第十八話 新しい世界
茜は沢山悩んだ。軽トラの事、今後の展開の事も。79世帯という小さな花守町だけど、みんなが不便なく暮らしていけるように、茜が動くには軽トラは必需品だ。この今の段階で茜は将来をイメージしていた。ゆくゆくは食品も販売したいと思っていた。そして、いつかは店を構えていきたいと思っている。
みんなが茜に期待と信頼を寄せているのは明白だった。それを、断るのも何か心がスッキリしないと思っていた。茜の中で、皆の期待に応えたいという思いが日に日に強くなっていき、町内会長に返事することにした。
「もしもし、駒田です。町内会長!先日頂いたお話ですが、お受けいたします。皆さんのご厚意に感謝して、大切に使わせてください。」
『そうかそうか。わかった。いつもありがとうな。補助金の申請等はこちら側からは出来ないから、やってもらえると助かる。今度、車屋で中古の軽トラを探してみたらどうだ?支払いは町内会の口座から引き落としてもらったらいいから。』
「ありがとうございます。調べて、また探してみます。」
『いい車が見つかるといいな。』
電話を切って、早速、パソコンで調べていった。中古の軽トラの費用と荷台の改造費用。そして、補助金制度についても再度調べる。軽トラといっても、価格がバラバラで、どれを買えばいいのか悩む。費用は町内会費だから、なるべくなら抑えていきたいと思っている。すぐに故障するようなものでも困る。
長い時間をかけて、調べていき、ちょうどいい軽トラを見つけた。価格は50万ほどになった。走行距離も70,000kmでまだ走りそうではある。
新しくはないが移動販売では十分だろう。
茜は早速、町内会長に報告に行った。
夏の暑さも山間の花守町は都会の暑さとは比べものにならないぐらい涼しさも感じられ、アスファルトの照り返しも少ない。バイクで走っていて受ける風も心地いいものだった。
町内会長宅に到着し、家へ招き入れてもらった。
「お忙しいところすみません。先日頂いた購入の件ですが、こちらの軽トラにしようと思います。」
茜は、町内会長に資料を渡した。荷台の改造費用と軽トラ本体の料金を掲示し、町内会費での負担金などの相談をした。茜の中では、軽トラ代を全額支払ってもらうのがやはり忍びない。町内会費では30万円の負担をしてもらうことにして、残りを茜が支払うことにした。
「本当にそれでいいのか?」
「いいんです。実際、中古で安いのはあったのですが、自分のわがままでAT車にして、走行距離や年数を考えたら、料金が増えてしまったので。増えた分の代金は私が払うことにします。」
「そうかそうか。じゃ、俺は何も言うことないが、駒田さんがいいなら俺はそれでいいからな。」
「はい!ありがとうございます。」
「届くのが楽しみだな。届いたら、見せてくれよ。」
「荷台の改造後になると思うので、少し時間はかかりますが、待っていてください。」
そして、町内会長との面談から2週間ほど経った。今日は荷台が改造された軽トラが自宅に届く日。業者のサービスで自宅まで届けてくれるらしい。茜は縁側でぼーっと景色を眺めながら、軽トラが届くのを期待して待っていた。
すると、遠くの方から白の軽トラと乗用車が連ねて近づいてきていた。遠くてもわかるぐらいの『花守町よろず屋』の看板が目立っていた。緑色の幌の両サイドにある看板が太陽の光で反射し、輝いていた。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
近くで見る軽トラは中古の割には綺麗で新品と見間違うぐらいの輝きを放っており、荷台には大きな幌がかぶさっていた。左右後方と開閉式になっており、開くと、中には陳列用のアルミ棚が並んでいた。棚は軽量にしてもらい、商品を沢山載せられるようにした。幌の上部には大きめの看板が目立っている。
「少しだけ説明しますね。まずサイドですが小物が引っかけられるように、なっていましてペンとかウェットティッシュ系の包装で穴が開いてれば、かけられるようになっています。落ちないように固定バンドも取り付けてあります。下の方には隙間を作って、クーラーボックスなどを置けるようにしています。」
「すごーい!!これなら、小物も販売できますね。」
茜は目をキラキラさせながら、見つめていた。両親も荷台を触りながら、興味津々だった。
「あとは陳列棚が後方と助手席側にあって、下には隙間を作っているので、自由に使ってください。真ん中の空間には小さめの発電機と電源用のコンセントも準備しています。」
「素敵ですね。これが移動販売で使えるなんて夢みたいです。」
「もし、不備があれば、教えてもらえば駆けつけますので。」
「ありがとうございました。」
茜は、業者の人たちを見送り、さらに触って確かめていた。
「茜ちゃん、すごくいいじゃない。楽しみねぇ。」
お母さんが茜に話しかけた。頑張っている茜の姿を見るたびに、背中を押してくれたのがお母さんだった。立派な移動販売用の軽トラを見つめ、応援してくれていた。
「茜。陳列するんだろ?手伝うよ。」
お父さんも茜の事を応援してくれた一人だった。茜の頑張る姿を見ながら、声はかけなかったが、無言でも伝わってくる優しさを感じていた。
「うん、今からやるよ。とりあえず、バイクに載っているのだけ、移そうかな。」
「わかった。こんなに棚があれば、十分だな。」
移動販売用にプラケースも用意しておいた。それはトイレットペーパーや箱ティッシュを詰めて、軽トラに載せるために購入したものだ。バイクでは一個ずつぐらいしか載らなかったが、軽トラには今までの十倍も載せることが出来るようになった。
バイクに載っていたすべての商品を軽トラに移しても、スペースがまだまだ沢山あった。
これからは軽トラが主力にはなるが、急配対応にはバイクで行くつもりだ。その方が小回りもきく。
軽トラに空間があるおかげで、買い物代行も滞りなく、行えそうで安心していた。
買い物代行にはいつも父親の軽トラを借りて、作業をしていた。色々な人たちに助けられ、今の『花守町よろず屋』は沢山の人たちの支えの中で成り立っている。茜はそのことを頭で思いながら、この新しい軽トラを大事に乗っていこうと心に決めた。
今後の仕入れも、増やしていく。今までバイクでは載せることが出来なかった両親の育てている野菜を販売してみようと茜は決めていた。
「お父さん、軽トラも届いたし、相談があるんだけど、野菜も販売したいと思っているんだ。うちの野菜を販売してもいい?」
「…う~ん…この辺の地域は農家が多いから、おすそ分けで野菜を持っていくことが多いんだよ。もしかしたら、売れないかもしれないな。試しにやってみてもいいけどな。」
「そっか。確かにそうだね。期間だけ決めて販売してみてもいいかもねぇ。」
『花守町よろず屋』は新たな商品を増やすことになった。
野菜が売れるのかはわからない。だけど、やってみる価値はあると思っている。食卓でよく使われる野菜をまず、販売しようと茜は家にある野菜を見ながら商品を決めていった。




