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第二十話 雪の日の合図

 豚汁を軽トラに載せて、カセットコンロも入れた。折り畳みの机も持っていく。そして、本日からハーモニカで『花守町よろず屋』の到着を知らせるために、音でも知らせるようにした。子供の頃に使っていたハーモニカがここで役に立つとは、茜自身も考えもしなかった。


 茜が軽トラに乗り込み、いつもの販売場所に到着した。準備が終わり、いよいよ、初のハーモニカの登場だ。


 静かな雪景色に響くハーモニカの音色。寒い季節に甲高い音が鳴った。慌てて近くに住んでいる人が家から飛び出してきた。何事かと、周りの住人も様子を伺っていた。


「今の音って、よろず屋さん?」

「はい、すみません。驚かせてしまいましたか?」

「ちょっとビックリしちゃった。急に何か警報が鳴ったのかと思って、、、。」

「すみません、、、。お店を開いた合図にしようと思ったんですが、迷惑でしたよね?」

「あぁ、そういうことね。急に鳴ったから、驚いただけよ。」


 笑いながら近所の人は話しをしてくれていた。初めての事で、戸惑っただけのようだった。いつも通り、移動販売を利用してくれている。特に問題は無さそうだ。


 豚汁の販売を始めたことも伝えると、あれよあれよと売れていく。そして、自宅から鍋を持ってきて、おたまで計って売った。この寒い日に温かい汁ものは有難いのだとみんなが口を揃えていってくれ、茜は豚汁に選んでよかったと思った。茜が使うおたまは注ぎ口が付いていて、ちょうどお椀一杯分の量をすくえるもので、計量も簡単になっていた。小さめの寸胴に並々作った豚汁も終了を待たずに完売した。茜は嬉しかった。両親の育てた野菜を、みんなが美味しいと食べてくれる光景は茜の心をもっと動かす力となった。


 相変わらず、日用品も売れる。今はホッカイロも商品に加えている。真冬の雪の深い山間の町では必需品だ。毎年の事でも寒いものは寒い。ホッカイロはこの町でも冬の味方だった。


 冬だからこそ、街のスーパーに行くのも大変である。そんな時に、茜の移動販売である『花守町よろず屋』は住人のオアシスとして愛されている。茜は、以前よりも信頼を得て、笑顔で話す住人も増えて、嬉しくなっていた。


「よろず屋さん、今度、お弁当も売ってほしいわ。冬の間は買い物に行くのも一苦労で、お弁当があったら助かるのだけど、無理かしら?」

「今すぐにとは、いかないんですが、お弁当も検討しています。」


 茜は、お弁当の要望が以前にもあったのを思い出した。結構、皆、お弁当が欲しいんだなぁと感じた。


(お弁当は一人でやるには時間が足らなすぎる。どうしたら、皆の要望に応えることが出来るのだろうか…。)


 茜は真剣に悩んでいた。移動販売の終了時間になっても答えは出なかった。夕方の急配の時間も頭には弁当の事で一杯だった。ずっと弁当の事を考えているとなんだか茜自身のお腹が空いているみたいでクスッと笑ってしまった。


「お母さん、冬の間の買い物ってやっぱり大変?」

「そうね、この辺の地域は坂が多いから、冬になるとスーパーにも行きづらくなるからねぇ。雪で、滑るから極力、遠くには出なくなるのよ。」

「そうだよね。ねぇ、お弁当の販売とかしたら、皆、嬉しいかな?」

「そりゃ、嬉しいわよ。私だって、あったら買いたいもの。」

「今、悩んでいてさ、私一人じゃ難しくて、どうしたらいいかと思って。」

「…う~ん、、、私が手伝ってあげたい気持ちはあるけど、私も他の事で手いっぱいで、、、どうしたらいいかねぇ、、、。」


 お母さんと茜は2人で頭を抱えながら、悩んでしまった。


「茜ちゃん、私は茜ちゃんの体が心配よ。今だって、あんな寒い庭で調理なんか続けていたら、風邪をひいてしまうわ。みんなの事を考えたい気持ちもわかるけど、まずは茜ちゃん自身の事をちゃんとしなさい。」


 お母さんは茜の事をよく見ている。寒い中での調理がどれだけ辛いことなのかわかっている。冬の冷たい水は手がかじかみ、痺れる感覚になることもわかっている。そんな事を娘が体験していて、黙っていることが出来なかった。


「移動販売で、どれだけ収入があるのか私はわからないけど、もしも、お金が余っているなら、どこか部屋を借りて調理したらどう?お弁当の事はその後考えたら?」


 茜はハッとした。確かに今のままではいつ倒れてもおかしくない。極寒の中での調理では長期間は難しい。なら、どこかで部屋を借りて、調理していくことも考えていかなければならない。そんな事を、茜は感じた。


「そっか。何処かで部屋を借りてみようかな。町内会長の佐藤さんは空き家の情報知らないかな?」

「もしかしたら、知っているかもしれないから、聞いてみたら?ここの近くにも空き家があったはずよ。」

「じゃあ、一回、その空き家見てくるよ。明日の午前中はちょっと家留守にしてもいい?」

「いいわよ~。しっかり見てきなさい。歩いても行けるからね。もし借りるなら、私も安心だわ。」


 茜はこの日はゆっくりと休むことにして、明日、空き家の見学に行くことにした。


 翌日の朝、冷えた空気が辺りを凍らせ、白い雪のじゅうたんが一面に広がっていた。茜は出かける準備をして、玄関を出た。レインコートを身に纏い、足は長靴をはいて、その上から、履いていた長めの靴下を被せた。雪の侵入や冷気の侵入を防ぐための処置だ。ただ、見た目はおしゃれではない。


 ザックザックと雪を踏む音が響く。雪は深いが、今朝は青空も見える良い天気だった。都会では考えられないほどの一面の雪。そして、30cmほどの雪が積もっている。花守町の冬は毎年、酷い時はこれくらい積もる。雪かきが毎日の日課となっていた。今朝の雪かきは茜がやるように言われていた。車庫の前や、玄関の前を重点に雪かきをした。雪を移動させるのも一苦労だ。少し汗ばみながら雪を移動させ、玄関前の雪かきをした。屋根だけは、お父さんに任せて、同様に車庫前と人の通る道は雪かきをした。


(雪かきも大変。みんな大丈夫かなぁ?)


 茜はお客さんの事を思い浮かべながら、雪かきをした。スコップがザクっと雪を崩し、移動させる雪はドサッと重そうな音を鳴らしながら、何回も何回も繰り返していく。終わるころには冬だというのに、汗でびっしょりとなっていた。

 雪かきが終わると、午前中の空き家見学の時間となる。この辺の地域は空き家管理も町内会長の管轄となっており、気に入った物件があった場合は町内会長に相談に行くことになっている。茜は外観を確認しがてら、町内会長のお宅へ行く予定にしていた。どんな家が空き屋なのか茜は楽しみだった。


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