セイレスの歌声
そのダンジョンは、常にそこに滲んでいた。
普通であれば、一定の時間で消えてしまうのがダンジョンだ。現れてから消えるまでの時間は一日かもしれないし、数十年かもしれない。一日足らずで消えてしまうこともある。消える時に元々無かった存在――たとえばダンジョンに進入していた冒険者などは、跡地に放り出されてしまうという。もっとも、噂では向こう側に連れて行かれた、なんて話もあるのだが。
幸いなのは、ダンジョンが消えるまでに前兆現象があることだろう。
蜃気楼のようにぐらりと景色が揺らめく、という実にわかりやすいものだ。それを感じたらすぐに外に出ればいい。だいたい、現象が確認されてから一日ほどで消えてしまうという。
よほど奥地に入り込んでいるわけでもなければ、一日もあれば充分脱出可能だ。
まぁ、ダンジョンには決まった『目標』がいるわけでもない。入り口付近に沸いてくる魔物をひたすら狩るだけでもよく、帰れないほど奥へ行くということはほとんどないのだが。
そんな中、決して消えないダンジョンが存在していた。
――月黄泉夢幻。
それが件の、五階ほどある塔の形をしたダンジョンの通称である。
どうやらこのダンジョンを最初に見つけ出したのは、この辺りを通りかかったかしか東方諸国の旅人か何かだったらしく、そちらの言葉で入り口付近の石碑に刻まれていた。黄泉というのは死後の世界のこと、ここは危険だという暗示なのだろう、と言われる。
そして月だの夢幻だの鏡だのとつくのは、日々その姿を変化させる月のようであり、あるいは形が定かではない夢幻のようであることを意味しているという。
このダンジョンは、月の移ろいに添うように中の姿を一変させる。昨日までは木漏れ日あふれる森の中のようだったのに、今日は硫黄のにおいが満ちる暑苦しい火山近くのようになり。
数日置きに姿を変えてしまう――きっと、古の誰かはゆえに危険と思い、黄泉、などという言葉を使ったのだろう。東方に伝わる月読なる古き神にあやかったのかもしれない。
姿が変わるというのは面倒だ。消えないダンジョン、と聞いて真っ先に思いつくだろう利点が使えないことを意味するからだ。そう、地図というどんなダンジョンでもほしいと思うものを作る意味が無い。作ったところですぐに変わり、数日しか使えない代物になってしまう。
面倒な仕組み。それでも人をひきつけるのは、そのダンジョンが世界で最初に存在が確認されたもので、そこから採取された特別な魔石が各国の都市にある『表裏結晶』と、同じ成分で構成されているからだろう。おそらく、ここから取れた特殊な魔石が、魔物が滲み出ることを防ぐ結晶の材料なのだ。つまりそれを多く手に入れることができたならば、新たに安全な場所を作ることができ、農地などを広げることができるわけである。
ゆえに近くには必要最低限の設備を整えた集落があり、常に百人を超える冒険者がそこを拠点に活動している。その中に一人の冒険者と、一人の場違いな少女がいた。
一人は長身の魔術師風の男。足元までを覆い隠すほど丈の長い外套を纏い、フードを目深に被って表情を隠している。かすかにこぼれる髪は長く、うっすらと黄金色を帯びた白。背丈からして男以外の何者でもない彼は、その手に長い杖を持っていた。先端の魔石が取り付けられている部分は複雑に折れ曲がり、丸い円盤のような赤い魔石をがっちりと固定している。さらにきらきらと揺れているのは、小さい雫のような形をした透明な石で、これも魔石である。
複数の魔石を扱うのは、それぞれに魔術のストックをおくのに便利だからだ。ストックを分散することによって、新たな魔術の演算速度を落とさなくてすむのである。
もちろん扱うに足るだけの力量を、術者は求められるのだが。
そんな彼の傍らには、というより彼にすがりつくようにしている少女。
