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第二十九話 よろず屋の在り方


 午後となり、移動販売の時間となった。いつも通り、準備して出発していった。


「森下さん、あとはお願いします。お店に来たお客さんで、商品が欲しい人が居たら、売っても大丈夫です。電話もかかってくるかもしれませんが対応お願いします。いってきます!」

「行ってらっしゃい。気を付けてねぇ。」


 茜はバタバタと走り抜けて、外へ出た。外は非常に寒く、吐く息も白い。お店の中は温かくなっているので、換気扇から出る空気も白くなっていた。


(いってきます、、かぁ、、初めて言ったなぁ。なんだか嬉しい。)


 茜はちょっとした挨拶も嬉しさが込み上げてきた。

 今日の行き先は訪問もある地域だった。販売する位置では行きづらいお客さんも中にはいて、以前は歩いてきてもらったことあったけど、お客さんにとって、いい方法をとることにした。

 到着した茜は一軒一軒、訪問することにした。最初に訪問したのは、若い夫婦のご自宅。


———ピンポーン———

「花守町よろず屋でーす!」

「はーい!今行きます!」


 扉がガチャっと開き出てきたのは、若い奥さんだった。


「いつもありがとうございます。今日は台所洗剤とティッシュ貰えますか?あ、あとトイレットペーパーを!」

「はい、少々お待ちくださいね。持ってきます!」


 茜は注文を聞いたのち軽トラに戻り、商品を手に取り、戻っていった。


「お待たせしました。こちらが商品になります。」

「いつもありがとうございます。あ、そうだ。お姉さんちょっと待っていて。」


 お客さんが部屋の中に入って、何かを持ってきた。


「先日買い込みすぎちゃって、良かったらどうぞ!」


 手に持っていたのは子供用の小袋お菓子だった。


「ありがとうございます。貰っても良かったんですか?子供にあげなくてもいいんです?」

「子供用にはあるので大丈夫ですよ。あの子じゃ食べきれないと思うので。」


 茜は嬉しそうに受け取った。お客さんの優しさに嬉しいとともに、お菓子が大好きな茜にとってはさらに高揚した。商品の代金も貰い、次のお宅へと向かった。ここから、少し、距離があるため軽トラに乗り込み向かっていった。10分ほど走ると、次のお宅が見えてくる。次のお客さんは年配のおばあちゃんのお宅。旦那さんと死別して、今は一人暮らしだ。


———ピンポーン———

「花守町よろず屋でーす!」

「……………、、、。」


 中に気配を感じることは出来なかった。もう一度声を掛けてみる。


「いらっしゃいませんか~。花守町よろず屋でーす!」

「………………。」


 声もしなければ、音もない。


(…あれ?車はあるなぁ。忙しいのかなぁ。)


 茜は不思議そうに家をぐるぐると見て回ってみた。しかし、特に異常はない。また、玄関に戻り、扉の前に来た。ドアのノブに手を掛け、開けてみた。鍵は開いていた。すると、玄関の奥で倒れている女性を発見した。


「おばちゃん!!!!???え!!!???どうしたの!?」


 そこにいつものおばちゃんが倒れていた。茜はバタバタと近付いてみた。声を掛けても、返ってこない。茜は鼻の近くに手を持っていき、息をしているのかを確認した。どうやら、息はしているようだ。ただ、息は浅かった。


