お買い物と初SIGN
私の発言にやっぱり呆れた顔をした冴子だったけど、土曜日に買い物に付き合ってくれることになった。
ふっふっふー。なんだかんだ優しい冴子なら付き合ってくれるって分かっとって言った私は、もしかしたら策士への一歩を踏み出したかもしれん。
そして今日は待ちに待った土曜日!
駅にあるお店で買おうということで昼過ぎに改札で待ち合わせすることになった。早めについてしまってなんとなく手持ち無沙汰である。あ、冴子の名誉のために言っとくけど遅刻じゃないに?私が15分くらいはやく来ちゃっただけで。
「オト」
「あっ冴子〜」
約束の約5分前、少し遠くから冴子が歩いてくるのが見えたので軽く手を振って応える。
あんた来るの早すぎって苦笑された。うん、自分でも思った。
「今日何買うのか決めたの?」
「うん、なんかね、お母さんに言ったら『せっかくだもんで服も靴も買っておいでん』って」
「お金くれたの?珍しいじゃん」
普段お金に関してきっちりしとるお母さんは季節ごとに値段を決めて買ってくれる。だけど今回事情を話したら突然太っ腹になった。まあ最近私が上限まで服買っとらんかったっていうのもあると思うけど。
「…『こんな機会もう一生ないかもしれんだで』って言われた…」
「あはは、オトのお母さんらしい」
「笑わんでよー!確かにそうかもしれんけど、わざわざそんな現実見せんくたっていいのに!」
そんなことを言いながらじゃれ合っとる間に目当てのお店に着いた。明るい服が多いこのお店は私のお気に入りである。冴子は私とは違って大人っぽい雰囲気の服を好むもんで行きたいお店は別にあるけど、先に私の買い物に付き合ってくれとる。
何着か試着させてもらって、最後には冴子に決めてもらった。店員さんとも話したけどやっぱり冴子の方が気使わんくていい。ダサかったら遠慮なく言ってくれるだろうし。
買った服の入った可愛い紙袋をさげて、いろいろとお店を見ながら移動する。
「今更だけどさ、津田くんってどんな服が好きなのかやぁ」
「私が知る訳ないら」
「もうちょっと考えてくれたっていいのに」
今の絶対一瞬も悩まずに返事したら。即答でしたよ即答。
「そもそも服装に興味があるかさえ疑問なくらいじゃん」
「それは確かに。服はダサくなくて着れればいいくらい思っとりそう」
「だら。悩むだけ無駄だに」
「はーい」
そのあと冴子の行きたいお店に行って、靴も見に行った。冴子は結局パンツ(あ、下着じゃないよ。念のため)をひとつ買っただけだったけど本人は満足しとるみたいだもんで良かった。
「オトって津田のどこが好きなの?」
買い物も済んだので甘いものでも食べて帰ろうと喫茶店に入ることにして、お互いに注文を済ませた後冴子から唐突にされた質問に目を瞬かせる。
「どしたの突然」
「あんな何考えとるのか全く分からんようなやつのどこがいいのかと思って」
確かに顔はかっこいいけど。と続く冴子の言葉に思わず笑う。そんなおまけみたいにフォロー入れんでもいいのに。
「私さ、一年生の冬くらいから津田くんのこと知っとったじゃん。クラス違ったのに」
「ああ…確かそのくらいの時期から騒いどったね」
「だらー。まあ津田くんが有名だったのもあっただけど、実は一回だけしゃべったことあるじゃんね」
「何それ聞いとらんけど」
「なぜか言いそびれたんだよね」
先を続けようとしたとき、ちょうど注文したものが運ばれてきた。私の頼んだ洋酒入りチョコレートケーキが冴子の前に、冴子のショートケーキが私の前に、ごく自然な動作で置かれる。割とあることだもんで別にいいけど、最近はどっちなのか確認してくれるお店ばっかだったもんでちょっと久しぶり。冴子と苦笑し合いながらケーキを取り替えて、口に運ぶ。
やばい、どうまい。このお店あたりだわ。冴子もこれはうまいって言って頷いとる。しかも大好きなイチゴとっといとる。可愛すぎか。
「なんかね、細かいことは忘れちゃっただけど、津田くんがセーター貸してくれたじゃんね」
