表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/29

第十九話 湯気の向こう側

 早速、次の日、軽トラで移動販売の場所まで家を出発した。真夏の日差しを遮り、車内はエアコンが効いて快適だった。ただ、窓から入る日差しはどうしても、防ぐことは出来なかった。


 到着すると、茜は販売の準備を始めた。荷台の側面にはカフェのテラスのような伸び縮みするオーニングが取り付けられていた。日差しが強い時などは商品の日焼けを避けるためにはとてもいい屋根になる。勿論、人間も暑さを和らげる効果がある。オーニングを広げると、急にお店感が出た。茜は準備を進めていく中で、軽トラで販売するという実感が湧いてきていた。


 準備を進めていると、遠くから、歩いてくる女性の姿が見えた。茜はまだ会ったことのない住人だった。


「こんにちは。ここで何をしているんですか?」

「こんにちは、初めましてですよね。今、移動販売のために準備中です。」

「あぁ、あなたが、、、。回覧板では見たんだけど、来たのは初めて。大きい看板が見えたから、気になって、寄ってみたのよ。」


 茜は笑顔で頷いた。初めて見るお客さんに嬉しくなっていた。


「商品はどんなのがあるの?」

「え~と、今は日用品がメインですね。今日から野菜も売り始めたんですが、いかがですか?」

「野菜かぁ~、今、家に沢山あるから要らないわ。それに、今、ただ、散歩してた時に寄っただけなの。だから、お財布も無くて、、、。お姉さん、しばらくここにいる?ちょっとお財布取ってきてもいいかしら?」

「はい!16時までいますので、大丈夫ですよ。」

「じゃあ、少し待ってて、ちょうど、トイレットペーパーを切らしていたから買いたいわ。」

「はい、お待ちしています。」


 茜は準備をしながら、待っていた。その間に別のお客さんがやってきて、商品を見ながら、買っていった。ただ、やはり、野菜は売れることが無かった。

 野菜はお裾分け文化のこの町では買う必要が無いぐらい売れることはなかった。茜は、なんだか悔しさがあった。両親が大切に育てた野菜を売りたかった。これは地域性の問題だから、茜が悪いわけではない。だけど、心に悔しさだけが残る。


「ごめんね、お待たせして。」


 最初に寄ってくれたお客さんが戻って来た。財布を自宅へ取りに行ってくれて、再び買いに来てくれた。


「トイレットペーパーを3つとゴミ袋貰おうかしら。」

「はい、トイレットペーパーとゴミ袋で、500円になります。」


 茜は商品と引き換えに代金を貰い、小さな手提げ金庫へお金を入れた。


「ところで、他に商品って増えるのかしら?」

「はい、随時増やしていく予定ではあります。何か必要な物とかありますか?」

「食べ物を増やしてくれると助かるわね。パンとかおにぎりとか。」


 茜はお客さんの要望をしっかりとメモをして、話しを聞いていた。伝えてくれることが嬉しかった。それだけ需要があることだと思っていたからだ。


「食べ物があると、料理したくないときに食べられるのは主婦としては有難いわよ。カップ麺じゃ味気ないし、本当はお弁当があると嬉しいけど、きっと難しいでしょうから。」

「お弁当ですか…。今は難しいとは思いますが、将来的にはお弁当も展開しようと思っているので、その時はよろしくお願いします。」


 茜は今日初めて会ったばかりの人に将来のビジョンを話していた。茜は移動販売から店舗の立ち上げも視野に入れて、動いている。今はまだ、店舗が出来ればいいなぁという夢の段階ではあるが、実現できるように努力を惜しむつもりはない。


 お客さんは買い物を終え、自宅へと帰っていった。茜の移動販売は日々進化していった。しかし、やはり、野菜だけは売れ行きがあまり良くなかった。


 移動販売を始めて、あっという間に8か月が過ぎた。ある日に茜を悩ます出来事があった。それは、山間の地域にある冬の大雪。積雪は平均15cmほどになる。そして、大雪ともなると30㎝に到達する。日中も極寒の季節になる。軽トラにもタイヤにチェーンを巻き、走る必要があった。坂の多いこの地域ではスタッドレスタイヤの上にチェーンを巻き、家の前では雪かきがこの季節で見受けられる風物詩となる。

 

 この季節の移動販売も買い物代行も大変になってくる。住人にとってはこの季節だからこそ、移動販売の有難みを感じる時なので、あまり、休むことも出来ない。茜は出来る限り、移動販売を行うようにしていた。

 茜はこういう寒い日によろず屋のサービスの一環として、温かいものを振る舞いたかった。いろいろと調べてみると、毎回、移動販売で振る舞うにしても『食品衛生責任者』という資格が必要だということがわかった。茜は空いている時間を利用して、資格を取ることにした。資格自体は1日の講習で終わる。そんなに難しいものではなさそうだった。早速、講習の申請をして、受けることにした。『食品衛生責任者』という資格は今後の店舗展開でも役に立つ資格で、そのうち取る必要がある資格だ。早めにとって、正解なのかもしれない。

 役場まで足を運び、1日かけて講習を終えた。


 日頃お世話になっているお客さんに対して、豚汁を振る舞いたい。その茜の思いが伝わるようにお店も大盛況となった。豚汁の野菜は両親の作る野菜がメインだった。

 移動販売で野菜を売っても、売れ残っていたのに、料理にすると皆喜んで、無我夢中で食べていた。サービスという事もあるかもしれないが、これは茜にとっても発見だった。『食品衛生責任者』の資格を取った今、移動販売でも食品を販売できるようになった。野菜を使った料理を提供すれば、売れるのではないかと茜は感じ、行動に移すことにした。そして、凍えた手や顔を温めてもらうためにおしぼりウォーマーを設置し、使い捨ておしぼりを提供することにした。


 まずは、料理を提供するにあたり、必要なことが、消毒とかの衛生管理が大事になってくるっていう事で、自宅の庭で消毒した机を用意して、カセットコンロで火を使うことにした。調理器具もアルコール消毒して、豚汁もここで作った。


 今は簡易的なキッチンだが、将来的にはちゃんとしたお店として調理場を用意するつもりだ。茜が豚汁を作る時は、真冬の時期で、簡易的なキッチンでは外で作業しているのとほぼ変わらない。屋根が付いているだけのテントだからだ。火の傍は暖かいが、少し離れると凍えるような極寒の山間の風もありながら、耐えている。ただ、お客さんの笑顔が見たくて頑張っていた。


 まず、最初に売り出すのはサービスで提供していた豚汁を百円で売り出すことにした。両親の野菜をふんだんに使い、具沢山の豚汁だ。紙コップで販売する。もしくは家から食器を持参してもらい、おたま一杯分を百円として提供することにした。真冬には体の中から温まる。食べた瞬間から、ぽかぽかと温まっていく。少し生姜も入った茜特製の豚汁だ。サービスの時も好評で皆が美味しいといってくれていた。茜は皆の笑顔を見るのが大好きだった。


 茜の移動販売は住人の憩いの場。新たに販売できる商品も増え、さらに、賑やかになっていく。住人全員に移動販売を利用してもらうために、茜はもっと宣伝をしていくことを心に決めて、人に寄り添う移動販売としてやっていこうと感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