憶を覚えている方が少ない。


 10年以上に渡る俺の初恋は、こうしてアッサリと終わりを告げた。


 言葉にすればこれだけだが、実際にはそう綺麗には終わらなかった。

 

 アイツの言葉に取り乱して走り出す。《家まで残り48メートル》


 近所の犬に吠えられて驚き倒れて、手足を擦り剥く。《残り32メートル》


 慌てて立ち上がるが、足が縺れて再び倒れそうになり、しがみ付いたのは近所の爺様の盆栽棚。落とした盆栽が頭にぶつかって割れた。《30メートル》


 後ろから焦った声で呼び掛けるアイツを無視して走る。十字路で、飛び出して来た猫を避けようとして顔面から転んで鼻血が出る。

 猫野郎には何故かキッチリと頭を踏まれて行った。《24メートル》


 家の前まで来たら、ウチのアホ犬が突進して来て仰向けに倒れる。後頭部強打。頭がグラグラする。《残り2メートル》


 嬉ションしやがったアホ犬を引きずって庭に繋ぐ。裾が冷たい。

 とりあえず家に入って靴を脱ごうとしたら、靴紐が絡んでコケて顔面強打。トドメに、玄関先に飾っていた俺が懸賞で貰ったガン◯ムが俺に向かって倒れて来た。鋭く尖った先端が俺の目に突き刺さって……《0メートル》——


 うん、しっかり覚えてる。つか、思い出した。思い出しちゃった……!

 何というDie(ダイ)ジェスト。死に至った経緯が酷すぎる。

 思わず座り込んで顔面を両手で覆った。顔が熱い。うっかり乙女座りになってたけど、そんな事にすら気が回らない位には混乱していた。


 だってさ! 仕方無いじゃん! 初恋だったんだよ!!


「さて、思い出したかね?」

「……はぃ」

「斯くして君はその一生を終えた訳だが、ここで君に『新しい生』と言うチャンスを与えよう」

「……はい?」

「元の世界で既に絶滅した筈の生物、あるいは絶滅しかけてる生物へと生まれ変わるのと、異世界に生まれ変わるの。どちらを希望するかね?」

「……はいぃ!?」


 え、ちょっと待って。意味が分からない。いや、言葉の意味としては分かるけど。

 元の世界に生まれ変わるのだと人外オンリーですか……!?


「うむ。そうなるな」

「心を読まないで下さい」

「儂にとっては容易い事だ」

「ではこちらからの質問にも答えられますか?」

「勿論だとも」


 えーと、上手く言葉で纏められるか分からないな。……心が読めるなら、それっぽい感じでも大丈夫かな?


 まずは、元の世界で人間に生まれ変われないのかという事。それと、選択肢の意味? というか、基準?? 絶滅済みか、絶滅しかけオンリーな選択肢の理由……かな。

 それから、『異世界』について詳しく。

 ……とりあえずはこんなところかな。


「早く言いなさい」

「心読めよ!?」

「読むなと言っただろう」

「あ、はい……」


 守ってくれてたんですね。律儀な人だ。


「否、神である」

「読むのかよ!?」

「読めと言っただろう」

「…………」


 ま、真面目な神様……なのかな? もう良いや。口で言おう。


「えーと、まず元の世界で生まれ変わる場合は、絶滅済みの生物か、絶滅しかけの生物という選択肢しか無いんですか?」

「その通りだ」

「人間には?」

「不可である」

「……その理由は?」

「人は増え過ぎた。故に減らす必要がある、それだけだ。逆に、死した魂を過去に絶えた生物へと生まれ変わらせるのは、他種を復活させる為のせめてもの足掻きだ」


 理解はしたけど、納得出来るものじゃ無いなぁ……。絶滅種って、俺ドードーにでもなっちゃうの?


「魂の循環は必須、それ故の処置だ。つい先日にも、儂が転生させた元絶滅種が発見された筈だが」

「え?」

「妙に甲高い声で話す、魚の被り物をした青年だ。彼が発見したと、報道されたと思ったが?」

「あ、さか◯クンですか……。という事は、あのクニマスって元人間!?」

「うむ」


 驚きの事実。そして理解出来た事実。

 この神様、本気で俺を人外に生まれ変わらせる気だ……!


