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名無し君の不死末2★男1女1~男4女4(ノーカット台本)115分台本

作者: 七菜 かずは

タイトル:名無し君の不死末2(ななしぎみのふしまつ2)

著者:七菜 かずは






★読み合わせ時のお願い★(強制ではありません)


①アドリブ、アレンジはお好きに。自由に! じゃんじゃんして下さい。テンション上げていきましょう。

 (他人の台詞時に笑い声を入れたり呟いたりボヤいたり。台詞にはない返事をする。等)


②思い切り楽しく騒いで下さい。ごちゃごちゃもさもさ!!


③あってはならないことですが、台詞見逃し、台詞忘れ、台詞止まり時は別の役者さんがカバーするか、その台詞を言ってしまって下さい。

 テンポをなるべく崩さないようにしましょう。


④台詞にメリハリをつけてみましょう。単調にならないよう、工夫してみて下さい。


⑤テンポを一番重視します。噛んじゃっても気にせず乗り切りましょう!


⑥ミュートにしないで下さい! 役者の素笑い入れて下さいっ!


⑦台詞確認時。わからない漢字があれば聞くか調べて下さい。


⑧自分の台詞を確認した後に、他の人の台詞や話の流れも確認しておいて下さい。


⑨舌打ちは舌打ちをせずに「チッ」と言って下さい。


⑩ト書きに書かれてあることは守りましょう。


⑪前の人の台詞を喰い気味でお願いします。






●登場人物

男4、女4。



【地球・日本国】

●名無し姫。(クロム・ロワーツ、クロム)

本作ヒロイン。18年前、ジョーカーとダークにクロム・ロワーツとあだ名づけられる。名無し君の不始末1で、そのあだ名が本名であることが明かされる。

弱い所もあるが、とにかく芯が強い。冷静に見えて、熱い心を持っている。

幼い頃(9才)は儚く、やや虚弱だったが。大人(27歳)になってとてもしっかりした責任感の強い女性となる。

心を預けられる人間というのをどこか求めている。お姉さん。

基本的にしっかりしているのだが、たまに見せる隙や余裕がとても女性らしく。やや色気を見せる。

数年前。ジョーカーに無理やり、第三の地球と呼ばれる小惑星ケテラス・中央大陸アイゼルの宇宙民間船ナナシの船長をやらされていた経験がある。

現在は、数百年前に地震で沈んだ日本国の海底でメイド喫茶を運営しながら普通の人間としての生活をしている。



【ケテラス星・アイゼル城に帰属。宇宙民間船ナナシ】

●ディラメリィ・ヴァン。(ディラ)少女。

準ヒロイン。統率能力に長けているが、そのことに自分は気が付いていない。元気いっぱい。ややロリ。

第三の地球、ケテラス星中央大陸アイゼル城、現王女。(ただし、王家はクロムの代で一度滅びている為。本当の血族ではない)

ナナシの優秀なオペだったクロムに強烈な憧れを抱いている。かなり好き!

19歳。生まれと育ちはケテラス星北大陸リゼル城下。(雪国)

12歳の時にアイゼル貴族に養女として引き取られている。

クロムの後任で、ナナシのオペレーター兼船長見習い。

12歳からアイゼル城で剣術や戦術をダークに習い。15歳の時に出会ったジョーカーに宇宙航海術を学ぶ。どちらも尊敬しているが、ダークのほうが信頼度は高い。


●コーラ。女。

真っ赤な短髪。強気で元気なクルー。戦闘員兼、ナナシのメインプロセッサコアが体内に埋め込まれている。銃撃、射撃が得意。

変なドラマの見過ぎで、妙な訛りがある。元々は標準語が言語分野に登録されてあった。

観測能力の高いインドランス。基本的に人懐っこい。ディラもクロムも大好き。外見年齢20歳。

中身はロリでもお姉ちゃんでもどちらでも、構いません。コーラであることがわかれば、調理は役者さんに任せます。

(※インドランスとは、この時代に存在する地球外生命と人間と機械を融合。弄って創られたアンドロイドのこと。元人間。外見は人間とほとんど変わらない)

(※インドランスの実験に失敗し、暴走して制御がつけられなくなってしまったモノをキャギラウイルスと呼ぶ。元同属と呼ぶインドランスもいる)

コーラはディラが12歳の時からずっと一緒に訓練を受けたり生活を共にしてきた為、友人として心をかなり許している。

コーラのような旧式インドランスは、感情が人間に近く、ナチュラルな反応を示すものが多い。その中でもコーラは改造型で、かなり喜怒哀楽が激しい。


●ダナジリア・ヴェルナス。(ダナ)男。

操縦者。インドランスではない、地球で創られたサイボーグ。

外見はガタイの良いおじ様。正義心が高く、熱い。クロムとディラとコーラの父親のような男で。愛情深い。元騎士。ダークの先輩。

人間として死んだときは46歳。それから何十年も経っている。

悪党や海賊を心の底から嫌っているが、情が熱い為困っている人をほっとけない。



【宇宙海賊船エドガー】

●ジョーカー。(偽名)男。

黒い狐の面を着けていて、他人には滅多に自分の顔を晒さない。海賊船エドガーの船長。面が取れるまでは声が少しこもってる。

宇宙、大海原を旅する、気ままな海賊。血も涙もない大悪党と言われているが、本当は優しくて熱い。ダークヒーロー。

だがそれを押し殺しており、冷静で冷たいように見える。

基本、淡々と話すが。時に、人に圧力をかけるような口調で喋る。

クロムにはじめて会った時は16歳。現在34歳。ダークを大層嫌っている。ダークとは極力話したがらない。


●テトラ。男。

物腰柔らか。超素敵思考でポジティブ。棘がない。特に声だけは優しい青年。ジョーカーの相棒。

表情はいつも微笑をキープ。何を考えているのかわからない雰囲気がある。マイペース。

年はジョーカーの二個下。外見は18歳。詩的で素直。海や星、ロマンチックなものが大好き。

地球で先端技術の実験体にされていたが、ひょんなことでジョーカーと出会い、意気投合。逃亡し。ジョーカーと同じ道を歩むこととなる。

普通の人間ではなく、インドランス(※コーラと同じ)である。コアだけ旧式。

エドガーのナビゲーター兼操縦者。


     

【ケテラス星・アイゼル城に帰属。宇宙軍艦船メルヴィン】

●ダルダディア・ルーティ(ダーク)。男。

ケテラス星中央大陸アイゼル城騎士隊長。軍艦メルヴィンの船長。ヒーロータイプ。

真なる血統王族の居なくなった壊れかけの国を、未だに守り続けている。優しくて強い。甘い声。

平和な世の中を作る為。日夜奮闘し続ける、真っ直ぐな青年。現在34歳。



【ケテラス星・アイゼル城】

●リンディア・ロワーツ(リン)。女。

28歳。血は繋がっていないが、クロムの姉。孤児だった。6歳の時、アイゼル王家に引き取られる。

落ち着いていて、滅多に感情が高ぶらない。クロムのことを「名無しの」と呼ぶ。



CAST(男4、女4)コーラとリンディアは掛け持ちOK。

クロム   女:

ジョーカー 男:

テトラ   男:

ディラ   女:

ダーク   男:

コーラ   女:

ダナ    男:

リンディア 女:






【第二幕・開幕】


■シーン0・義姉妹(クロム、リンディア、ダーク)


18年前。アイゼル城。幼いクロム(九歳)と、リンディア(十歳)が、ガーデンで遊んでいる。


クロム「おねえさまーっ」


リンディア「名無しの? こっちよ」


クロム「う? あっ、きゃっ!(転ぶ)」


リンディア「だ、大丈夫!?」


クロム「あうー」


リンディア「……ほら。手を取って」


クロム「あっ、ありがとうございますっ。えへへっ」


リンディア「あなたは本当に、花のようですね」


クロム「えっ? あっ。おねえさまは、大きなひまわりみたいですっ!」


リンディア「えっ……? そ、そんな。それは、あなたでしょう?」


クロム「う? ふふっ。見て、おねえさまっ! シロツメクサが絨毯みたいですっ! (草原に転がる)きゃはははっ」


リンディア「……転んで怪我をしますよ。名無しの」


クロム「お姉様、私――」


18年後に切り替わる。


クロム「もう、名無しでは、ないんです。お姉様。アイゼルの女王になるのは、私こそ相応しい。お姉様だって、そう思うでしょう?」


飛び起きるリンディア。そこは、アイゼル城の自分の部屋。


リンディア「っ!!?! (息を切らす)……っ……」


昨日のダークの声(リンディアの脳内にだけ響く)「――リン、聞いて欲しい。クロムが……。名無しの姫がやっぱり生きていたんだ。俺、迎えに行って来る。……良いよね? リンが女王になるの、きっとクロムも祝ってくれるよ」


リンディア「いやっ……! いやああああっ!! ぁぁぁああああっ!! (叫び続ける)……」


部屋の扉の向こうから、足音がし。扉を激しくノックする音が響く。


ダーク「リン!!? リン!!」


リンディア「ダーク……」


ダーク「入るよ!?」


リンディア「……っ……」


部屋に入ってくるダーク。


ダーク「どうしたの?」


リンディア「……なんでも、ありません(身体が震えている)」


ダーク「リン……」


リンディア「ダーク、」


ダーク「ん?」


リンディア「名無しのを。……彼女を迎えに行って下さい」


ダーク「……あ、うん」


リンディア「クロム・ロワーツを、新女王に推薦します」


激しい音楽が、鳴り響く――。






■シーン1・愛だね(クロム、ジョーカー)


真夜中。通信をしている、クロムとジョーカー。


クロム「そう、ですか……。そんなことが……」


ジョーカー「軍人プリンス様が役に立たねぇんじゃねぇか?」


クロム「こら! ジョーカー。またダークの悪口ですか?」


ジョーカー「良いだろ別に」


クロム「良くありません。もう少し、もう少しで良いから。歩み寄って」


ジョーカー「(ウイスパー)そんなに庇うほど好きかよ……。クソ」


クロム「なんですか?」


ジョーカー「チッ。リンディアの話だろ。あいつとお前は、面識あるんだよな? 一応」


クロム「あ、はい。私が五歳の時にリンディアお姉様が養子に来たので」


ジョーカー「そういや、お前はリンディアやディラを厄介者扱いしねぇな」


クロム「私は誰かさんのように、偏見と下らない意地で。人を嫌いにはならないですよ」


ジョーカー「はいはい」


クロム「人はみんな平等です。肩書きも名声も関係ない。そう昔おっしゃっていたのは、貴方じゃないですか」


ジョーカー「ふっ。さあ、どうだったかな」


クロム「お姉様……。悩んでいるのかな……。直接貴方に通信を掛けてきて愚痴を言うくらい、追い詰められて……。ジョーカー、なんかに……(ブツブツと呟き続ける)」


ジョーカー「おい。一応俺も貴族の端くれだぜ」


クロム「(失笑)……大悪党海賊が何を言ってるんだか。っと、いうか。どうしてお姉様と連絡を取り合っているんですか?」


ジョーカー「ん、まあ色々あんだよ」


クロム「色々って……。ちゃんと教えてください」


ジョーカー「お前には、関係ない」


クロム「まさか、お姉様にも酷い言葉を投げたりしてるんですか!?」


ジョーカー「してねぇよ! バカ」


クロム「ばか!?」


ジョーカー「まあいーや。お前、そろそろ決めろよな」


クロム「え? 何がです?」


ジョーカー「アホ。俺と一緒に海賊やるか、ダルダディアの居るアイゼルに戻るか!」


クロム「っ……? っ……。……日本で平凡に普通の人間として暮らします」


ジョーカー「はあ!? お前こないだのアレ嘘かよ」


クロム「ちっ。違いますっ。あれは、そのっ! 宇宙への出入りをするって言っただけで! ディラに再教育をしに行こうかなーというか。そっ、その際にどこかでジョーカーとも会うかなーなんてっ……。お、おも、思っただけ、ですっ。よ……」


