昼休み
「納得いかないなあ」
次の日の昼休み。
屋上のコンクリートに座り、真奈美と桃子はお弁当を広げている。
もう10月だというのに、昼間は結構暖かい。
ちらほらと、他でもお喋りをしたりお弁当を食べたりしている。
ぽかぽかと太陽の光を浴びて、お腹がいっぱいになり眠くなるようだ。
うとうと、としかけた所で「聞いてる?」 と、横から真奈美が覗き込む。
「うん、聞いてる。聞いてる。」
ふわあ、と大欠伸をしてアルミのシンプルな弁当箱を片づける。
「だって、昨日の桃子ちゃんなんか変だったんだもん。私が何言っても上の空だし。武田先生と何かあったんじゃないかって思って。」
「まあ、ひどい目にはあったね。」
桃子は「きごさん」を思い出してはぶるるっ、と身震いをした。
「それより、真奈はなんで和樹と一緒にいたの?あんな時間まで。」
真奈美はぴたり、と動きが止まり「だって、ノート渡したら小沢君が一緒に帰ろうって。駅で桃子ちゃんを待ってる間もせっかくだからって、あんみつ食べることになって・・」
と、もごもごと喋る。
桃子が気絶している間に、心配もしていただろうが楽しんでもいたので後ろめたいようだ。
「で?和樹の奴はなんか言ってた?」
「え?別に桃子ちゃんの事なんて聞いてないよ。」
慌てた様子で言い訳する真奈美を見て
(あいつめ・・・今度会ったらとっちめてやろう)
と、心に誓うのであった。
−−−−−−その頃の小沢といえば、「ハックしょん!」
「和〜風邪かよ。移すなよ!」
「ばっか!風邪なんてひくかよ。誰かが俺の噂をしてるんじゃね?」
「ああ、お前の幼馴染がお前の悪口でもいってんじゃん?」
言い得ている。
小沢は親しい男友達数人と花壇の横でサッカーボールを転がしていた。
「そういえば、その子の友達の松吉さんってかわいいよなー。」
ぴたり、と小沢の動きが止まる。
「睨むな睨むな。横からちょっかいはださねーよ。」ぽーんとボールが宙に浮かぶ。
「でも、マジでかわいいよ。」他の友人が口を挟む。
「そうだな。1年の中じゃあダントツだよな。」
「そうか?俺的には幼馴染のこもいいと思うね。」
それを聞いて小沢はあからさまに表情を歪める。
「ええっ!あいつが??」
「そうだなー、愛想ないけど。なにげに美人さんだよな。」
「うん。ちょっとあのなんの感情も出さないような目がミステリアスだよな。」
ワイワイと言い合いながら「いいよなー、和は」
と、ボールが小沢の所に飛んでくる。
「はあ〜?全然よくねーよ。あんな鬼のような女」
そうだ、小学生の頃から小沢は桃子には頭が上がらない。
今でこそポンポン言い合えるまでになったのだが。
小学5年生の頃、何となく男女が意識しだして男子グループ、女子グループと別れてしまった。
その時のリーダーとなっていたのが、男子が小沢で女子が桃子であった。
ちょっとしたきっかけで喧嘩が大きくなり、リーダー同士のタイマン勝負となったのだが喧嘩でも、ゲームでも、かけっこでも和樹の惨敗だったのだ。
でも桃子は「自分は女だから負けた」と言い、「男子とか女子とかいって、結局2種類の人種しかいないし。喧嘩してるのはばかばかしいしもったいないと思うよ?なんだかんだ言って、みんな異性が気になるでしょ。」
と、至極まともな事を皆の前で言ったのだ。
まあ、決着が着いたってことで女子はいいように男子を使うようになった。---女子は弱いから男子にいつも面倒な事を頼む。 男子も女子に頼られて悪い気はしない。
(そして俺は女に負けたっていう屈辱感と、それを桃子だけが知っているという後ろめたさであいつには頭が上がらなかったんだよな。)
本当に恐ろしい奴だ、結局は桃子(女子)のいいようになったのであるから。
「おい、和。何ボケ〜としてるんだよ。」
「え?」
「え?じゃねーよ。幼馴染紹介しろよっつってんの。」
「ああ?あいつは止めといた方がいいぜ。」
「いいじゃん、別に。俺はああいうタイプがいいんだよ。」
「そうだ、そうだ。松吉さん紹介しろってんじゃないんだし。」
真奈美の名が出て、ぴくんと眉が動く。
「わかった。一応言っとくけど、俺はしらんぞ。」
「おう。頼んだ!」
友人は上機嫌になり、自分の前に来たボールを小沢にパスした。
小沢はそのボールを取り損ね、バランスを崩して尻もちをついたのであった。