第三十六話 久しぶりの再会
『花守町よろず屋』の店舗前。一台の車が止まった。助手席にはいつもの渡辺のおばちゃん。そして、運転席には渡辺のおじちゃん。そして後部座席に一人の影が見える。その瞬間、後部座席のドアが開き、細い足がにゅっと伸びて、車の外へと出てきた。その姿は子供の頃の面影があまりない茜の幼馴染でもある健司の姿だった。茜よりは年が少し上で、子供の頃によく遊んでもらっていたお兄ちゃん。
医師となった健司は都会の大きな病院で働いていて、今日は休みを利用して、実家に帰ってくることを渡辺のおばちゃんから聞いていた。
大人になった健司君の姿は細身でシュッとしていて、スマートな服装だった。髪型もしっかりとセットされているような、清潔感溢れる30代後半。見た目は青年のように若々しく、茜の年上とは思えないほど童顔だった。
「ここか?診察するところは?本当に、おふくろは急だよなぁ。皆さんに迷惑かけてないだろうなぁ。」
「大丈夫よ。茜ちゃんに頼んだんだから。」
「お久しぶりです。茜です。健司君……?…だよね…?」
「おぅ、お前、茜か?久しぶりじゃねぇかぁ。」
茜はドキドキしていたが、喋り方や仕草は昔のまま変わらなかった。ちょっと乱暴な所も見た目に反して、変化しておらず、一気に子供の頃に戻ったような親近感がわいていた。
「ここって、もしかして、茜の店か?どれどれ、、、。」
健司はまじまじと店内に入りキョロキョロと見渡した。
「まぁまぁ、いい店じゃねぇか。この辺も変わらねぇし、自然が多くてやっぱり、最高だな。茜もそう思ったから、戻って来たんだろ?都会じゃ考えられないもんなぁ。こんな生活。」
「健司君も変わらないねぇ、見た目は成長したけど、中身が全然変わってなくて、安心した。」
「どういう意味だよ!?」
「まぁまぁ、診察してもらうために皆さんに集まってもらったんだから、待たせたら悪いでしょ?健司、早速だけど、頼める?」
「おいおい、もうかよ!?少しは帰ってきた余韻に浸らせてくれよ。…まぁ、いいわ。茜、みんなを順番に並ばせてくれる?」
茜は住人の皆を整列させ、列を作っていった。待っている間も茜は笑顔を絶やさず、仲良く住人とお話しをして、対応をしていた。
健司はその姿をちらちらと見ていた。茜は見られていることに気付いてはいたが、気にしないようにして、他愛のない会話で盛り上がっていた。
「はーい、次~!」
一人のおばあちゃんが椅子に座った。
「最近体の調子はどう?どこか痛みとかない?」
「えぇ、おかげさまで、、、何もないですよ。」
「ちょっと目を見せてねぇ。」
瞬間、健司の顔つきがピリッとした。
「おばあちゃん、今度はいつ病院に行くのかなぁ?」
「…え~と、、、来週?…だったかな。」
「そっかそっか。ちょっとね、今見たら、目の白い部分が黄色くなっているのね。これは体がちょっと疲れているサインだから、早めに見てもらったほうがいいよ。今すぐ何かある訳じゃないけど、早めに見てもらうと安心だからね。」
「そーですかぁ~、、、病院に電話して、予約を早めないとだねぇ。」
「おばあちゃんはどこの病院に通っているの?」
「高野医院だよ。昔からそこなんだ。」
「じゃ、あとで、電話して症状を伝えておくからね。安心して。」
「ありがたや~。」
茜は的確な健司の診察に目を見張り、内面とのギャップの優しさに一瞬胸が締め付けられた。どんどんと診察を終え、適度に会話もして、一気に住人の皆の心をつかんでいった。
簡単な診察ではあったが、あっという間にここにいる全員の診察を終えた。笑顔で、診察している姿がカッコよくもあり、笑顔で患者さんを安心させる姿は尊敬する姿でもあった。
「これで終わりか?ふぅ、、、、やっと終わった。帰って来て早々ヘビーだぜ。」
「まぁまぁ、そう言わないの。みんな、笑っているんだからいいじゃない。」
「おふくろも見てやるよ。親父もな!」
渡辺さん夫婦は診察してもらっていた。
「二人とも特に異常ないな。良かったな。」
「当たり前よ、私たちはまだまだ元気よ。ほら、次は茜ちゃん。」
「…え?私ですか…?いや…私は…。」