ジョーカー「んだよ……。思わせ振りなんだよ! このブス」


クロム「ぶ、ブス!?」


ジョーカー「もういい。じゃあな」


クロム「えっ。じ、ジョーカー?」


ジョーカー「リンディアのこと、気を掛けてやれ」


クロム「で、でも……。お姉様はきっとまだ、私は死んだと思ってるだろうし」


ジョーカー「昨日か一昨日、ダルダディアが報告してるだろ」


クロム「そっか……。あ、ジョーカー。一昨日、火星に行くって言ってましたけど」


ジョーカー「ああ、ちょいと前に手に入れた金塊を換金して来た」


クロム「また盗んだんですか!?」


ジョーカー「殺しをしねぇ宇宙海賊が、他にやることあるか?」


クロム「それで貴族を気取るだなんて」


ジョーカー「うるせぇ!」


クロム「盗みなんてもうやめて下さい」


ジョーカー「俺に指図するな」


クロム「……」


ジョーカー「もう切る」


クロム「っ……」


ジョーカー「じゃあな」


クロム「ジョーカー!」


ジョーカー「んだよ」


クロム「ダークとも、話してくださいね」


ジョーカー「何をだ。うぜえんだよ。用もねえのに」


通信が切れる。


クロム「ジョーカー……。いつかきっと……」


再び通信がかかってくる。


クロム「はい。――あっ、お疲れ様です。はい、はい、は……えっ!? だっ大丈夫なんですか!? あ……今どこに居ます? え……? っ何言ってるんですか!! すぐ病院に行ってください!! ぁ……。わ、わかりました。こっちは任せて!! ……えっ? っ……。っ!! 良いから病院に行けーっ!!」






■シーン2・再会したら(クロム、ディラ、ジョーカー、テトラ、コーラ、ダナ)


日本国。海底地下都市。クロムが働いているメイド喫茶。何故かダナが厨房で料理を作っており。可愛いメイド服姿のクロムが、店内の客をさばいている。


ダナ「おいクロム。(クロム「はぁいっ」)次の、もう出るぜー」


クロム「ありがとうっっ!」


ダナ「Bテーブル出し終えたら。次、Sテーブルの前菜すぐ出すかんな」


クロム「うんっ」


ダナ「ほら、オムライス。出来たぜ!」


クロム「はいっ! 出しますっ」


料理を出し。接客するクロム。


クロム「お熱いのでお気をつけてお召し上がり下さい」


ディラ「クロム様ーっ」 コーラ「クロム様ーっ」


クロム「あっ、着替え、終わりました?」


クロムと同じメイド服を着たディラとコーラがやってくる。


クロム「(少し曲がっているディラのリボンを直してあげる)ん。ふふっ。相変わらず。良く似合いますね」


ディラ「えへへっ。変なとこ無いですかぁ?(くるっと回って)」


コーラ「クロム様。あれやろ。いつも通り。オムライスとかホットケーキに、ブルドックソースで『死ね! ボケ! カス!』とか書けばええんやろ?」


クロム「(間髪容れずに)違います」


ディラ「もえもえっにゃんにゃんっ?」


クロム「可愛いですよ! ディラ」


ディラ「あははっ。あっ。お客さん来た! ボク、行きますねっ。は~いっ! いらっしゃいませ、ごしゅじんさ……まあっ!!? キャアッ!!?」


コーラ&クロム「ん?」


テトラ「やあ。来ちゃった」


コーラ&クロム「テトラ!?」


ディラ「こんにちはー! テトラくん」


テトラ「(ディラの髪を軽く撫でて)こんにちは。ディラ。……コーラ、それコスプレかい?」


コーラ「は? なんでうちにだけ言うん!」


テトラ「年考えなよ。犯罪、だよ?」


コーラ「ムカツクぅ!」


クロム「テトラが居るということは――」


テトラ「勿論。大船長様も一緒だよ」


テトラの後ろに立っているジョーカーと目が合う、クロム。驚くディラ、コーラ、ダナ。


ディラ&コーラ&ダナ「っ!!?」


ジョーカー「……よう」


クロム「じ、ジョーカー」


ジョーカー「……プッ」


クロム「っ!?」


ジョーカー「年考えろよ。もう27だろ」


クロム「っう、うるさいですっ! し、しょうがないでしょ」


ジョーカー「(呟き)ケツ見えそうなもん履きやがって」


クロム「ぐ、……」


ジョーカー「ほら。俺様が来てやったんだ。お帰りなさいませご主人様。って言ってみろ」


クロム「いっいやです!」


ジョーカー「仕事だろ? 言え」


クロム「強制猥褻ですよ!」


ジョーカー「あっそ。じゃーディラでいーや。おい、ディラ!」


ディラ「はいっ! ジョーカー様っ! お呼びですか?」


ジョーカー「お前、俺のこと尊敬してるだろ?」


ディラ「ん? えーと、(一瞬クロムをチラ見して)えーと、あ……はいっ!」


ジョーカー「俺のこと好きだろ? な?」


ディラ「あ――――――……」


ジョーカー「あ?」


ディラ「(頭を深々と下げながら)っごめんなさいっ! ボク、ジョーカー様のことあんまり好きじゃ、ありませんっ!!」


ジョーカー「えっ」


ジョーカー以外、皆超笑う。


コーラ&ダナ&テトラ「ブフフッ!!!!」 ダーク&クロム「プッ……」


ジョーカー「……(機嫌が悪くなる)」


触らぬ神に祟りなし!!

テトラを先に店内へ案内する、コーラ。


コーラ「んんんっ! テトラっ、こっ、こっち座りっ!」


テトラ「ププッ。はーい。ほら、ディラっ。いーくーよっ?」


ディラ「は、はぁーいっ。テトラくんは、何飲みます?」


テトラ「おすすめは?」


ディラ「あっ。新作の、わたぱちコーラ! かなっ?」


テトラ「んー。名前からして不味そうだねぇ」


コーラ「だからうち見て言うなや!」


ディラ「美味しいよ?」


テトラ「(皮肉を込めて)……じゃあ、それで?」


ディラ「かしこまりましたーあっ」


残されたクロムとジョーカーは、微妙な空気で。


ジョーカー「……直接会うのは、18年ぶりか」


クロム「そ、そう、ですね」


ジョーカー「やっぱ……」


クロム「……?」


ジョーカー「(擦れ声で小さく)お前が……いいな」


クロム「はい?」


ジョーカー「え、あ、いや。……何でもない」


クロム「? て、テトラの所に座って下さい。ボックス席」


ジョーカー「ん」


コーラ「クロム様ぁ、ジョーカーはいつも何飲むん? 今なんか言うとった?」


クロム「あ、ジョーカーは上質なお酒以外は飲まないので……。私が用意してきます。テトラは?」


コーラ「テトラの分はうちがやるっ。しゃーないかんなっ」


クロム「わかりました。お願いします」


テトラ「毒とか入れないでよね。コーラ」


ディラ「ジョーカー様! テトラくんっ! お皿にチョコレートでメッセージを書くキャンペーンをやってるんですっ。いかがですかっ?」


ジョーカー「ふむ……」


テトラ「良いね。頼もうかな?」


ディラ「はーいっ」


テトラ「ねえ。どうしてディラたちは今日ここで働いてるの? 一昨日のお礼?」


ディラ「えっと、なんか、従業員さんたちがみんな豚コレラで入院しちゃったらしくって!」


テトラ「へぇ~。大変じゃない」


ディラ「で。ボクら、たまたま地球でちょっと取り引きがあったので。昨日ここにちょっと顔を出したんですよ。そしたら、クロム様一人でお店回しててかなり大変そうだったから」


クロム「失礼します(ジョーカーの前に細いグラスを置き。ワインを少し注ぐ)」


ジョーカー「ん。白か」


クロム「ケルマプリンスの09です」


ジョーカー「お。当たり年だな」


クロム「中々手に入らないんですよ、これ」


ジョーカー「良い色だ」


テトラ「姫さん、ジョーカーの為に用意しておいたの?」


クロム「えっ? ちっ違いますっ! たっ、たまたま! たまたまですっ!」


テトラ「ふぅーん?(にやにや)ひっひっひ」


ディラ「あはっ。クロム様かわいー」


クロム「もっもう!」


コーラ「ほらっ。テトラ、わたぱちコーラ! おまちどおさまっ (言いながらテトラの前にわたぱちコーラを置く)」


テトラ「わーっ。可愛いね。星形の氷?」


コーラ「かき混ぜて飲んでや」


ディラが、テトラとジョーカーの前に白い丸皿を置く。


ディラ「よしっ。なんて書きましょ?」


以下、ジョーカーとテトラ、同時に喋り出す。


ジョーカー「んー、(早口で)Iemitsu made fun of him by saying 'what a useless thing for an old man who is almost 100 years old', then Tenkai replied that 'someone who rules over the whole country should not be so impatient.'」


テトラ「うーん、(淡々と)魑魅魍魎跳梁跋扈唯我独尊絶体絶命南橘北枳跛立箕坐。(ちみもうりょうちょうりょうばっこゆいがどくそんぜったいぜつめいなんきつほっきはりゅうきざ)臥薪嘗胆栄枯盛衰不撓不屈和顔愛語盛者必衰傀儡不可思議倭術店(がしんしょうたんえいこせいすいふとうふくつわがんあいごせいじゃひっすいかいらいふかしぎわじゅつてん)」


ディラ「へっ!?」


ジョーカー&テトラ「で! よろしく」


コーラ「意味わからん今の何語?」


クロム「英語と日本語です。テトラのは、四字熟語と――、」


ディラ「えっ? えっ? えっ? かい、え? えっ、えっ、えぇっ? えっ、えっ。ええっ?」


コーラ&ダナ「性格悪っ!」


ジョーカー「最高の褒め言葉だな。つうか、こんぐれえはガッコウで習うだろ? ディラ。お前の出身。ケテラスの北大陸は、あの星で一番学力が高ぇはずだが?」


ディラ「がーん」


ダナ「ディラに学力の話は禁句だって。英語なんて古い言語、もう地球ですら使われてねぇだろ」


ジョーカー「ククッ。そうかそうか。ディラは本当に可愛いな」


ディラ「(嬉しい!!)あ、ありがとうございますっ!」


コーラ「いやいやいやいやバカにされてるんよ! ディラ!」


ディラ「えっ? やっぱり?」


テトラ「あっ! ああ。それか、“ジョーカー愛してる! By.クロム”って書いてよ。ねえディラ――」


クロム&ジョーカー「なんで(ですか)!! ッ!!(二人同時にテトラを殴る)」


テトラ「ブッ!!」


ジョーカー「殺すぞテトラ」


テトラ「や、やだなあ。ジョークだよ。ジョーク。ジョーカーなだけに!」


ダナ「ひゅうううう……」 ジョーカー「死ね」


コーラ「寒すぎや!」


クロム「て、テトラったら……。もうっ」


テトラ「ジョーカーの張り手よりクロムの拳の方が滅茶苦茶痛かったなぁ」


また新しく客が来店してくる。


ディラ「あっ。おかえりなさいませ! ご主人さ――……まあっ!!? えっ!? きゃあっ!?」


コーラ「な、なに? 今度はどうしたん、ディラ……。え、ええっ!?」


そこに現れたのは、皆が良く知るダーク。


ダナ「ダーク!?」 ディラ「ダーク様!?」 コーラ「ダーク様ぁっ!?」






■シーン3・別れはつらいよ(クロム、ディラ、ジョーカー、テトラ、コーラ、ダナ、ダーク)


