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青春部のスキー旅行と性転換薬の魅力

あらすじにも書きましたが、これが初投稿になります。

この作品は当初pixivの方に投稿しました。pixivの方には、この作品の続き(2014年9月現在、第8話まであります。その中にはR-18のものもあります)やこれ以外の作品も投稿しております。

また、作者はツイッターもやっております。この投稿にご意見ご感想ある方は、そのツイッターの方でも歓迎致します(「小説家になろう」内にもコメント機能等があるのでしょうか?よくわからないのですが)。

どうぞよろしくお願い致します。

温泉・スキー・TSF 



「スキーに行きたい!」

最初にこう提案したのは、北鎌倉雅(きたかまくら みやび)だった。


部活動と縁の無い学校、苦疎魔死滅校。そこに存在する唯一の非公式部活動、青春部。

間もなく訪れる春休みを前にして、月に2回の会合の場にて出された彼女の提案。これを聞いたメンバー達は、様々な反応を示した。


「スキー?懐かしいなぁ、中学の頃行ったっけ…」

目を細めながら呟くのは、杉本光太郎(すぎもと こうたろう)

「良いねぇ、みやび。私もどこか、旅行とかしてみたいなって思ってた」

隣に座る提案者に賛同するのは、一行の中で最も小柄な四条蒔音(しじょう まきね)

「冬の山かぁ…寒そうでなんかなぁ」

苦笑を浮かべて両肘をテーブルに付く村泉隆司(むらいずみ たかし)

「真由美、どう思うよ?」

隣に座る長髪の少女に、タカシは訪ねた。


「私は…」

少しの間を置いて、本橋真由美(もとはし まゆみ)が発言する。

「面白いと思いますよ。私も昔、スキーに行った事はあるし…そうだ、せっかくだし

何泊かするのも良いんじゃないですか?温泉旅館とかに」

「温泉旅館!?」

これを聞いて、タカシが思わず立ち上がった。

「賛成賛成!大丈夫、オレもスキーは出来るし!スキーか、楽しみだなー!」


「ちょ、おま」

「タカシったら…温泉って聞いていやらしい事考えたんじゃない?」

「だろうね…間違いなく」

光太郎、みやび、真由美が半ば呆れた様子で微笑む。


「でもホント、スキー旅行なんて面白そうだよね」

そんな中、蒔音が言う。

「でしょでしょ?」

父親の圧力で男子生徒として通う様強要されている学校内であるため、みやびは男子制服を纏っていた。男子としての身体に合わない、ゆとりが現れすぎている服の襟によって、その顔は若干隠されてしまっていた。

それでも、ニコリと笑う目は全員の視界に十分入った。


こうして、全員の意見が一致した。



決定してからは、トントン拍子に詳細が定まっていった。

目的地は、電車を乗り継ぎ3時間程の片田舎。

有名ではないが無名でもないスキー場で、かつて一度行った事のある真由美曰く、季節の割に空く事もあるという。

スキー用具のレンタルも、不足なく取る事が出来る見込みが立った。

さらに話し合っていくうちに、この旅行は3泊4日の大旅行となる事が決定した。宿泊場所は、スキー場近くの温泉付き民宿。朝食と夕食が付き、各部屋にトイレと冷蔵庫とテレビが完備。

「そして、風呂は男女別の大浴場。しかも雪見露天!」

「混浴じゃないのが残念だけどな」

「もー、光太郎もいやらしい~」

「でもここ、安くて穴場みたいですよ」


肝心の予算についても、一行は比較的容易に達成する事が出来た。5人が貯めていたお年玉

等の金銭を中心にしつつも、各家庭から快く旅費が支給された。

「私も、おじいちゃんの年金で上手く行けそう」

「良かったなぁ、みやびも」


「ふふ…私の事も、忘れないで貰いたいな」

5人に協力する同志にして青春部顧問の世界史教員、井野勝(いの まさる)先生がニヤリと笑う。

一行は、先生が副業で運営しているインターネット通信販売の事業に、アルバイト兼インターンとして協力していた。公務員の副業は総じて規制されている事が多かったものの、連携している大企業は省官庁と通じている事もあり、問題が浮上する気配は無かった。さらにその事業はなかなかに好調だった。

「どうだ?職業への勉強にもなるし、お金にもなる。知っての通りここの卒業生だった私は出来なかったけどな…若い内に、こうした勉強を積んでおく事も有意義だ。…さあ、今月の給料だ!」