見るからに貧相な身体つきで、一応背中には大き目のクロスボウと矢束を背負い、二振りのナイフを腰にぶら下げているのだが、とてもそれらで戦ったりできりようには見えない。あえて褒めるところをあげるならば、かわいらしいながらも動きやすそうなデザインの服と短い髪だろうか。短いといっても、結える程度の長さはある。ちょうど肩につくぐらいだろう。
暗い色彩の青髪はセイレスの民の証である。もっとも彼女――シェリーという名の少女は遠い先祖にいた、という程度で翼はなく、見た目でその血を感じられるのは髪の色だけだが。
どちらにせよ、彼女はあまりにも場違いだった。周りががっちりとした、重厚な装備に固めた冒険者。軽装な者がいても全員が豪華そうな杖を手にしている。そして共通するのは何にも負けぬという覇気だ。シェリーがもっているのは、それらに対する恐怖だけである。
「る、ルークさん……」
「なんだ」
「ほ、ほんとにだいじょぶなんですか? わたし、だいじょぶなんですか? さっき宿の女将さんが言ってたじゃないですか、最近、ここで『行方不明』になっちゃう人が、極端なぐらいに急増してるって。中にはわたしぐらいの、すごく若い子もいるとかいないとかで……」
「……」
「だ、だいじょぶですよね。ルークさん一緒だし……」
「……」
「だいじょぶって、お前は俺が守ってやるから何も問題ない、安心して一緒にいればいいとか何とかかんとか、そういう安心できること、お願いだから何か言ってくださいよぉ……」
今にも泣きそうな震え声のシェリーに、ルークと呼ばれた男は深くため息をこぼす。どうしてコレをつれてきてしまったのか、という思いを隠そうともしない。周囲にいる数人の冒険者が哀れなものを見るように二人を見ているのも、ため息をつかせる要因になった。
そもそも、どうして二人がここに来たのかというと――シェリーが勝手にルークについてきただけだったりする。彼は一人で上質の魔石を探しに来たのだが、それには一般市民よりはマシといえないことも無い程度の戦力しかない、このシェリーが邪魔だったのだ。別に彼女のみを案じてのことではなく、本当に、足をひっぱる邪魔な存在だから宿に置き去りにした。
……のに、勝手についてきた彼女をなじらない自分は偉い、とルークは思う。きっと八つ当たりをしても許されるはずだが、一応は大人。見苦しい真似はしない。
邪魔だからといって、ここに来た以上は置いていくことは少しためらいがある。比較的という言葉を当てるのもどうかと思う程度には、ここは男が多い。そしてシェリーは子供っぽいが十五歳を迎えた、そこそこに見目の良い少女だ。そんな彼女をおいていくなど危険すぎる。
「いいか、絶対に俺から離れるな」
「は、はい!」
ルークは彼女を連れて行くことにした。ここまできて、目当てのブツを諦めるようなことはしたくない。一応それなりには戦えるのだから、わが身くらいは自分で守ってもらおう。
それにしても、とルークは周囲を見回した。
前に一度来たことがあったが、ここはこんなに人が集まる場所だっただろうか。そこそこ手ごろな狩場ではあるが、パっと見ただけで名がわかるような有名な冒険者もちらほらいる。
彼らは、ここではなくもっと他所のダンジョンに向かう腕で、ここでは暇つぶしぐらいにしかならないと思うのだが、どういうことなのか。しかし考えても答えは出ないし、尋ねにいける距離でもなければ親しい仲でもない。まぁ、そういうこともあるのだろうと結論した。
それでも、少しの『嫌な予感』が肌を撫でていくのは不快だ。
何事もなければいいが、と思っていると、高らかに笛の音が響く。
ダンジョンの移ろいが収まり、扉が開かれた合図だ。このダンジョンはその中身を変化させる少し前から、その扉を閉ざじてしまう。唯一変化しない出入り口のホールのような場所から扉や廊下が消え去って、行き止まりになってしまうのだ。笛の音は、道ができた証である。
