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第三十七話 揺れる心

【第三十七話 】

 診察を終え、帰宅する健司たちを見送り、店内に戻ると小さな紙がテーブルの上に置いてあった。茜は不思議そうにその紙を手に取った。それは健司からの手紙だった。


『茜へ。さっき、言った開業は冗談だといったが、いつかはわからないけど、この町でやってみたいと思えるきっかけになった。俺もこの町で育ってきたからな。きっかけをくれてありがとな。』


 健司の思いが書いてあった。慌てて書いたのか、走り書きのように、所々読みづらい箇所もあった。茜は嬉しくなった。健司が戻ってくるかもしれないという期待と健司に選択肢が増えた事もとても嬉しかった。


(診察を決めたのは健司君のお母さんだけど、それでも、町に病院が出来ることは皆にとっても、良い事。それに、健司君ならきっと親身になって、患者さんを大事にしてくれそう!嬉しい。)


 茜は嬉しそうに手紙を読んでいると、隣から森下さんが声を掛けてきた。


「茜ちゃん、何かいい事でも書いてあったの?」

「健司君がいつかはこの町で開業したいって。」

「あら、そうなの!?それは嬉しいことじゃない。この町に病院が出来たら、皆、助かるわね。」

「そうなんです。遠くまで通う事も無くなるんじゃないですかねぇ。」

「この町もどんどん便利になっていくわね。私も嬉しいわ。」


 2人はにこやかに話していた。将来、この花守町に病院が出来ると思うと嬉しさが込み上げてきた。

 

次の日、いつも通り、お弁当の仕込みをしていると渡辺さん家族がやってきた。ガラスの扉を開けて、渡辺さん夫婦と健司君の三人でお店に来てくれた。


「お腹空いた~。茜ちゃん、今日のお弁当はなぁに?」

「今日はサバの味噌煮と油淋鶏にしてみました。」

「あら、珍しいわね。油淋鶏を食べてみようかしら。」

「はーい!今持っていきますねぇ。」


 揚げたての鶏肉を特製ダレに浸して、弁当を盛り付けていった。タレでキラキラと輝き、食欲が増す。とても美味しそうに輝いていた。


「はーい、お待たせ―!揚げたてなので、火傷に注意してね。」

「ありがとう!」

「健司君もおじさんもどうぞ!」


 三人の前にお弁当を並べていった。

 三人はワクワクしながら弁当を見つめていた。


「美味そう!お腹空いていたんだ。」


 嬉しそうにお弁当の蓋を開けて、目をキラキラさせている。まるで昔、遊んでいた時のような無邪気な顔をしていた。


(変わってないな…。見た目は大人になってもちょっとした仕草は子供の頃のまま…)


 お弁当を食べながら、雑談している横目に茜は移動販売の準備を始めていた。森下は後片付けをしている。すると、そこに一本のテレビ通話が入った。


———Prrrrr———

「はーい!花守町よろず屋でーす!」

『あ、茜ちゃん?注文いいかしら?明日、買い物代行の日よね?』


 画面に映し出されたのは、清水のおばちゃんだった。顔を見て注文できることに喜んでくれている一人だった。


「おばちゃん、今回は何が欲しい?」

『おでんを作りたいから、おでんの材料を買ってきてくれる?』

「いいよー。材料は任せてもらってもいいのかな?」

『お願いできる?』


 買い物代行の注文を受けていると、横からお弁当を食べていた健司君が近付いてきた。


「へぇ、こんな感じで注文受けているんだな。」

『先生!昨日はありがとう!』

「体調はどう?見た感じに異常は無さそうだね。」

『元気です!先生はいつまでこっちにいるの?』

「明後日には帰る予定ですよ。」

『今度、来た時にまた診てほしい。』

「はいはい、いいですよ。しっかり食べて、良く寝て、適度な運動も忘れないようにしてくださいね。」


 対面の会話がとても話しやすそうで、茜は近くで見ていて、アプリを作ってもらってよかったと心からそう感じていた。


 注文を受けた茜はメモを明日の買い物代行の資料にまとめ、確認をしていた。最近ではスーパーの店員さんも茜のために動いてくれて、大いに助かっている。最初の頃は何度も軽トラとスーパーを往復していたのが、茜はまとめ買いをして、レジで小分けにしてもらえるようになって、負担は少なくなっていた。スーパーの店員さんはもちろんのこと、お客さんも茜の行動を見守ってくれている。一般的には大量の買い物を小分けに支払いをすることなど、嫌がられるのだが、温かい目で見守られ、声もかけてくれるようになっていた。


「茜!このテレビ電話、いいアイデアだな。」

「そうでしょ?これにはさ、町の人たちを見守る為に緊急ボタンや町の人たちで家に居ながら会話が出来るような仕組みも取り入れているんだよ。一人暮らしでも寂しくないようにね。」

「すげぇ~な~。色々考えているんだな。俺も負けないようにしないとな。」


 茜の行動が健司の心に響いたようだ。目をキラキラさせ、画面を見つめていた。

 茜は移動販売の準備を再びはじめ、商品を積み込んでいった。


「なぁ、今度さ、俺も移動販売に付いていってもいいか?」

「え!?突然どうしたの?」

「いや、なんというか、興味があるっていうかさ。」

「まぁ、いいけど。それなら、一緒に手伝ってよ。」

「おぅ!やれることならやるさ!いつもは患者さんの事ばかり診ているから、たまには違う景色も見たくてさ。」

「健司君、せっかくの休みなのに本当にいいのね?」


 健司は静かに頷いた。

 移動販売を人に手伝ってもらうのは初めてだった。森下さんですら、お店を任せるだけで、移動販売で一緒に出掛けることは無かった。茜にとっても新鮮なことでなんだか楽しみだった。


「明日は、買い物代行の日だから、明後日はどう?」

「明後日か、大丈夫だ。何時に来たらいいんだ?」

「お昼の12時30分でどう?」

「ここで、またお弁当食べてもいいか?」

「いいよ~。食べてから行こうか。」


 茜と健司は明後日、移動販売でともに行動する約束をした。新鮮な気持ちで移動販売の日を迎えるのであった。ただ、誰も知らなかった。この出来事が健司のこれからを大きく変えることになるとは…。


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