「ちょっと状況が分からん」
「ほんとなんだったかなー…たしか冬の始まりくらいで、自分のセーター誰かに貸したんだっけかな。それで寒がっとったときに津田くんが登場したんだよ。あ、そんで後でセーター返しに行ったもんで正確には二回だわ」
記憶力が悪いことには自信があるけど、津田くんがにこりともせんでセーターを差し出してくれたあの姿がかっこよかったことだけは、はっきり覚えとる。あの状況で惚れない人間なんておらんと思うってくらい、かっこよかった。それから見かけるたびに目で追うようになって、気付いたら(最近自覚したばっかだけど)好きになっとった。
「なるほどね…。またオトらしい惚れ方ね」
「む、否定はせんけど、好きになったのはその後いろいろ見とるうちにだもん。これはきっかけだでね」
ケーキを食べる手を休めて反論すると、どっちでも一緒だわと鼻で笑われた。ここ大事なんですけど。うちが先生だったらテストにでるぞーって言うくらいには大事なことなんですけど。最後の一口になったケーキをもぐもぐ食べながら、不満顔で冴子を見つめるけど効果なし。ほんとにおいしそうにイチゴ食べとる姿にこっちがやられたわくそ。
食べ終わってお店を出た後、ちょっと小物を見てすぐ帰ることにした。明日のために早く寝とかんとね!いかんもんね!うわぁ楽しみすぎて寝れんかもしれんやばいやばい。家に帰ってご飯食べてお風呂はいって、すぐ布団に潜り込む。時計を見たらまだ8時。でももう枕元にはちゃんと明日着る服と鞄が置いてあるよ。冴子に報告したら小学生かって言われた。うん、さすがに自覚ある。
冴子とそんな会話をしながら布団のなかでごろごろしとったら、いきなり槙哉くんからメッセージが来た。ちょっとびっくりして開いてみたら、槙哉くんが作ってくれとった明日の遊園地のグループだった。
槙哉:やっほーみんな起きてる?オトちゃんとか寝とらん?笑
オト:寝てませんー!明日のこと決めるだよね?
槙哉:そうそう。ギリギリでごめんね〜
オト:いいよいいよ!私も忘れとったし笑
ていうか冴子も津田くんもなんか言ってよー!
槙哉:そうだよー、既読ついとるくせにー
津田:すまん
冴子:あんたらが本題に入らんもんでだわ
槙哉:へへーごめんごめん笑
オト:ごめんよ笑
槙哉:じゃあ集合時間とか決めよっかー
集まるのは駅でいいら?
冴子:そうね
オト:いいよ!
津田:大丈夫
槙哉:おっけー。じゃ、時間はー…9時とかでい?
オト:おっけ!
津田:大丈夫
冴子:遊園地に10時くらいに着くって考えたらちょうどいいら
津田くん大丈夫ばっか…!しかもよく見たら三文字以上しゃべっとらんし。ど面白いだけど…!会話をしながら思わず笑ってしまう。そんな風にちょびっとだけ他愛もない話をした後、槙哉くんが切り出した。
槙哉:よし、じゃあ明日もあるしそろそろお開きにしよー
オト:はーい!
冴子:じゃあおやすみ
槙哉:おやすー
オト:おやすみー
津田:おやすみ
たまたま。ほんとにたまたまだけど、おやすみの順番が私のすぐ後が津田くんになっとる。それだけでなんか嬉しい。私におやすみって言ってくれとるみたいに錯覚して、嬉しい。……いつか、本当に私に言ってくれんかやぁ。
眠れんかもなんていう心配は杞憂に終わった。布団に入ってすぐ眠った私は、久しぶりに夢をみた。津田くんが私に向かって、やっぱりあの無表情で何かを差し出して言う。私の目をしっかりと見つめながら……『おやつ』と。
ふざけんなよ私の脳みそ。あめ玉貰って喜ぶなばか。
久しぶりに更新です。なんか今回長めな気がします(当社比)
次回やっと遊園地にいきすよ!頑張ります笑
ていうか、自分で書いておきながら両片思い(片方告白済み)と喧嘩ップル(勝手に)の4人でお出かけすごいシュールですよね。まあ、決行しますけどね!
ではでは、読んでくださってありがとうございました!感想・ご指摘などありましたらぜひお願いします