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第三十話 突然の訪問者


 茜は自宅に帰り、考え事をしていた。高齢者の多い地域で、もしかしたら、清水のおばちゃんみたいに倒れてしまう事もない訳じゃない。花守町のすべての住人が顔を見せてくれるように、訪問もしていく必要性というものを感じる出来事となった。たまたま、訪問販売に出かけたお宅で、まさか、こんなことが起きるとは思いもよらず、焦って何もできなかった事が悔やまれる。


 しかし、命が助かったのは本当に喜ばしい事で、茜もよろず屋をやっていてよかったと思えた。


 自宅でひと時の休憩をしたのち、再び移動販売へと向かった。訪問する場所がまだあったからである。かれこれ3時間ほど、遅れてしまっていた。病人の対応は仕方ないとはいえ、他のお客さんに迷惑をかけてしまって、申し訳なくなっていた。


 再び、始めた頃には夕方となっていて、夕日が綺麗に雪景色を輝かせていた。西日の当たる雪がオレンジ色に輝き、昼間よりも冷え込んできていた。


 お客さんたちは怒る訳でもなく、逆に心配してくれていた。清水のおばちゃんの件は誰もが皆知っていた。田舎の噂話の早さに驚く茜がいた。


 移動販売も終わり、お店に帰って来た茜は森下の初日の働きも気になっていた。


「森下さん、今日、一日お疲れさまでした。どうでしたか?やってみて。」

「時間がある時に副菜も準備したので、明日はもっと早く出来ますよ。それに、来てくれたお客さんと楽しくお話しも出来て、仲良くなれた気がする。」

「それは、良かったです。何か商品は売れました?」

「え~と、お弁当とパンとおにぎりぐらいかな。お弁当は沢山売れていたね。茜ちゃんの方は?」

「色々あって、売れ残りが2つあって。」

「今日って、もう売りには行かないよね?」

「えぇ、今日はもうないですね。」

「じゃ、そのお弁当は私が食べてもいいってこと?」

「それは、もちろん。食べてもらえるのなら、嬉しいですが…いいんですか?夕飯がこのお弁当で。」

「いいのよ。自分で作ったお弁当なんだから、食べさせてよ。」


 森下はニコッと微笑んだ。不慣れな中、頑張ってくれていたのだろう。初の仕事で森下も大変だったように茜にとっても凄い一日となった。


 数日が経ち、日常が戻って来た。森下と一緒にお弁当調理をしていると、一組の夫婦がやってきた。この地域では見た事のない二人だった。


「ごめんください。ここに駒田茜さんはいらっしゃいますか?」


 男性が声を掛けてきた。ピシっと清潔感のある格好で黒いコートを手に持ち、スーツ姿の人だ。


「はい、私がそうですけど、失礼ですが、どちら様で…?」

「清水加代子の息子です。先日は母を助けてくださり、ありがとうございました。」

「え!?清水さんの…。その後、ご加減はどうですか?」

「母も順調に回復しており、もう、3日ほどで退院できるそうです。母から話を伺って、お礼をと思いまして。あのまま誰にも気付かれていなかったら最悪の結果になっていたと、お医者さんから聞きまして。」

「詳しくは聞かなかったのですが、どんな病気だったんですか?」

「軽い脳梗塞でした。でも、後遺症もなく回復出来ているようで、本当にありがとうございました。」

「いえいえ、人として当たり前のことをしただけなので。良かったです。」


 茜は安心した。この夫婦に感謝もした。わざわざ、こんな山間の雪景色の中、来てくれたことが嬉しかった。


「もうすぐお弁当が出来上がるので、食べていきませんか?奥さんもどうぞ。」

「え、でも、、、。ご迷惑になる訳には…。」

「迷惑だなんて、とんでもない。清水さんもよく食べてくれるんですよ。明るくて優しくて、いつも私の事も気にかけてくれて、心の優しい方だなぁって思っています。あ、でも、清水さんには内緒ですよ。恥ずかしいので。ハハハ」


 茜は照れながら、話した。


「実は何度も、お話しは聞いていました。一緒に暮らそうといっても、この町が好きだからって、断られるんですけど、その中に、駒田さんの話しも出るんですよ。母もあなたの事が好きみたいです。今回の件で、母も懲りたと思います。なので、駒田さんからも伝えてもらえませんか?我々と同居する旨を。」

「そうでしたか。清水さんがそんな事を。ですが、私は伝えることができません。考えるのは清水さん本人です。私は彼女を尊重したいと思います。この山間の町は不便な所もありますが、自然豊かで、素敵な場所です。私は清水さんの考えていることもわかります。本人がしたい事を尊重してあげてもらえませんか?」

「…それは…あんたは家族じゃないから、わからないんだ!俺たちがどんな思いで、いつも思っているかわからないんだろ!」


 息子さんは怒りを茜にぶつけた。それでも茜は淡々と話しをする。


「…そうですね…私は家族ではないですし、わからないこともあると思います。ですが、清水さんの毎日見せてくれる笑顔は本物だと思います。幸せそうに、毎日過ごしているんですよ。その笑顔を奪う権利は私たちにはありません。清水さん、本人が決める事なんです。」


 夫婦はハッとして、何かに気付いたようだ。


「ごめんなさい、失礼なことを言っているのは重々承知なんですが、私は清水さんを尊重したいです。長年生活していた町を離れるのって、結構、寂しいものですよ。」


 茜は諭すように話しを続けた。


「声を荒げてしまってすみません。駒田さんのような人が近くにいて、母も嬉しいんだと思います。ここで、お話しできて良かったです。今後の事は母とゆっくり話し合いながら決めていきたいと思います。その間、母の事をよろしくお願いします。」


 話し合いが終わり、出来上がったばかりのお弁当を夫婦に持たせた。


「ここで食べても、持ち帰っても構いません。どうぞご自由に。」

「ありがとうございます。今日は持って帰ります。また、母とご挨拶に伺います。」

「はい、また遊びに来てください。」


 夫婦はお店を去っていった。いい話し合いができたんじゃないかと茜は思った。私もあの夫婦も清水さんを思う気持ちは変わらない。だけど、その考え方が少し違うだけの、意見交換だと思った。


 ちょうど、昼時となり、森下と茜で昼食を共にした。


「清水さん良かったですね。助かって。」


 森下が声を発した。茜は、この事がきっかけで、大きな事をやろうと決めた。それは、皆の為にもなる。そんな大きな事だった。

 みんなの笑顔を守る為に『花守町よろず屋』は街のオアシスを目指していく。


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