表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/37

第三十二話 新しいシステム


 アンケートは着々と集まっていった。花守町の世帯数は79世帯。前回よりも想像以上に返答を貰っている感触だった。


アンケートには満足度の他に茜に一言メッセージも書いてもらえる欄を設けていた。茜は開封する準備をした。手も震え、アンケート用紙がなかなか開かない。ドキドキしながら一枚目をめくった。


(…こ、これは…悪く…ない?ドキドキしたぁ。良かったぁ…。)


 反応は上々だった。満足度は高評価で、少しでも役に立てていることが嬉しかった。そして、困っている事には品切れ問題が書かれていた。この点は茜自身もまだ迷っているところだった。昨日売れたものが今日売れるかといわれるとそうではなく、全然違うものが売れる。商売の難しさを痛感していた。多めに商品を積んでも売り切れてしまうこともある。その日にならないと、わからないのが難しさでもあり、楽しさだ。


 最後に茜が目にしたのは一言メッセージ。そこにはこう書いてあった。


『茜ちゃん、いつも一生懸命に頑張っていて偉いね。いつもありがとう。』


 茜は胸が締め付けられるくらい感動していた。瞳から涙が頬を伝い流れる。


(やってよかった、、、。)


 茜は天を見上げ、感情が溢れていた。目の前は涙で歪み、アンケートもまともに読めなくなっていた。移動販売を始めてからの事が走馬灯のように頭の中に流れていく。振り返ってみると楽しい事ばかりではなく、辛くて休みたい日もあった。寒空の下で豚汁を作り、お客さんが来ない移動販売も経験した。それでも頑張ってこられたのは住人皆のお陰で、茜は反対に感謝をしないといけないと思っていた。


 沢山のアンケートにすべて目を通した。茜は一言メッセージが温かく心にじんわりと来るものがあった。


 アンケートには今後導入してほしいサービスという欄も記入していた。この欄は住人が何に期待しているかを読み取れるように書いてもらうことにした。そこには病院の送迎やなど書いてくれていた。そこで意外と多かったのは、話し相手になってほしいという要望だった。花守町は町ではあるものの、近所感が遠いため、孤立しやすい。その為、寂しさがある。その相手としてよろず屋である茜に話し相手になってもらいたいという希望をアンケートには書かれていた。


 茜はすべての人の話し相手は難しいが、他に何か方法が無いかと模索した。そこで先ほどのテレビ電話の事を思い出した。グループでビデオ通話ができるようになれば、家にいながら、お喋りも出来て、一番いいと思い、早速、清水さんに連絡することにした。


———Prrrrr———

「もしもし、清水さんですか?駒田です。」

『はい、清水です。駒田さん、どうされましたか?』

「突然、すみません。アプリの件で相談したいことがありまして。ビデオ通話ですが、グループ通話が出来るように組み込めたりしますか?」

『…そうですね。問題はないと思いますが、日にちをまた貰ってもいいですか?ちゃんとしたものを作りたいので。』

「えぇ、もちろんです。無理言ってすみません。」

『いえ、大丈夫です。きっと、このお話しも住人の皆さんの役に立つことなんですよね?』

「はい、先日書いてもらったアンケートに喋り相手が欲しいと書いてありまして、それなら皆さんで一緒にお話しできないかと思いまして。私一人では限界ありますし。」

『母のように住人の方は、あの町の事が好きなんですね。』

「そうですね。寂しさよりも、あの自然に魅力があるのだと思います。」

『わかりました。早めに完成できるようにしますので、完成したら、試験的に運用してもらえますか?』

「はい、やってみます。ありがとうございます。」


 茜は電話を切った。

 