「いいから座れ!診てやるから!」
診察中は息を止める程に顔が近く、ドキドキとしてしまった。
「お前、目が血走ってこえ~よ。」
笑いながら、冗談で茜にぶつけた。
「冗談冗談。ちょっと目が充血しているから、疲れでも出ているんじゃないか?」
「え…そう?…最近はあまり感じたことないけど…。」
「しっかり睡眠取って休んだ方がいいぞ。」
茜は静かに頷いた。この日の診察イベントは終わり、全員を送り迎えしたのち、また店に帰ると、健司君はまだゆったりと休憩していた。
「おぅ、茜!終わったか?」
「うん、もう終わった。そっちこそ大変だったでしょ?」
「あぁ、まさか、ここでも診察するとはな。でもよ、仕事とは違ったから、楽しかったな。」
「そっか。何日までいるの?」
「5日間かな。それまでに、リフレッシュしないとな。」
「大きい病院で働いているんでしょ?そっちはどうなの?」
「あぁ、もう大変でさ。外来の多さなんか半端じゃねぇんだぜ。毎日これくらいの人数なら、大したことないんだけどな。」
「大変なんだね。頑張ってね。」
「茜は、一回都会に働きに行ったろ?どうして戻る気になったんだ?」
「…私は、最初は自然が恋しくなったのがきっかけだったんだけど、でも…ここで暮らしていくうちに住人の皆の笑顔に救われて、移動販売してても毎回感謝されることが私の生きがいになっていって、、、もっとみんなの役に立ちたいって思って、店まで持つようになって、人も雇ってさ、人生で今が一番楽しいかも。」
「そっかぁ、楽しいならいいな。俺も楽しいこと見つけたいぜ。今の職場では楽しみは見出せないからな。毎日休む暇もなく働いているから、楽しさなんて忘れちまったよ。」
茜と健司はお互いの仕事について話し、良い所も悪い所も語っていった。
「本当、この場所落ち着くよなぁ。俺もいつか開業医としてこの町に戻ってこようかなぁ。」
「それいいじゃん!もちろん、今の職場との兼ね合いもあるけどさ!私は応援するよ。」
「ハハハ、冗談だよ!!そんな勝手に決められるものでもないのはわかっているさ!言ってみたかっただけだ!本気にするなよ!」
「本気で応えたのにぃ!ホント、昔と変わらないね。いつも冗談ばっかり言って、あの頃も楽しかったね。」
「あぁ、そうだな。」
渡辺のおばちゃんの用事も済み、車の方から声を掛けてきた。
「そろそろ、帰るわよ~」
「あぁ、わかった。今行く!」
すくっと立ち上がり、車の方へ歩く健司に茜は言葉を掛けた。
「ここはいつでも健司君を歓迎しているからね。また遊びに来てよ。」
春の暖かな風が二人の間を横切った。健司は車に乗り込み、自宅へと戻っていった。
「茜ちゃん、今日はお疲れ様。送迎大変だったでしょう?」
「森下さんこそ、お疲れ様です。お手伝いありがとうございました。」
「私は皆さんとお話しできて楽しかったですよ。安心している顔が見れて、こっちまで幸せになっちゃった。」
「本当にそうでしたね。やっぱりお医者さんってすごいですね。一瞬で笑顔にしちゃうんですから。」
「私は茜ちゃんも凄いと思うわよ。皆の為にここまで動ける人っていないと思うわ。」
「そうですかねぇ。たまに自信が無くなっちゃって、本当にみんなの役に立てているのか不安なんですよ。」
「不安なんて感じなくてもいいわよ。皆の顔を見ていたらわかるもの。心の底から安心して心を委ねているもの。大丈夫よ。」
「ありがとうございます。また頑張れそうです。」
2人で話し、2人で、これからもこの『花守町よろず屋』を盛り上げていこうと、茜はまた奮起した。1人で出来なかったことも、2人なら何でも出来る気がした。
「ところで、茜ちゃん。健司君の事が好きなの?」
「…え?…そんなわけじゃ…ないですよ。…う~ん、今は尊敬が強いですかね。」
「あら?そう?なんだか見る目が違うような気がして~。まぁ、そういうことにしておきましょうか。」
茜は顔を赤らめながら、うつ向いた。恥ずかしさで、耳まで赤くなってしまった。これからのよろず屋がどうなっていくのか、まだまだ分からない。茜の中の未来のビジョンは何を見据えているのだろう。