「「ありがとうございまーす!!!!!」」

これによって、予算は余りある程になった。



そして、1か月程が経った。

「いよいよだねっ!」

早朝、未だ眠っている父親を起こさないように家を出たみやびは、珍しい私服姿であった。

「私、女子用の私服ってあんまり持ってなくてさー。どうかなこれ?似合う?」

「ああ。良いんじゃん?」

若干投げやりな発言である感も否めない返答だったが、それを補う笑顔。少々の眠気を冷気で忘れようと努めているのは、エナメルバッグを肩にかける光太郎。

「いよいよですねぇ。この日のために、頑張って宿題も片付けたし」

スーツケースを引く真由美の眼は、他のメンバーに負けじと輝いている。

「しっかし寒いなぁ…皆、防寒対策は大丈夫かー?」

タカシが両腕を擦りながら、全体に向けて呼びかけた。

「もちろんっ。さ、そろそろ電車の時間だよ」

蒔音の頷きと共に、全員の視線が駅の電光案内に向けられた。


「ん、そろそろホームに行った方が良いかな?」

「ですね」

みやびの呟きに、真由美が同調した。


「んじゃ」

タカシがポケットに手を入れた。手が再び外気に触れた時、その手には学生割引の効いた切符が

握られていた。

「行くか」


5人は改札に向けて歩き、改札のゲートを切符を通して通り超えた。

そしてホームへの通路を、荷物の重い事にも応えず進んでいった。



途中で2,3度の乗り換えがあるとは言え、一行は長い時間を電車に揺られて過ごさなければならなかった。そしてそれは、何もせずにじっと待つにはあまりに長い時間だった。


故に、一行は対策をしていた。

「タカシ、例のゲームでもません?」

「おー。やるか」

真由美の提案を受けたタカシは、バッグから携帯用ゲーム機を取り出す。


「お前ら好きだよなぁ。…そういや、みやびお前、スキーって出来るのか?」

光太郎は隣で吊革に掴まっているみやびに尋ねた。

「うん、小学生の時に行った事あるよ。…そもそも、滑れなかったら提案するのも言いにくいよ」

「えっと…私、幼稚園の時くらいしか行った事ないから、上手く滑れないかも…」

それを聞いて申し訳なさそうに顔を赤らめる蒔音が口を開いた。

「あれ、そうなん?ま、オレらで何とか教えるよ」

「大丈夫、運動苦手でもけっこう覚えられるもんだよ。…懐かしいなぁ。小学校の頃、私と仲良かった女の子が運動苦手でさぁ。その子も滑れるようになって、喜んでたっけ」

「ありがとう、2人とも」

「大丈夫だよ蒔音。…今、あの子何してるのかな…」

目を細めて車窓の外を見るみやびの思い出話と共に、ゲームに没頭する2人を除いての雑談が始まった。


電車は円滑に進行し、大きな駅を越えるに連れて乗客が増えていった。

「っと…ちょっと、そっちに詰めてもらえるか?」

「わかったー。人、増えてきたね」

乗った当初は余裕のあった空間も、次第に失われていった。


「よし、大ダメージ!」

「あうっ…追撃前に、援護お願いです」

「ほい来た」

ゲームに熱中する2人も、身体と荷物を器用に車内壁際に寄せていく。


駅に止まるたびに、数人の乗客が降りて行った。しかし一方で、降りる以上の数の乗客が新たに車内の混雑の中に身を投じてきた。

それを何度も繰り返しながらも、電車はほんの数秒の誤差のみでドアを閉め、次の駅へ発車する。


それを何度繰り返しただろう?

光太郎は、壁に寄りかかりながらそんな事を思った。みやびと蒔音としていた会話がふと途切れ、電車の広告に目を向けていた。そうすると光太郎は、暖房の温かさも受けて眠気を覚え始めた。

「あっ、今チャンスタイムが」

「…ああくっそ、反撃された」

真由美とタカシの小声が、ぼんやりと遠くの声に聞こえてくる…。


そんな時だった。

「んっ…」

「どうしたのみやび?」

「…来たみたい」

「どした?」

みやびが突然顔をしかめた。すぐさま反応した蒔音に続いて、光太郎も意識を巻き起こす。


「…光太郎」

みやびが囁いた。

「ちょっと待ってて…このままで」

「?ああ…」

光太郎は不思議に思いながらも、一応の生返事を返した。


光太郎とは別の角度からみやびの様子を見る蒔音は、僅かの後その真相を察した。

蒔音はハッとなった。しかし、声を出せなかった。


みやびのお尻を、スカートの上から撫でている男の手が伸びていた。



「悪ぃ、やられたな…」

「ドンマイ、タカシ。…?」

真由美がこちらを向いた事に、みやびは気付いた。


「(来たみたい)」

みやびは心の中で真由美に伝えた。声には出さなかった。

それでも、みやびは真由美にその事が伝わったように感じた。

「あ、あー…タカシ?これって中断出来ましたっけ…」

「いやムリだな。どした?もう少しだろうけど」

真由美の表情に、困惑の色が見え出した。


そのうち、お尻に張り付いていた手が、みやびの骨盤を伝って太ももへ向かっていった。

「みやび、ちょっと」

蒔音が困惑した声で囁く。


しかし、みやびはフッと微笑んだ。

微笑みながら、首を軽く横に振った。

「!?」

蒔音はその反応を、信じられないという目で見た。


「…あー、いや、大丈夫、です」

一方真由美は、共にゲームをしているタカシに向かってこう話した。

「そうか?」

「…ええ」

真由美はみやびをもう一度一瞥し、ゲームへ視線を戻した。


みやびは、真由美が自分の考えを察したと解釈した。


『間もなく、途爛洲(とらんす)市~。途爛洲市駅です。お降りのお客様は、お忘れ物の無いようご注意下さい』


車内放送が聞こえた。しかしそれで、手の動きが何らの影響を示す事は無かった。

男の手が、みやびのスカートをくぐってその奥へ進んでいく。黒いタイツの質感を味わっているかのように、ゆっくりとした歩みの手だった。


みやびの脚の付け根へと到達した。蒔音が意を決し、声を上げようとスウッと息を吸う。

みやびは目を閉じ、若干眉をひそめた。しかし、それ以上の事はしなかった。


次の瞬間。


「!?…!!?」

蒔音は見た。自分たちの背後に立っていた中年の男が、混雑した車内で後ろへ飛び上がった。

その男の表情は、信じられないという言葉をそのまま顔で表現したような、驚愕と困惑に覆われていた。

「痛って…」

「何だよオッサン」

「へ、いや、あれ…あの感触…そんな」

他の乗客とぶつかり、厳しい視線を向けられる男。自分の片手を見、ピクピクと動かす。

男の混乱は、乗客達にも、そしてみやび達にもはっきりと見て取れた。


(プシュー)