「行くぞ」
短く告げられた出発の声に、シェリーは涙目で小さくうなづくだけだった。
■ □ ■
今回のダンジョンの中は、遺跡のような感じだった。
苔むした壁や床、どこかじめじめとした空気。文字などを読み書きするのに問題ない程度に明るく、しかし光源らしいものは無い。ぼんやりとした明るさは、どこか神秘的だった。
そんな中を、ルークは淡々と進んでいく。
己にしがみつくシェリーを、半ば引きずるように。
「ルークさぁん、置いてかないでくださいよぅ……」
「……しがみつくな、動きにくい」
「だって、だって……ルークさん、急いでるようだったから、置いていかれそうで」
「置いていかない、だから離してくれないか……頼むから」
そう、急いでいたが今となっては、もう急ぐ意味すらなくなっている。
シェリーとルークの周囲に、他の冒険者の姿はなかった。彼女がしがみつくせいで、移動速度が普段の半分以下ぐらいまで落ち込んでいるためだ。誰もがいち早くいい狩場にたどり着きたいと思う。そして二人はあっという間に、置いていかれたというわけだ。
最初は聞こえていた足跡も、もう何も届かない。
一応、ルークはすでにここを去った彼らと同じく『狩り』に来ている。つまり、彼らと同じように急ぎたい。だが、腕にしがみついた荷物がそれを阻み、邪魔をしてくる悪夢の中だ。
それでも『置いてくればよかった』と思わないのは、彼がお人よしの証拠だろうか。
「そ、そういえばルークさんはここで何をするんですか?」
「……魔石探しだ。純度の良いものは、直接店に持っていく。で、こいつと繋げる」
こいつ、のところでルークは自らの杖を揺らす。
魔術師にとって魔石は重要で、その純度の良し悪しがすべてを決めるといっても、決して過言ではない。剣士が己の武器に気を使うように、魔術師は魔石に気を使う。己の力量と相談しつつ魔石の純度を高め、より強いものへと変えていくのだ。そのために必要なのが、ダンジョンなどに住み着くより高位の魔物が有する魔石だ。目当てのものが見つかればギルドにはまわさずに、直接加工をしている店へと持ち込む。そして己の杖と一緒に溶かし一つにする。
そうして魔石を強くしていくのが、魔術師の『仕事』の一つだった。
「へぇ……」
「で、俺はそろそろこいつを拡張したい。のに、誰かさんが邪魔をする」
「……ご、ごめんな、さい」
迷惑ばかりかけてしまって、としょんぼりするシェリー。
責めることに罪悪感を覚えるほど、彼女が悲しそうにする姿は痛々しい。それを見るともう何かを言う気力が失せる。甘いといわれればそれまでだが、こればっかりは仕方ない。
「別にいい。いつものことだから。それより――」
「はい?」
「そろそろ魔物が出る頃合だ。気をつけろ」
「あ……はいっ」
かちゃかちゃ、と背負ったままのクロスボウを構えるシェリー。
先行した冒険者は、おそらく進みながら魔物を片っ端から倒しただろう。そろそろ、その死骸のにおいに釣られたほかの場所の魔物が、ぞろぞろと出現し始める。遅れて進むのはそれも嫌だったからなのだが、今更言ってもどうしようもないことだ。
それに、これはこれで都合が良いかもしれない。あの団体のまま進んでいれば、先頭ぐらいしかまともに魔物を倒せないし、つまり魔石も得ることはできない。だったら、あえて少し離れて後からやってくるヤツを獲物にするのも、作戦の一つとして数えても良いだろう。今回は作戦も何も、意図して遅れたわけではないのだが……ルークは深く考えないことにした。
シェリーの準備が終わったところで、再び移動を開始する。
しかし、前線に立って魔物を引き付ける役割である彼女が自分の後ろにいる、というのは何ともいえない気持ちにさせた。いつものことながら、これで大丈夫かという不安がよぎる。
「あれ、あれ……っ?」