「して、どちらにする? 君の希望通りにドードーでも可能だが」

「あ、えっと……質問にもう少し答えて欲しいです。それとドードー希望じゃ無いんでやめて下さい。お願いします。……異世界について詳しくお願いします」


 俺的にはこっちが本命。もし、俺の考えている通りなら……!


「地球における『ファンタジー』と称される世界だ。剣と魔法と言えば理解出来るか?」


 よっしゃ! 予想通り……!!


「異世界への転生を望むならポイント制となる」

「……え゛?」

「異世界への転生を望むならポイント制となる」


 いや、聞き取れなかった訳じゃないので、繰り返さなくて大丈夫です。


「そうか」

「…………」


 中途半端に俺が考えた事に返事返してくるな、この神様。ちょっと天然なんだろうか。


「神は自然発生するものだ」


 そういう意味じゃないです、神様。とりあえず返答は結構です。


「…………」


 なんでションボリしてんだ、おい。


「えーと、では、ポイント制について詳しくお願いします」

「うむ、異世界への転生を希望した場合は、君には100ポイントが与えられる。そのポイントの中で、スキルや種族を選び転生するという流れになる。なお、異世界への転生を選ぶなら人間に生まれ直す事も可能だ」


 おぉぉぉぉ!? それっぽくなってきたじゃないか!!


「ドラゴンにもなれますか!?」

「1億ポイント必要だ」

「…………」


 ま、まぁドラゴンだしな。そう簡単にはなれる筈も無い、と。


「ではフェンリルとか」

「9972万ポイント必要だな」

「微妙な誤差ぇ……」


 強くて格好良いモンスターは不可、と思った方が良さそうだな。


「人間に転生するなら?」

「ランダムなら100ポイント。王侯貴族なら5000〜1万ポイント。終身奴隷なら50ポイント、犯罪奴隷なら1ポイント」


 ランダムという言葉から地雷臭がプンプンするぜぇ……っ!

 それに必要ポイント低くても、奴隷スタートなんて夢も希望も無いじゃないですか。ヤダー!

 ってか、選択肢……!!


「農民は?」

「300ポイント」

「足りねぇ……!」

「ちなみに、ランダムガチャには王侯貴族への転生の可能性もある」

「それならガチャで……「確率は0.001パーセントだが」とりあえず、ガチャの確率の一覧はありますか?」


 スッと目の前に透明な板が浮かんだ。恐る恐る覗き込めば『ランダムガチャ確率一覧表』と1番上に書かれている。

 そこから下へと視線をずらせば……。


・王侯貴族・・・0.001パーセント

・大商人 ・・・0.031パーセント

・商人  ・・・0.602パーセント

・漁師  ・・・3.194パーセント


 などなど、様々な職業が載っている。

 だけど、問題は下の方だ。


・農民  ・・・6.677パーセント

・雑用奴隷・・・14.162パーセント

・農民奴隷・・・32.881パーセント

・性奴隷 ・・・8.154パーセント

・終身奴隷・・・7.339パーセント

・犯罪奴隷・・・4.730パーセント


 何で! 奴隷が! 60パーセント以上占めてるんダヨォォォ!?


「ガチャとは、数多の絶望の中に微かな希望が入っているものだ」

「絶望が多過ぎるわっ!?」

「…………」


 だから、ションボリするなっつーの! ションボリしたいのはこっちだ……!!


 ションボリしたままの神様の指が、さり気なく一覧表の書かれた板の1番下を指す。小さな文字で何か書かれているようだ。

 なになに……?


『上記の確率は計算上の確率で、実際の確率とは異なる場合がございますのでご注意下さい』

『上記確率一覧はその家に生まれる可能性を示しており、本人の努力次第で成り上がる事も可能です』


 最初のはいらねぇ。課金ガチャの注意書きか。

 大事なのは2番目の方か。成り上がる事が可能なら、奴隷でもワンチャンあるのか? 

 で、次の項目は?


『王侯貴族から奴隷に落ちる場合もございますのでご注意下さい』


 だから、絶望感を増やすなヨォォォ!?