いつのまにか減速し始めていた電車が停車し、音と共にドアが開いた。

「…失礼っ!」

男は酷く慌てた様子で、開いたドアから一目散に下車していった。




「…何だ、あのオッサン?」

タカシがゲーム機から目を逸らして呟いた中、他の乗客達も首をかしげながら下車していった。

未だ朝早い時間だった。これまでの駅よりも大人数が多く降りて行ったのは、この駅の付近に大きな企業があるからだろうとみやびは思った。

「ただの痴漢だよ。私のスカートの中に手入れて来た」

みやびは一行にサラリと言いながら、空いた座席に腰掛けた。


「はぁ?」

「痴漢…?何で周りに言わないんだよ?」

タカシと光太郎が顔をしかめた。

「いやだってさぁ…」


みやびの返事を聞く前に、光太郎はみやびに詰め寄った。

「怖かったから、とかか?だったらさっき、オレが反応した時に何で言わないんだよ?」

「こ、光太郎、声…ボリューム」

蒔音が恐々と光太郎をなだめる。


必死の様相の光太郎の顔を、みやびは一瞬驚いたように見つめた。

しかしその後、みやびは笑みを浮かべ始めた。

「おい…!」

「そりゃ、良い気分じゃなかったけどさあ」

光太郎が再度口を開く。しかしそれを、みやびは手を上げて制した。

上げた手を口の横に移したみやびは、そのまま上半身を光太郎の方に伸ばす。反射的に耳を近づける光太郎と共に、ゲーム機の電源を落としたタカシもまた光太郎に習った。


「試してみたかったんだ、ネットで見た痴漢対策。パンツの中にピンポン玉を2つ入れとくっていうやつ」


「みやび、あれ本気でやってみたんだ…」

真由美が呆れたように微笑みながら言った。

「もちろんだよー、変態なオトコ共に思い知らせてやるんだから。未だに、女子はああいう事されて何もしないでいるとか思ってるのかな、ああいう奴はさぁ」

話すみやびの表情は、得意気な会心の笑みに光っていた。


「パンツの中にピンポン玉…?」

「痴漢にわざとそれを触らせて…」

呆気にとられた様子のタカシと光太郎を見ながら、みやびはフフーンと息を吐いた。


「思った通り効果抜群、だったみたいだね」



「す…すごいなぁみやび。今度、私もやってみようかな?」

空席が目立つようにすらなった電車内。一行の全員が腰をかけ始めた中、蒔音が尊敬の眼差しを向けると共にみやびへ言った。

しかし蒔音は、そう言いつつもさらに言葉を続けた。

「でも…痴漢対策だったら、男の子になって乗れば大丈夫なんじゃない?」


「いやいやいや」

みやびは首を振って否定した。

「それじゃ、女子としての反撃が出来ないじゃん。女の子狙いのオトコにショック受けさせるのが

面白いんだからさぁ。…あー、でも蒔音はオトコになっても女子の服着てられるからなぁ」

「ああそっか、雅直(まさなお)は女子の服着れないんだっけね」

「うん。オトコになると私、ちょっとばかり身体が大きくなるからね」


「…あー」

ここで、真由美が反応し始めた。

「いや私実は、男の子になると痴漢とか面白いって思えてきちゃって…。あ、いや、してみたいって言うんじゃなくて。お芝居と分かってるものだったら、そういうお芝居で、こう…」

「あー…なるほどなるほど、大丈夫。言わんとしている事はわかる」

みやびは頷きながら、真由美の肩を優しく叩いた。


「………」

「………」

タカシと光太郎は、目を丸くしたまま沈黙していた。

「どうしたの、2人とも?」

蒔音が気付き、尋ねた。

「私たちがこんな事考えてるって知って、びっくりしちゃった?」

みやびもまた、蒔音の質問に続いた。


2人は互いに状況を共有出来ていた。蒔音の疑問への答えは、なかなか言葉にまとめ切れないものだった。

しかしみやびの質問については、はっきりと返答出来た。

「いや…そういうのは、前からわかってたから大丈夫」

「しっかしまあ…この旅行、改めてスゴい事になりそうだなぁ」

2人の回答は、ゆっくりと話したこの言葉に集約するのが限界だった。

しかし2人は、この言葉で十分だと思った。


みやびがニヤリと笑った。蒔音と真由美もみやびに続く。



タカシはハンドバッグを取り出した。

手に持っていたゲーム機をその中にしまい、代わりに別のものを取り出したタカシは、手の内の物を一行に見せようとする。

一行の全員が、見たものを見て様々な思惑を巡らせた。



それは、無数の錠剤の入った小瓶だった。



※ ※ ※



「あ~…」

一行は電車に揺られていた。

「まだ着かないの…?」

光太郎が退屈この上無い様子で息を吐き、蒔音が呆れ顔で呟いた。


地元駅から電車に乗り、乗り替えを経て何時間経ったか。一行の誰もが、それがわからなくなっていた。

「外の雰囲気からして、もうちょいだと思うんだけど…」

みやびもまた、呆れ顔で窓から外を眺める。


乗り継いだ電車はその内装からして古く、乗った当初から少なかった乗客数は、途中の少し大きな駅で大多数が下車し、今や全くと言って良い程見当たらなくなっていた。

車内に乗っているのは、苦疎魔死滅校の5人の生徒達だけであるように思われた。


「ゲームの本体の充電バッテリーも切れちゃったし…」

「さっきから全然やれてねーよ…」

真由美とタカシも、座席に座ってぐったりしていた。

そこへ光太郎が、力無く笑みを浮かべながら話しかけた。

「さっき初めて倒せた奴がどうたらって、騒いでたばっかなのにな」

「あー…さっき、初めてあの馬鹿でかい蛇を倒せたのは良いけどさ」

「ここまで長いと、疲れちゃいます…」

「長いって、ゲームのプレイ時間がか?それとも移動時間がか?」

「「どっちも」」


「それにさっきゲームでハイテンションになってたのも、もう1時間も前ですよ…」

「流石に、興奮も冷めてきたっての」

タカシと真由美のゲーム談話に、光太郎が苦笑しながら頷いた。

その時、車内に放送が流れた。


『次はー、作田雪原(さくたせつげん)。お出口は、左側です。

The next stop is"sakuta-setsugen". The doors on the left side will open.』


5人の顔が同時にほころんだ。

「…おい、タカシ」

「ああ、聞いたよ」

「やっとだぁ…!やっと次で降りれる」

「何かもう、着くって事より降りれるって事が嬉しいよね」

「あーみやび、それわかる…」

口々に話しながら、一行は暫く前から座る事が出来ていた座席から立ち上がった。


到着までもう数分かかる事は一行の全員がわかっていたが、少なくない荷物を持って円滑に下車する事、そして数時間に及んだ長い電車での移動時間を早く終わらせたい気持ちから、一行は早くも下車の準備を進めていた。