ダーク「や。久し振り。みんな」


久し振りに会ったダークに見とれているクロム。


ダーク「(クロムにすぐ気付いて)……クロム」


クロム「だ、ダーク……」


ダーク「……やっと会えた」


クロム「……そ、……そう、ですね」


ダーク「元気……だった?」


クロム「……うん」


ジョーカー「おい。クロム。他の酒も持ってこい」


クロム「えっ」


ディラ「はやっ! もう飲み干したんですかっ!?」


テトラ「ジョーカーにとってはどんな酒も水と一緒だから」


ダナ「どんだけ分解してんだよ」


テトラ「胃に入る前に肩とかから蒸発してるんだよきっと」


ジョーカー「クロム、酌しろ」


クロム「は、はいはいっ。そ、その内指名料頂きますからね」


ダーク「クロムを指名しても良いの?」


クロム「えっ? あ、はい」


ジョーカー「いくらだよ」


クロム「に、2千円」


ダーク「2千円!? クロム、自分を安売りしちゃいけないよ」


コーラ「あ。ちなみにプラス2千円で、膝枕して貰えるで」


ダーク「ええっ!!?」


ジョーカー「(立ち上がる)ちょっと待て! 安過ぎんだろ」


ダーク「何考えてるのっ!!」


クロム「えっ、えっ!? い、いや。店長が決めたことなので」


ディラ「なっなーんと! もうプラス二千円で、衣装をメイド服から水着にチェンジ出来ます!!」


ダーク&ジョーカー「はぁー!?」 


ディラ「エプロンはしますよっ? ちなみに水着はコレですっ! ふりふりセクシー黒ビキニっ!」


ダーク&ジョーカー「おお」 クロム「ちょっとディラ!」


コーラ「何想像しとんねんっ!」


ダーク「ちょっ、ちっちがっ!」


ダナ「さ~ら~に! プラス二千円で、指名メイドの江戸川温泉入浴シーン・モニター観察チケットがついてくるっ!!」


ダーク&ジョーカー「(テーブルをブッ叩き)ふざけるなけしからん(ダナ「もっとやれ!!」)店ごと買い取る!!」


クロム「は? えっ?」


テトラ「あははっ。落ち着いてよ二人とも。どうどう。あはは。ジョーカー昨日四億以上儲けたからって大盤振る舞いしないでよね~。すーぐお金使っちゃうんだからー」


ダナ&コーラ&ディラ「四億ぅ!?」


ジョーカー「(座る)て、テトラのバージョンアップで半分消えるけどな(気持ちを落ち着かせようとする)」


テトラ「良いじゃん。新機能増えるし。あ。(自分の首元に触れて)あと丁度五時間後に、インストール終了するよ」


ジョーカー「シンプルなもんが一番強ぇに決まってんだろ」


テトラ「そうかなあ? 色々大変なんだよ? この身一つで我が儘な船長のお守りするのってさあ。だ、か、ら。ね?」


ダーク「(テトラの隣に座って)海賊って税金払わないの?」


ジョーカー「払うかよバカか。どっかに帰属したら海賊じゃねえだろ」


コーラ「長距離空間転移する時も払わんの? 押し切るん?」


ジョーカー「あー、」


テトラ「いや、転移料金はちゃんと払ってるよ。関所のお姉さん、すっごく怖いんだもん。顔はコーラと同じなのにね」


コーラ「ふーん」


クロム「あっ。他のお客様がっ……」


ディラ「あっ。ボク行きまーすっ」


コーラ「うちも行くわっ。クロム様、ごゆっくりー」


クロム「えっ。あ、ちょっと……」


ダナ「ごゆっくりー」


ジョーカー「おい。さも当然のように同じ席に座ってんじゃねーよあっち行け」


ダーク「クロムを迎えに来たんだよ」


クロム「えっ?」


ダーク「クロム。リンから手紙を預かってきたんだ」


クロム「手紙?」


ダーク、クロムに白い手紙を手渡す。少し考え。それを開封し、読むクロム。


ジョーカー「……テトラ、」


テトラ「んー?」


ジョーカー「行くぞ(立ち上がる)」


テトラ「ん。クロム、チップ弾むよっ。いくらかな?」


クロム「……ふざけないで下さい」


ジョーカー「あ?」 テトラ「えっ?」


クロム「っダーク!! 私の目に狂いがなければ、これには私がアイゼルの女王になれと書いてある気がするんですが!?」


ディラ&コーラ「ええっ!!?」 ダナ「ああっ!?」


ジョーカー「……そこまで堕ちたか」


テトラ「おやおや」


ダーク「うん。そうだよ」


クロム「私にはそんな資格ありません。お引き取り下さい。私はもう死んだ人間です。わかって下さい(席を離れようとする)」


ダーク「(クロムを呼び止める)クロム!! ……頼むから、戻ってきて欲しい。俺は、君が国を治めるべきだと思う」


クロム「どうして……っ。ごめんなさい。こんな……何年も前に逃げ出した人間が国を任される立場になるなんて。間違ってます。ダーク、少し考えれば、わかるでしょう!?」


ダーク「でもクロム、」


クロム「っ私が女王になる位なら、ディラが女王になった方がマシです!」


ディラ&コーラ「えぇ――――っ!?」


ディラ「くっクロム様!? 何言ってるんですかっ!?」


クロム「私は、ディラを女王に推薦します!!」


ディラ&コーラ「えぇぇえ――――っ!?」


ダナ「マジかよ」


コーラ「クロム様!?」


ダナ「……盛り上がってんな。おーい、コーラ。Cテーブルのイチゴパフェ二つ。出来たぜー」


コーラ「うっ、あっ、はーいっ!」


笑いを堪えているジョーカーとテトラ。


クロム「お姉様は私が生きていると知って……。どうしてそんな易々と身を引くんですか。この18年もの間、アイゼルを守ってきたのは、お姉様でしょう?」


ダーク「……クロム。リンは……」


ジョーカー「あの女には、なんの価値もねえ」


クロム「ジョーカー?」


ジョーカー「はっ。ダルダディア。言ってやれよ。あいつはただの蛇の抜け殻だってな」


ダーク「(軽く呟く)……リンを、悪く言うな……」


テトラ「なんで今更クロムなのさ? こだわってるの?」


ダーク「だって、クロムにはまことの血が流れているから!」


ディラ「(怒りがこみ上げる)っ!! 血なんて関係ねえんだよっ!!」


ディラの怒号が響き。しんとなる。

残っていたお客さんたち、空気を読んで。支払いをして(コーラが対応)。店から全員ぽつぽつと出て行く。


ダーク「ディラ……?」


ディラ「っ。って――……。だ、ダナが言ってましたっ!」


ダナ「ええーっ! まさかのーっ!?」


ディラ「っでもボクは!! ボク、が……言える立場じゃないのかも知れないけど。でも、やっぱり。新しい王様は、アイゼルとケテラスを一番愛している人がなるべきだと思うんです。クロム様が居なくなって。王家が途絶えて。……でも、それでも残された人たちが、あの場所を守り続けたから! だから……ダーク様。ボクは、」


テトラ&ダナ「ダークが王になればいいんじゃない(か)?」


コーラ「うちも、そう思うわ」


ダーク「いや……俺は……」


ジョーカー「反対だ」


コーラ「なんや! 黙ってろや非国民っ! まとめようとしとんのに!」


ジョーカー「うるせえ。そいつが王になったら他の上流貴族がどう思うか。わかるだろ。微妙だろ! クロム生存の噂なんて、すぐに広まる! クロム、ディラ、リンディアを差し置いて。そいつが王位に就く意味がわからんだろ! ただの騎士だぞ」


ディラ「……。あの、ダーク様、」


ダーク「ん?」


ディラ「ダーク様は、クロム様のお気持ちをちゃんと考えていますか?」


ダーク「考えたいんだ! だから話したい! クロム、リンと三人で話したい。一緒にアイゼルのこと、国のことを考えたい。18年前のことだって……。ちゃんと、謝りたいんだ。クロム」


クロム「……ダーク……」


ダーク「俺は勝手かも知れない!! でも君を忘れたことなんてなかった!! ……約束しただろ? 世界が平和になったら……一緒に。二人で――」


クロム「二人で……。旅を、しようって」


ダーク「(そっとクロムに近付き。頬に手を当てて)こんなに美人になっているなんて。……ズルいよ。クロム」


クロム「美人、なんかじゃ」


ダーク「俺は、クロムの傍に居たい。もう離したくない! 一緒に来て欲しい」


コーラ「何回プロポーズする気やねん!」


ダナ「前プロポーズしたのはジョーカーだろ」


コーラ「なんなんこの双子譲歩とかそーゆー心ないん?」


ジョーカー&ダーク「ない」 コーラ「えええ……」


テトラ「お嫁さんにしたいの?」


ダーク「……っしたい!!」


クロム&コーラ&ディラ&ダナ&テトラ「ええーっ!?」


ジョーカー「(イラッ)……」


テトラ「ぷっ!」


ダーク「クロム……」


俯き、ぼろぼろと泣き始めるクロム。


ダーク「……!」


コーラ「クロム様っ!?」 ダナ「クロム……」


ディラ「ちょ、ちょっと……!? 私のクロム様を泣かせるとかいくらダーク様でも殺しますよ!?」


ダーク「えええーっ!?」


ジョーカー「そうだ。死ね。ディラに殺されて死ね」


コーラ「暗っ!!」


テトラ「こらこら。死ねなんて言っちゃ、いけないよ」


ダナ「海賊に言われても説得力ねぇな」


テトラ「殺しはしないのが、ジョーカーのモットーなんだよ。ね?」


ジョーカー「おう。自分の手は汚さねえ」


コーラ「こいつ嫌いっ!!」


ダーク「クロム……。そんなに、嫌なら」


クロム「っ……。違うの……」


ダーク「ん?」


クロム「嬉しいの。私、ダークのこと好きだったから」


ジョーカー「……」


ダーク「そっか……」


テトラ&コーラ&ダナ「ロリコン!」


ジョーカー「っ。ロリコン!」


ダーク「なっ。お前はどうなんだよ」


ジョーカー「そいつはもう九歳のガキじゃねぇ」


ダーク「そんなのわかってる」


ジョーカー「クロム! そんなやつ無視しろ」


クロム「私……。(涙を拭いて)戻り、ます――」


ディラ「えっ?」


ジョーカー「な……」


クロム「アイゼルに戻ります。ダーク」


ダーク「(とびきり喜んで)クロム……!」


ジョーカー「ふざけんな! お前、何ぬかしてんだよっ!」


テトラ「(ジョーカーの口を右手で押さえて)はいはいー。ちょっと黙ってようね?」


ジョーカー「ふがふがっ」


ディラ「クロム様……っ! 良いんですか?」


クロム「お姉様には、いつか会わなければならないと思っていたんです。それに……。ダークには恩がある」


ジョーカー「!! っ――勝手にしろ!!」


クロム「ジョーカー?」


ジョーカー「うるせぇ。もう話し掛けんな」


クロム「何をそんなに怒ってるんですか」


テトラ「クロム。リンディアと話をして。すぐ帰ってくるつもりかい? それとも、」


クロム「……少し、迷っています。でも、どちらにせよ、私は女王の資格なんてない。……手紙に書かれてあったことで、少し気掛かりなことがあるんです。直接お姉様と話したい」


テトラ「ジョーカーを裏切ることになるんじゃない?」


ジョーカー「……」


テトラ「ねえ?」


クロム「違う。でも、私は行きます。行かなくちゃならない。逃げたままはやっぱりいけない。ダーク、お願いします」


ダーク「うん! すぐ出発しよう!」


クロム「あ、ダナ……」


ダナ「行くのか……。クロム、良いんだな?」


クロム「……はい」


ダナ「そっか。まあ、店は任せな。リンディアを頼むぜ。クロム。あいつは……誰より臆病者だからな。きっとリンも、お前と話したいって思ってるだろうよ」


クロム「ありがとう。宜しくお願いします」


ダーク「近くにメルヴィンを停めてある。さ、行こう」


クロム「はい。ごめんなさい、ディラ、コーラ。向こうに着いたら、連絡を入れますね」


ディラ&コーラ「は、はぁーい」


店から出ていくダークとクロム。


ディラ「クロム様……」






■シーン4・テトラぶち切れる(ディラ、ジョーカー、テトラ、コーラ、ダナ)


