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第二十五話 はじめての仲間

 茜は夜の寝る時でさえ、考えてしまっていた。茜の姿を見て、手伝いたいと思ってくれたことは本当に嬉しかった。一人でやる限界を今感じていたからだ。


(雇ってくださいか…。)


 その言葉は嬉しくもあり、茜にとって、重圧にも感じられる。もし雇うとしても、あの人の生活を守れるだろうか。せっかく、仲間として迎え入れたとして、どんな風に変わるのだろう。沢山の状況を想像して、それでも結論が出ない。


 茜は気づいたら紙にメモをしていた。まず、メリットとデメリットを書きだし、問題を抽出していった。細かく書いていった。メリットとして大きいのは、やはり、弁当の作成数が増やせることと、茜が移動販売の間はお店を開けておくことが出来る。そして、お店を拠点とするなら、注文もお店で対応することが出来る。デメリットは一番の問題は従業員の生活が守れるかどうかだ。保険も入らなければならない。個人事業主の茜は手続きをする必要があり、移動販売と買い物代行の合間でどういうふうに事務処理をするのか、時間が足りない。どうすればいいのか、わからなくなっていた。


 そのまま、数日が過ぎ、相変わらず、お弁当の欠品で頭を下げる日々が続いていた。やはり、限界なのかもしれない。このまま一人では、今後の仕事にも影響が出るような気がした。


 ついに、返事を出す日になってしまった。今日は本人に直接電話で伝える。凄く緊張する。茜は悩みぬいた結果を今胸にしまっている。どんな反応されるのかわからないけど、伝えなくてはならない。


———Prrrrr———

『はい、森下です。駒田さん!?今日が結果の日でしたね。』

「はい、あの、申し訳ないんですが、、、」

『…やはり、ダメでしたか、、、』

「いや、そうじゃなくて、店まで一度来てもらうことできますか?」


 茜は森下に一度、お店を見てもらいたかったのだ。そして、これは確認も兼ねている。茜が悩んだ末、出した答えだった。森下さんが受け入れるかどうかは本人の意思を尊重したかった。


 数時間後、森下はやってきた。


「お邪魔します。駒田さんはいらっしゃいますか?」

「急にお呼びだてしてすみません。空いている席に適当に座ってください。」


 茜はお茶と和菓子を準備した。森下の前に行き、対面で座った。


「今日、お呼びしたのは先日の雇用の話しでお店まで来てもらいました。一つだけ確認させていただきたいことがあります。もし、雇用となった場合、住み込みで働くか、この地域に引っ越されるか、していただかないといけません。と、いうのも、この地域は街から離れており、冬場は特に雪が多い地域です。通うにしても、通行止めもあり、通うには困難な地域となります。それでも、『花守町よろず屋』の一員として、一緒に働いてくれますか?」


 茜は正直にすべてを話した。この話は『花守町よろず屋』の為でもあり、森下の為でもあった。スーパーで働いていた所は田舎にしては栄えているような地域で、山間の不便さを知らないだろうという茜の思いやりの言葉だった。相手に選択肢を与え、森下のやる気も知る必要があった。なんとなくで始めてしまった場合、続かない事も茜はわかっていた。


「……………………。」

(やっぱり、無理かな、、、。)


 森下は無言のまま考えているようだ。街での暮らしと花守町の暮らしでは全然、訳が違う。娯楽施設もない。近くのお店は『花守町よろず屋』だけ。銀行もない。小さい郵便局はあるが、車移動が必須だった。ちょっとした買い物も車で出かけなければならない。そんな地域だ。茜は返答を待った。


「…あの~、食事はどうなんですか?」

「食事は出ます。しかし、材料費はかかりませんが、調理は森下さん自身でお願いしたいです。花守町よろず屋の一員になってくれるのであれば私は嬉しいです。担当する仕事をお伝えしますと、このお店でお弁当販売をお願いしたいです。現在、この地域でお弁当の需要が高まっていて、一人では準備が大変で、住人のほんの一部の方にしか提供できていないのが現実で…、、。できれば、もっと増やしていきたいと思っているんです。」

「…そうなんですね。」


 森下はまだ悩んでいるようだ。だが、少し悩んで、顔つきが変わった。何か決心がついたようだ!


「やります!住み込みでも働かせてください!」

「本当にいいんですね!?今住んでいる街よりも不便にはなってしまうと思いますけど、、。」

「いいです。大丈夫です。茜さんの夢を、一緒に叶えていきたいので。」

「わかりました。雇用手続きに入りたいのですが、初めての雇用で資料を作る必要があって、また一週間後とか来てもらってもいいですか?それから、住み込みの部屋を案内したいのですが、まだ改装もしてなくて、一週間も経てばだいぶ出来上がっていると思いますので。」

「ありがとうございます。またお店に来てもいいですか?」

「全然かまいませんよ。午前中はお店に立っていますので、仕事場の様子でも見に来てください。近所の方もいると思いますので、お喋りしましょうね。」


 茜はニコリと笑って、森下の顔を見た。森下の顔から清々しさを感じた。茜は一通り、店の中を案内して、その日は森下にお弁当を渡して、帰ってもらった。


 いよいよ茜の初めての仲間が出来た。緊張や不安もあるけど、ワクワク感が強くなっていた。


 茜は森下と別れた後、工藤工務店に連絡して、来てもらうことにした。


「駒田さん、今日は何処の改装ですか?」

「今度、住み込みで来てもらうので、部屋の改装をお願いしたくて。」

「あ~、なるほど。では、部屋の様子を見せてもらいますね。」


 部屋の隅々まで見てくれ、メモしていった。台所、バス、トイレは部屋の外にあった。住居スペースはだいぶ使われて、壁の色も淡く黄色くなっている。畳もよく見るとささくれみたいに立っている場所があった。


「駒田さん、改装期間はだいたい3日ぐらいかと思いますね。それで大丈夫ですか?」


 茜は静かに頷いた。エアコンの取り付けもやっているらしい。併せて、お店側と部屋側のエアコンも新調することにした。


 後日、工事が始まった。午前中から始まり、古い壁紙をはがしたり、水回りも修理していた。慣れた手つきでリフォームしていき、本当に3日で終わった。


「これで工事終了です。もし、見てもらって、気になるところがあれば、修正しますので。教えてください。」


 茜はリフォームした個所を巡回した。まるで、新品のような輝きを放っているようだ。壁紙は白くなり、照明もLEDに替えた。見違えるようだった。畳のイグサの香りが部屋に充満していて、癒されるようだ。


「特に問題はないですね。ありがとうございました。」

「良かったです。また、何かありましたらご相談ください。」


 茜は深々とお辞儀をして、工藤工務店の人たちを送り出した。部屋がきれいになるのは本当に気持ちのいいものだ。心が洗われる感覚がして、スッキリとした気持ちで、その日を終えた。


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