地元から遥か遠方に来たという実感を、車窓から見える流れ行くのどかな田舎の景色から

感じ取りながら、数分が経った。


『間もなく、作田雪原。お出口は、左側です』

放送と共に、電車の進みが遅くなっている事がはっきりとわかった。

一行は無意識の内に、近くにある吊革やバーに手をかけた。


そして…電車が静止し、次の瞬間。


≪ピンポーン ピンポーン≫


一行の目前にある進行方向左側のドアが開き、寒気と少々の粉雪と、それでいて感じる

弱い日差しが車内にも入り込んだ。


「「着いた!!」」

「改札口はどこだ?」

「あ、あっちみたい。さ…行きましょう!」

「長かった…!」

一行は下車し、遠くに見えた改札口を目指しプラットホームを歩き始めた。


寒気と新鮮さの混じった雪山特有の空気を感じ、一行は疲れが忘れ去られていくのを感じていた。



改札口をくぐると、事前に調べた通りの駅の構造が広がっていた。

さして複雑でもない構造の駅をくぐり抜けると、外にはいくつかのバス停留所が並んでいた。

「また移動なんだよね…」

「まぁ蒔音、バスの移動はほんの10分位だよ」

「ここまで来たんだからな、それ位何て事はないさ」

「ああ。だが…ええと、どのバス停だ?」

光太郎は表示を見ながら、少しの間考えた。


乗るべきバスを探す事に、一行は数分の時間を要した。

それでも乗り遅れる事なく、第一の目的地である温泉宿に向けて進むバスに乗車すると、目的地までの移動時間はあっという間に感じられた。


バスを降りると、温泉宿は目前にあった。

「おおぅ、ここが」

「凄…こんなトコ、私らだけで泊まって良いのかなぁ?」

「何言ってんの!行こ行こ、こんな機会滅多に無いよっ!」

事前に調べた時に見た写真の通り、和の雰囲気を多分に感じさせる落ち着いた旅館だった。

一行は元気よく入館した。


「いらっしゃいませ」

旅館の気風に見事にマッチした女将と思われる中年の女性が、お辞儀をして一行を出迎える。

バス停から入口までの短い間でも笑ったり雑談したりしていた一行は、この歓迎から落ち着き

を取り戻し、女将を始めとした従業員達に会釈をした。

「予約していた、北鎌倉です」

旅館との渉外を担当する事に決まっていた、みやびが一歩前に出た。


「はい、承っております。さぁさこちらに…こちらにサインをお願いします」

女将は微笑んでみやびを案内し、みやびはそれについて受付に向かった。


「他の方々はこちらへ…お部屋へご案内致します」

女将とは別の女性従業員が、愛想良く笑みを浮かべながら残る4人を案内した。

同時に、従業員達が荷台を二台押して来た。

「それと、お荷物お持ちいたします」

「こちらに置いて頂けますか?」


「ああ、ありがとうございます」

「じゃあ…お願いします」

タカシがにこやかに挨拶し、蒔音が荷物を荷台に乗せて従業員にお辞儀した。

「あらあら…こちらこそ、ありがとうございます」

従業員達は一行の態度に関心した様に微笑み、荷台を押しながら部屋への先導を始めた。



「ご宿泊は二部屋に三泊四日、近隣の作田スキー場への送迎と、露天風呂をご利用という事でよろしいでしょうか?」

「はい」

「畏まりました。ではこちら、お客様の人数分のバス利用券とお食事券、露天風呂使用パスポートになります」

「ありがとうございます。それと…」

みやびは女将から受け取った各種の券をしまうと共に、新たに持参した紙を取り出した。


「これを。私の叔父から」

みやびは紙を渡した。

「…ああ」

女将を目を細めて紙に書かれていた文を読むと、満面の笑みと共に頷いた。

「はい、確かに承りました。犬野埼(けんのざき)様からも、伺っております」

「はい。…叔父が、こちらの方によろしくと申していました」

「いえ、とんでもない。犬野埼様には、こちらこそお世話になっております」

女将はみやびに深くお辞儀した。

「ああいや、そんな…私達はただの高校生ですし。叔父とも会った事はありますが、そんなに長く話した事も無くて…その紙も、手紙で送られてきたんです」


「そうでしたか…。ではお部屋でのお過ごし方について、確かに承知致しました。従業員全員に、しかと伝達致します。…どうぞ、ごゆるりとおくつろぎ下さい」

「あはは…お願いします」

みやびは微笑した。


みやびはその後、事前に知らされていた各種の料金をあらかじめ参加者達から徴収していたお金によって支払った。

普段みやびが見る事がまず無い額の金額が、女将に向けて手渡された。

女将は慣れた手さばきで金額を数え、請求した金額よりも多い事を確かめると、お金をしまうと共にお釣の用意に取り掛かった。


「…はい、ではお釣も確かに。それでは、お部屋へご案内致します」

「よろしくお願いします!」

みやびは改めて笑みと共に礼を言い、お辞儀をしてカウンターから出てきた女将に続き、既に友人達が向かっている部屋に向けて歩き始めた。


みやびの心は、普段になく晴れ晴れとしていた。




一行は旅館の従業員に案内され、男子二人用と女子三人用とに用意された二部屋に分かれて、そこにそれぞれの荷物を置いた。

その後少々のトイレ休憩を経て、早速歩いて行ける距離にある近隣のスキー場へ行く準備を開始した。その際、一行はレンタル申請していたスキーウェアは既に宿に届けられており、スキー板やストック等の道具もスキー場内の施設に送られてあるとの情報の確認も、忘れる事無く行っていた。