ジョーカーを取り囲み、睨みつけるコーラ、ディラ、ダナ。


ダナ「おいクソ海賊っ! てめえっ! 何黙って行かせてんだよっ!!」


ジョーカー「ああ゛!!?」


コーラ「ッジョーカー!! あんたなんなん!?」


ジョーカー「うるせえな」


ディラ「どうして引き止めてくれなかったんですかぁっ!?」


ジョーカー「あいつが決めたことだろ」


ディラ「そんなぁっ! ジョーカー様の人でなしっ! 鬼っ!」


ジョーカー「っ……」


コーラ「(ジョーカーの胸を叩こうとして)あんたなぁ! あれじゃあ今まで身を隠してた意味がないやろ!? ――……っ!」


黙っていたテトラが、コーラの手首を掴み。止める。


コーラ「っ。テトラ?」


テトラ「……ごめん。今回は、僕にやらせてくれないかな。コーラ」


コーラ「……ぁ」


テトラ「――……っ!!」


テトラ、ジョーカーを思い切りぶん殴る!! 倒れたジョーカーの顔から、黒狐の面が落ちる。


ジョーカー「っ!! ぐっ、」


ディラ&コーラ&ダナ「っ!!」


テトラ「見損なったよ」


ジョーカー「んだと……!」


テトラ「(ジョーカーの胸ぐらを掴み)誰のお陰でクロム・ロワーツは生きていると思ってるんだ!!」


ジョーカー「!――」


テトラ「他の誰でもない! 僕とお前があの子を救ったんだ!! あの子の命は僕たちのものだ!!! それがわかっていて何故行かせた!!!?」


テトラが怒る所を初めて見るディラとコーラとダナは固まっている。


ジョーカー「……手紙を透視したのか。流石、お前は優秀過ぎるな」


テトラ「リンディアはクロムと心中するつもりだ」


ディラ&コーラ「えっ!?」 ダナ「はぁっ!!?」


ジョーカー「やはり気が狂ってたか。厄介だな、新女王」


テトラ「(手を放す)中央大陸ごとアイゼルを封印するつもりなんじゃないかな」


ジョーカー「……付き合いきれん」


テトラ「……そう。――っ!(首にしていたペンダントを、ジョーカーに投げ付ける)」


ジョーカー「な、なんだよ」


テトラ「それ、エドガーのドライヴの鍵。僕にはもう必要ないみたいだから」


ジョーカー「テトラ……」


ジョーカーに向かって溜め息を吐き。ディラの前に立つテトラ。


テトラ「ディラ。クロムを助けたいんだ。僕を仲間に入れてほしい」


ディラ「もっ、もちろ……ん!? あっ、あれっ。えっ!? えっ、で、でも」


コーラ「ちょっ、エドガーはどうするん!? コアのテトラが離れたら、エドガーは動かせんやろ!?」


ジョーカー「……好きにしろ」


ジョーカー、足早に店を出ていく。


テトラ「……。バカ」


ダナ「良いのか? テトラ」


テトラ「うん。今すぐ追いかけないと間に合わない。あんな弱虫インキンタムシはほっとこ! ねっ、ディラ!」


ディラ「(ナレーションぽく)こうして、ボクたちは、自分たちの宇宙船ナナシにテトラくんも一緒に乗せ。超ハイスピードで、小惑星ケテラスへと向かったのでした。地球に置いてきたジョーカー様がとっても気がかりですが、仕方ありません。早急に、ボクの大切なクロム様を、絶対奪還してみせます!」


ディラ「行くよ、みんなっ!」


ダナ&コーラ&テトラ「おーっ!!」






■シーン5・君はとくべつ(クロム、リンディア、ダーク)


アイゼル場内廊下。ダークとクロムが、リンディアの部屋に向かって歩いている。


クロム「き、緊張してきました……」


ダーク「(クロムの肩を優しく叩き)大丈夫だよ」


クロム「変わらないですね。アイゼル。皆も元気そうで、何よりです」


ダーク「クロムの部屋、変わらずまだとっておいてあるんだよ。ちゃんと掃除もして貰ってて、」


クロム「えっ? ど、どうして?」


ダーク「ディラに、使わせて下さいってねだられたんだけど。でも……。ふっ。どうしてかな。君がいつか帰ってくるって、俺――わかっていたのかな」


クロム「ダーク……」


ダーク「ごめん。でもやっぱり……。君の代わりなんか、居ないから」


クロム「……っ、あ、ありがとう」


ダーク「クロム、さっきの本当だからね」


クロム「わ、私は」


ダーク「着いたよ」


クロム「あ……。……」


ダーク、扉を軽く数回ノックする。


クロム「……。……えっと」


ダーク「いつも返事はないんだ。入って大丈夫。さ、」


クロム「は、はい。失礼します」


扉を開けてくれたダークに会釈し。リンディアの部屋の中へと足を進める。白い部屋――。ベッドに腰掛け大窓の外を見ている淡い金髪の女性が、クロムの視界に入り込む。さざ波の音が聞こえる。


クロム「お姉様……」


ダーク「リン、クロムを連れてきたよ」


リンディアの身体がピクリと動く。ゆっくりとこちらを向き。


リンディア「……名無しの……。やはり、生きていたんですね。……お帰りなさい」


その女神のような優しさと、人形のような美しさが、少し怖い。


クロム「……はい」


リンディア「(立ち上がり。クロムに近付いて)早速ですが……。名無しの、私の代わりに女王になって下さい」


クロム「えっ……。で、でも、私には王の証がないんですよ? 私なんかより、お姉様のほうが。ずっと、」


リンディア「あなたが女王になるべきです」


クロム「待ってください! 私は、そんな話をしに来た訳じゃないんです!」


突如背中に激痛が走る、クロムとリンディア。


クロム&リンディア「っ!!? あっ……!!?」


クロム「熱……っ! うっ……ぁあっ!?」


ダーク「クロム!?」


リンディア「熱いっ……!! ああっぁぁぁぁぁぁあっ!!」


ダーク「リン!?」


クロム&リンディア「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!」


同時に泣き叫ぶクロムとリンディア。二人の背中が燃え出し――。


ダーク「クロム! リン!!」


クロム&リンディア「あぁぁぁぁぁぁあっ!! ……っ」


うつ伏せで倒れる二人。


ダーク「しっかりっ! っ――!? こ、これはっ……! お、王家の証!?」


シンラとライラの刺青と同じ――いや、これは本物の、王家の証。それが突然、二人の背中に現れた。


ダーク「一体どういうことなんだ……。どうして……」


クロム&リンディア「ぅ、ぅうっ……!」


ダーク「っ!! いけない。――誰か! 誰か来てくれっ!!」


クロム「だ、ダー、ク……っ」


ダーク「っ!! クロム!? 大丈夫!?」


クロム「も、もう、痛みはありません。すみません、騒いでしまって」


ダーク「……その、背中は」


クロム「えっ?」


リンディア「やっぱり、あなたこそ相応しいんだわ……」


クロム「お姉様?」


ダーク「リンの背中にも、王家の証が」


リンディア「えっ……?」


クロム「ど、どうして」


リンディア「……ふっ、ふふふっ、あははははははっ……!」


ダーク「リン?」


リンディア「こんなのは、嘘よ。――嘘に、決まってるわ!!」






■シーン6・ブラックヒーロー(ディラ、ダナ、コーラ、テトラ、ジョーカー)


ケテラス星内部に侵入した途端、暴走キャギラに襲われまくっているナナシ一行。逃げまくるが、群れは増え――。


ディラ&コーラ&ダナ「ぎゃああああああああ――――――っ!!」


コーラ「うゃあああっーっ!!」


ディラ「いやああああああーっ!! ダナっ!! なんとか撒いてぇっ!! ……キャギラ、どうしてぇ!? いつもはこんなに攻撃してこないのにーっ!!」


ダナ「ああもおっ! これでも最大出力だっつうの!! ぐうううっ!!」


テトラ「コーラ。中央大陸の座標軸からズレてるよ。このままじゃ宇宙空間に投げ出される」


コーラ「わかってるけどぉっ! こんなんじゃ無理やろ!? テトラもちょっとは役に立ちいなっ! 頭デッカチのくせにいっ!!」


ダナ「ってかアレ、お前らインドランスの暴走形態なんだろ!? 同じ型なんだから、なんとか沈ませる方法ぁ、ねぇのかよッ!?」


テトラ「やだなあ。同属を殺せってゆーの? ダナ卑劣ーぅ」


キャギラの群れに体当たりを受ける。


テトラ&ディラ&コーラ&ダナ「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


テトラ「クッ……やばいよ。ダナ!! 操舵そうだ系統、イカれてない!? コーラ! 良く見て動くんだっ! もっとダナが操縦しやすいように補正してっ!!」


コーラ「ああっ!? あんたとは違うんよ! んな感覚的分野でダイレクト操作なんかうちには出来んっ!! わああっ……!」


ダナ「待て! まだいけるっ! 俺のナナシをナメんなよおっ!!」


テトラ「コーラ! やばいっ!!」


コーラ「うあっ!? でぃ、ディラっ! 防壁ロジック消滅ぅっ!!」


ディラ「ええーっ!!?」


テトラ「すぐ再構築! 何やってるんだよっ! ナナシっていつもこうなの!? もうやだ。(棒読み)帰りたい。超帰りたい」


コーラ「あかんっ!! テトラ! うち、外出るわ!! ディラを頼むな!?」


テトラ「ち、ちょっと。コーラ!? 今の状態じゃ、シールドが消えるのも時間の問題だよっ……!!」


甲板に飛び出すコーラ。自分の腕から発射されるガトリングで、インドランスたちを倒していく。


コーラ「はぁぁぁぁぁああっ!! 喰らえーっ!!」


ディラ「コーラ! 無茶しないでっ!」


テトラ「大丈夫だよ。銃撃戦ならあの子は強い! 数分は持つ! 時間稼ぎとしては十分だ。ディラ、僕とナナシを繋げる?」


ディラ「えっ? は、はいっ! えっと……。こ、こう! かなっ?」


テトラの身体と、ナナシが一瞬、蒼く光り輝く。


テトラ「コーラ、聞こえる?」


コーラ「テトラ!? うん! 聞こえとるで!」


テトラ「一体だけでいい。敵生態インドランスに、瞬間的ダイブをしてくれないかな」


コーラ「だっダイブぅ!? こっ、こんな!? 今ぁ!?」


テトラ「うん。今! でもすぐに引き返して。コーラのネットワークから、奴等の一律データベースに潜入してみる。こちらからショックを与えられないか、やってみるよ」


ダナ「お、おいっ! それ、タイミングが合わなかったらコーラが危険なんじゃねぇのか!?」


テトラ「大丈夫。僕を誰だと思ってるの? こんなのは……、エドガーが潜り抜けてきた修羅場に比べれば、造作もないこと」


コーラの攻撃を抜けたキャギラたちが、再びナナシを攻撃!!


ディラ&テトラ&ダナ「っゎああああああっ!!?」


ディラ「っ!? コーラ!? コーラ!!」


コーラ「う……うちは大丈夫や。テトラ! いちかばちか! いくでっ!」


テトラ「うん。いつでもどうぞ」


ディラ「テトラくんも一緒にダイブするの!?」


テトラ「うん。でもすぐに戻るよ。心配しないで」


ディラの頬を軽く撫でるテトラ。


テトラ「君を守る為なら何だってする」


ディラ「!?」


テトラ「って――コーラが言ってたから。ねっ?」


コーラ「テトラ!! いくでぇっ!!」


テトラ「うんっ!」


爆発音が響き――激しい光のせいで皆視界が真っ白になる。


ディラ「コーラ! テトラくんっ――!!」


徐々に視界が開けていき。コーラが戻ってくる。コーラの足音だけが響いて。


コーラ「ディラっ! ダナっ!」


ディラ「コーラっ! 良かった、無事で――」


ダナ「せ、成功した……のか?」


コーラ「テ……トラ?」


倒れているテトラを起こすコーラ。


コーラ「テトラ! テトラっ!? ちょっ、目え開けぇっ!! テトラあっ!!」


ピクリとも動かないテトラ。


ディラ「嘘……。テトラくん」


ダナ「お、おい、テトラ!?」


コーラ「……。うち、実は自力じゃ引き戻れんくて……」


ディラ「えっ?」


コーラ「(泣き始め)でもこいつが……無理矢理こっちに連れ帰ってくれたんよ……。ダイブゲートが閉じる瞬間……テトラは……っ」


ディラ「コーラ……」


コーラ「ダイブに失敗した精神は、どこ飛ばされるかわからん……」


ダナ「それに、あの量だったしな……」


ディラ「(テトラくんの精神回路は、ジョーカー様のオリジナル。一度消滅したら、二度と……)」


コーラ「テトラ……ごめん……ごめんっ! うちが、うちのせいでっ!」


再び揺れ動くナナシ!


