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いつかきっと。

今回は主人公の友人、冴子の視点でお話が進みます。

【冴子】


 ぎこちなく一定の距離を空けて歩いて行くふたりの後ろ姿を見送りながら、小さくため息を吐く。そして隣に座るにやついた男を軽く睨む。


「…いつまで触っとるつもりなの」

「えーいつまででも?」


 さっきオトを言いくるめるときのまま、動こうとしない手をどかすため腕を引きながら体を離そうとしたら、にこやかな笑みとともに阻止された。手を握り込むな。放せ。


「気持ち悪いこと言わんでよ。用が済んだらさっさと離れて」

「ひどいなー、俺のこと頼ったくせにぃ」

「不可抗力だわあんなの。あんただって津田の気持ち応援しとるだら?」

「あったりまえじゃーん。まあその点感謝はしとるけどさ…」


 未だ放されることのない自分の手を取り戻そうと力を込めたが、さっきよりも強い力で握られそれは叶わなかった。しかも顔を近づけてくるおまけ付きとか。全くもって嬉しくない。でも逃げるのはなんか癪だもんでとりあえず睨む。


「しとるけど…何?」

「冴子ちゃんのそゆとこ好きだなー」

「…………」

「ごめんごめん、真面目に話すでそんな睨まんでよー」

「はぁ……あんたの脈絡のなさってオトにちょっと似とるわ…」

「ふはっ確かにー。オトちゃん自分の中だけで会話進めるときあるよねー」

「そうなのよ………で?」


 どこか話を逸らしたがっとるような気配を感じながら、なおも聞くと、少し困ったように笑いながら空いとる方の手で頬を軽く掻いた。


「いやー、オトちゃんのためにっていうの分かるけどさ…んー…嘘は、良くないなーって」

「…は?誰が誰によ」

「冴子ちゃんが、おれたちに」

「気持ち悪いって言ったこと言ってんの?そんなのオトにはバラしたしあんたも気付いとるじゃん。もしかしたら津田も勘づいとるかもしれんし…」

「そーじゃなくって」

「……何よ。他に嘘なんて何も…」

「本当は」


 半ば強引に私の言葉を遮って、しかも急に真顔になるもんで、驚いて思わず口をつぐんでしまった。いつも表情豊かなやつが真剣な顔をすると、心臓に悪い。怯んでるなんて、そんなことは絶対ないけども。


「本気で体調悪いだら?」


 そう、一言。それだけ言って、またいつものようにへらっと笑った。


「だもんで、あれは演技だって言っとるじゃん」

「いくら冴子ちゃんでも、普段ならあそこまでせんらー。てか、もっと他にうまい方法いっぱい考えつくら」

「……例えば?」

「オトちゃんを心配させんような方法」


 そう言われて、言葉に詰まる。もう全部ばれとることも分かった。今更意地張っても意味ないことも。


「………そもそもあそこで気持ち悪いって言うつもりなかった」


 ちょっとくらいなら我慢するかと思っとったけど、ご飯を食べ終わったらどうにも耐えれんくなって、思わず口から零れた。すぐ気付いたけど、オトの心配そうな顔を見て誤摩化せんって思って、嘘にすり替えた。優しいオトが自分を責めることは分かっとったし、本気で心配してくれとるオトに嘘は吐きたくなかったけど、何より自分のせいで今日を台無しにするなんて無理。私のプライドが許さん。


「やっぱりー?」

「口が滑るとか不覚だわ…」

「オトちゃんに心開いとる証拠だねー」

「あんたには一ミリも開いとらんで」

「ふはっ知っとるー」

「……ムカつく。ほんとムカつく」

「うわ、ひでー」


 私が何を言っても動じない槙哉の態度に苛立つ。穏やかな声は余裕の現れで、私と槙哉は同じ土俵にすら立っていないことがよくわかる。あぁ、自分が一生この男に敵わんのを見せつけられとる気分だわ。…でも、それでも。


「いつかあんたを負かしてやるわよ」


 そう言って挑発するように笑うと、槙哉は一瞬動きを止め、ずっと繋いだままだった手を放した。そしてその手を額に当てるとため息を吐きながら空を仰いでいる。


「あー…心臓に悪い…」

「なに?」

「いや…もう気持ち悪いの大丈夫ー?」


 元の体勢に戻ると、思い出したように聞いてきた。


「さすがにアトラクションは乗れんけど、さっきほどじゃないに」

「そかそかー、じゃあそろそろ帰ることになるかもしれんね」

「は?何言って…」

「さえこー!まきやくーん!」


 言いかけた私の耳にここにおるはずのない人物の声が飛び込んでくる。びっくりして振り返ると、オトと津田がふたり揃って歩いて来とるのが見えた。


「え…戻ってくるの早すぎ…」

「んーやっぱ、せっかく4人で来たのにふたりだけで遊ぶのもなって思って」

「だもんで今日はもう帰ろうかって話になった」


 私が気付いてから小走りにやってきたふたりに文句を言うと、妙に息ぴったりに返された。オトはにこにこ笑っとるし津田は相変わらずの無表情だし、もうふたりの中で帰ることは決まっとるらしい。槙哉もあえて抵抗する気はないらしく、そうしようかーと言って笑っている。3人の視線に押され、とうとう私も頷いた。




