第三十一話 町のオアシス
茜は動き出した。夢のために。将来的に住人の皆の健康を守れるように、茜は出来ることをやっていこうと決意した。週一回の移動販売に加えて全家庭の訪問もすることを決めた。販売やお話し相手や、修理など何でもやる事にした。『花守町よろず屋』がもっと身近に感じられるように。
(町の全員の顔が見ることができたら、言うことないんだけどな…顔?…顔かぁ…。)
その時、茜の脳裏にアイデアが生まれた。これは実現するかはわからない。でも、やってみる価値はあると思った。
それは画期的なことだった。茜の頭の中にあるアイデアを形にするためにネットで調べることにした。そのアイデアとは専用テレビ電話である。注文するときや普通に雑談したいときにでも掛けられ、お店と繋がる仕組み。高齢者でも簡単な操作はできる。ネット注文のように難しい操作は一切なくした。今の高齢者に寄り添った仕組みを考案した。
(これなら、きっと、皆の顔を見ることができる。)
調べていくうちに、一つの案が浮かんだ。この町でもスマホは普及しており、連絡手段として活用されている。タブレットのアプリを作れば、ビデオ通話もできるのではないかと。ただ、茜にはアプリに強い知り合いがおらず、アイデアはまた頭の片隅にしまわれたのだった。
後日、森下とお弁当作りをしていると。年配の女性とあの夫婦が現れた。清水のおばちゃんだ。
「茜ちゃん、先日は助けてくれてありがとう。今日退院できたわ。」
「おばちゃん!?良かったー!!本当に…。」
茜は涙ぐみながら、喜びを分かち合っていた。
「先日はありがとうございました。お弁当も美味しかったです。この通り、母も回復しまして、真っ先に母が駒田さんにお礼がしたいということで、ここに立ち寄らせていただきました。」
「本当にありがとう。あのままだったら、私、死んでいたって、お医者さんから聞いて、お礼をしなきゃって、思って、、、。」
「いえいえ、元気になってよかったですね。人として当たり前のことをしたまでですから。」
清水のおばちゃんは茜の手をしっかりと掴みながら、ブンブンと上下に振り、握手をしてくれていた。力強い握手だった。
「母に代わって、何かお礼をと考えていたんですが、こんなのはどうかと思いまして。」
清水さんの息子はおもむろにタブレットを出した。
「実はアプリを作成する会社に勤めていまして、駒田さんのお店にも役立てないかと思いまして。まだ途中なんですが、一度見てもらってもいいですか?」
そこには花守町の情報とよろず屋の事が書かれていた。素敵な景色の画像も貼ってあり、山間の花守町の魅力が詰まったページとなっていた。
「素敵なページ…。こんな事が出来るなんて、凄いですね。」
「駒田さん、これを作っている時に思ったんです。この町は魅力が沢山あるなぁ。だから、母もここを離れたくないんだろうなぁって。先日、駒田さんに言われなかったら、無理にでも母を連れて行くところでした。母が生まれ育った町であり、私も生まれ育った町でもあって、ただ、子供の頃に感じられなかった魅力にようやく気付いた気がします。本当にありがとうございます。」
「私はこの町が大好きだから、住んでいるのに、引っ越しさせようなんて、何を言ってるのかしらねぇ。」
おばちゃんは笑いながら、冗談ぽく言っていた。茜はその光景を微笑ましく見ていた。
(仲の良い親子だなぁ。)
「ところで、駒田さん。アプリを作るにあたって、このお店で追加してほしいものってありますか?」
茜は考えていた。と、その時に思い出した。ビデオ通話ができるようにならないか。
「あの~、難しいとは思うんですけど、ビデオ通話と注文フォームって出来たりしますか?」
「ビデオ通話ですかぁ。う~ん…。出来るとは思います。ただ、時間をください。」
「出来るんですか?それは凄いですよ~。それが出来るなら、私がやりたいことが進む気がします。」
「差し支えなければ、駒田さんのやりたい事、教えてもらってもいいですか?」
茜は将来の展望を話した。一人暮らしの住人に対しての心のケアもしていきたいこと、町にとって、お店はオアシスみたいな癒しを与えられる存在であること。すべて話した。
「話しを伺って、アプリの方向性も決まったので、出来上がりを待っていてください。駒田さんは本当に優しい人ですね。母の事、よろしくお願いします。」
茜は微笑み、清水一家は店から出ていった。
(しっかりしている人だなぁ。私と年齢変わらないのに。)
茜は午後から移動販売を始める。ただ、以前と違うのは訪問販売することが増えていった。出来るだけ、住人の顔を見て話せるように信頼も築いていった。今まで、移動販売に来なかった人の顔もちらほらとみられるようになってきた。
(一週間前から始めた訪問販売だけど、皆受け入れてくれて助かるなぁ。よろず屋の事どう思っているんだろう?)
茜はふとした疑問が湧いた。移動販売を始めて、3か月が経とうとしていた。今、アンケートを書いてもらったら、どんな答えが返ってくるのだろう。
茜は気になり、アンケートを作ることにした。『花守町よろず屋』の満足度や、困っている事、良かったこと、今後ほしいサービスなど、チェックできるようにして、最後に茜への一言メッセージも入れることにした。
今回は全世帯の郵便ポストに入れることにして、訪問販売のついでに回収してこられるようにした。無記名でのアンケートで、住人から茜に見えないように箱に入れてもらう。相変わらず、会えない住人もいるが、以前に比べて、会える人が増えていた。一枚一枚、アンケートを郵便ポストに入れると、なんだか不安でドキドキしていた。寒さ過緊張か、手も震えている。
ポストに入れたアンケートを見て、祈りを込める茜だった。