ディラ&コーラ「きゃああああああっ!?」 ダナ「うああああああああっ!?」


ディラ「な、何!?」


ダナ「キャギラだ!!」


コーラ「そ、そんなっ……。失敗した、言うんか……? テトラ……!」


コクピットの窓ガラスにヒビが入る。


ディラ「っ!! ダナ、振り払えないのっ!?」


ダナ「ぐううっ!!」


コーラ「テトラ……! あんたの身体には、傷一つ付けさせんっ! 絶対守ってみせるっ! ――神様っ……クロム様っ……!」


ダナ「ダメだ、これ以上は、機体がっ!! もたねえっ!!」


窓ガラスに大きな割れ目が!


ディラ「っ!! クロム様……!」


ダナ「クロム……。お前ならどうする……!」


ディラ「っ……。こんな所で……。キャギラに食べられて死んじゃうの?」


割れ目が更に大きくなる。


ダナ「っ!! ディラ、お前だけでも脱出しろ!! さあ!!」


ディラ「そんなこと出来ない!!」


ダナ「お前は生身なんだぞ!? 俺たちなら、コアさえ残れば再生がきく! だからッ――」


ディラ「っ!! 黙りなさい!! 船長は私です!! 私は逃げない!!!! ――コーラ、(コーラとテトラのもとへ。コーラを抱き締めて)私がついています。大丈夫ですよ」


一瞬、ディラがクロムに見える。


コーラ「クロム、様……?」


キャギラに体当たりを受ける……!


ディラ&コーラ&ダナ「ううっ!!」


立ち上がるディラ。数百ものキャギラを、睨みつける。


ダナ「ディラ!! 伏せろっ――!!」


コーラ「ディラっ!!」


ディラ「っ……!! クロム様なら、絶対に逃げない」


コーラ&ダナ「ディラっ――――!!!!」


しばらくの間。無音が続く。


ディラ「……」


コーラ「えっ?」


ダナ「な、なんだ?」


ジョーカー「あーあ。弱っちいなぁ。相変わらず」


ディラ「っ!? 今の声――」


ダナ「まさか……」


コーラ「っ!!? え……」


コーラ&ディラ&ダナ「エドガー!!?」


ジョーカー「おいテトラ!! いつまで嘘寝してるつもりだ!! 起きろッ!! ――艦砲かんほう全セーフティロック解除ッ!!」


カッと、金の目を見開くテトラ。ジョーカーの声により再起動する。


テトラ「――了解……」


コーラ「て、テトラっ!!」


テトラ「うっ……。ふっ。まったく。遅いよ! 船長」


ダナ「ジョーカー!?」


ディラ「攻撃の盾に……っ!?」


ジョーカー「チュンチュンと雑魚がうぜえんだよ――喰らえ……!!」


エドガーの何千というビーム射撃が、キャギラを殲滅していく。


ダナ「すげえ……。あれがエドガーのビーム砲……!」


テトラ「ふふっ。ジョーカー。エドガーはどうやって動かしてるのかな?」


ジョーカー「お前がわざわざ鍵を置いて行ったんだろうが」


テトラ「さあ? どうだったかなぁ?」


コーラ「え、で、でも。鍵があったとしても。テトラでないとエドガーの操縦は出来ないはずやろ?」


テトラ「うん。だから。鍵を差し込んだとわかった時に。こっちから遠隔操作して連れて来たんだ」


ジョーカー「バカったれが……」


コーラ「いつの間にそんな高度機能があっ!?」


テトラ「ふふふ。僕は常に進化しているのさ」


ディラ「で、でも、さっきの射撃はジョーカー様のですよねっ? ね!」


ジョーカー「はぁ。ディラにフォローされる程、俺も落ちぶれたか。いや、もういっそ役立たずだと罵っても良いんだぜ、ディラ」


ディラ「や、ヤクタタズー?」


コーラ「まぁじヤクタタズー」


ダナ「テトラがいねーとなんも出来ねーのかよーあっはっはっはっはー」


ジョーカー「殺す」


ディラ&コーラ「うわーっ」


ダナ「い、いい加減戻ってやれよ。テトラ。お前がここに居ると肩が凝ってしょうがねえ」


テトラ「ふふ。そうだね」


ディラ「テトラくん、ありがとう」


テトラ「こちらこそ。ありがとね、ディラ。いい子いい子(ディラを撫でる)」


ディラ「ふぁ……」


コーラを見つめるテトラ。二人、目が合い……。


コーラ「て、テトラ……。あの」


テトラ「ふふ。また、ね」


振り返らず。エドガーに駆け戻るテトラ。甲板に飛び乗って――。


テトラ「っと。……」


ジョーカー「よお。裏切り者のお帰りか?」


テトラ「あー? なーに? 僕がそんなに恋しかったのデぇスぅカー?」


ジョーカー「バァーカ。くそやろうが」


テトラ「ふっ……。あははははっ! ……ただいま」


ジョーカー「(安堵の溜め息)……」


ニッと笑い合い。バチンと互いの右手を高らかに合わせるジョーカーとテトラ。


テトラ「ふふっ。ねぇ、はじめてのお使いって知ってる?」


ジョーカー「ったく……(テトラの頭を軽く叩く)」


テトラ「あたっ! まあ、僕の主人は、堅物でシャイで俺様。じゃなきゃね」


ジョーカー「誰のことだよ」


テトラ「あははっ。こうでなくっちゃ」


キャギラが標的をナナシからエドガーに変更。狙いを定めてくる。


ジョーカー「(銃を抜き、構える)――テトラ!!」


テトラ「うんっ!!」


ジョーカー「ファイアーウオール展開っ!!!!」


テトラ「了解っ!!」


テトラの身体を介して。七色に光るエドガー。キャギラたちの動きを封じていく。


ジョーカー「ディラ! 着いてこい。アイゼルへ誘導する! 敵に構わず進め!!」


ディラ「はっ、はいっ! ダナ! エドガーに続いてっ!」


ダナ「おうっ!!」


アイゼルへ侵入する、エドガーとナナシ!






■シーン7・へんそう?(ジョーカー、ダナ、テトラ、コーラ、ディラ)


ジョーカー「ちょっ、ちょっと待てっ! どーゆーつもりだ!?」


アイゼル城内部、艦隊が数多く置かれているスペースに辿り着いたナナシとエドガー。

ナナシ船内。コーラとディラにずずいと取り囲まれているジョーカー。その後ろで、三人の様子を傍観しているダナとテトラ。


コーラ「待てへんっ! あんた一応指名手配されとるんよ!? そのままやと捕まるやろ!」


ディラ「うんうんっ! だから! 変装しましょっ!」


ジョーカー「やめろっ!!」


テトラ「(……お面だけ替えれば良い気がするんだけどー……。ま、これはこれで面白いからほっとこうかな、うんっ)……ね、ねぇ。エドガーはなんとか頑張って隠すとしてさ、」


ジョーカー「こんなことしてる時間ねぇだろっ!!」


コーラ「だから急いでるんやろ!? 黙っとき!!」


ダナ「顔の火傷の痕はどうすんだよ」


コーラ「メイクでなんとかなるっ! ほらジョーカー! 顔上げえっ!!」


ジョーカー「ぐうっ」


ディラ「だ、ダーク様に変装したらどうですかねっ!? ほら!! ここに何故かダーク様の軍服がっ!!」


コーラ「おっ! (パチンと指を鳴らして) それ、ええなっ!」


ジョーカー「ちょっ……。ま、まてっ……!」


テトラ「あーあ……。ふふふふっ」






■シーン8・対峙(ジョーカー、リンディア、ディラ、コーラ、ダナ、テトラ)


真夜中。外壁から、リンディア女王の部屋に侵入するジョーカー。ディラ、コーラ、ダナ、テトラは外壁にしがみつき。ジョーカーを応援している。


ディラ「うっしょっ。うっしょっ。ジョーカー様っ! 頑張ってっ!」


コーラ「よっとっ! ジョーカー! ふぁいとおっ!」


ジョーカー「な、なあ。お前らは普通に入れるんじゃ、」


テトラ&ダナ「いいから行けっ!」


ジョーカー「クソッ。覚えてろよ」


こそりと入ったが、リンディアの視界に入り込んでしまう。


リンディア「誰?」


ジョーカー「っ!」


リンディア「その紋章……。ダーク?」


ジョーカーにそっと近付いてくるリンディア。


ジョーカー「っ……」


リンディア「あら。ふふふっ」


ジョーカー「?」


リンディア「こちらへどうぞ。座って下さい。お茶でもいかがですか」


ジョーカー「ち、ちょっと、急いでるんだ。クロム……、あ、いや、名無しのが来なかったか?」


リンディア「あははっ……。そうですね」


ジョーカー「……?」


リンディア「顔が一緒なのに。こうも似合わないものですね。どうして、そんな格好をなさっているんですか? ジョルド」


ジョーカー「っ!! よ……よくわかったな」


リンディア「ダークとは、長い付き合いですから。あなたとも」


ジョーカー「ふん……」


ジョーカー、羽織っていた軍服を脱ぎ捨て。黒いマントを羽織り。黒い狐面を着ける。


リンディア「火傷……。やはり痕になってしまったんですか?」


ジョーカー「気にするな。お前は――、相変わらず。絶世の美女、だな」


リンディア「ふふ。ありがとう。貴方に褒められるなんて。明日は槍でも降ってくるかしら」


ジョーカー「あんた以上のべっぴんは、見たことも聞いたこともねえな」


リンディア「名無しのは?」


ジョーカー「あいつは鼻が低いからな……。美人って顔じゃねえ」


リンディア「ふふふふふっ」


ジョーカー「何笑ってんだよ」


リンディア「自分の妻に言うような台詞だなあと思いまして」


ジョーカー「ちっ……。どいつもこいつも。……なあ、リン、」


リンディア「はい」


ジョーカー「お前、もしかして――死ぬつもりなのか?」


リンディア「……何故です?」


ジョーカー「テトラがな。バージョンアップしたんだ。元々、あいつには特別な千里眼が装備されてたが。今までよりも遥か遠くまで見渡せるようになったらしい」


リンディア「ジョルド、」


ジョーカー「趣味が悪い。毒のある花を寝床に敷き詰めて眠るだなんてよ」


リンディア「私にプライベートはないんでしょうか」


ジョーカー「悪かった。だが、お前に女王になって貰わなければ困るんだ」


リンディア「どうしてです?」


ジョーカー「クロム・ロワーツは俺のものだ。こんな死にかけの小惑星に置き去りにし、古びた水晶宮の王様なんかさせられるかよ。あいつは、広い世界で。自由気ままに俺と生きるのが定めだ。それを邪魔するな」


リンディア「そんなに愛しているんですね」


ジョーカー「愛……か」


リンディア「でも、ダークもあの子を愛してる」


ジョーカー「知るかよ」


リンディア「ダークにとって、名無しのはかけがえのない存在」


ジョーカー「お似合いなのは認めるけどな。なあ、クレラスのキーコマンドと声紋、いじったのはやはりお前か」


リンディア「さあ、なんのことでしょう?」


ジョーカー「お前の言うことを聞くインドランスなら腐るほど居るだろう」


リンディア「名無しのに必要なのは、親からの愛情と、ジョルドとダークからの愛情……。それさえあれば、あの子は自信がつくでしょう」


ジョーカー「クロム・ロワーツと設定したのはお前なんだな!?」


リンディア「話すつもりはありません。でもあの子は渡さない。私に恐怖しか与えない名無しの姫は、この手のひらの上で一生踊らせてみせる」


ジョーカー「させるかよ……! (去ろうとする)」


リンディア「ジョルド、名無しのに伝えるんですか? あのプログラムは悪戯だったと」


ジョーカー「言えるか。んな……それだけは、残酷過ぎる。あいつがどんだけ本当の名を必要としていたか……。それさえあれば、なんだって良かったんだよッ……!! ばかやろう」