「おーい女子達ー」

「準備出来たかー?」

一足早く準備を完了させたタカシと光太郎が、女子達三人が居る部屋の扉をノックした。

「もうちょいー」

するとすぐさま、内部からの返答があった。


みやび・真由美・蒔音の三人が部屋から準備を整えて出てきたのは、その返答の通りそれから

僅か数分の後の事であった。

「お待たせー」

「二人とも、忘れ物無い?」

「んにゃ、こっちは大丈夫だ。そっちも良いか?気付いて戻れるのも今の内だぜ」

「ええ、大丈夫。しっかり確認したもの。みやびと蒔音も」

「「準備完了っ!」」


みやびは部屋の鍵を閉めた後、振り返って一同の顔を見た。

「んじゃもう、早速行こっか!」

みやびと同様、全員の顔が楽しみにしていたスキーを目前に嬉々としていた。


※  ※  ※


数時間後。


宿屋の地下一階のコンクリートに覆われた床の地面に、雪の粉を振り撒きながら入る5人の姿があった。

「戻ってきた~」

光太郎が、暖房の効いた室内の快適さに顔をほころばせた。

「いやー、楽しかったね!」

「久しぶりだったから、身体が覚えてないもんですねぇ…」

蒔音が笑い、真由美が微笑みながら額の汗を拭った。

「まぁそれはしょうがねぇよ…てかあれだな、楽しかったけど、疲れたな」

「まあねえ、学校で体育とかあれば良いのにね…でも私ら若いんだし、まだ疲れるのは早いでしょ」

「ああ。ゲームばっかやってるのも考え物だな…」

ふぅと息をついたタカシも、みやびの同調と意見を聞き、眼を細めながら笑みを浮かべた。


「それじゃあ…」

真由美がスキーウェアに付いた雪を払いながら、思い思いに腰掛けに座ったり壁に寄りかかったりしている一同に向けて口を開いた。

「板やストックはもう置いて来たし、そこのハンガーにウェアの上着だけ引っ掛けて戻りましょうか。

ここのハンガーに掛けておけば、宿の人が明日までに手入れしてくれるん…だよね、みやび」

「うん。寒いし汗かいたし、早くお風呂入ろうよ」

「そうだな」

みやびが頷き、タカシが同意した。

「風呂…いよいよだな」


一同はそれぞれ、宿の部屋から着てきた、分厚いスキーウェアを脱いでハンガーに掛けた。


そしてその後、五人は部屋を出てエレベーターに乗った。



「なぁ、風呂って何階だっけ?」

エレベーターの密室の中で、光太郎が尋ねた。

「えっとね…」

「三階って書いてある…うん、男湯は三階みたい」

「女湯は?」

「それも同じ階って書いてあります。確か、ちょっとした談話スペースを挟んだすぐ近くにあった筈」

僅かに返答を詰まらせたみやびの代わりに返答したのは、真由美であった。

「了解」

光太郎が応えた数秒後、エレベーターは四階にて扉を開いた。


「俺らは右だったな。じゃあな、後でなー」

一行はエレベーターを降りると、男子二人は右の廊下に、女子三人は左の廊下に進み始めた。

「うん!また後でねー」

「二人とも、準備は間違えないでー」

蒔音が笑顔で手を振り、真由美は意味あり気にニヤリと笑った。

「おー!」

光太郎もまた、歩きながら振り返って笑みを返した。


如何に若いと言えども、五人は共に久しぶりのスキーによって、ここまで少なからず体力を消耗していた。

しかしそれであっても、五人全員がこの後に予定している展開を思い、廊下を歩きながらもニヤニヤとした笑みを浮かべる事を堪える事が出来なかった。



みやびは扉の前で鍵を取り出し、三人で泊まる部屋を開けた。

「ふー、戻って来たぁ」

みやびはそう言いながら、すぐ後から入ってくる二人の友人の為に扉が開いたままである様支え続けた。

「あぁみやび、どうも」

「サンキュー」

真由美と蒔音は、みやびに続いて入室した。



その扉をくぐりながら、蒔音が言った。

「今すぐ飲んだ方が良いんだよね?」


「ええ。まぁそんなに急ぐ必要も無いけど、飲んでから着替えとか準備して、それで三階まで行くと…丁度良い身体になってるんじゃない?」

「そうだね。中途半端な身体だと、他のお客さんと会った時にヤバいからね」

真由美とみやびが答える。

答えながら、三人は部屋の片隅に置いた各自の荷物を漁っていた。


「…あった」

まず最初に探していた物を取り出したのは、蒔音であった。

風呂に入ろうと考えていた三人であったが、蒔音の、そして続いて残る二人も手にしたものは、着替えやタオルといったものではなかった。


それはいくつかの錠剤が入った、掌よりも小さい小瓶だった。

三人はさっそく瓶の蓋を捻って開け、白い錠剤をもう一方の掌に落とした。


「みやび、蒔音…何粒飲む?」

「んー…寝るまでで良いよね?」

「そうだね。スキーウェアのサイズは女子用のしか無いし」

「あんたは女子用でも着れるんじゃない?」

「そうかもだけど、ああいうのはちょっとでもサイズにズレがあったら危ないよー」

「ふふっ…冗談だよ」

みやびは笑いながら、瓶に貼られているラベルを見た。


『男体化変身薬 (株)TSFセンター・製薬部』


『服用された錠剤数に応じた時間、貴方の性別を男性に変化させます』


『男性として出生された方の服用はお止め下さい(女体化変身薬の効果の即時解除をお求めの際は、別途緊急解除薬をご服用下さい)』


『効果時間…一錠:一時間 二錠:二時間 三錠:三時間 四錠:四時間 五錠:六時間 六錠:八時間 七錠:十時間 八錠:十二時間 九錠:十八時間 十錠:二十四時間』


『副作用対策は万全を期しておりますが、一回の変身に十錠を超えての服用はお止め下さい』


みやびは一瞥しただけで、これまで何度と目にして来たこれらの表記を改めて熟読はしなかった。

「寝るまでで良いなら…五錠って所じゃない?」

そう二人に提案しながら、みやびは掌に出ている錠剤の数を数え、不足していた錠剤をさらに瓶から出した。

「五錠ね。了解」

真由美が言った。その声は、これから起こる事への期待による上ずりを孕んでいた。



「あっそうだ、お水お水」

同じく錠剤を掌に出していた蒔音が、おもむろに立ち上がって冷蔵庫に向かって歩き始めた。

「あーそうだった、お水と一緒に飲まないと」

真由美もそう言い、部屋に備え付けられていたコップを三つ取り出すべく移動した。

「?」

みやびは二人の移動を見て、もう一度小瓶のラベルを一瞥した。


『本薬は十分な量の水と一緒に服用して下さい。喉に張り付き、効果が現れない可能性があります』


「忘れてた…唾で飲んじゃうつもりだった」