「ガチャの引き直しとかは……」

「一発勝負となる」

「…………」

「ちなみに、現在は魔物強化世紀間というのをやっていてな」


 お? 最初に見た看板の奴か? ってか、期間長いな!?


「魔物への転生を希望する場合のみ、種族に応じてボーナスポイントが発生する」

「例えば!?」

「君が最初に希望したドラゴンへの転生には、ボーナスが1億ポイント加算される」

「うぉぉぉおおお!?」


 それが本当なら、俺もドラゴンに転生する事が……!


「もっとも、ドラゴンへの転生を選ぶ時点で1億ポイント所持している必要があるが。つまり、使った分がキャッシュバックされるという事だな」


 俺の希望は消えた。持ち上げて落とすとは、やるな。この神。……だから、褒めて無いんで胸を反らすな。だからと言ってしょげるな。

 100ポイントしか持っていない俺は、ドラゴンにはなれないという事か……!


「うむ」

「……じゃあ、今のポイントで転生可能な魔物一覧表はありますか?」


 ポヒュンと間の抜けた音と共に先程の透明な板が消え、新しく別の板が浮かんで来た。


「スキル一覧表……?」

「すまぬ。間違えた」


 おい。


 またもポヒュンと消えて、新しく出直した板には『1〜100ポイントまでの転生可能魔物一覧表』とある。今度は間違えなかったようだ。

 ……そういえば。


「初期ポイントを増やすにはどうすれば良いんですか?」

「善行を積むか、偉業を成し遂げるか、だ」

「ちなみに、1億ポイント貯めるには?」

「地球温暖化の解消、それと砂漠の緑地化」

「無理っすわ」

「あるいは、殺処分待ちの猫を1000匹以上引き取り、病気の治療や避妊処理など然るべき処置を行った後、新たな飼い主へと引き渡し、引き取った全ての猫に寿命を全うさせるというものもある」

「そっちも無理っすわ。てか、何故猫」

「猫こそ至高。君の場合は細かい善行もあったが、細かい悪行もあったので差し引いた結果、基準値となった」


 圧倒的猫派か!? 俺は犬派だ!

 それに、悪行って……万引きとかか!? そんな事してないぞ!?


「隣家の娘の着替えを覗いたり、その姿をスマホのカメラに収めt「全力で土下座しますんでそれ以上は勘弁して下さい!!」……ふむ」


 何で残念そうなんだ……!

 いや、待て。待てよ? 俺は死んだ、という事は……スマホやパソコンの中身は……っ!?


「ポイント消費でデータ消去も請け負っている」


 この野郎ぉぉぉおお!? だが……っ! 今はこの猫派野郎に頼むしか……っ!?


「……パソコンのデータ消去には150ポイント、スマホのデータも消去するなら50ポイント追加となる」


 足りねぇ……っ!?

 いや、待て。何か神様の態度に違和感が……まさか、拗ねてる!?


 僅かに尖らされた唇。微かに細められた目。軽く視線を俺から背けたその姿は、『拗ねてる』という表現がピタリと当てはまるものだった。つか、アイツの拗ねた姿そのものだ。


 犬派なのがそんなに不満か!? 確かに猫も可愛いとは思うけど……犬のアホっぽさも可愛いだろう!? 表情だって豊かだし、何時間も掛けた犬用手作りケーキを15秒で完食しやがったり、飛び付いて嬉ションしやがったり……! あれ、何か腹立って来た。

 

 とはいえ、拗ねさせたままでは俺の尊厳が終わる……っ!


「すみませんでした!! 全力で謝りますんで、どうか機嫌を治して頂けないでしょうか!?」

「……パソコンとスマホ、両方のデータ消去で50ポイントだ」

「あざっす!! ……ちなみに、本的なモノも消せたり……?」

「物質消去には相応のエネルギーが必要となる。君の場合はポイントが足らん」

「参考までに、どの位必要なんでしょうか?」

「1000ポイント必要となる」


 お、おぅ……まさかの20倍か……。本に関しては諦めるしかなさそうだな。確か致命的なものは無かった筈、だ。そう、その筈……。いや、確か……幼馴染ものが何冊かあったような……。


