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佐藤博士の異常な愛情

未来からのメール

作者: さとちゃん

「やったぞ!! ついにタイムマシーンを開発したぞ!!」

「本当ですか!!凄いじゃないですか!!博士。」

嬉しそうな博士の第一声に、私は思わず駆け寄って。

手を取り、一緒になってスキップする。


凄い、凄いわ!!

やっぱり博士は天才よ!!


えっ、状況が解らない?

私の名前は「(まもる) あさな」

ピチピチの22歳よ!!

えっ、某グラビアアイドルと同じ名前だって??

あんな乳デカイだけの頭悪そうなタレントと一緒にしないで!

これでも某国立大学を主席で卒業した才女なんですから!


で、今手を握っているこの冴えない男性が、

私の就職先である「佐藤研究所」の責任者の佐藤博士。

ぼさぽさの頭にしわくちゃの白衣と、

確かに身なりは冴えないけど、

これでも世界が(やがて)認める(はずの)天才なんだから!!

ただ、あんまりにも威厳が無いので、

私も影ではこっそり「さとちゃん」と呼んでいるのだった。


佐藤研究所は今のところ博士一人と助手の私一人という弱小研究所だ。

えっ、大学を主席で卒業したわりに就職先がショボいって?

仕方ないでしょ、某小○方の事件以来、

リケジョの就職はとっても厳しいんだから!!


「で、これが本当にタイムマシーンなんですか??」

博士が指さしたその先には、一台の扇風機が置かれていた。

普通の扇風機と異なるのは、羽を覆うカバーが無い事と、

その羽根が真っ白な金属で出来ていることくらいだ。


「ああ、見ててくれ、今スイッチを入れる。」


博士はその扇風機についている「強」のスイッチをONにした。

羽根は最初ゆっくり回り始め、やがて段々スピードを上げていき、

しばらくすると目にも止まらない速さになった。

どう考えても市販の扇風機に出せる速さを超えている。


そうこうしながら眺めているうちに、

やがて羽根の前に10円玉くらいの直径の黒い穴が出現した。


「なんです??これ??」


私は思わずその穴に手を伸ばそうとすると、

いきなり博士に手を払われた。


「危ない!!!」


「えっえっ、なんで??なんで??」

事情が分からない私は思わず狼狽えてしまう。


「この穴は小さいけど、実はブラックホールなんだ。

 うっかりその淵に触ったら最後、

 体が吸い込まれて事象の地平で原子の塵となってしまうよ。」


「はっ、早く!!それを言ってくださいよ!!