みやびは苦笑し、水の用意をしてくれている友人二人に習った。


「みやびはいつも、『皮』を着て男の子になるからねぇ」

「そういえばみやび、『皮』は持って来て…」

「ううん、あれは家に置いて来てる。かさばるからさ…あんたら二人程は飲んでないけど、この旅行中はこの薬で、ね」

「なるほど」

真由美は頷いた。

みやびは傍若無人な性格の父親によって、少年の『皮』を着せられての日常を余儀なくされていた。

真由美はその強要から解放される事でもあるこの旅行が、みやびにとって重大な価値を持っている事を改めて感じ取った。


「じゃーもう、早速五錠飲もっか」

そう言って、早速薬を口に放り込んだのは蒔音であった。

「え、ちょ」

「早っ」

「えー?だって楽しみじゃん?変身して温泉入るなんてさ!」

錠剤を口に含んだ状態でそう言った後すぐに、蒔音は手にしていたコップに入っている冷水を口に流し込んだ。

そして全てを飲み込むと、フーッと満足気な息をついてコップを置いた。

「さーて、お風呂の準備しよっかな。二人とも、先に準備してるよー」

両腕を高く上げて伸びをしながら、蒔音は再度荷物の置かれた場所に戻った。そして今度は、タオルや石鹸等を取り出す準備を始めた。


「…うんまぁ、私らも飲もっか」

蒔音に視線を奪われていたみやびは、少々の後真由美に向き直って提案した。

真由美はその声で意識を自分の傍に戻すと、置いていたコップを取ってみやびに笑みを向けて返答した。

「そうね」

真由美はみやびと同時に、五錠あると数えた掌の上にある錠剤を口に放り込んだ。

そしてコップの縁に口を付け、中の水と共に口の中の錠剤を摂取した。

「…あー」

みやびは水を飲み干すと、唇を人差し指で軽く拭った。


真由美は錠剤を飲み込むのが苦手であるのか、暫く水を錠剤と共に口の中に留めていた。

「…ふぅ」

それでも、みやびがコップを片付けた時にはそれらを飲み干し、仕草で以て自分のコップもついでに片付けて欲しいとみやびに依頼した。

「それにしても」

みやびが快くコップを受け取った事へ感謝の意味の笑みを見せた後、真由美は思いついた事を呟いた。

「副作用が無いから安心だけど、こういう…薬を大量に飲むって、危ない人みたいな印象が湧くのは

私だけ?」

「いや…それ、わかる」

コップを片付け終えて立ち上がったみやびが、真由美の肩を軽く叩いた。

「薬って持ち運びしやすいけど、人によっちゃ抵抗あるよね。それに気持ち的な事に抵抗は無くても、飲む時につっかかっちゃうっていう人も居るし」

真由美はみやびが後半に話した事を、自分の様に錠剤を呑み込む事が苦手という人を指していると感じた。

「かと言って『皮』とかは持ち運び不便だし…何かこう、気兼ねなくやりやすい変身って無いかなぁ」

「帰ったら、井野先生や皆と相談かな…」

考慮するべき事項が思い付き、この事を記憶しておこうと思った。

しかし3人は、この事を記憶し続ける事が出来る自信に不安を覚えていた。

思わず苦笑を浮かべていた。


「二人ともー!今はお風呂に入ろうよー」

声がした方に振り向くと、蒔音が準備を進めていた。

タオルや石鹸を傍らに置いた。するとその傍には、宿から貸し出されている浴衣があった。

その上に蒔音は、薄いピンク色の上に赤や濃いピンク色のハートマークが複数描かれた柄の、男性用トランクスパンツを置いた。

そしてそれと同時に、ツインテールにしていた自身の頭髪を結ぶヘアゴムを外した。

蒔音が首を振って髪を揺らすと、二つに分かれていた髪の束が中央で一つにまとまった。

真由美とみやびは、そのまとまった髪が、切ってもいないのに短くなった事に対し、何らの不審感をも抱かなかった。


その代わりみやびは、思いついた考慮するべき事項を口にした。

「ああそうだ…この服じゃ入れないよね。流石に女子っぽさがあるし」

「ですね。それにサイズが合わないか」

「あ、確かに。じゃあ…ここで浴衣に着替えちゃう?」

真由美が同調し、蒔音が振り向きながら立ち上がった。

「そうだね。ついでにブラとかも取っちゃおう。男湯で目立つし…」

みやびはそう提案しながら荷物の所へ歩く途中、今から十数分後の自分達が上半身に下着を付けている様子を想像して笑みをこぼした。

「何笑ってるの~?」

真由美が珍しく、悪戯っぽくニヤリと笑ってみやびの肩を指でつついた。

「あはっ…私は真由美より、男の身体は見慣れてますよーだ」

みやびは冗談めいた口調で言い返すと、真由美と共に荷物の前に座った。

「そりゃあ、学校にも男になって登校しているみやびにはねぇ」

真由美もまた笑いながら、黒いゴムのウエストに緑の下地と小さな黄色い星が多数描かれた、ボクサータイプのパンツを取り出した。


一足早く準備を始めていた蒔音は、風呂場に持って行く全ての物が揃った事を確認すると、もう一度立ち上がって服のボタンを外し始めた。

「浴衣着ちゃうね」

みやびと真由美にそう言った時には、蒔音は複数枚着ている服の内の一枚を脱いでいた。

「早いねぇ蒔音」

「蒔音、貴方…部屋を出る前に変身し切っちゃうんじゃ?」

「んにゃ?」

真由美に尋ねられて、蒔音は一瞬服を脱ぐ手を止めた。

そして止めた手を自身の下腹部に伸ばし、その一帯を撫で擦った。

「んー…かも知れない、かな。でもまだオンナだよ、私」

「あら、そう」

「真由美はどう?見た所、髪が短くなってきてるけど」

「ああ」

さらに服を脱いだ蒔音の傍で、真由美は指摘された頭髪を撫でて確かめた。

腰にかかる程の長さを持つ、真由美のチャームポイントの赤みのかかった髪は、今や真由美の肩のラインにまで後退していた。

「まぁ…そこまで早くは無いでしょ、効果も」

真由美が振り向くと、みやびが立ち上がって浴衣を着るべく服を脱ぎ始めていた。

壁際に位置していたみやびの背は、先程座る前よりも僅かながら、しかし明らかに高い位置にその頭の先端を伸ばしていた。


蒔音はさらに上半身の服を脱ぎ、白に近い薄いピンク色の下着を露わにした。

「うん、だいぶ縮んで来たな」

「蒔音は…」

「その…」

「何さ二人とも、元から縮んでるって言うのー?」

蒔音は口を尖らせて批判し、落胆した様子を示した。

「むー…どうせ元から膨らんでないよぉ…」

「いやいやいやいや、そうじゃないってぇ」

「そうだ蒔音、あんた新しいブラ買ってみたら?それけっこう長い事付けてるんじゃない?」

真由美は隣に居る蒔音の肩を叩いて励ましをかけ、みやびは別の提案をした。

「え、これ?…そうだねぇ」