 慌てて茜は電話で救急車を呼んだ。


『救急ですか?事故ですか?』

「あの、あの、人が家で倒れていて!!早く、早く来てください!!」

『落ち着いてください。今向かっていますから、その方の呼吸はどうですか?』

「浅いですけど、しています!!でも意識はありません!!早く、早く、、!!」


 茜は気が動転していた。初めて人が倒れているのを目の当たりにして、どうしたらいいのかわからなくなっていた。


『あなたはご家族の方ですか?』

「いいえ違います!」

『近くにいるのはあなただけですか?』

「はい!」

『それじゃ、まず気道を確保してください。首の下にタオルを丸めて入れてください。落ち着いて、大丈夫ですから。』


 茜は慌てて、タオルを丸め、そっと、首の下に入れた。


『救急隊が間もなく着きますからね、そのまま待っていてください。』


 遠くの方で救急車のサイレンの音が聞こえ始めた。目の前に救急車が止まり、家の中に救急隊が駆けつけてくれた。茜は救急隊の姿を確認して安堵した。


———ガラガラガラガラガラ———

 ストレッチャーが音を鳴らし、家の中に入ってくる。床で仰向けになっているおばちゃんの横にストレッチャーが準備され、救急隊が乗せた。


「あの、私、電話したものですが、、、。」

「そうですか。それじゃ、一緒に病院に付いてきてもらってもいいですか?」

「はい!行きます!」


 茜は焦りながら、机の上にあったおばちゃんの財布を手に取り、救急車に乗り込んだ。治療器具が沢山あり、その中の酸素マスクをおばちゃんに取り付けた。茜は泣きそうになるのを堪えながら見守っていた。救急隊の方たちは色んな病院に電話をして、受け入れが出来るかの確認をしてくれていた。3件ほど、電話した病院で受け入れが大丈夫な病院が見つかり、向かうこととなった。救急車の中は揺れが少なく、患者の負担を最低限に保たれていた。


 病院に到着すると、茜は待合室で待たされていた。そこに、救急隊が近付いてきて、状況説明をすることとなった。おばちゃんが一人暮らしの事も旦那さんはもう亡くなっていることも話した。そして、茜との関係性も話しをした。その時、看護師さんが近付いてきて、話しをした。


「早めに気付いてよかったです。大丈夫ですよ。意識戻りました。」

「本当ですか。よ、良かった…。」


 茜は我慢していた涙が止まらなくなった。大粒の涙が頬を伝う。手で涙を拭いながら、感謝の言葉を伝えていた。


「今から、検査しますので、しばらく時間がかかると思われます。連絡するところがあれば、今してもらって、大丈夫です。」

「はい、ありがとうございます。」


 茜はホッとして、外に出て、自宅に電話した。


「お母さん、今、病院なんだけど、しばらく帰れそうにないわ。清水さんの所のおばちゃんが家で倒れていて、救急車呼んだの。」

『え!?清水さんが!?大丈夫だったの!?』

「うん、意識は戻ったみたい。今から検査だって。」


 茜は泣きながら、現在の状況を伝えた。不安と緊張と怖さで声がまだ震えていた。


「それでさ、お父さんとお母さんにお願いしたいんだけど、移動販売の車を病院まで持ってきてくれない?おばちゃんの家の前に置いたまま出てきちゃってさ。」

『それは大丈夫だけど、茜ちゃんは大丈夫?不安だったでしょ。』

「うん、私は大丈夫。おばちゃんの意識が戻ってよかった。」

『そうね。あとで、車持っていくからね。』

「ありがとう。」


 茜はお母さんの声を聞いてホッとしていた。

救急外来用の待合室で待っていると看護師は慌ただしく右往左往と茜の前を通っていく。意識が戻って、安堵していたら、いつの間にか眠ってしまっていた。安心して気が緩んだのだろう。


「すみません、、、すみません、清水さんの付き添いの方。」

「あ、、、はい、、、。」


 少し寝ぼけながら、返事をする茜。


「清水さんのご家族と連絡が付きましたので、もう帰っても大丈夫ですよ。」

「あ、はい。わかりました。ありがとうございました。清水さんはこのまま入院になりますか?」

「そうですね、しばらく入院をして様子を見る形にはなりますね。」

「本当にありがとうございました。お願いします。」


 茜は清水のおばちゃんが大事にならなくて、良かったと安心していた。その時、茜の両親がやってきた。


「茜、清水さんが倒れたって?大丈夫だったのか?」

「うん、もう意識戻ったし、ご家族にも連絡ついたから、私はもう帰って大丈夫だって。」

「そう。茜ちゃん、一人で偉かったわね。」

「…お母さん、、、。うぇ~ん……。」


 茜は我慢していたものがすべて出てきた。おばちゃんが死ぬかもしれないという恐怖に潰されそうになっていた。緊張と不安と恐怖と驚きと色々な感情が一気に押し寄せ、目まぐるしく時間が過ぎていった。おばちゃんの無事を確認し、そして、母親の言葉で思い出して、泣いてしまった。


 子供のように泣いている茜の涙を拭うようにお母さんは優しく抱いた。お父さんは肩を抱えながら、落ち着くのを待っていた。


「さぁ、帰ろうか。」


 落ち着いた茜にお父さんが優しくつぶやいた。


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