 うっかり死ぬところだったじゃないですか!!」


しばらく胸を撫でながら動悸が治まるのを待つ。

やがて、羽の前に出現した穴は500円玉くらいの

大きさになった。


「これ、一体どんな理論なんですか??」


「この扇風機の羽根に使わている材料はイリジウムという金属なんだが、

 この金属を光速の99.99%で回転させると、

 アインシュタインの相対性理論によるローレンツ変換を

 起こし、その結果のマクスウェル方程式を解くことで…」


「博士!!読者は説明なんて求めていません!!」


「つまりこの羽根が凄い速さでビューーーンと回ることで。

 ドーーーーンとブラックホールが出来るわけだ。」


「博士!!最初の説明と落差が大きすぎます。

 で、これのどこがタイムマシーンなんですか??」


「ああ、私の理論が確かなら、このブラックホールは

 10年後の未来に繋がっているんだ。」

ただ、しばらくブラックホールを眺めていたが、

どうも500円玉の大きさから変化する兆しが見えない。


「博士、タイムマシーンはせめて人が通れる大きさにならないと

 なんの意味も無いですよ。」


「私の理論上直径10mのイリジウムの羽根が作れれば、

 人ひとりが通り抜ける直径1mのブラックホールが完成する。」


「なんで最初っからその大きさにしないんですか??」


「無茶を言わないでくれ。イリジウムはレアメタルなんで

 無茶苦茶高価なんだ。

 この大きさの羽根を作るのだって500万円も掛かったんだぞ!!」


「私の年収以上じゃないですか!!」


「おかげで僕はこの数か月、チキンラーメンしか口にしていない。」


「死にますよ博士!!!」


「しかも直径10mのイリジウムの羽根を作るのには

 1000億円掛かるんだ!!」


「国家プロジェクト並みじゃないですか!!」


「さらに地球中のイリジウムを集めても

 直径10mの羽根は作れない!!」


「意味ねーよ!!!」


私は段々疑いの目で博士を見始めた。

「で、本当にこのブラックホールは

 10年後の未来に繋がっているんですか?」


「本当だ。さとちゃん嘘つかない。

 ただ証明できる方法も無いんだが・・・」


「証明できないなら、だれも真実と認めてくれませんよ。

 それに方法は有るじゃないですか。

 例えばこの穴にラジオのアンテナを突っ込んで、

 穴向こうの電波を受信するとか・・・・」


「きっ、君は天才だ!! (まもる)くん !!」


「そうでしょうか??」

博士には悪いけど、誰でも真っ先に頭に浮かぶ方法の様な気がする。


「よし、ちょっと待ってろ・・ラジオ、ラジオっと・・・・」

博士はちょっとだけ奥に引っ込んだかと思うと、

やがてどこからともなく旧式のラジオを引っ張り出して来た。


アンテナを伸ばして、その先をブラックホールに突っ込むと、

ツマミを適当に回して、様々な局に合わせる。


ラジオから流れてくるのは、

聞いたことの無い歌謡曲だったり、

どこかで起こった事件や事故のニュースだったりしたが、

それが未来であるという決定的な証拠には至らない。


ただ・・・適当に回したツマミがやがて天気予報を受信した。

「以上、2026年6月XX日の、関西のお天気でした。」


「「バンザーーーーーーイ」」

私と博士は声をそろえて万歳三唱を唱えた。


「実験は成功だ!!(まもる)君」


「よかったですね。博士!!」

よほど嬉しかったのか、博士は少し涙ぐんでいた。


「よし、これで後は何とか宝くじの当選番号を

 ラジオ受信すれば大金持ちだ

 ・・・って、ダメだ(まもる)君」


「な、なにがダメなんですか!!」


「今から宝くじの当選番号を知ったとしても、

 当選は10年後だ!!

 もうチキンラーメンは2袋しか残ってないんだ!!」


「アホですか!!博士は!!

 何も宝くじにこだわらなくても、

 インターネットが受信ができれば

 10年前の株価情報を調べるとか、

 いくらでも儲ける方法はあるでしょう!!」


「きっ、君は天才だ!! (まもる) 君!!」


「そうでしょうか??」

博士には悪いけど、これも誰でも真っ先に

頭に浮かぶ方法の様な気がする。


「よし、ちょっと待ってろ・・パソコンパソコン・・・・」

博士はちょっとだけ向こうの部屋に引っ込んだかと思うと、

奥でごそごそと物を漁り始めた。

今度は少し時間が掛かりそうだ・・・・よし、今の内に。


私はスマホにアンテナを取り付けると、

アンテナの先をブラックホールに突っ込んで、

一通のメールを送信した。


そう、私の知りたかったことは、

10年後の株価でも社会情勢でもなく、

もっとありふれた他愛無い事だったのだ。


やがて返ってきたメールを見て、

私は仰天せざる得なかった。

まっ、まさかそんな事が!!


「よし、見つかったぞこれでバッチしだ!!」

いつの間にか博士が目の前に現れたので、

私は飛び上がらんばかりに驚いた。


慌ててスマフォを隠すが、博士は気付いた風もなく

アンテナ付きのノートPCを抱えていた。

どうやらそのPCで未来のインターネットを受信する気らしい。


ただ・・・・・


「あっ!!!!」


博士はノートPCをブラックホールに近づける瞬間、

手を滑らして扇風機の軸にPCをぶつけてしまった。

元々、頭でっかちで安定を欠いていた扇風機は、

そのまま手前に倒れ込んでブラックホールにぶつかった。


「いっ!!!!」


ブラックホールはそのまま自分の何倍もある扇風機を吸い込んで、

原子の塵にしてしまった。


「うっ!!!」


動揺した博士はどんくさくも

そのブラックホールにノートPCをぶつけて、

それもまた原子の塵にしてしまった。


「えっ!!!」


発生装置である扇風機を無くしたブラックホールは、

やがて小さくなりそのまま消えてしまった。


そして後には何も残らなかった、

扇風機もノートPCもそしてブラックホールも・・・


博士はしばらく魂を失った人の様に立ち竦んでいたかと思うとやがて…

「ビエエエエエエエエエエエン(泣)」

と、声を上げて泣き始めた。

ガキかあんたは!!!


「タ、タ、タイムマシーンが無くなった!!

 500万円もしたのに(泣)」


「元気出してください。

 また作れば良いじゃないですか。

 設計図は有りますよね。」

私は「このクズが!!」と罵りたい気持ちを抑えて

博士を励ました。


「設計図、さっきのPCの中。

 バックアップ取ってない(泣)」


「でも、一回作ったんなら、また出来ますよね。

 作り方覚えてますよね。」

私は「このゴミが!!」と罵りたい気持ちを抑えて

博士を励ました。


「作り方、忘れた」


「このカスが!!」

ああっ、本音がついウッカリ!!


「ビエエエエエエエエエエエン

 チキンラーメンはもう食べたくないよーー。」


「はいはい、今日は残念会をしましょう。

 私が手料理をごちそうしますわ、。

 博士は確かビーフシチューが好物でしたよね。」


「えっ、えっ、なんで知ってるの?

 言ったこと無いと思ってたけど。」


「さあ、なんででしょう。」

私はちょっと意味深な微笑みを返したが、

博士は気付かなかったようで、

しきりに頭に??を浮かべて考え込んでいた。


もう、こんなニブくて頼りない人が、

私の将来の旦那様だなんて。


研究所の冷蔵庫は空っぽだったので、

結局、私は自腹でビーフシチューの食材を

買いに行くことにした。


スーパーに向かう道中、

私はさっきの送受信メールを何度も読み返しながら、

十年後の未来に想いを馳せたのだった。



題名:博士へ

Form:あさな

To:さとちゃん

今何してますか?



題名:Re:博士へ

Form:さとちゃん

To:あさな

>今何してますか?


ただいま学会出席中。

19時には帰ります。

晩ご飯は好物のビーフシチューが良いです。


最愛の妻、あさなへ



おしまい

この作品では一部実在の人物名が使用されていますが、

作品自体はあくまでもフィクションであり、

ストーリー展開も含め決して作者の願望を反映したものでは

ありません・・・・いやマジで(笑)

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