蒔音は外すというより脱ぐとした方が良い構造の下着を身体から取り去ると、上半身を露わにしながら

付けていた下着に注目した。

「あー、確かに買ってから長いかな…」

「うん。もっと可愛いの買っても良いと思う」

みやびは蒔音がコンプレックスに感じている事から意識を逸らす事が出来た様に感じ、自分もまた残り一枚となっていた上半身の服を脱ぎに入り、水色の下着を露出させた。


「隙間が…」

みやびは自分一人にしか聞こえない、小さな声で呟いた。

未だはっきりと男性的でない膨らみを残していたその胸は、それでも的確に合ったサイズの物を選んでいた筈の下着との間にサイズの食い違いを現せていた。

それを外し、蒔音と同様に上半身を覆う物が無くなると、みやびは浴衣を地肌の上に羽織った。

「う、まだサイズが大きいや」

「その内ピッタリになるでしょう」

みやびがその声に振り返ると、それまで着ていた服を全て脱ぎ終わり、浴衣を羽織ってズボンを脱ぎ始める

真由美の姿があった。

「真由美ぃ~…」

すると今度は、蒔音が声を発した。

「変身して来てるのに、まだそんなに大きい…」

「え?」

「これだよ、これ!」

そう言うと、蒔音は真由美の胸を掴んだ。

「ひゃわ!?」

「ちょ、蒔音あんた大胆」

真由美は普段発しない声を発し、みやびは普段の蒔音と比べて男性的な性格が増してきた事を感じた。

「むー…うらやましい~…」


「羨むなら…タカシや光太郎達の方が、私より」

「あ、確かに」

真由美の主張を聞いた蒔音は、パッと手を離して思いを馳せた。

「確かに…あの二人のは大きいよね」

「うん…大きいよね」

蒔音とみやびは、今頃自分達と同じ様な行動を取っているであろうタカシと光太郎が変身した時の胸の

大きさを思い出した。

「何食べたらあんな大きくなるんでしょう…」

「ホントに、ねぇ…」

真由美も同調し、蒔音は思わず溜息をついた。


「でもまぁ」

そこから二人の気を逸らしたのは、みやびの声だった。

「胸で負けてる分、別の場所でなら勝ててるけどね、私達」

二人が見ると、ズボンを脱いだみやびは下着を見せていた。そしてその一方で、用意していた水色と黄緑色の横縞が描かれたボクサーパンツを穿こうと用意していた。

二人はみやびの言葉に同意する意味を込めたほくそ笑みを返したが、その中で真由美はみやびが元々穿いてる女子としての下着を脱がずに行動を続けている事に気付いた。

「ん、パンツ脱がないの?」

蒔音も不思議そうな目をする中、ああ、と笑ってみやびは答えた。

「変身し切るまで、見るのは楽しみにしときたいんだ」

「なるほどね♪」

「うん。あんた達もどう?脱ぐのはお風呂入る直前まで待ってて、それまでパンツの中でモゴモゴしてる

感触で想像するって」

「うわー、みやびやらしー」

「何お~っ」

「でも、私もそれやってみようかな」

みやびがおどけた声を蒔音に向けた隣で、真由美もまた元々穿いていた薄いピンク色の下着を脱ぐこと無くボクサーパンツを足にかけた。


そこに、みやびがしゃがんで視線を向けた。

「うん、モッコリしてきてる」

「ちょ!?」

「うわー!みやびいやらしー!」

真由美は反射的に股間を両手で覆い、蒔音は先程よりも大きな声で同じ反応を示した。

「…と、蒔音も言うけど」

これに対して、みやびは先程穿いたばかりの自分のパンツを撫でながら言った。

「あんたらも同じでしょ?私…んにゃ、そろそろ良いかな。僕だって」


「あ、もう境界超えたんだ?」

着ている浴衣の形を整えながら、真由美が言った。

「境界ってのがある訳じゃないけど…うん。もうそろそろ、気分的にも女子じゃないかな」

「と言っても」

「ふにゃ!?」

真由美は堂々と正面から近づき、一人称を『僕』とした友人の胸をまさぐった。

「まだちょっと膨らんでるんじゃ」

「もうちょいでピシッとなるってっ!」

「なんかホモみたい」

そう指摘する蒔音の眼は、遊園地に行った幼稚園児の様な爛々とした輝きを持っていた。


「よし!そんじゃー雅直(まさなお)、僕もパンツ二段穿きするー!」

蒔音はみやびの事を雅直と呼び、二人と同様にそれまでの下着の上からトランクスの下着を穿いた。

「はは…蒔音、一人称が。コホッ…ン、ンンッ」

真由美は咳払いをした。

「あ、ホントだ。いつの間に」

その直前の微笑みながらの指摘で初めて、蒔音は自分が自分を『僕』と呼んだ事に気付いた。

「無意識の内にだったんだ、今の」

雅直はそう言い、用意していた準備物を手に取った。


「…そろそろ、行きますか」

真由美が言った。その声は、その前に発した声よりも明らかに音程が異なっていた。

「あ、声変わった」

蒔音は指摘しつつ、雅直と同様に荷物を拾い上げた。

「ホントにね」

雅直が言った。その声もまた、少しづつの音程の変化を経て来ていた。


「じゃ…行こっか」

雅直は部屋の鍵を持ち、二人と共にドアに向かった。



雅直は部屋を出てエレベーターに向かう途中、片手で荷物を、もう片手で着ている浴衣の生地を

持ち上げて歩いていた。

「まだちょっと歩き辛いな…」

「もう少し、でしょう」

隣では真由美も、同様の物を持っている。

「僕はその点じゃ困らないもーん」

「自虐ネタか」

「ぐっ…ほら、エレベーターもうすぐ来るよ」

片手が空いている蒔音は、先行してエレベーターの下ボタンを押した。


「んー…タカシ達は来ないねぇ、まだ」

「もう先に行ってるのでは?」

「うん、僕もそう思うな。だって公然と覗きが出来る訳だし」

「やらしー…」

「まぁ、それは私達も人の事は言えないけど」

雅直の言に三人が苦笑した時、エレベーターの扉が開いた。

中には誰も乗っておらず、三人は乗り込んだ後、すぐさま三階のボタンを押し、その後扉を閉じるボタンを押した。

蒔音は直前までタカシや光太郎が駆け込んで乗り込もうとしては来ないかと耳を澄ませていたが、扉が閉じた光景がその可能性を諦めさせた。


「あの二人も…」

真由美が呟いた。

「せっかく男に生まれて来たんだから、もっと男同士で色々すれば良いのに」

「ちょっ!」

「良いじゃない…密室なんだし」

「う…そうだけどさぁ」

蒔音が戸惑った声を発した時、エレベーターは静止した。

「でももう開いたよ」

雅直は特に驚く事も無く、大浴場のある三階に降り立った。


「真由美も蒔音も…」

三階の廊下を歩きながら、今度は雅直が話し始めた。

「せっかく男になったんだし、女じゃ絶対出来ない体験とかもしてみたら?