 もうすぐ遊園地の出口という所で、槙哉があっと声をあげた。


「なんかお土産とか買わんくて大丈夫ー?」

「確かに…私はいいけど、オトはなんか買わんで良かったの?」


 津田はお土産を買いそうなタイプには見えんし、槙哉もわざわざ戻ってまで買うほどではないだろう。欲しがるとすればオトだが、帰り道お土産ものの店を見ても何も言わなかったのでうっかりしていた。


「ふっふっふー。実はもう買ってあるんですよー」


 オトは無駄に得意げな顔をして鞄をあさると、小さな紙袋を一つ取り出した。津田が何も言わずに両手をお皿のようにして差し出す。


「津田くんありがとー」


 少しむずがゆそうに笑うオトが袋をひっくり返すと、中から4つのキーホルダーがでて来た。ピンクと黄色とオレンジと青色の4色。観覧車の乗る部分を模しているらしく、扉も窓も細かく作られている。


「おーなんだっけこれ、ゴンドラだっけ?」

「そう!なんか全部で10色くらいあったもんでイメージカラーで4人分選んできたー」

「どれが誰のなの?」

「冴子のはねー、ピンク!」


 はいっと手渡されたピンク色のゴンドラが手の中で転がる。イメージカラーがピンクなんて、オト以外に言われたことがない。オトの中で私のイメージはそんなに可愛いものなのか。いや、私の中のピンクのイメージが可愛すぎるのかもしれん。少なくとも自分とは無縁な色だと思っとった。


「槙哉くんが黄色でー、津田くんは青で私がオレンジだに。ちなみに自分の以外は私が選びました!」


 嬉しそうに報告するオトは本当に無邪気で、今更ながら嘘をついたことに罪悪感を感じる。


「オト、ごめんね」

「ん?何が?」


 何にも分かっとらん顔で笑うオト。オトを見とるとたまに、自分もこんな風に素直な人間だったらと思うことがある。そんなの、ただのないものねだりだってわかっとるけど。


「ううん、なんでもないに。…それで?オトのは津田が選んだんだ?」

「ちょっ、冴子にやにやせんで」

「理由は聞いたの?」

「聞いたけど教えてくれんかったー」

「えー教えてあげりんよユキー」

「いやだ」


 ”いやだ”って…子どもか。オトに呆れられても知らんよ。とか思っとたら隣でぼそっと「津田くん可愛い…」って聞こえてきた。全く心配心配なかったわ。それにしてもそんなに言いたくないとは…。普段どおり表情筋が死滅したような横顔をみる。頑なに口を開かないところをみると、本気で言いたくないらしい。


「隠されると気になるのが人間ってものよねぇ…」

「冴子さん顔が怖い顔が怖い」

「……」

「あっユキがびびっとるの珍しー」


 いつかどんな手を使ってでも吐かせようと心に決める。でもとりあえず今は、無邪気な友人の恋がうまくいくことを祈ろう。あとは…


「冴子ちゃん最強だねー」


 この男に勝つことを目標に。いや…別に負けとらんけど。


なんだかとても長かったような…(汗

というか、冴子視点で書いてみて初めて、オト視点の書きやすさに気が付きました。普段と違うからでしょうか…非常に書きにくかったです。笑

オトの視点でも書きたいなーとは思いましたが、本編が進まない上に二人はキーホルダーを選んでいただけなのでど短い文章になりそうでやめました。笑


ちなみに私の中の冴子のイメージは”負けず嫌い”です。自分が納得いくまで努力を続けるストイックさを持っています。あと、一度仲良くなるととても大事にしてくれそう…。美人な上に一見冷たく見えるので、友人は少ないと思います。オトと仲良くなってから少し増えたんじゃないかなぁ…

オトはきっと友達多いですね。でも一番仲がいいのは冴子、みたいな。冴子がいろいろ考えて行動するのに対してオトは感情とか直感が多い気がします。

とか…何を突然語りだしたのかって感じですねすみません。


あと、津田くんとオトはあの後ふたりでおみやげ物屋さんに入って仲良くキーホルダーを選んだんだと思います。割り勘で。おごりじゃないところが津田くんだと思っています。(意味分からんですね。笑)


ではでは、こんなところまで読んでくださってありがとうございました!

またお暇な時間などありましたら、ぜひ読んでやってください!

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