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第二十一話 居場所

 茜は自宅前の雪かきを終え、空き家の外観を見に行くことにした。お母さんから聞いた住所へ行ってみると、そこにはいかにも古い家が建っていた。しかし、思っているよりは老朽化しているわけではなさそうだ。ただ、そうなると、中の様子が気になってしまう。そのため、町内会長に相談しに行くことにした。


———ピンポーン———

 

茜は呼び鈴を鳴らした。中から町内会長の奥さんが出てきた。


「あら、駒田さんとこの。いらっしゃい。主人に用事?」

「はい。今、いらっしゃいますか?」

「いるわよ。さぁ、上がって。」


 茜は会釈しながら、玄関へと足を踏み入れた。


「駒田さん、今日はどうした?」

「お邪魔します。突然すみません。実は、今度空き家を借りようと思っていまして。」


 茜は事の経緯を町内会長に説明した。町内会長は真剣に話を聞いてくれ、最後まで話すことが出来た。


「状況は分かった。で、どこの家を借りる予定でいるんだ?」

「私の家の近くにある空き家です。」

「あぁ、あそこか…。ちょっと待っていてくれ。」


 町内会長は席を外し、どこかへと行ってしまった。茜はしばらく待っていた。すると、突然、町内会長が茜に声を掛けた。


「駒田さん、行くぞ。」

「え!?どこに?」

「空き家だよ。あ・き・や!」


 町内会長はニコニコしながら、茜の方を向いている。

 茜は不思議そうに、町内会長に案内してもらうことにした。軽トラの助手席に、町内会長を乗せて、茜は運転した。

 軽トラが到着したのは茜が今朝見た空き家だった。町内会長は軽トラから降りると、玄関の方へ歩き、扉の鍵を開けた。中は湿気の匂いが充満していた。畳が湿気を帯びて、カビ臭さもあった。クモの巣はあちらこちらにあり、柱はぐらついている。


「駒田さん、ここで調理するつもりだったのか?このままでは、かなり修繕が必要だな。もう、何十年も使われてないからなぁ。中は酷いもんだな。」

「…そう…みたいですね…。どうしよう、、、。」

「駒田さん、ここはやめとくか?他にいい所があるんだが見るか?」

「あるんですか?見ます!見ます!連れて行ってください!」


 町内会長はにっこりと笑って、扉の鍵を閉めて、軽トラへ戻った。町内会長の案内のもと、茜は軽トラを運転し、向かっていった。そこは自宅からもそんなに離れていない場所。ちょうど、隣家の渡辺家と自宅の中間にあたる場所だった。


「よし、着いた。ここだ、ここだ。」

「ここですか?」


 外観はしっかりしている。そして、家というよりは倉庫みたいな形をしていた。そして、シャッターが閉まっており、中の様子は見られなくなっていた。広さもありそうだった。町内会長はシャッターの鍵を開けて、シャッターを開けた。

 シャッターを開けた先にはガラス張りの窓と扉が身に入り、さらに奥には4脚ほどのテーブルと椅子が見えた。茜は、慌てて中に入った。茜の瞳の先にはカウンターのようなものがあり、さらに奥には立派なキッチンが備え付けられていた。


「ハハハ、驚いたか?実はここはな、3年前まで営業していた定食屋でな。経営が難しくなっちまって、手放したところなんだ。」

「すごい!すごい!ここなら、問題なく、調理できますよ!」

「保健所の規定もあるだろうから、ここが一番いいと思うんだが、どうだ?」

「で、でも、、ここは素晴らしいのですが、そんなに収入がいい訳じゃないので、家賃が払えそうにありません。なので今回は、、、。」

「なに、言っているんだ?ここは家賃なんかねぇよ。固定資産税と修繕費は借主持ちだけど、後はいらなぇって。この地域はそういう地域なんだ。都会ならあり得ないだろ?」


 町内会長は豪快に笑っていた。茜は呆気に取られて、頭が真っ白になっている。結構立派な調理台と調理器具を前に嬉しさと疑問が押し寄せてきて、不思議な気持ちになっていた。


「………。」

「最初は驚くよな?いつも借りる人は皆、そんな顔しているよ。」


 さらに、町内会長の笑い声が響いていた。茜は驚きすぎて、声も出なかった。


「さぁ、どうする?ここに決めるかい?」

「はい!勿論です!ここがいいです!ここを店としても使ってもいいですか?」

「あぁ、もちろんだ。ただし、移動販売は今まで通りやってあげてくれ!みんなも助かるからよ!」


 茜は涙を浮かべながら、頷いた。立派な厨房を手に入れ、修繕が必要な個所はあるにしても、立派な店になる事をイメージし、取り掛かることにした。


「佐藤さん、ありがとうございました。ここなら、私の夢のすべてが叶いそうです。皆さんの役に立てるようなよろず屋として頑張っていきます。」

「俺も応援しているから、頑張れよ!」


 二人は笑顔で、この元定食屋を後にした。そして、町内会長の自宅へと向かい、契約を交わすこととなった。契約は何度でも緊張するものだ。震える手で捺印をする。静けさの中で、茜自身の鼓動だけが脈を打つ。全ての書類にサインが終わり、町内会長から鍵を貰い、全ての手続きが完了した。


「これで、手続きは済んだから、あとは駒田さん次第だ。頑張れよ。」


 茜は頷いた。力が入り、気も引き締まるような感覚で、茜は前を向き歩き始めた。

 町内会長の家を後にして、自宅へと戻っていった。


「ただいまー。」

「茜ちゃん、お帰りなさい。どうだったの?」

「佐藤さんが良い物件紹介してくれてさ~。もう契約してきた。」

「もう!?茜ちゃん大丈夫なの?早いわねぇ。」

「うん、中も見せてもらったけど、厨房もあって、一目で気に入っちゃった。それに、家賃が無いんだって。」

「あ、そっか。この辺の地域では当たり前だから言ってなかったけど、家賃は無いのよね。その代わり、町内会費を多めに徴収しているわよ。と、言っても、家賃よりは何倍も安いけどね。」

「あ、そうだったんだ。いいね。この町は。都会じゃ考えられないよ。」


 二人は笑顔で話していた。ドキドキと不安と楽しみと混在させながら、茜は午後の移動販売に向けて、準備を始めた。

 茜の一日はまた忙しくなる。個人事業主の茜の物語はまだ始まったばかりだ。


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