「と、言うと…?」

蒔音が恐る恐る尋ねた。

雅直は押さえていた浴衣の生地を手放して、答えた。

「ほら、タカシと光太郎は『男じゃ絶対出来ない体験』をしてる訳だし?それに便乗させて貰うっていうヤツさ」

「それってつまり…女子と」

真由美は息を呑んで雅直の顔を凝視しながら、荷物を持つ手に両手を向けた。

「う、えええ…」

「え、どうしたのさー?あの二人も最初はビビってたけど、面白かったよー」

「ああ…雅直はもう、経験済み」

「いやぁ…僕、女の子とそういう事するのは…」

「えっ、まさか蒔音ガチホモ!?」

「ホモって…ホモじゃなぁい!」

「あっはははははは……」

羞恥と切り返し方への驚きで顔を真っ赤にする蒔音に対して、雅直は声を出して笑った。


雅直の笑いが収まったのは、それから十メートル程歩いた男湯の入り口の暖簾の前まで三人が歩いて到着した時だった。

「あー笑った…」

「もう、笑い過ぎ。だって中身は女子なんだから…」

「でも、身体だけ見ればさぁ」

雅直がからかうと、蒔音はそれに対して言葉を詰まらせながらも口を開こうとした。

それを宥めたのは、真由美の言った最終確認だった。

「二人とも、もう身体の方は大丈夫?まだ膨らんでたりしない?」

真由美が尋ねながら、自身の胸をポンポンと叩いた。

「んー、大丈夫」

雅直は胸を撫で下ろしながら答えた。


蒔音も真由美に頷き返しながら、一方で別の要素にも意識を向けた。

「もう膨らんでる、ってのもあるよね」

そう言って、蒔音は脚の付け根の辺りを擦って見せた。

「あはは…確かに」

「もうさっきからずっと…モコモコ言ってたよね」

「わかるわかる」

三人は互いに笑顔を見せ合った。


その時、三人の目の前の暖簾がめくれた。

「…おっと、失礼」

三十代程度であろうか、若いとは言えないものの中年という表現も似合わないといった年頃の男性が、短髪を湿らせた状態で退出して来た。

三人はすぐさま道を開けたが、男は三人の横を通ると、振り向く事無く三人が歩いてきた廊下を歩いて行った。

「…反応無し」

雅直は言った。そして二人も頷いた。


「じゃあ…行きましょうか」

真由美は大きく『男』と書かれた青い暖簾をめくった。


三人は真由美を先頭に、その先へ向けて前進した。



一つ二つの曲がり角の先にあった広い部屋には、三人の予想よりかは人の影が少なかった。

「おー…」

しかしそれでも、三人の視線には何の恥ずかし気も無く服を脱ぐ者、或いは手にしたタオル等をブラブラと震わせながら、一糸纏わぬ姿で歩き回る者達の姿が飛び込んで来た。

蒔音は思わず、生唾を飲んだ。

その直後ふと下腹部に手を触れたが、すぐに2人の仲間に話しかけた。

「中はもっと凄いんだろうね…!」


「よし、早く入ろう!」

三人はさっそく、手近な棚を荷物置き場に定めた。

そこに持って来た荷物を起き、先程着たばかりの浴衣を脱いでいく。


「(あー…ドキドキして来た)」

真由美は思った。自分と友人二人が同様に浴衣を脱ぎ、余計な肉の乏しいすらりとした胸板を見せたのだった。

さらに下を見ると、自分の胸部もまた思い肉塊が消滅し、小さくなった二つの突起だけが残っている事が確認された。

真由美はさらに、より地面に近い場所に視線の焦点を合わせようとした。

「忘れてない?二段脱ぎだよ」

そこへ雅直の声がした。真由美が顔を上げて見ると、両手の親指をボクサーパンツのゴムの部分に突っ込んでいた。

「もちろん。もしミスったら、確実に変態になっちゃう」

「私達、変態じゃないのにね」

「どうだか」

雅直は自嘲の響きすらある笑いを発した。


「タオルで隠す?」

さらに蒔音が、雅直と真由美に質問を投げかけた。その右手は棚に置いたタオルを持っていたが、残る左手は腹部から脚の付け根にかけての辺りを撫で続けていた。


真由美は蒔音と雅直の全身をもう一度見てから、自分の考えを答えた。

「うん。何も無くても身体洗うのに使うし、大きくなっちゃうかもだし」

「やだぁ~」

「いやでも、僕そうなっちゃうかも…」

「取りあえず、用意はしとこうか」

真由美はそう結論付けた後、自身の両手を腰に当て、自身の身体を覆う二つの布を同時に手にした。


「上半身は隠さなくて良いんだからね。じゃ…」

雅直はそう言い、腰をかがめた。

真由美と蒔音もほぼ同時に、同じ行動を取った。


最後まで三人を覆っていた布地の下から、今の三人の性別を何よりも強く証明する器官が露わになった。



(続く)


(第一話…2013年1月14日投稿)

(第二話…2013年6月23日投稿)

(第三話…2013年8月30日投稿)

(「小説家になろう」向け編集…2014年9月3日実施)

この続き第4話は、「タカシ」「光太郎」の女体化した2人が主人公の展開があります。そして第5話で今回の投稿後半で活躍した男体化3人組が主人公の話に戻ります。よろしければ是非、pixivの方のそちらの投稿もよろしくお願い致します。

今回こうして「小説家になろう」に投稿し、ご好評頂ければ今後もまた投稿しようと思います。

しかし今の所、本拠地的投稿サイトは今後もpixivでいこうと考えています。

まだ「小説家になろう」がどの様な活気を持っているのか分からないというのもあるのですが…

二次創作に冷淡というのが、残念でなりません。

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