去るジョーカー。その場に座り込むリンディア。


リンディア「(俯き、瞳にいっぱい涙をためて。笑って)……。ジョルド……。これでもう、私を嫌いに、なって」





■シーン9・星空の下で、君と話したい(クロム、ダーク、リンディア)


真夜中。アイゼルの美しい空中庭園で星空を見上げているクロム。


クロム「綺麗……。地球も見えたらいいのにな。……お店ほっぽって出てきちゃったけど、ディラたち大丈夫かしら。ジョーカー……。誤解、してるかな。……(ポケットから通信機を取り出して)いつもジョーカーから通信が来る時間……。あんなに毎日話してても、やっぱり、会うと違うな……。凄く……――した」


ダーク「(突然背後に現れ)わっ!!」


クロム「(倒れかけて)きゃっ!?」


ダーク「あはは。驚いた?(クロムを支える)」


手を繋ぐ二人。


クロム「びっ、びっくり、しっ、しましたっ!」


ダーク「ごめんね」


クロム「ダーク……」


ダーク「寝ないの?」


クロム「あ……。え、っと……。……噛み締めているんです。この星の空気。とても懐かしくて」


ダーク「少し歩こうか」


クロム「は、はい」


ゆっくりと歩き出す二人。


ダーク「敬語でなくていいのに」


クロム「い、いえ。ダークのほうが年上ですから」


ダーク「クロムのほうが位は上だよ?」


クロム「……でも、」


ダーク「背中、ほんとになんの痛みもないの?」


クロム「えっ。あ、はい。全然、大丈夫です」


ダーク「良かった。君にまたもしものことがあったら……」


二人の距離がうんと近付いて。


クロム「……っ」


ダーク「(繋いでいたクロムの手を自分の頬に当てて。悲しく微笑みながら)苦し過ぎる。やっと会えたのに」


クロム「っ……。(恥ずかしさに耐えられず、視線を逸らそうとする)」


ダーク「愛してる、クロム」


クロム「えっ、あ、あっ……う、」


ダーク「好きだよ」


クロム「お、お姉様……凄くショックを受けていましたね(そっと自分の手を引っ込める)」


ダーク「うん……。現実を、受け入れたくないって感じだったな」


クロム「あ、あの、ダーク。私ずっと謝りたかったの。昔、城の地下に一緒に探険をしに行ったでしょう?」


ダーク「ん?」


クロム「その時、溶岩を纏ったキャギラに襲われて――。ダーク、私を庇って怪我を」


ダーク「なんの話?」


クロム「えっ?」


ダーク「地下、か」


クロム「ダーク?」


ダーク「行ってみようか」


クロム「えっ? い、今ですか?」


ダーク「うん。どうやらあっちも眠れないみたいだし、ね? おーい、リン! 出ておいでっ」


クロム「えっ?」


リンディア「う、うっ……」


クロム「お姉様?」


リンディア「ち、違うんです。覗き見するつもりはっ! なかったんですっ! な、名無しのの部屋に行ったら居なかったから……」


クロム「(リンディアに駆け寄って)何かご用事でしたか?」


リンディア「昔みたいに、一緒に寝たくて……」


クロム「ふふっ。ありがとうございます」


ダーク「ねえ、地下神殿に行って。王家の承認をしてきちゃおうよ」


リンディア「えっ?」


ダーク「二人分。ね? 早いほうが良いでしょ? どちらが女王になるにしても、さ」


クロム「そ、そっかっ。私にはもう、名前だってあるんだもの。やっと、本物の王族として、認められるんですねっ」


リンディア「本当に行くんですか?」


ダーク「すぐ終わるから。ね」


リンディア「っ……」


クロム「お姉様。行ってみましょう。どうしてお姉さまにも王家の証が現れたのかも、わかるかも知れませんし」


リンディア「……わかりました」






■シーン10・はやく、嫌いになって(フルキャスト)ENDING


地下神殿へとやって来たクロムとリンディアとダーク。その後をつけているディラ、ジョーカー、テトラ、ダナ、コーラ。

神殿入り口で足を止めるダーク。


ダーク「じゃあ。俺はここで待ってるね。行ってらっしゃい」


クロム「はい。行ってきますっ」


リンディア「……行ってきます」


クロムとリンディア、奥へと足を進める。


ダーク「……おい! お前ら何してる!」


コソコソと内緒話をしているナナシ&エドガー一行。


テトラ「はやっ。がーん」


コーラ「な、なんでバレとるん? 完全に気配消しとんのにっ!?」


ダナ「バカ。ダークはケテラス一の聖騎士だぞ。俺が育てたケテラス一の聖騎士だぞっ!!?」


ディラ「ダナ、うるさいっ。シーッ! シーッ!」


ジョーカー「鼻がよくきくんじゃねえか?」


ディラ「ジョーカー様さっきもお酒飲んでたでしょっ!」


テトラ「コーラがクサイんじゃない?」


コーラ「はあ!?」


ダナ「あ~。アイゼル温泉ゆっくりつかりてえなあ」


ジョーカー「月見酒、か」


ダナ「良いねぇ」


ダーク「とっとと出て来いっ!!」


ディラ&コーラ&テトラ「は、はぁ~い……」


ダナ「お前焼酎も飲むのか?」


ジョーカー「まあそこそこな。だがなぁ、ダナあれだろ、お前と言ったらハイネケン。だろ?」


ダナ「へっ。わかってんじゃねえか。小僧」


ダーク「コルァ!!」


ジョーカー「うるせえな。聞こえてるっつの。夜中に大声出してんじゃねえよ。変人プリンス様」


ダーク「どうしてここに居るんだ。ディラ! こんな趣味があるのか!?」


ディラ「うううっ……。す、すみませぇん……」


コーラ「くっ、クロム様を勝手に攫ってったんはダーク様やろ!?」


ディラ「そっ、そうですよっ! クロム様は、女王になんかなりたくないのにっ!」


ダーク「――クロムとリンの背中に、王家の証が現れた」


ディラ&コーラ&ダナ「えっ!?」


テトラ「ふぅーん」


ジョーカー「どういうことだ」


ダーク「ここは通さない。二人は王族として本物になるんだ」


ディラ「それは……。本当に、クロム様とリンディア様が望んでいることなんですか!?」


ダーク「それは――。……っ!? なんの真似だ」


テトラとジョーカー、銃を抜き。銃口をダークに突きつける。


テトラ「クロム・ロワーツに本名なんて要らない。そう、ただ求めているだけで良いのさ!」


ジョーカー「名も王族の証も、あいつの最終目標だった訳だ。こんな形で宝が簡単に手に入るなんて、そんなん」


テトラ&ジョーカー「無意味なんだよっ!!」


全員の足元が揺れる。地震。


コーラ&ディラ「きゃあっ!?」


ダナ「な、なんだ!? 地震!?」 テトラ「わぁっ!?」


ジョーカー「なんだ……?」


ダーク「はじまったんだ。儀式が」






石の螺旋階段を下へ下へと進む、クロムとリンディア。


クロム「――お姉様、手紙に書かれてあったことは本当ですか?」


リンディア「どの部分についてでしょう」


クロム「っ……『お久しぶりです。名無しの、直接話したい。あなたがアイゼルの女王になって下さるのなら』……」


リンディア「私は死んでも、構わない」


クロム「どうして、そんなことをおっしゃるんですか」


リンディア「あなたの為よ」


クロム「えっ?」


リンディア「着いたわ。さあ、儀式を始めましょう」


クロム「お姉様は知っているんですか? どうして証が突然現れたのか」


リンディア「さあ。必要になったからじゃないですか?」


クロム「でもお姉様には、」


リンディア「名無しの。真実とはなんでしょう」


クロム「え……」


リンディア「私は知りたくなかった。そんなことはどうでも良かった!」


二人、儀式の間の玉座に置かれてある赤い珠に触れる。


クロム&リンディア「っ――」


互いの背中が共鳴して光り――。地鳴りが聞こえる。


クロム「お姉様と私は、本当の姉妹なのですね?」


リンディア「私は半分だけ。父様としか血は繋がっていないようです」


クロム「そうですか……。でも私は嬉しいです。ずっと家族が欲しかったから」


リンディア、赤い珠から手を離してしまう。


クロム「お姉様?」


リンディア「中途半端なこの私が女王になるなんて。きっと国民は納得しないわ」


クロム「そんなことはっ!」


リンディア「この18年。私がアイゼルに尽くしたことなど何一つない! ずっとダークの後ろに隠れて……。怯えて縮こまっていただけ」


クロム「私の、せいですか?」


リンディア「違う……。全てが怖くて仕方なかったのよ。どんな行動も、自分の殻を破れずに。ただ……」


クロム「お姉様……」


リンディア「私は純粋な王家の血が流れていないことに絶望して、孤独を深く抱き(いだき)続けた」


クロム「……」


リンディア「満たされたかったの。だから、」


クロム「お姉様。この背中の陣は、やはり血なんて関係ないんじゃないでしょうか」


リンディア「そんな訳ないでしょう」


クロム「いえ。今このタイミングで現れた。それが何よりの証拠だと思うんです」


リンディア「私は社会的利害なんて考えず、ただ自分の為だけに」


クロム「エゴがなければ人は潰れてしまう! さぁ、お姉様。続きを」


リンディア「お前が自殺するよう仕向けたのはこの私よ!!」


クロム「っ!」


リンディア「18年前。メイドや下級騎士たちに、王族の悪い噂を流したのは私なの……」


クロム「……そうですか」


そっとリンディアに近付こうとするクロム。


リンディア「っ来ないで!!」


クロム「お姉様。あの時死のうとした私はただ弱かった、それだけです。お姉様のせいで、名無しの姫は消えた訳じゃない。それにね、」


リンディア「来ないで……」


クロム「あの噂がなければ、あの時私は城の皆と一緒に舞踏会を楽しんでいたでしょう。暗い気持ちになんてならず。一人部屋に居ようなんて思わなかった。それは困るんです」


リンディア「……?」


クロム「感謝させて下さい。あの日私は……。かけがえのない人に――」


リンディア「ッ! クレラスの声紋とキーコマンド! あれだって!」


クロム「お姉様が、クロム・ロワーツと設定させたんですね。ダークに」


リンディア「っ? ど、どうして」


クロム「あの時テトラがメールをくれていたんです。指紋とログがダークのものだったと。テトラが、観測能力に長けていること、お姉様だって知っているでしょう。……でも、ダークのことだから。テトラが私に知らせることを見越して“痕”を残して行ったのかも知れませんね」


リンディア「……っ」


クロム「ダークに、私を殺せとでも命令し……。それが出来ないのならクレラスのキーコードを弄れとでもおっしゃったんですか?」


リンディア「……」


クロム「お姉様、私を精神的に追い詰めたいのなら。もっと直接的な攻撃でないと効果はありません。私のまわりの人間を全て抹消するとか……その位のことをやらなければ私は傷付きませんよ!!」


クロム、腰から小さな銃を抜き。


リンディア「ひっ……!」


リンディアに投げ渡す。


リンディア「っ!?」


クロム「それで、私の腕と足を撃って下さい」


リンディア「……」


クロム「お姉様。私に怖いものは……そんなにないんです」


リンディア「どうして、」


クロム「私の強さはジョーカーの力。テトラの探究心が、私に知恵をくれる。ディラの真っ直ぐな心が、私の心を奮い立たせ。コーラとダナの存在が、いつだって私を守ってくれる。ダークが居なければ、私はもっと冷たい人間になっていたでしょう。他にも、沢山の人たちが、私の心に寄り添ってくれています」


リンディア「そう……。わかっているのよ。あなたばかり愛されて」


クロム「羨ましいなら輪の中に入ってくれば良いのに! お姉様自身を否定しているのは、お姉様だけです!!」


リンディア「ッできない!! 私はあなたみたいに強くなれないのよ!」


クロム「卑怯な真似は出来るのに、どうして一歩が踏み出せないの!? 臆病なお姉様なんて、私は見たくありません! 小さい頃の、気高くて気丈なリンディア・ロワーツはどこへ行ってしまったんですか!!」


