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古沢学、19歳。魔王の旦那になりました。
やあ、俺だ。主人公だ。分かってるって?知ってるよ。
何故、ド頭からタイトルに則したような自己紹介をしたかって?知らねぇよ、作者に聞いてくれ。
俺が魔王の旦那になってから、早二週間。
何となく、魔界の生活にも慣れてきた。最初はどうなることかと、不安な部分もあったが、住めば都というやつか、快適に暮らせている。
最初は城のデカさや、天涯付きのベッドとか、やたら豪華な食事とか、慣れない部分も多かった。だが何故か俺の部屋にジョジ〇が全巻揃っていたことで全てオーライになった。何とも現金というか安い男だ、俺。
さて、ここいらで魔界なる俺が骨を埋めることになった世界の説明をしておこう。
魔界と聞くと、毒々しい色の空とか、バリアフリー?なにそれ美味しいの?というような刺々しい建物とか、冒涜的な姿をした異形の民とか想像する方もいるだろう。俺もそう思った。
だが、現実は澄んだ青い空に、石造りの綺麗な街並み。人と亜人種?たちが仲良く暮らす平和な世界だった。魔界要素ゼロパーセントの場所だった。
ちなみに魔界の首都、魔王城があるココは魔都と言われているそうで、『魔界で住みたい街ランキング』で1500年連続ナンバーワンだそうだ。ここは吉祥寺か?てか1500年前から魔界は何してんの?
そんな世界に来てしまった俺だが、何とか楽しくやっている。
……え?前置きが長い?まぁまぁ、そんなに慌てるなよ。これには理由があるんだ。いや、だってよぉ……
「すぴー☆」
「……」
嫁さんに抱きつかれて動けねぇんだよ……。
あ……ありのまま、さっき起こった事を話すぜ!朝起きたら、嫁さんに……だいしゅきホールドされていた……な……何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった……。
「ま……魔王サマ?」
「すぴー」
「ま……まおーサマー?」
「むぅ……えへへぇ……」
まずい……非常にまずい状況になってしまった。元来、極端に朝が苦手な俺だが、寝ぼけてる脳を叩き起こして、この状況を脱する方法を考える。何故、考えなきゃならないかって?こんな状況、あの人に見られたら……
ガチャ
「あ……」
「おはようございます。魔王様featuring学様a.k.a旦那様」
「あんた、俺のこと嫌いなの?そろそろ泣くよ?ねぇ、泣くからね?」
「Don't cry」
「……」
もはや何も言うまい。
*****
爺やに嫌われてるんじゃないか、と思う今日この頃。
毎朝、そうだ。
魔王様with俺、魔王様on俺、魔王様in the 俺。もう最後に至っては訳が分からない。
いい人なのだが、俺の呼び方と朝と夜の挨拶だけ、どうにかならないものか。昨晩なんて
「そのデケェ大砲はお飾りか?ブラザー」
はて?この年寄りは何処で俺の標準的サイズの――自分ではそう思っている――某を見たというのだろう。俺はお前のブラザーじゃないし、キャラがブレすぎていると言えなかった。何故かって?嫁さんが
「旦那さんは、何処に大砲を持ってるのだ?」
「魔王様、それは……ゴニョゴニョ」
「えっ……あっ……あぅぅ……」
「おい、爺や……屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……」
その後、七人がかりで押さえられて、HA☆NA☆SEと夜中に怒鳴り散らしていた。
え?デジャヴ?んなアホな。
*****
そんなこんなで、朝食。
百人ぐらい寝そべれそうなテーブルにミスマッチ極まりない和食が並べられていく。
うちの嫁さんは朝は和食派らしい。
魔界で何故和食かという疑問を持つ方もいるだろう。何でも、嫁さんのお母さん――お義母さんの代も、お義母さんのお母さん――お祖母さんの代も和食はあったらしい。おそらく、俺みたいに召喚された旦那が伝えたのだろう。細かいことを気にしないのが俺のポリシーでありたい。うん、ありたいだけなんだ。
「旦那さん、美味しいな!!」
「口に物入れたまま喋っちゃいけません」
白飯に焼き魚、豆腐の味噌汁。ザ・和食。向こうにいた時はトーストにジャムを塗って済ませていたが、やはり和食は落ち着く。
「旦那さん!!旦那さん!!」
「お弁当くっけてますよ」
「あぅぅ……」
まさか、魔界で和食を食べるとは思わなかったが悪くない。やはり日本人なら……
「旦那さん!!旦那さん!!」
「……何ですか?」
俺の嫁さんは、アホの子である。パッと見たらラノベのタイトルのようだが、紛れもない事実である。毎朝、ほっぺにお弁当くっけたり、何も無い所で転んだりと、魔王要素皆無だ。皆無なのだが……
「幸せだな!!」
「……あぁ、俺も幸せだ」
俺はこの女の子が大好きだ。