【1】
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「ねぇ、人間が死んだら、魂って何処に行くのかなぁ?」
「は?オマエ何訳の分からない事言ってるんだ?」
「だって、気にならない?今感じている思いとか、感情って、死んだら何処に行っちゃうんだろう…。」
「おぉ〜〜〜いみんなぁ〜。ヒロシがまた変な事言い出したぞぉ〜。」
「ちょっ!一馬ぁ!ちゃんと話を聞くって約束だったろぉ!」
こんな風に、それは些細な疑問から全ては始まった。
死んだら、魂は何処へ行くのか…。
俺は、別にこういう事を考える事が変だとは思わない。
空想とか妄想とか、何かを考えるという事が好きだからだ。
だけど、クラスの皆、特に今目の前に居る一ノ瀬一馬<いちのせかずま>は、いつも俺の話を小馬鹿にした様な態度で聞きやがる。
彼とは小学校からの幼馴染で、高校三年の今では、もう8年の付き合いだった。
何の因果か分からないが、彼とはずっと同じクラスなのだ。
俺が思いついた疑問や、空想論とか色々な話を聞いてくれる唯一の存在。
一馬はどう思っているか分からないが、俺にとっては大事な親友だった。
だから彼には、どれだけからかわれようとも、許すことができるのだ。
「ほほぉ〜。また田所ハカセの妄想劇場が始まったのかい?」
そう言いながら顔をニヤつかせ、同じクラスの本庄卓<ほんじょうすぐる>がやってきた。
はっきり言って、俺は本庄が大嫌いだ。
一馬のからかいに便乗して、面白がって更に輪をかけて俺を馬鹿にする。
なにが田処ハカセだ。
俺の名前は田所博士<たどころひろし>なのに、本庄は田処ハカセと呼ぶ。
本庄にそう呼ばれる度、俺は悔しくてたまらなくなる。
だけど俺には、口に出して言い返すことができない。
本庄は生徒会会長で、成績は常に学年トップ。
そんな輩を相手に口論しても、勝てる筈は無い。
俺は負け戦が嫌いなだけ。
小さい男だと思われても、弱虫だって思われても構わない。
勝てないと分かっていて立ち向かうのは、勇気なんかじゃない。自分の力量をわきまえない、愚かな行為だと俺は思うんだ。
「おい、本庄。ヒロシのことをハカセって呼ぶのやめろよな。今度言ったらシッペだぞ。」
と、一馬は笑いながら言う。
「おぉ〜ごめんごめん。じゃぁ今度からはキョウジュにするわ〜。」
本庄は悪びれた様子も見せずに、ニヤニヤしながらそう返した。
これがいつものパターンだ。
昼飯を食べ終わり、俺が雑誌を読んでいると一馬が来て、
「なぁ、今日こそからかったりしないから、面白い話聞かせてくれよ」
「この前も同じこと言って、結局皆に言いふらしたじゃないか。」
「あの時はあの時、今は今ってな。これは男の約束だ。たのむ、俺を楽しませてくれ。」
そう言う時の一馬の目が、俺は好きだった。
まるで、子供が親に絵本を読んでとお願いするような無邪気な目。
いつもその目に騙されて、俺は自分の考えている話をしてしまうんだ。
そして、結局は皆に報告して、話を聞きつけた本庄がやって来る。
毎日、同じことの繰り返し。
俺に学習能力が無いわけじゃない。
一馬が俺の所へ来る度に、「今日こそは言わないぞ!」と心に誓う。
だけど一馬のあの目を見てしまうと、ついつい話してしまうんだ。
「それで、今日の議題は何?」
本庄は聞いた。
だけど俺は、絶対に口を開かない。
コイツとは真面目に話したって、結局、最後には話の腰を折られてしまうのが目に見えているからだ。
「頭が良い」のと、「頭が柔らかい」というのでは大きく違う。
本庄は頭が良い。それは大いに認めよう。
だけど、決して頭が柔らかいとは思えない。
彼は自分の意見が全て正しいと思い込み、それを他人に押し付ける。
周りの意見を受け入れなれないのは、頭が固い証拠だ。
「常識」とか「普通」とか言う曖昧なものに捕らわれて、そこから少しでも外れたモノを全て卑下する。
人には、それぞれに考え方があって当たり前。
例えそれが「常識」や「普通」から脱線していても、肯定はしないまでも「そういう考えもあるのか」と受け入れるのが、頭の柔らかい人間だと俺は思っている。
俺の考えが、正しいかどうかなんて分からない。だけど、この考えを否定する権利なんて、誰も持ってはいないんだ。
「今日は、死んだら魂は何処へ行くのぉ?だってさ。」
一馬が、似ても居ない俺の真似を交えて言った。
さすがに少し腹が立ったが、とりあえずは無視をする。
「へぇ〜。死んだら魂は何処へ行くか。なるほどなぁ…。」
本庄は、俺が読んでいた雑誌の表紙を見つめ、深く考えこんだ。
それは、いつものパターンではなかった。
いつもの調子で行くと、
「何だよそれ。そんなもんは消えてなくなるに決まってるだろう。」
と、決め付けで即答しそうなもんだが、今は深く悩んでいるのだ。
少し不気味な光景だった。
やがて、昼休みの終わりを告げる呼び鈴が鳴った。
それでも本庄は深く考え込んだままだった。
明らかに、いつもの彼とは様子が違う。
そして、何かひらめいたかのように、急に俺の顔を見て、
「あのさ、今日の放課後、時間あるか?」
「え?俺?」
「そうだよ。お前しか居ないだろう。」
「放課後なら、毎日時間あるけど?」
「そうか。…じゃぁ今日の放課後、家に来ないか?」
「本庄の家に?何で?」
「何でも何も、その課題について、もう少し話がしたいんだ。もし一人が嫌なら一ノ瀬も一緒でいいぞ。」
そう言って、本庄は一馬の方を見た。
急に話を振られ、驚きの表情で一馬は答えた。
「俺もかい!……まぁ、いいや。どうせ俺も暇だから付き合うわ。」
「じゃぁ決まりな!田所もオッケーだろ?」
「う…うん。」
俺は答えに躊躇った。
別に、本庄の家に行くのが、嫌だったからではない。
本庄が、俺の事を普通に苗字で呼んだ事に、違和感を感じたからだ。
何か嫌な予感がする。
いつもと違う事が起こる時は、大抵が悪い事が起こる前触れなのだ。
この前も、俺の母親が柄にも無く、ばっちりと化粧を決め込んで出掛けたと思ったら、交通事故に遭い全治一ヶ月の大怪我をした。
その前は俺が中学2年の春、生まれて始めて異性に告白され上機嫌で家に帰ると、愛犬のロンが死んでいたのだ。
他にも、上げたらキリが無い。
俺が嫌な思い出にふけていると、やがて五時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「じゃっ、そういうことでヨロシクな。」
そう言って、本庄はさっさと行ってしまった。
「なんか…おかしい事になったけど、まぁいっか。アイツの家、金持ちらしいし、美味いモンに在りつけるかも。じゃぁな。」
そういい残し、一馬も自分の席へと戻っていく。
やがて国語の担当、大原先生が教室に入ってきて、いつものように授業が始まった。
だけど、授業の内容など全く頭に入ってこない。
初めて本庄の家に行く緊張と、いつもと違う事が起きた不安が俺の心を掻き乱す。
頭の中は放課後の事でいっぱいになった。
そして、嫌な予感を覚えつつ、放課後はやって来たのだ。
【続く】