リンディア「ふっ。あなたと一緒よ……。あの時、泉の底に落ちて死んだわ。騎士たちや国の為に死んだあなたに、私は笑って顔向け出来ない!!」


クロム「でも、私は許したい!!」


リンディア「……名無しの……」


クロム「お姉様。私は、私だって汚い。守るべき国があるのに、それをダークやお姉様、アイゼルの皆に押し付けて逃げてしまった。お姉様は、そんなに女王になるのが嫌だったのに……。私は何も気付かずに」


リンディア「違うの……」


クロム「?」


リンディア「私はあの人が、あなたにいつまでも一途なのがどうしても耐えられなくてっ……!! だからっ……!」


クロム「えっ」


溶岩を纏ったキャギラが現れ。クロム目掛けて降って来る。


クロム「キャギラ!? あっ、あの時と同じ……!」


リンディア「名無しのっ……!!」


クロム「えっ――」


クロムを熔岩から庇い、全身大火傷を負うリンディア。


リンディア「くっ、あああああああああああっ!!」


クロム「っ!! お姉様ぁ……っ!!」


倒れたリンディアに駆け寄るクロム。


クロム「っ!」


リンディア「っ……これで……。よかった……。……名無し、の……」


クロム「もう喋らないで! すぐ治療をっ! 上まで連れて行きますっ!!」


リンディア「……(クロムの頭を強く抱き締める)……ごめんなさい。あなたに、酷いこと、ばかりして……。こんな可愛い妹に……私はなんてことを」


クロム「おねぇさま……」


リンディア「アイゼルを、頼みます……。クロム……」


クロム「っ……!! いけない、お姉様! 私に女王なんて出来ませんっ! 私なんかに任せてはだめっ!」


リンディア「あなたのほんとうの名は……っ、ぃ、っき、に……」


クロム「えっ!?」


リンディア「わ、たしは……」


クロム「?」


リンディア「ダークのことが、ほんとうに……すき、だった……。…………………………」


クロム「お姉様? お姉様……! 目を開けてくださいっ!! お姉様ぁ!!」


リンディアの王家の証が消滅する。


クロム「っ……わたしに言ったって……仕方ないじゃない……っ!」


ダーク&ジョーカー「クロム!!」


やっとそこへ駆け付けるダークとジョーカー。クロム、身体がビクつき。


クロム「ダーク……ジョーカー……」


ダーク「リン……!?」


クロム「(振り向かずに)来ないで下さい!」


ジョーカー「何言ってんだ。はやく逃げんぞ!!」


クロム「(ダークを睨み付け)どうして私の名を先に呼んだの……?」


ダーク「え?」


クロム「どうしてもっとはやく来てくれなかったの……」


炎を纏ったキャギラが、リンディア目掛けて襲いかかってくる。


ダーク「クロム! 危ないっ!!」 ジョーカー「クロム!!」


クロム「っ! お姉様ッ……!!」


ジョーカー&ダーク「クロム!!」


リンディアを庇い、背中に大火傷を負うクロム。焼け爛れ、王家の証が消えてしまう。


クロム「お……ねぇ、さまっ」


キャギラに襲われるダークとジョーカー。剣と銃で戦う。


ダーク「クロムッ! くっ……!?」


ジョーカー「こっちを片付けんのが先だ! ッるあっ!!」


クロム「……お姉様、っ、これでもう……私に女王の資格はありませんっ。元より私は反逆者。こんな、お姉様が居ないアイゼルなんて……」


焼けたクロムの背中とリンディアの身体が突然光り出し。二人の身体が全身燃え上がりながら融合してしまう。


クロム&リンディア「消えてしまえば良いんだわ……!!」


ダーク&ジョーカー「なっ……!?」


燃え光るその炎の眩しい灯りが、儀式の間の壁画を明るく照らす。


ダーク「赤い……女性? あれと同じ姿?」


ジョーカー「文字が何か書いてあるな」


ダーク「怒りいかりがみ……現れし、時……破壊、され……」


ジョーカー「読めるのか」


ダーク「いや、ほとんど崩れてて、駄目だ」


クロム&リンディア「……ふ、う、う、……っ!」


ジョーカー「あー、すげぇ殺気。目を合わせんなよ」


ダーク「元に戻す方法は……。書いてないかな」


ジョーカー「ふっ。随分と冷静じゃねぇか」


ダーク「いや、内心かなり焦ってる。自分を保つのに必死だ」


ジョーカー「俺は嬉しいな」


ダーク「は?」


ジョーカー「あいつにはあんな面もあるのかと……。ククッ。――ったく。知り合って二十年近く経つのに。まだまだ知らんことがあるようだ。ほんと、飽きないな。流石は俺のクロム・ロワーツ」


ダーク「……来るぞ。構えろ」


ジョーカー「俺に命令するな」


クロム&リンディア「う、かっ、アッ……」


ジョーカー「ふっ。良いぜ。クロム、俺を楽しませてみせろ」


ダーク「おい。傷を付けたら容赦しないからな」


ジョーカー「無傷で捕らえろってか。良いだろう」


怒り神となってしまったクロム。ジョーカーとダーク目掛けて、槍の炎を振りかざしながら突っ込んでくる!