今もクロスボウにきちんと矢を装着できず、わたわたしている。普通の弓矢の類よりはマシだろうと思って持たせたものなのだが、これならない方がよかったかもしれない。
そもそも、出逢った頃からシェリーは、いつもそうだった。
あるダンジョンで魔物に追い回されているのを見かけ、さすがにあれは、とかわいそうに思って助けてしまったのが始まりで、ある意味では運のつきでもあった。見捨てるにはあまりにもかわいそう、と何かあるたびに思ってしまい、ずるずると一緒に行動をしている。
しかし、シェリーはどちらかというとルークが好む人間だ。
散々迷惑を被っても、見捨てない程度には彼女を気に入っている。
それに――。
「る、ルークさんっ」
ぼんやりと思考に浸っていると、シェリーのこわばった声がする。
前を向くと、魔物の死骸らしきものに群がる、生きた魔物の群れが見えた。先ほど想像していた通りに、新たな固体がこの辺りまでやってきていたらしい。
ルークは杖に意識を向けた。補助の魔石をいくつか繋いである分、現在手元にある魔術のストックも多い。これなら一瞬で片付けられるだろう。とはいえストックが潤沢にあるからといって油断できるほど、このダンジョンの魔物は優しくはない。いちいち演算する必要がないというだけで、実際に魔術を発動させるのにはある程度の時間が必要だからだ。
その時間が稼げなければ、意味がない。
「行きます!」
ゆえに、シェリーが前に出る。クロスボウを構え、魔物に狙いを定めた。遠距離では飛び道具を使い、近づくとナイフを両手に握って魔物をかく乱する。その間に魔術でしとめる、というのが二人の戦い方だ。頼りないように見えて、シェリーはやればそこそこ戦える娘なのだ。
とはいえセイレスの民の特徴でもある細身さから、重厚な武具は着けられない。そしてルークは治療魔術の類は、得意とは言いがたい。ゆえに一撃喰らえば、それが致命傷になりうる。
「シェリー、あまり前に出るなよ」
「だいじょぶですっ」
声と共に放たれた矢が、魔物に向かって飛んでいく。
ルークはその隙に魔術を発動させた。炎でできた塊のようなものが、彼の周囲に浮かんで漂い始める。その明かりに照らされ、矢を受けながらも迫ってくる魔物の姿がよく見えた。
そして、クロスボウを残し、ナイフを握って突っ込んでいった彼女の姿も。
「あのバカ……」
前に出るな、といったのにまったく聞いていない。そもそも彼女は、いやセイレスの民は武器を持って戦うことに向いた種族ではないのだ。彼らは『声』を使った特殊な力を使い、後方から支援することに特化している。人の傷を早く癒したり、敵を眠らせるなどだ。
もちろん、中には武器を振るって大立ち回りを演じれるような猛者もいるが、少なくともシェリーはその類ではない。体力もなく、装備も貧弱。本来は後ろに立つべき少女なのだ。
それでも彼女は、己の適正がわかっていても前に立つことをやめない。
自分が前に立たないと、ルークが魔術を使えないからだ。
そして――それが、普段迷惑をかけている恩返しだと、思っている。
だから、ルークは彼女を突き放せない。意を決し突き放したところで何をするかわかったものでもないのだから、ならば目の届くところにいてくれる方が幾ばくかはマシというものだ。
「そこから離れろ……!」
魔物を一掃するだけの魔術の準備を整え、叫ぶ。
シェリーが魔物から離れた、一瞬に魔術を発動させた。火の塊はまっすぐに魔物へと向かっていき、次々に奴らを燃やしていく。思ったほど集まっていたわけではないようで、新たにストックを引っ張り出す必要はなかった。次第に炎は収束し、残ったのは焼け焦げた死骸のみ。
いそいそ、とシェリーは床に置いたクロスボウを拾い上げる。ナイフに持ち替える時、いちいちどこかに置かなければならないのは不便そうだ。そのうちクロスボウをぶら下げるフックがつけられるような、重さに耐えられるような頑丈なベルトか何かを探した方がいいだろう。
