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01

「パパご本読んで!」


 愛娘に渡された『お姫様とスケルトン』という題名の絵本。


 に……逃げられないのはわかっている。

 ママに読んでもらいなさいって言えないのが痛い。

 母親のほうはちょっと体調崩して、絶賛お母さん業を休業中だ。


 母娘おやこ揃って、ホラーが大好きなんて……

「病院でホラーの読み聞かせするな」って注意しても、「いいじゃない。個室だし、病院で幽霊見たことないし」と超のんきに返されるし……

 俺が、ホラーすっげえ嫌いなのを知っていて「それとも、アンタが読んでくれる?」なんて、にこやかにこっちに振りやがって!


 ☆


 むかしむかし

 お姫様はある青年と恋に落ちました。

 その青年は身分が低く、シロツメクサの指輪しかお姫様に渡すことはできませんでした。

「この指輪はすぐに色あせて枯れてしまうけれど君への思いは消えない」


 お姫様もお返しに青年にシロツメクサの指輪を作ろうとしましたが、なかなかできません。

 今まで、一度も花を編んだどころか摘んだこともなかったのですから。

 お姫様は青年に指輪の作り方を教えてもらっていびつながらもシロツメクサの指輪を作りました。


「作り直します」

 お姫様は自分が作った指輪を見てため息をつきます。

 青年はお姫様が作った不細工な指輪を喜んで左手の薬指に嵌めました。

「世界で一番の宝だよ」

 そうささやいて。


 二人が仲睦まじく指輪を交換し合っている姿を木々の陰から見ている影がありました。


 太陽が西の大地を赤く染める頃になって、お姫様は馬に乗ってお城に帰りました。

 お姫様の姿が見えなくなる頃には、太陽は大地の端っこに最後の輝きをこぼれさせているところで、青年のいる辺りはすっかり星空が広がっていました。


 村へ帰ろうと青年が一歩を踏み出したその時、木の陰に隠れていた男が青年の前に立ちはだかりました。


「誰だ?」

 青年は男に問いかけます。


「姫を諦めろ」

 青年の問いに、男は答えず暗く冷たい目を向けて命令します。


「俺は姫が好きだ。姫様も俺を好きだ。諦める理由がない」

 青年の強い言葉に、男はぎりっと奥歯を噛み締めましたが、すぐに「ふふ」と笑いました。


「最後の慈悲だったのにな……闇に住まう神々よ。この者の血肉を削ぎ、永遠にこの世界をさ迷う呪いを与えよ!」


 男の呪いの言葉に夜闇と同じ色の獣が幾匹も青年に飛び掛ります。闇の獣たちに噛み付かれるたびに、青年の肉は削げ、骨があらわになっていきます。


 肉をすべて食べられた青年の骨は大地に転がりました。

 青年の遺骸をしばらく眺めていた男は、青年の指先の骨がぴくりと動いたのを確認して、その場を去りました。



 一方、お城に戻ったお姫様は部屋の窓から夜空を眺めていました。

 今夜は新月で月は見えませんが、星はとても綺麗です。


「姫、一年ぶりですね」

 青年を骨に変えた男が、お姫様の部屋に入ってきます。


「お久しぶりです。隣の国の王子様」


 なんと、青年を骨に変えたのは隣の国の王子様だったのです。

 何も知らないお姫様は夜中に現れた王子様を不思議に思いながらも、王子様にやわらかな笑顔を向けてしまいます。


 一年ぶりに現れた隣の国の王子様はお姫様の側まで来て、うやうやしくお辞儀をすると、姫様に言いました。

「姫、私たちの結婚が決定しました。今から我が城にお連れいたします」


 お姫様は真っ青な顔で、青年の名を呟きます。

 その声を聞いて、王子様はお姫様の指にはまっているシロツメクサの指輪をするりと抜きました。


 ―あの青年は来ない。来てもあなたはきっと気づかない―


 心の中でそう囁きながら……。


 王子様は、窓から、シロツメクサの指輪を落としてしまいました。


「すぐに枯れてしまう花よりもこのルビーのほうがあなたの指にはふさわしい」

 美しい指先に冷たい指輪をはめて隣の国の王子様は今度は声に出して囁きました。


 ☆


「――このルビーのほうがあなたの指に……。ん?……寝たか」

 すっかり寝入ってしまった娘に布団をかぶせる。

 娘は、話の内容をどこまで聞いていたんだ?

 できれば、青年が動く骸骨(スケルトン)になるシーンは再読したくないな。


 ――本を閉じて、明かりを消した途端


「ぎゃぁあ!」


 闇の中に髑髏どくろがぼんやり光り出した。蛍光塗料か。

 まさか、表紙だけじゃなく、中のお骨も全部光ったりしないだろうな?


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