ラベンダーの香りでした
私と冴子以外、誰もいない教室に沈黙が流れる。話を進めるほどに厳しくなっていく冴子の眼差しに耐え切れんくて思わず俯くと、はぁと短いため息が落とされた。
「それで、はいそうですかって帰ってきたの?」
「…うん、津田くん、困らせちゃったやぁ」
苦笑すると、冴子の眉間にしわが刻まれた。怖い怖い。殺されるんじゃないのこれ。
「あ…そ、っか…」
「……ごめん」
「う、ううん、私こそ突然こんなこと言ってごめん!びっくりしたらー」
津田くんの固い声色に、はっと我に返った。気をつかわせちゃいかん。意識して、笑顔で明るく話す。
「本当ごめんね。んーと、うん、忘れてくれて大丈夫だで」
「古島さん…」
「あっそういえば津田くん今日も部活だら?あー今から行っても遅刻かやぁ。時間とらせちゃってごめんね!部活頑張って!…また、月曜日ね」
津田くんが何か言いたげな顔をしとるのには気づいとったけど、聞く余裕なんかなくて。何も聞きたくなくて。適当なことをまくしたててその場から逃げた。
「だってなんか…どうしていいかわからんかっただもん」
ごめん…と小さな声で謝ったら、ぐっと両手で顔を挟まれて無理やり前を向かされた。冴子真剣な目に、視線がぶつかる。そこにさっきまでの厳しさはない。
「あんたは何か謝らんといかんことしたの?」
「…え」
「何か悪いことした?」
「し、してない…です」
まっすぐに突き刺さる視線の迫力に押され、こくこくと頷く。
「じゃあ謝らんでいい。ちゃんと告白できただら?頑張っただら?」
そう言って微笑む冴子を見たら、涙がこぼれた。張りつめとった気持ちがほぐれてく。
そうじゃん。謝らんといかんようなことしとらんじゃん。頑張った。気持ちは伝えた。何も悪いことはしとらん。でも津田くんを困らせた。優しい彼を困らせた。あんな困った顔、辛そうな顔、初めて見た。悪いことしちゃった。傷つけた?きっと傷つけた。でもでも、私も傷ついた。別に津田くんはなんも悪くないけどでもどうしようもなく悲しかった。多分、どっかでうぬぼれとった。前に告白されたもんで。一緒にいるとたまに笑ってくれるもんで。他の子といるよりたくさんしゃべってくれる気がするもんで。心のどっかでうまくいくと思っとった。だで、断られてあんなに動揺した。ばかだわ。自意識過剰だわ。告白する前の自分に言ってやりたい。どんな答えが返ってきても良いように心に準備しときなさいって。こんな風になっちゃうにって、教えてやりたい。
津田くんへの申し訳なさとか、自分勝手な気持ちとか後悔とか、いろんな気持ちがぶわっと心に広がって、ぐちゃぐちゃに絡まってこんがらがっとる。ごめん。悲しい。言わんければ良かった。そんなことがぐるぐるぐるぐるして、醜い自分も垣間見えちゃったりしてどうにも涙が止まらんくなった。
「っ…うん…うん……さえこぉ…」
ぼろぼろとこぼれる涙が冴子の手を濡らしとるけど、冴子は何も言わん。すっと手が離れたかと思うと顔にタオルが押し付けられた。
「ぶっ」
「今日だけ、特別に貸したげる」
「うぅ……」
優しい。知っとったけど、冴子ってど優しい。ありがとうって呟いたら、労わるみたいに頭を撫でられた。うわまって惚れる。なんで今日はこんなにデレ全開なの。困る。しかもこのタオル…
「いい匂いがする…」
「キモイ」
お久しぶりです…。久々すぎて、自分で読み返しましたよね、もう。
書きたい気持ちはあるのに時間がないと言い訳してます…だらだらする時間はあると言うのに(笑
前のあとがきでも書いてたんですけど、初の恋愛もので、一応あらすじも決まっているので最後までどうにか書き切りたいです。頑張ります(決意表明)。
ではでは、読んでくださってありがとうございました!