クロスボウを背中に背負いなおして、シェリーがルークの傍に戻ってくる。
頬をかすかに赤く染め、どこかうっとりしたような目をしていた。
「さすがルークさん、すごいですっ」
「お前も……戦うことに慣れてきたみたいだな」
「はいっ。ルークさんの支えになるためですから!」
「……お前は、またそういうことを」
気安く言うもんじゃない、と言いかけたルーク。
しかしそれを止める『音』が、遠くから響いてくる。聴いた瞬間は、いや気づいた瞬間は悪寒のようなものが背中を撫でていったが、すぐにその感覚は消えてしまった。代わりにこみ上げてくるのは、まるで酒に酔った時のような、ふわりふわりとした酩酊のような心地よさ。
声はダンジョンの奥の方から、流れてきているようだった。
「これは、歌? 歌、ですよね。でも何語なんだろう、よく聞こえない……」
ぶつぶつ、と何かを呟くシェリーの声が遠い。いや、彼女そのものが遠い。ルークの足は自然と動き始める。今は何を言っているかわからない彼女より、声の主が大事だと思った。
何の根拠もない『衝動』が、ルークの脳髄を染めていく。
「ルークさん、あの、どこへ」
腕を捕まれるが、それを振り払う。邪魔をしないでほしかった。もしさらに邪魔をするなら魔術を見舞ったところだが、彼女は二度と腕をつかもうとはしなかった。それに、頭の隅で安堵する誰かがいたような気がしたが、ルークの認識からその誰かはすぐに消されてしまう。
「歌声……これ、は、まさか!」
小さく息を呑む音がした。
「いけない、これは《セイレスの呪歌》だ……る、ルークさんっ」
「……」
「待ってルークさんっ、行っちゃダメです、そっちは――」
叫び声のような音が聞こえたが、すぐに意識から追い出される。からん、と杖すら手から零れ落ちて、それでもルークは奥へと向かって歩いていった。非力で、守ってやらなければいけないと常々思っている、それなりに大事にしている少女をひとり残したまま。
歌は絶えず響き続けた、まるで誰かを誘うように。
あるいは、何かを捜し求めるように。
■ □ ■
「どうしよう……」
途方にくれた表情を隠さないシェリーは、ルークが去っていった方向を見た。もう彼の姿はどこにもなく、今から追いかけても見つけることは難しそうだ。だったらどうしてすぐに追いかけなかったのかと責める声が、己の内側からじんわりと音もなく忍び寄る。
仕方がない、ことだった。
ついてくるなと、いわれたような気がした。
「ルークさん」
拾い上げるのは彼の杖。彼が大事にしている、身体の一部のようなものだ。それを残していったことが、この状況の異常さをシェリーに教えてくる。教えられるまでもなく、これがどれだけおかしいことなのか、他の誰よりシェリーが一番わかっているのに、追い討ちをする。
「ルーク、さん……っ」
ここにいない彼にすがるように、シェリーは杖を抱き締める。
どこに行ってしまったのか、探しに行きたいのに足が動かなかった。
様子のおかしい彼の、最後の姿が、警鐘を鳴らしていた。このまま外にでて、助けを呼んだ方がいいと、頭の大部分が命令を下している。だけど早くしないと彼に何かあるのでは、手遅れになってしまうのでは、という思い――恐怖が身体をこの場に繋ぎとめた。
どうしよう、迷っている時間こそ無駄なのに。
「わたし、戦えない……助け、呼ぶの」
必死に絞り出した声で、身体を動かす。
汗をうっすらかきながら、ようやく一歩前に進んだ時だ。そう遠くない場所から、立て続けに何かが爆発するような音が響き、そして耳障りなひどい音が空気を振るわせた。
とっさに、シェリーはその方向へ走る。
通路を駆け抜け、いくつか隣の広間へと飛び出した。
そこには四人ほどの冒険者が、ちょうど別のところに向かおうとしていて。
「あ……あのっ」
皆さんも冒険者ですか、と。
問いながら、安堵の涙が溢れていった。