「君の所持している本のリストが必要なら2ポイントだ」

「やめろ下さい」

「とりあえず、君の所持していたパソコン、及びスマホの該当データの消去は完了した。君の所持ポイントから差し引いて、残りは50ポイントとなる」


 神様がリストに手をかざすと、フォンという音と共にリストが書き換わった。『1〜100まで』だったのが『1〜50まで』に変化している。選択肢もだいぶ減ったようだ。


「スキルも取りたいならば、その分も考えて選ぶように。とはいえキャッシュバックもあるから、その分をスキルに回すのも良いだろう」

「あ、はい。ありがとうございます」


 何気に良い人……じゃなくて、神様。世話焼きタイプか。

 ただし、見た目イケメンなのでラブに発展する事は無い。自称は『儂』だけど。

 こういう時って女神様か、如何にもな爺神様じゃないの?


「転生に対応する神は対象者と同性となる。それと、老体には癇癪持ちの者や、注意力散漫な者も多いからな。性別に関しては、以前に神に不埒な振る舞いをした者も居たのでな」

「うわぁ……」

「ちなみに、その者は問答無用でセミに転生させられた」

「うわぁ……」


 確か、セミってアレだろ? 何年も土の中に居て、地上に出たら1週間位しか生きられないってやつだろ? キッツいわぁ……。


「人間の思考と、前世の記憶を持った状態でな」


 我々の業界でも拷問ですね。


「セミへの転生を50回分繰り返す処置もな」


 拷問どころのレベルじゃ無いですね。



 ***



 その後も色々と雑談を交えつつ、説明を受けながらあーでもない、こーでもないと考える。

 それにしても、この神様がかなり気の長い人……じゃなくて、神様で助かった。これでタイムリミットなんてあったら、色々と大惨事にしかならなかっただろう。ちょっとした質問にも答えてくれるし、神様には感謝しかない。


「それ程でも無い」


 ……まぁ、何はともあれ。俺が選択した種族はこれだ。


『スライム』


 うん、まぁお約束だよな? ゴブリンとか、オークとかもあったんだけど、中途半端に人型っていうのもちょっとアレだし。何より臭そうだから。それにゴブリンは30ポイント、オークは45ポイント必要だったし。

 それに、オークもゴブリンも害虫並みに嫌われてるから発見即殲滅(サーチ&デストロイ)推奨らしい。俺らの知る生態だったという訳で……あとは言わせんな、恥ずかしい。

 ついでに言っておくと、キャッシュバックボーナスはゴブリンが500ポイントで、オークは200ポイントだった。


 それと比べると、スライムが10ポイント消費で転生可能ってのは大きかった。

 何と言っても、スライムを選んだ場合のボーナスポイントが大きかった。なんと脅威の5000ポイント!貴族にだってなれるんだぜ!? もっとも、既にスライム選択後なんで今さら不可能なんだけど。残り40ポイント。それプラス、キャッシュバックで5000ポイントで《合計5040ポイント》。


 それからスキルの中から200ポイントで『人間性』というスキルをまず取得した。

 これは前世の人格を保ったまま人として思考出来るというスキル。これが無いと、本能のみで動く普通のスライムになる。《残り4840ポイント》


 それと死後の恥をさらさないように、俺の所持している本を処分して貰った。《残り3840ポイント》

 すでに恥を晒してるって? 言ってくれるな……。


 スライムは死にやすいとの事なので、死ににくくする為のスキル《窮地》。スキルの効果は死にかけた時に生存率を大幅に上げてくれるものらしい。これが450ポイントで《残り3390ポイント》。


 それから回復魔法。流石に消費が大きかったが、生き延びるには必須と思えたので800ポイント使った《残り2590ポイント》。

 それと攻撃魔法も欲しかったんだけど、水魔法以外は相性が悪いらしくて取得不可だった。その代わりと言っては何だが、相性の良い水魔法を20ポイントで取得出来た《残り2570ポイント》。


 ちなみに、通常ならば魔法に必要なポイントは100ポイントらしい。

 回復魔法は? と聞いたが、あれは例外で基本的には誰でも取得出来るものなのだそうだ。ただし、本人の性格や育ち方諸々が障害となってなかなか取得しようとしても出来ないものらしい。よってポイントでの取得がお勧め。とは言え、有用なスキル程必要ポイントが高くなるのは必然だ。