ダーク&ジョーカー「(なんとか避ける)っ!!」


ダーク「クロムっ! 目を覚ましてくれ!」


クロムに向かって何度も銃を撃つジョーカー! しかし、いとも容易く弾かれてしまう。


クロム&リンディア「ううううう、あ、あああ」


ジョーカー「わお」


ダーク「っおい!!」


ジョーカー「傷は付けてねーだろ」


ダーク「言い訳するな! 国の宝だぞ!!」


ジョーカー「国の宝ねぇ。一体いくらの価値があるんだか」


出口に向かって逃げるダークとジョーカー。


ジョーカー「とりあえず戻るぞ!! ここじゃ戦いにくくってしょうがねえ」


ダークの通信機に、ナナシから通信が入る。


ディラ『CQDXCQDX! ジョーカー様っ! ダーク様っ! ナナシ、発進準備、出来ましたっ! 応答して下さいっ!』


ダーク「ディラ! すぐそっちに戻る!」


ディラ『えっ!? は、はいっ! 了解ですっ!』


ジョーカー「ナイスタイミングだ!! ディラ、乗り込んだらすぐに逃げるぞ!! ここはもう崩れる!!」


ディラ『はいっ!』


コーラとテトラが、二人の元に駆けつける。


テトラ「まったくもう。人使い荒いんだからっ! ジョーカー! お待たせっ! 言われた通り、エンジンかけて。出口にエドガー待機させてるよっ」


コーラ「ダーク様っ!」


ダーク「コーラ! 引き返すんだ!」


コーラ「っ!? なっ!? あの敵生体はどうすんねん!? っ? あ、あれ、キャギラやないみたいやけど……なんなん!?」


テトラ「……クロム? じゃ、ない?」


コーラ「あんな化け物、見たことな……」


ダーク「振り返らないで! 脱出が最優先だ!! 行くよ、コーラ!!」


コーラ「わっ!? は、はいなっ!」


テトラ「クロムとリンディアは?」


ジョーカー「良いから離脱しろ!!」


テトラ「ええっ?」


コーラ「待ちぃ! 説明しぃな!」


ダーク「あれは――……」






コーラはナナシに。テトラとジョーカーとダークは、エドガーに乗り込む。


ディラ「ダナ! コーラの回収、確認っ!」


ダナ「ダークは!?」


ディラ「エドガーに乗ったみたい!」


ダナ「クロムとリンディアは!?」


ディラ「っ? どこにも居ない……。っ!!?」


クロム&リンディア「う、ううう、あああっ!! (ナナシを攻撃する)」


ディラ「きゃあああああっ!?」 ダナ「ぐああっ!?」


コーラ「(走ってきて)ディラ! ダナっ! 発進してええで!」


ディラ「えっ? く、クロム様とリンディア様は!?」


コーラ「っ……。今のがそうや……! ダナ、はようっ!!」


ダナ「あ、ああっ!」


ディラ「クロム様……」






テトラ「発進するよ!!」


ジョーカー「ああ!」


ダーク「……どうしたら良いんだ」


テトラ「(胸が突然痛んで)くっ!? だ、ダーク。メルヴィンが……!」


美しかった森も、水晶宮も、全て。炎に包まれていく。


ジョーカー「嘘だろ。アイゼルも、中央大陸も全部……燃やし尽くす気か」


ダーク「もう終わりだ……。こんなことになるなんて……。俺が軽はずみなことを言って、儀式なんかさせなければ、こんなことにはっ」


テトラ「仲間たちの声が、音が……。どんどん、消えていく……。ライラ……シンラ……」


ジョーカー「っ……」


ダーク「インドランスなら替えがきく」


ジョーカー「は。おい、今のは聞き捨てならねえな」


ダーク「お前だってそう思ってるだろ!」


テトラ「ちょ、待ってよ。こんな時に」


ジョーカー「確かに、同じようなもんならいくらでも作れる。――だがな!」


テトラ「ジョーカー! やめてよ! やめて……。クロムが悪いみたいな言い方はやめてよ!!」


ジョーカー「ッ……くそ」


テトラ「っ……クロム……どうして」


ダーク「アイゼルは、俺が生まれて。骨を埋めるはずの場所だった」


大陸ごと燃え――。城も、何もかも、海に沈んでいく。






ディラ「アイゼル、みんな……! (泣き始めて)……っ。……、いやだ、っ……ボク、何の為にアイゼルの王女になったんだろう」


コーラ、ディラを抱き締めて。


コーラ「ディラ、うちはずっと一緒や。ずっとディラの側におる」


ディラ「っ――。うん……っ」


ダナ「メルヴィン……。他の艦隊も、全部、信号が消えちまった……。騎士団の奴らも、城下の人たちもみんな……。これじゃ助からねえ。クソオっ!!」


クロム『ディラ……たす、けて』


ディラ「……っ!?」


コーラ「ディラ?」


ディラ「クロム様……!」


コーラから離れ。ナナシから出ようとするディラ。


コーラ「っディラ!? どこ行くん!?」


ディラ「行かなきゃ。ダナ! クロム様の所へ!!」


ダナ「っ!? わ、わかった」


コーラ「!? 危険過ぎるわ! ディラ! 何考えとるん!? あれは、」


ディラ「ボクは、何度だってクロム様に助けて貰ってきた! たまにはお役に立たなくちゃ。ボク、アイゼルの王女なんだもん!!」


クロム『コーラ……』


コーラ「ッ――! クロム様?」


クロム『ダナ……』


ダナ「クロム!! 今行く!!」


クロム『ジョーカー……』


ジョーカー「クロム……? ……っ!」


エドガーから出ようとするジョーカー。


テトラ「ちょっ、ちょっと、どこ行く気!?」


ジョーカー「直接黙らす! もう手段を選んでる場合じゃねえ!」


ダーク「もう無駄だ! もう……」


ジョーカー「諦めんのか」


ダーク「もう何も残ってはいない。終わりだ」


ジョーカー「勝手に終わってろ! おいテトラ! 船長命令だ。あの化けモンに近付けろ」


テトラ「い、いやだよ。船体が溶けちゃうよ!」


ジョーカー「すぐに終わらす! 旋回しろ!!」


テトラ「っ……もう。ダークが船長だったら良かったのに」


ジョーカー「思ってもねえこと言ってんじゃねーよ!! さっさと動かせ!」


テトラ「はいはい。まったくもう。しょうがないなあ。ふっ。ふふっ」


ダーク「どうして、笑っていられるんだ……」


テトラ「さあ、どうしてかな。昔ね。希望だけは最後の最後まで持っていろって、姫さんが言っていたから。かな」


クロム『テトラ……』


テトラ「うん……。今行くよ。我が姫君」


クロム『ダーク……』


ダーク「っ!? クロム?」


クロム&リンディア『私はなんてことを……』


ジョーカー「うるせえ。馬鹿。黙って目ぇ伏せてろ」


ディラ「クロム様ぁっ!!」


クロム、ナナシの甲板に出たディラに襲い掛かってくる。


クロム&リンディア『ウ、アアアッ』


ディラ「っ!!」


ディラの身体が白く淡く輝き。ふわっとクロムを包み込む。抱き締め。その光はどこまでも広がり――。炎を鎮めていく。


コーラ「な、なんやっ!?」


ダナ「ディラ!」


ダーク「やっぱりディラには特別な力が……」


クロム「……でぃ、ら」


クロムを優しく抱き止めるディラ。


ディラ「クロム様。悲しみに負けないで」


クロム&リンディア「ごめん、なさ……」


ディラ「(目を閉じ。首を横に振り)……リンディア様。誰も、あなたを責めたりはしません。……ずっと、こんな気持ちを、一人で抱えていたんですね」


リンディア「ディラ……」


ナナシの甲板に降りてくるジョーカーとダーク。ディラに駆け寄り。


ジョーカー「(クロムの頭を抱えて)……ばか」


ダーク「(ディラもクロムも抱き締めて)……リン、ごめんね」


ディラ「下を、見て下さい。……みんな無事です!」


クロムとリンディア、融合が解け、二人に戻る。

騎士たちの判断やインドランスたちの力で。ほとんどの人たちが救助され、助かっている。


ダーク「ライラ! シンラ……!」


テトラ「再起動……。ふふっ。洒落たことしてくれるじゃないか。僕の計測機がイカれてたのかな?」


ダナ「みんな……!」


ディラ「リンディア様。また一から。新しい国を作っていきませんか。ボクも、頑張りますからっ」


リンディア「わ、私は……」


クロム「お姉様。大丈夫ですよ。もう独りではありません」


リンディア「な、名無しのも、一緒がいいっ! です」


クロム「えっ? ふふっ。……はいっ! お姉様、これからは一緒に」


皆微笑み。暖かい気持ちが集まっていることを感じていた。

リンディアを強く抱き締めるクロム。


テトラ「たくさん暴れてスッキリした?」


コーラ「こ、こらっ、テトラ!」


テトラ「何。本当のことでしょ? ね。リンディア。これからは。もっとこっちにおいでよ。僕もね、ずっと君と話したかったんだ」


リンディア「……私も。いつも……。話し、たかった」


皆笑う。


クロム「お姉様。もう遠慮することなんて――」


クロムの腕の中から、リンディアが消えてしまう。


全員「っ!? リンディア(様)!?」(※ジョーカーとダークとダナは「リン」 クロムは「お姉様」)


ディラ「き、消えた……?」


ダーク「リン……!?」


クロム「っ!? な、何か、紙が――(リンディアが居た場所に、茶色い一枚の紙が出現する。それを掴む)?」


クロム「“リンディア女王は預かった。我が冥王星の為、アイゼルを再復興させる訳にはいかない”――!!?」


全員「なっ……!?」


ディラ「リンディア様っ、ど、どっ、どっ、どういうことっ!?」


ジョーカー「ちょっと貸せ! っ!! こ、この刻印!!」


ダナ&ジョーカー「アラジン海賊!!?」


ディラ「あ、あらじん……?」


クロム「ジョーカーと同じ、宇宙海賊です……。ただし、」


テトラ「殺しも犯罪も余裕でやっちゃう。極悪非道な奴らさ」


コーラ「な、なんでっ、なんでアラジン!?」


ジョーカー「“女王を返して欲しければ、ジョーカーとダルダディアの首を差し出せ”……だと」


ダーク「え、お、俺? ……ああ、」


テトラ「何回もドンパチやってるからねえ。いっつもボッコボコにしてやってるから。逆恨みかなぁ」


ダーク&ジョーカー「苛め足りなかったか……」


ダナ「何この双子、怖っ」


コーラ「かっ! (紙を奪う)貸しぃっ! ほ、ほんまや。んんっ!? “P.S ついでに名無しの姫と新しい王女も連れて来い”ぃ!? “俺っちの性奴隷にしてやるエヘヘヘ”……だとぉ!?!」


ダナ&ダーク&ジョーカー「は? 殺す」


コーラ「“一週間以内にこちらに来なければ、リンディア女王を地獄に売ってやる!”やとぉ!? なっ、なっ、なななぁっ……!?」


ディラ「セイドレイってなに?」


ダナ「いけないことだ!!」


ディラ「はっ。そ、そうなんだ! いけないことっ」


クロム「すぐに向かいましょう!」


ジョーカー「待て待て! アラジンの拠点、冥王星までかなり距離がある。お前一度地球に戻れ。長旅になる! どんなにジャンプして時間短縮したって、行って帰ってくるだけでも10日はかかるぞ」


クロム「そっ、そう……ですね」


ジョーカー「心配するな。アラジンは、女子供だけは絶対に殺さねぇ。まだ時間はある。焦るな」


クロム「……ありがとう。……うん。大丈夫です」


ディラ「クロム様、ナナシとエドガー、どちらに乗るんですか?」


クロム「あっ」


ジョーカー「っ……」


テトラ「おいでよ。姫さん」


コーラ「ダーク様はこっちやろ?」


ダーク「そうだね。勿論。お世話になりまっす」 


コーラ「ハーイッ」


ダナ「行くのか? クロム。……こっちに来たっていいんだぜ?」


クロム「……ど、どうしよう」


テトラ「ほら。さっさと誘いなよ。ジョーカー」


ジョーカー「っ……い、いや」


テトラ「面倒クサッ! 何今更怖じ気づいてんの」


ジョーカー「違っ。違う」


クロム「あっ!(手を叩いて)」


クロム以外全員「んっ?」


クロム「私、ディラに色々と教えたいことがあるので。ナナシに乗ります!」


ディラ「えっ! わぁーいっ!」


ジョーカー「……」


テトラ「ほらぁ~……。何してんの? 弱っ!」


ジョーカー「ちょっ、き、決めんのはあいつだろ……」


ダーク「宜しくね。クロム。そう言えば、クロムと航海するのって、はじめてだよね。嬉しいな」


クロム「ダーク。ダークは、エドガーに乗って下さい!」


ダーク「えっ?」 ジョーカー&ダナ「ん?」 テトラ「あれ?」 ディラ「ふぇ?」 コーラ「はあ?」


クロム以外全員「何言ってんの(ですか)!?」


クロム「だって。やっと会えた家族なんですよ? 家族は、同じ屋根の下に居るのが、一番です!」


ジョーカー「……待て」


テトラ「なんか心に隙間風が……。なんでだろう。昔みたいに良い感じのパーティになるなーって思った瞬間。急にむさ苦しくなったなー」


ジョーカー「ふざけんなよ。返すっ!!」


ディラ「返品不可でーすっ!」


ジョーカー「ディラ!?」


ディラ「ボクは、クロム様の言うことを聞きますっ! (超笑顔で)ボクは、ダーク様と一緒に10日以上も同じ空間に居るなんてきっと耐えられませんっ!」


ダーク「なんか超笑顔でディラに嫌いです宣告された!?」


ディラ「(超笑顔で)嫌いではありませんっ! ちょっと苦手なだけですっ!」


ダーク「すっげーショック……。だ、ダナ! 俺とお前の仲だろ! なあ、戦友っ! クロムを説得してくれよっ!」


ダナ「悪ィな。お前の席ねぇーから!」


ダーク「ガーン!!」


ダナ「嬉しいねぇ。おかえり、クロム船長」


クロム「えっ!」


ディラ「わぁーいっ! クロム船長っ! また、たくさん勉強させて下さぁいっ!」


コーラ「ふふっ。クロム船長っ! よろしゅうなっ!」


クロム「せ、船長はディラが……」


ディラ「ボクはまだまだっ! 見習いでーすっ!」


クロム「ふふっ。もう……。仕方ないですね。みんな、よろしくっ」


ディラ&ダナ&コーラ「(敬礼して)愛してるっ!! クロム・ロワーツっ!!」


ディラ、コーラ、ダナ、笑いながらナナシの船内へと入っていく。


ダーク「はぁ……。テトラ、報告とか色々したいから。一度下に降ろして貰える?」


ジョーカー「勝手に降りろよ。んで戻ってくんな」


ダーク「はっ!?」


テトラ「ま、まあまあ。ほら。入って入って」


テトラ、ダークの背中を押しながらエドガーの中へ入っていく。


クロム「ジョーカー」


ジョーカー「あ?」


クロム「……ううん。また、向こうで!」


ジョーカー「? ……ああ」


エドガーの中に入っていくジョーカー。


クロム「お姉様……。待っていて下さい。必ず助け出し、アイゼルを……」


ディラ&コーラ『クロム様ーっ!』


クロム「は、はぁーいっ!」


ディラ『一緒にお風呂入りましょーっ!』


クロム「あ、ふふっ。いいですよ」


テトラ『……そ、そんな特権があるんだぁ……』


コーラ『テトラ!? アホっ! いつまで通信かけてきとんねんっ! 切るでっ!』


テトラ『あははっ。はーい。じゃあ、向こうでね』


コーラ『おうっ!』


一陣の風が吹く――。クロムの黒髪が靡く。

はるか彼方、星空を睨みつけるクロム。


クロム「……」






真夜中。ジョーカーの寝床近くに置いてある通信機が光る。ベッドの上であぐらをかき、何枚もの地図を広げながら、酒を飲んでいたジョーカー。通信を受ける。


クロム「ジョーカー?」


ジョーカー「なんだ、珍しいな。お前からかけてくるなんて」


クロム「たまには。あ、今忙しかったですか?」


ジョーカー「ん、いや。いいよ」


クロム「あのね、」


ジョーカー「何?」


クロム「あ……。う。や、やっぱり、いい。いいです。おやすみなさい」


ジョーカー「んだよ。用があったんだろ」


クロム「い、いえ。特に用事があったわけじゃ、ないんです」


ジョーカー「そうか?」


クロム「……あの」


ジョーカー「?」


クロム「アイゼルに、戻ったとき。ね」


ジョーカー「うん」


クロム「もう二度と、ジョーカーと話せないかもって、思ったの」


ジョーカー「……」


クロム「だから凄く、……」


ジョーカー「“辛かった”か?」


クロム「……ふふっ」


ジョーカー「なんて、な?」


クロム「――うん。すごく辛かった」


ジョーカー「え?」


クロム「私……。ジョーカー。私の強さは、あなたのせい」


ジョーカー「……」


クロム「私の知恵は、テトラが居てくれるから。私の元気は、ディラが笑っていてくれるから。私の、……心をいつも、」


コーラ、ダナと続くのだろう。と思った。


クロム「っ……ごめんなさい。こんな話、つまらないですよね」


ジョーカー「いや。続けろ」


クロム「でも」


ジョーカー「いいから」


クロム「ジョーカー」


ジョーカー「ん」


クロム「いつも、ありがとう……。私の隣に居てくれて。たまに気恥ずかしくなることも、むかつくことも、あるのだけど……」


ジョーカーの寝息が聞こえる。


クロム「ジョーカー? 眠ってしまったんですか?」


返事はない。


クロム「私の心が揺れるのは、いつもあなたのせい」


ジョーカー「……」


クロム「ありがとう……」


ジョーカー「……」


クロム「……おやすみなさい」


通信を切ろうとするクロム。


ジョーカー「クロム」


クロム「っ――。は、い」


ジョーカー「また明日」


クロム「ふふ。あなたがまた明日って言うと、いつも。その“また明日”は来ないんですよっ?」


ジョーカー「……そうだな」


クロム「そうでしょ? 宇宙を航海していれば、いつだって。予測出来ないことが起こる」


ジョーカー「いや。クロム・ロワーツは、」


クロム「?」


ジョーカー「いつか俺のものになると予測できる」


クロム「確立は?」


ジョーカー「8、いや。9.9999999999999999999999999……」


クロム「ばか」


ジョーカー「……はやく寝ろ」


クロム「ジョーカーが寝たら寝ます」


ジョーカー「クロム」


クロム「はい?」


ジョーカー「俺も、」






おわり


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