家族で焼肉
私は家族で焼肉をするのが好きだ。
家族で一つになれるから。
ジュー。
肉が焼ける音。
油が弾ける。
甘い匂い。焦げた匂い。鉄の匂い。
「父ちゃん、もう食べていい!?」
「だめだ、まだ赤い。ちゃんと火を通せ」
「あなた、煙すごいわ。窓開けるわね」
ガラガラ――
でも煙は逃げない。
むしろ増えていく。
部屋の中で、ぐるぐると回っている。
白い。
白い。
白い。
見えない。
網の上が見えない。
家族の顔も見えない。
でも焼ける音はする。
ジュー。ジュー。ジュー。
「父ちゃん、これ何の肉?」
「さあな、さっきまで動いてた気がするが」
笑い声。
誰の声だ?
手探りで肉をつかむ。
やわらかい。
まだ温かい。
かじる。
ぶち。
弾ける。
中から何かが飛び出す。
ぬるい。
舌に絡みつく。
「うまいなあ」
「ほんとねえ」
「父ちゃん、これ…僕の指に似てるね」
「似てるな」
俺が笑う。
息子が笑う。
女房が笑う。
煙の中で、手が一本落ちている。
誰のものだ?
拾って、網に乗せる。
ジュー。
これは、息子。
これは、女房。
これは、俺。
区別がつかない。
もういい。
全部同じだ。
骨が爆ぜる音。
脂がはじける音。
声が焼ける音。
「いただきます」
同時に言ったはずなのに、
誰も口を動かしていない。
じゃあ誰が言った?
網の上で、
目玉が弾けた。
パチン。
「家族焼肉サイコーだなあ」
口の中で誰かが笑う。
胃の中で誰かが泣く。
腸が絡み合って、
家族が一本の長い肉になる。
噛む。
飲む。
混ざる。
もう誰が誰でもいい。
俺たち家族はひとつだ。
最初からそうだった。
だから焼肉は好きなんだ。
最後まで、ちゃんと、どんどん
家族焼いて
家族で全部、食べきろう。
ホラー小説【家族で焼肉】
完




