第十五話 住人のために・・・
今日は二回目の仕入れの日。初めての移動販売から一週間弱経った。この日の仕入れはゴミ袋と台所用スポンジも注文するつもりだ。一週間前に注文した商品はまだ在庫が残っているのもある。それを差し引いて発注を掛けていく。パソコンの前で、在庫表を見つめ、発注数を割り出していく。どれくらいの数量が適格なのか。茜はまだその辺を経験しながら、学んでいる最中だ。
トイレットペーパーや箱ティッシュはやはり売れ行きがいい。いつの間にか切らしていることが多い商品で、緊急時に買い求めてくれる。街のドラッグストアの方が価格としては安い。ただ、緊急時と考えると、割高でも購入してくれる住人も多かった。
茜は住人の皆さんに感謝しながら、丁寧に接客をしていき、町の心の拠り所になれるように、楽しく朗らかに話しをしていき、徐々によく会う住人の方たちとは信頼も出来つつあった。
いろんな性格の人が居て、不便でも楽しく生活している人。イライラしながら、我慢して生活している人。何も考えず淡々と生活する人。本当に沢山の生活の形があった。
茜は、住人のために始めた移動販売で、みんなに少しでも寄り添えているなら、それでいいと思っていた。なかには、移動販売を利用しない住人もまだまだいる。そんな人たちもすべて巻き込んで、幸せにしたいと思うようになっていた。
一週間、移動販売をしてきて思ったのは、わりと、住人の皆さんの受けがいいという事。何度も足を運ぶリピーターも増えている最中だった。口を揃えて言うのが、ありがとうの感謝の言葉だった。一週間に一回は街のスーパーにまとめ買いに行くが、買い忘れた時も、手が届く場所にある移動販売が緊急時のオアシスみたいな存在になりつつあった。
毎回、販売で町の一角に出店するたびに、感謝の言葉が飛び交い、茜自身も役に立てていることが幸せだった。
パソコンの前で今までの移動販売での思い出や住人の要望などを思い出して、発注をしていく。足りないものが無いか、多すぎるものが無いかを調べながら、パソコンに入力した。
この日の売り上げも少なめだった。移動販売での売り上げは微々たるものだった。だが、みんなが幸せなら、茜はそれでいいと思い、頑張って続けている。
一週間たった今、茜は『買い物代行』も始めていた。これは茜が体の不自由な住人に声を掛けたのから始まった。そこから、口コミで回りまわって、全ての住人が周知する結果となり、茜は毎日、2件から3件の『買い物代行』が増えていた。茜は花守町と川原町を往復し、スーパーで買い物してはお客さんの所へ渡しに行き、立て替えた代金と配送料として、一律500円を貰っていた。この金額は利益ではなく、続けていくための最低限の金額に設定した。
それから、一か月が経ち、移動販売の決まった時間の他に夕方からは急配対応と買い物代行で茜自身の疲労はたまっていた。住人のためにやっているのに、夕方の時間には疲弊して、横になることが増えていった。
(今日は寝かせて、、、。おねがい、、、電話かけてこないで。)
住人のためにやっているつもりで、頑張ってきたが、あまりにも買い物代行の依頼が増えてきて、茜一人では追いつかないぐらいの仕事量となっていた。一つ一つの依頼はそこまで大きい訳ではないが往復が今の茜には辛いものだった。この仕組みをもっとしっかりとさせないと自分自身が壊れると思って、手が空いている時にアイデアを出していくことにした。
何度も山を下りたり、上ったりを繰り返すことをやめればいいのかもしれない。注文をまとめて、翌日に届くようにすれば、茜の負担が減ることに今更ながら、気づいた。人のために茜自身の首を絞めていたことに、やっと気づいたのだ。
善意だけでは茜自身がいつかは潰れる。このままでは続けることが不可能になってしまう。そう感じた茜は紙に走り書き、箇条書きでメモをしていった。
『配送時間の見直し』
『配送日をまとめる』
『誰かに手伝ってもらう』
いろんな観点から問題点をあげていった。茜の中で沢山悩んだ。イメージをしながら、さらに問題点をあぶりだし、メリットやデメリットも想像していった。現実問題、この収入では人を雇うことは難しい。と、なると、配送日をまとめてみたり、配送時間を見直した方がしっくりくるだろうか。
家で悩んでいると、お母さんが話しかけてくれた。
「茜ちゃん、最近疲れてない?大丈夫なの?疲れているならしっかり休まなきゃだめよ。」
「う、、、うん。ねぇ、お母さん、私さ、みんなの為にやりたいと思っているんだけど、私、一人では限界があってさ。なんていうか、体に負担はかかっていて、だけど、私の気持ちは前のめりにみんなの役に立ちたいってなっているっていうか、、、。どっちを優先すればいいのかわからなくなっちゃった、、、。」
「バカね~この子は。まずは茜ちゃん自身の体に決まってるじゃない。体が健康じゃないと、何もできなくなっちゃうわよ。ちゃんと休まなきゃ!」
「そうだよね、、、。今さ、悩んでいることがあって、私の体の負担を減らすように、ルールを見直したいんだけど、何かいい案は無いかな?」
「そうねぇ。まずは、往復は減らした方がいいと思うわ。移動距離って、結構神経すり減らすものよ。茜ちゃんが書いたメモにも書いてあるけど、配送日をまとめるのも茜ちゃんの負担は減るんじゃないかしら。配送日をまとめたら、軽トラで荷物を運べばいいんだから。どうかしら?」
「確かに、そっか、、。やっぱり、そうだよね。一回検討してみるよ。ちゃんとしたルールを決めて、みんなに喜んでもらえるように、そして、私自身も休めるようにさ。」
お母さんの助言もあって、少しだけルールの軸が決まったような気がした。
いつも心配してくれるお母さんの言葉に茜はホッとして、心も軽くなっていた。
翌日、茜は「配送ルール変更」というタイトルで、『花守町よろず屋』のチラシを作成し、町内会長に渡し、回覧板で回してもらった。
茜は気づいた。茜自身の体が壊れてしまうほど、無理なルールは自分のためにならない。そして、皆のためにならないと。買い物代行は週一回までとして、水曜日にまとめてやる事を決めた。その日は移動販売を休みにして、買い物代行に全力を注ぐことにした。
このルールならば、茜はもう一度頑張れそうな気がした。