 それから1070ポイント分を消費して、いくつかのスキルを取得。残り1500ポイントある訳だが、残りポイントに関しては秘策があった。


「神様のお勧めスキルセットがあれば教えて下さい!」


 何故、最初からこれをしなかったのか? それにはとある理由がある。過去の人間がお勧めスキルセットを携えて転生したのだが、それを使いこなす事もせずに『神の使途』を自称して利己的に振る舞った結果、見事罪人として奴隷落ちに。神の立場を(おとし)める事にもなりかねなかったとして、以降は基本的には神は転生者のスキル選びには関与しないものとなっている。

 とはいえ、裏道というか裏技的なモノがあるようで……。


「こちらにサインを」


 条件をクリアしてから神様との契約を交わせば、お勧めスキルを選んで貰えるんだな。これが《残り0ポイント》。


「……確かに。それで、どういったスキルが欲しいのだ?」

「……の……テ…………るようなスキルをお願いします」

「……すまぬが、もう一度ハッキリと頼む」

「女の子にモテモテになったり、キャーキャー言われて追い掛けられるようなスキルをお願いします!」


 だって仕方無いじゃん! 俺振られたばっかりだもん! 初恋木っ端微塵にブレイクしたばっかりだもん!

 色欲全開だって良いじゃない! 人間だもの!!


「……そう、か。君は、振られた、ばかり……だった、な……」


 プルプル震えながら耐えんでも、笑ってくれてえぇんやで。


「ふぐっ……! ……ゴホン、女人からモテモテになりたい。という事で良いのだな?」

「キャーキャー言われて追い掛けられるもお願いします。部活で大活躍してる先輩的な感じで」

「君の兄君か」

「トラウマ抉らないで!?」

「む……すまぬ。それでは、契約に基づき君のスキルを儂が選ぼう。君は儂の決定に異を唱えず、また後からの変更は不可である。異論は無いか?」

「ありません!」


 これが、俺の選択……! 地雷スキルを選ぶ事無く、最適のものを選んでくれる筈……!

 良くある『魅了』とかって最大の地雷らしいし。何かね、『魅了』を使えば使う程、倫理観とかがダダ下がりして行くんだってさ。結果、魅了した相手も巻き込んで破滅するしか無くなるんだって。怖いよねー。


 スライムがモテモテって何言ってんの? とか言われるかもしれないけど、進化を重ねていけば『人化』も出来るようになるらしいし。そうすれば、神様の選んでくれるスキルが効果を発揮する筈!

 だから、それまでは生き残る事を最優先にスキルを選んでみた。

 この選択が、吉と出るか凶と出るか……!?


「スキルの付与は完了した。この後すぐに転生手続きとなる為、スキルの確認は転生後となる。それでは、良き生を」

「ありがとうございました!」


 今度こそ、異世界で可愛い彼女作ってやるんだからな――――!!



 ***



 そう、思っていた日もありました。


 転生初日、草むらで目を覚ました俺は自分のステータスを確認してみた。愕然とした。

 ……神様、確かにモテモテでキャーキャー言われながら追い掛けられるだろうけど、意味が、ちょっとかなり、違うんです……!


「ねぇ!? そっちにいた!?」

「いない!! もう! 絶対に見つけてやるんだから……!」


 既に俺はキャーキャー言われながら追い掛けられています。今眼下にいる2人は俺を追い掛けている女の子の一部です。美人です。ここ重要。美人で巨乳です。

 ちなみに、俺を追い掛けているのはこの2人だけではありません。少なくとも、俺が仮の生息地と定めたこの森には、あと30人程の美女・美少女がいる。その全員が俺目当ての冒険者達だ。


 眼下の2人がいなくなってからコッソリと木から下りる。溜め息を吐きたくても、スライムの体はフワッサァと風に靡くだけだ。


 そう。おかしいだろう? スライムなら『プルルン』になる筈だ。しかし、俺の外見に『プルルン』と称する場所は存在しない。

 全身どこもかしこも『フワッサァ』だ。『モッフモフ』の『フワッフワ』だ。どうしてこうなったのか。それは、神様の選んでくれたスキルが原因である。


 まず『モフモフ』というスキル。これは読んで字の如く、全身モフモフになるというスキルだ。しかもスキルレベルは最大になっている。その結果、柔らかさと弾力性、肌当たりの良さと考え得る限り最高の毛質を備える事となった。化粧用のブラシとして。

