第二十八話 新しいリズム
今日はいよいよ、二人体制でのお弁当作りが始まる。朝は、相変わらず空気が冷え切っている。茜は朝の8時前にはお店に行こうと準備を始めた。自宅では母親が料理をしてくれ、朝ごはんを出してくれた。家族で毎朝、一緒に朝ご飯は食べている。みんなが着席して、会話をしながら食べる朝ご飯はやはり美味しいものだ。
「茜、今日からだな。人を雇うという事は大変だけど、頑張れよ。」
「そうよ、茜ちゃん。体には気を付けて。」
「わかっているよ。森下さんもいい人だし、心配しないで。」
両親は茜の心配をしていた。森下の年齢は両親と変わらないほどの年齢だ。母親みたいな年齢の方を雇っているのだ。心配はないというのは噓になる。人を雇う責任は何処までも付きまとう。それは仕方ない。二人で『花守町よろず屋』の一員として、無理のない程度に頑張ろうと思っていた。
朝ごはんも食べ終わり、お店へと向かっていった。朝8時前には到着した。すると、すでに、良い香りが外までしていた。中に入ってみると、厨房にはすでに森下が調理していた。
「おはようございます。」
「茜ちゃん、おはよう。」
「今、何を作っているんですか?」
「今、ひじきの煮物を。お弁当の副菜にどうかと思って。」
「いいですね。じゃ、私はメインを担当しますね。」
二人は初めて一緒に厨房で調理をする。
「森下さん、今日は20食を予定しています。メインは焼き魚と唐揚げの二種類作りますからね。副菜はお願いします。」
「わかったわ。ご飯は10合炊けばいいかしら?」
「あ、はい!10合で足りると思います。」
茜はメインの焼き魚と唐揚げの下ごしらえを始め、森下は副菜を三種類ほど作る予定だ。慣れない二人での作業で、何度もお互いにぶつかりそうになりながら、調理を進めていった。森下も料理が得意なようで、次々と仕上げていた。
ただ、ここで問題が発生した。二人で作業しているとコンロの数が足りないという事。意外に盲点だった。茜が下ごしらえを終えて、コンロを使おうとすると森下の副菜調理を邪魔することとなり、調理もストップしてしまった。茜は、キャベツの千切りを準備することにした。
「森下さん、コンロが空いたら、次に唐揚げを揚げたいので、お願いできますか?私は野菜の準備をします!」
「はい!任せてください。」
冷蔵庫からキャベツを取り出し、千切りを作っていった。千切りはスライサーを使うことにした。その方が早く出来上がり、太さも均一で見栄えがいいからだ。スライサーにキャベツを押し付け、刃に向かって、押しての繰り返しで、作っていく。
配膳台に弁当箱を並べ、キャベツを敷いていく。そして、漬物も小さな仕切りに入れていった。あとは副菜を少しずつ、仕切りに入れて、詰めていく。大きい仕切りは二つあり、メインとご飯を詰める。
茜は汁物の具材も切り始めた。今日の汁物はオニオンスープにした。寒い冬には温かいスープがあるだけで幸せを感じることができ、茜も冬の汁物が大好きだった。
「茜ちゃん、副菜出来上がったから、唐揚げを揚げていくわね。」
「お願いします。副菜はこっちで詰めちゃいますね。」
二人で初めての料理をしているが、声を掛け合いながら、連携は上手くいっているようだ。焼き魚はグリルで焼いている。
森下が慣れた手つきで唐揚げを揚げていき、茜が副菜の盛り付けを担当した。
(厨房は二人だと少し狭いけど、なんだか、やりやすいなぁ。)
森下の長年の経験なのか、茜はやりやすさを感じていた。自然とお互いに協力が出来ている。不思議なことだった。
「唐揚げと焼き魚も出来上がるわよ~。茜ちゃん、ちょっと冷ましてから詰めたほうがよさそうよね。」
「そうですね。凄い!二人であっという間に出来上がっちゃった。森下さんありがとう!」
「良かったわぁ。冷ましている間にオニオンスープを作っちゃいましょうか。」
茜は頷き、スープ用の鍋をコンロに置いた。お店でお弁当を食べるお客さんにはサービスでスープを付けている。お客さんからは好評だ。温かいスープにお弁当でお腹いっぱいになってもらって、満足してもらいたい一心だった。
調理後の厨房はいい香りで充満していた。食欲が増すようないい香りだった。オニオンスープが完成するころ、メインのおかずも少し冷め、弁当に盛り付けることにした。
「20食分完成ね。思ったより、早く終わって良かった。」
「茜ちゃん、毎日一人でやっていたのよね?大変だったでしょ。」
「えぇ、正直、心折れそうな時もありましたが、作っている時は喜ぶお客さんの顔を思い浮かべながらやっていました。」
「本当にあなたって人は。そこまで人に尽くせるって、一種の才能よ。」
二人は完成を喜び、お互いを労っていた。
「冷めたら、蓋をして、販売する台に並べましょうか。私は移動販売の準備をしてきます。森下さんは、店番と明日の準備で副菜の調理をお願いできますか?」
「わかったわ。他に手伝えることはない?茜ちゃんは頑張りすぎちゃうから、何かあったら言ってね。」
茜は静かに頷き、移動販売の準備を始めた。仕入れした商品は森下の住む部屋の隣の部屋が仮置き場となっている。茜は商品数が増えてきて、仮置き場が手狭になってきたことを感じていた。次、建てるとするなら、倉庫になるだろうと思っている。在庫の確認もやりづらいこの状況をどうしても変えたかった。在庫表を手に取り、持っていく分の在庫数を減らしていく。今はアナログだが、そのうち、デジタルへの移行も考えたいと夢のような事を頭で思い浮かべながら、今日も紙とペンを持って、計算する。
ある程度、持っていく在庫を決めたら、軽トラへ積んでいく。先入れ先出し法は徹底していた。日用品も関係なく。使用期限は無くても、使わなければ劣化するものだと茜は思っていた。なので、そこだけはしっかりと守りながら、販売をしていた。
しばらく、在庫の確認をしていると、森下が近寄って話しかけに来た。
「茜ちゃん、もし、私で良かったら、在庫の確認はするけど。」
茜は驚いていた。何故か、自分でやらなければという思いがいつの間にか強くなっていたことに気づいた。今まで、一人でやって来たからこそ、これは自分の仕事、との思いが強かったのだと思う。ハッとした茜は森下にお願いすることにした。
「森下さん、在庫表を渡しますので、今ある在庫と現物が合っているか確認してください。お願いできますか。」
森下にペンと在庫表を渡し、まだお客さんも来ていなかったので、一緒に確認することにした。一人でやっている時よりも速いテンポで確認ができ、同時に、整理もする事ができた。
「綺麗に整理できたし、森下さんのお陰だよ~。」
「一人でやっていたなんて信じられないほどの量あったわよ。」
「もう慣れてしまっていて、、、。」
「手伝えてよかったわ。」
二人になって、『花守町よろず屋』は色んなことが出来るようになった。これから、どんなことが起きるのかはまだわからないままだった。