 毎日弁当を作り、森下と共に働き続けていた。あれから、2か月が過ぎ、冬の寒さも和らぎ、季節は春になっていた。


 そんな暖かな季節に清水から電話を貰った。


『駒田さん、お待たせしました。試作品が出来上がりました。』

「本当ですか?ありがとうございます。」

『今から、そちらに行って、説明させていただきたいのですけど、今は忙しくないですか?』

「あ、はい。大丈夫です。」


 茜は胸を躍らせ、清水を待つことにした。


「おはようございます。駒田さん、出来ましたよ。要望通りに、グループ通話も出来るようにしました。」

「ありがとうございます。楽しみです。大変な中、本当にありがとうございます。」

「作りながら、思ったんですが、やはり花守町は素敵な所です。こうやって、魅力を再確認できたのも駒田さんのお陰です。調べながら、懐かしくなってしまいました。住んでいたころは早く都会に住みたいと思っていたのに、不思議なものですね。」

「私も、何もない町で仕事もなくて、一度、離れた場所ではあったんですけど、結局、戻ってきてしまいましたね。この町は落ち着くっていうか…。」

「わかります!調べながら、結局、落ち着ける場所だと気づいたんです。母もきっとそういう思いがあるのでしょうね。先日は声を荒げてしまい、申し訳ありませんでした。」

「いえいえ、大丈夫です。お母さんの事を心配なさっての事だったのでしょうから、目的はお互い一緒だったのに、道が違っただけですから。」

「…ありがとうございます。早速、見てもらってもよろしいですか?」


 清水はタブレットを取り出した。そのアプリをタップすると『花守町よろず屋』の情報がたくさん載っていた。茜は前回、清水に会った後、メールでのやり取りをしていた。その際に移動販売を始めた経緯や写真などを添付して、メールをしていた。


「駒田さん、タブレットかスマホで一度、アプリ入れてみてもらえますか?」

「今、手元にはスマホしかないので、ここに入れてみますね。」

「インストール出来るようにはしていますので。」


 茜はスマホでアプリのインストールを始めた。時間は数秒で完了した。スマホに入ったアプリを開くと、目立つ写真と共に簡単な操作でやれるように、配慮がなされていたすべての事が1タップで完了するような仕組みだった。年配の方でも使って頂けるような仕組みで、茜はワクワクしていた。


「青いボタンが注文するときの直通電話で、赤いボタンが緊急用で緑のボタンがグループ通話になっていて、グループ通話は3部屋ぐらい作りました。それから、このサイトは会員向けに設定してあるので、他から見られることはありません。花守町専用のサイトになっています。タブレットでの設定は要りますが、問題なく使えるはずです。」

「ボタンも大きくてわかりやすいですし、皆さんに使ってもらえそうですね。タブレットを壁に取り付けてもよさそうです。」

「えぇ、これなら、目が悪い方でも大きくて使いやすいかと思いまして。」

「素敵です。アプリが出来るなんて、素晴らしいと思います。」

「ありがとうございます。試しにやってみますか?」


 茜と清水と近くにいる森下にも協力してもらって、試しにグループ通話をしてみることにした。3人は近くで緑の通話ボタンをタップし、一つ目の部屋に入ってみた。


「わぁ、顔がはっきり見える。あー、あー、声の遅れはどうでしょうか?」

「ちょっとだけ、ありますけど、気にならない程度ですね。」

「これで皆さんもお喋りが出来るようになるんじゃないですかね。それから、お店だけの特徴なんですが、グループ通話していたとしても注文通話や緊急が優先されるようになっていますので、グループ通話は一時退席扱いになります。」

「それは、確かに店にとっては有難い仕組みですね。」

「これが、このアプリの全貌になります。いかがでしょうか?」

「素晴らしいものをありがとうございます。これで皆さんもよろず屋を使いやすくなります。ありがとうございます。」


 茜は頭を下げて、感謝を伝えた。この日の出来事は忘れない。『花守町よろず屋』がまた一歩前進し、住人に寄り添える形を見つけた瞬間だった。寂しさを与えない茜の思いが形となった。このアプリをあとは広めていくだけだ。試験的に数人にお願いしてみよう。これからの店の成長が楽しみでならなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