 熊○ブラシの最高級品なんて目じゃ無いですよ。それ以上のブラシが出来上がります。『俺の毛を使えば』な。もちろん、洗顔用としてもばっちりだ。なんだこの万能性。


 そして『美容液生成』。これもまたその名の通り、最高級の美容液を体内で生成出来ます。

 俺から出た美容液1滴を水に薄めるだけであっという間に高品質化粧水の出来上がり。

 水とオイルを適量、それに俺の美容液を1滴混ぜれば最高品質乳液に。

 また、美容液を直接顔に塗れば、美白からシミ、皺、肌トラブルと何でもござれな超高性能美容液に! ついでに、過去の傷痕とかも綺麗に消せます。なんだこの万能性。

 ぶっちゃけると、この美容液って俺の排泄物なんだけど……。う○こ顔に塗りたくって喜ぶ女性ェ……。いや、まぁ前世でもウグイスの糞って洗顔料だったりしたっけ?


 それと『コラーゲン生成』。俺の体液そのものが上質なコラーゲンです。一口飲めば、体の中から全身プルプルツヤツヤになれます。でも、体液って俺にとっては血なんだけど。

 俺の生き血を喜んで飲む女性とか、怖すぎる。


 最後に『超音波振動』という謎スキル。

 なんじゃそら? と思うだろ? 俺も思った。んで、スキル詳細を見てみたら脱力。

 俺に効果があるというものでは無く、女性に効果があるというもので……ここまで来たら分かるだろう? 美容液をより肌に浸透させる為のスキルだよ!!


 神様、確かに俺は女の子にモテモテで、キャーキャー言われて追い掛けられたいって言ったよ?

 確かに今女の子にモテモテです。キャーキャー言われてます。

 でもさ……!!


「見つけたわ!」

「今度こそ捕まえるんだからぁ!!」


 ゲッ!? 見つかった!?

 その2人組みの歓喜の声が聞こえたのか、周囲からワラワラと女性陣が集まって来た。

 毛を(なび)かせながら必死に逃げる俺の背後には、十数人の女性冒険者達が一斉に追い掛けて来る。正面には回り込もうとする女性冒険者数人。慌てて方向転換して、捕まらないように必死に飛び跳ねる。


「スライムちゃん待ってぇ~!!」

「美味しいものいっぱい食べさせてあげるから!! だからお願い! 私に捕まって!!」

「何よ! あの子はあたしが連れて帰るんだから!!」

「ふざけないでよ!? あんたのところなんか、あの子がかわいそうでしょ!?」


 キャーキャー、ワーワー、時々ギャーギャー。

 必死に逃げる俺を遠巻きに見つめる男性冒険者達。その目は女性に追い掛けられて羨ましがっているというより、気の毒なものを見ているような……。


 こんなの絶対おかしいよ……!!

 神様にスキル選択を託す裏技


 ・所持ポイントが5000ポイント以上ある事(キャッシュバック含む)

 ・その内の3分の2以上を自身の選択したスキルで消費する事(死後のアフターサービス含む)

 ・上記2点を満たして後、契約を交わして神に全てを委ねる事


   

 しかし、神様は天然だった。


 女の子=モフモフが好き という思い込みが前提。ならば、と『モフモフ』スキルMAX。

 美容関係も好きよな、と『美容液生成』MAX。

 たしか、コラーゲンも大事だった筈! と『コラーゲン生成』MAX。

 そういえば、美顔器なるものも使用するのでは? と『超音波振動』MAX。


 善意で1500ポイントをフルに使い切りました。

 本神は「渾身の出来だった……」とご満悦。


 後日、スライム転生した彼は女神様からも狙われる事になるかもしれない。モテモテデスヨ?

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― 新着の感想 ―
[一言]  そのモフモフスライム欲しい!(笑)  ……失礼しました。  タイトルから「お約束の転生モノかー」と思いつつ、どこか他とは違うモノを感じて読み始めたら、大当たりでした。  あえて美容関係に…
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